女王の女王   作:アスランLS

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綾小路スーパードSタイム



復活の平田(瀕死)

 

特別試験までいよいよ残すところあと数日。

我等がAクラスの学友達は有栖の指示に従い、他クラスに情報が漏れないよう研鑽を積んでいるらしい。

Aクラスが選んだ10種目は『チェス』、『フラッシュ暗算』、『囲碁』、『現代文テスト』、『社会テスト』、『バレーボール』、『数学テスト』、『英語テスト』、『大縄跳び』、『ドッジボール』。

有栖は当日に選出する5種目をクラスの誰にも話していないが、運動系の種目はCクラスに学力強化に集中させないためのブラフ。一部を除いたクラスの大半が休み時間も必死で学業に励んでいるところからも、うちの選ぶ種目は堅実に勝ちに行くため大半がペーパーテストだろうね。

あ、あと橋本が有栖にチェスの指導を受けているせいか、なんか日に日にやつれていっている。あのドS娘のことだから、その指導内容はきっと苛烈を極めているんだろうね。

一方Cクラスが選んだのは『英語テスト』、『バスケット』、『弓道』、『水泳』、『テニス』、『卓球』、『タイピング技能』、『サッカー』、『ピアノ』、『百人一首』。

このうち間違いなくブラフだとわかるのはサッカー、英語テスト、そしてテニスだね。

うちのクラスに学力勝負を挑むからには少なくとも最上位の面子で固めなきゃ話にならないけど、六助はやる気無いし平田君も今は役に立ちそうにもない。

となると期待できるのはせいぜいホリリンと幸村君、王ちゃん、櫛田ちゃんくらいだけど、この4人だと俺や有栖が出なくともウチのトップ層が相手じゃ分が悪い。それにうちのクラスが学業系を多く選ぶのは向こうも把握してるだろうし、戦力をつぎ込んでまで博打を打つべきではない。

テニスに関しては向こうにはテニス部がいないのに対し、こちらには(ほぼ幽霊部員とはいえ)実はテニス部だった橋本がいる。橋本をチェスの種目に出すことはバレてない筈だし、わざわざ余計なリスクは抱え込まないよね。

そして最後にサッカーだけど……あちらさんが人数の多い種目を選ぶわけないでしょ。下手したら俺が2種目出られるようになっちゃうかもしれないのに。

スポーツ競技のうちバスケはまず間違いなく選ばれるので、マスミンとファルコンを含む肉体自慢の5人がCクラスの探りに注意しつつ、暇を見つけて練習に励んでいるそうだ。1度練習の様子を見学しそれを踏まえて評価すると、ケン坊が出てきたら流石に厳しいけど、そうでなければ十分勝ち目があると見ていい。バスケだからケン坊が出る、なんて安直な考えをしがちだけど、彼の身体能力なら(俺が出なきゃ)どのスポーツでも勝ちを狙えるから、あえて彼抜きで戦うという戦略に備えてるのかな?……いや、有栖の性格ならケン坊を参加させた上で勝ちを狙うかもね。

まあそんな感じで、クラスが一丸となって……なんて風には口が裂けても言えないものの、1人1人が打倒Cクラスを掲げて頑張ってる中、約1名だけ例外が存在した。

 

「ねえ有栖」

「なんでしょうか?」

「戸塚が退学してからずっと意気消沈してたランスが、昼休みの後から活力とお前への敵意をある程度取り戻してるみたいなんだけど、今度は何やったのさ?」

「さあ?私は特に心当たりはありません」

「ふーん……となると考えられるのは戸塚の件に関して、お前に復讐する算段がついたのかな?」

「でしょうね。あくまで推測ですが、Cクラスの方が葛城君と内通し、私が本命にと考えているであろう種目をリーク、そして試験でわざと負けるようにお願いしたのでしょう」

 

種目のリークはともかく、試験で負ければどうしてもクラス内での地位が下がる。第一普通そんな裏切り行為よほどの見返りを用意しなければ誰も引き受けないだろうが、有栖に強い怒りと恨みを抱えている彼ならば、損得勘定を一切抜きにしてそれを承諾してもおかしくはない。既にクラス内での地位は一番下で、これまでのリードから今回の試験で惨敗しようと下位クラスに落ちることはなく、その一方で独裁を貫いた有栖の評価はかなり下がることになると、ランスにとっては報復するまたとない機会だ。

 

「それてどうすんのさ?情報リークはあまり大した問題じゃないけど、ランスは本命種目であるフラッシュ暗算に出す予定なんでしょ?あれ出来るの俺とお前を除けばランスと田宮だけだし、田宮に命運を託すのはCクラス相手とはいえちょっと無謀じゃない?」

「ふふ、心配なく。対処法はもう考えてありますよ。……どれだけ私が憎かろうと、彼は他のクラスメイトを見捨てることなんてできません」

 

ああ、手抜いたら以前お前に従ってた奴何人か退学に追い込むって脅すのか。よく満面の笑みでそんなドス黒いこと考えられるなあ。

……しかしCクラスも随分と浅はかな謀略をしかけたね。俺がいる以上ランスが何を企もうと隠し切れるわけではないし、そうでなくても有栖なら試験当日までには思惑を見抜いただろう。死ぬほど用心深いコージーは勿論、この1年で随分成長しかなり思慮深くなったホリリンが発案したとも思えない。となると誰かの独断だろうか?……まあどうでもいいか。その程度の相手にかかずらっているほど、暇をもて余してるわけでもないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験前日の放課後、俺はケヤキモールにてそろそろ切れそうな日用品を買い込んでから寮に帰る途中、約1㎞先のベンチでコージーと平田君が並んで座っていたのが目に止まった。

特別試験前にあの状態じゃただの足手まといだから説得でもしているのかな?例の追加試験後からCクラスの女の子達が何度も励ましの言葉をかけても梨の礫だった彼を、コミュ力が下の下のコージーがちゃんと立ち直らせるのか、少し気になったので近づいてみると……

 

「僕の友達は─飛び降り自殺した」

 

どういう訳か平田君が凄く重い過去を語っていた。

そうなった経緯はまったくわかんないけど、話を簡潔にまとめるなら、虐めに遭った友人が飛び降り自殺した後も標的が別の人間に移っただけで、それに絶望した平田君はリュンケルよろしく恐怖と暴力でクラスどころか学年全体を支配して無理矢理虐めを無くそうとした。で、最終的にはその地域ではちょっとした事件扱いされるくらい破綻した……と。

正直まるで興味は無いが、彼がここまで焦燥している理由はわかった。山内君はクラスを裏切って俺達と共謀していたことが明るみになったことで、ほとんどのクラスメイトから非難されたことだろう。そして敵意をぶつけられながら脱落していったことで、昔のトラウマがぶり返したってわけだね。

 

「僕はやっぱりクラスをまとめようとしちゃいけない人間だったんだ。結局山内君を守ることはできなかったし、それどころかまた恐怖で支配しようとした。あれは間違ってると、わかってた筈なのにね……」

 

声を震わせてそう絞り出す平田君は、誰がどう見ても限界だった。山内君を守れなかったことに絶望している彼に、「君は悪くない」なんて届くわけもなく、ましてや「山内君が悪い」なんて言うのは完全に逆効果だ。 

……さて、コージーはどんな手を使って彼を立ち直らせるのかな?

 

「ハッキリさせておくが、山内が退学したのは堀北のせいでもオレのせいでもない」

「……うん、そうだね」

「かと言ってあいつに裏切りを持ちかけた坂柳や本条に責任を求めるのも間違っている。後で聞いたが坂柳は山内に個人的な恨みがあったから標的にしただけで、本条は坂柳の指示に従っただけらしいからな」

「そう、なんだろうね……」 

「なら聞くが、山内がいなくなったのは誰の責任だと思う?」

「彼自身……と、考えるしかないんだろうね」

 

いやまあそう考えるのが普通だけど、そんな平田君も薄々わかってることを持ち出しても、かえって彼を塞ぎ込ませるだけじゃ─

 

「山内が退学したのは、全てお前の責任だ」

「っ……!?」

 

…………えー……ここまで精神的に弱ってる相手にさらに鞭打つ普通?コージーってもしかして、有栖以上のサディスト?ほら、平田君も完全に理解の範疇を越えた顔になってるよ。

 

「それほど助けたかったのなら、何としても山内を助けなきゃならなかった」

「打てる手は打ったよ!だけど、どうしようなかったんだよ!」

「一之瀬達は犠牲を出すことなく試験を乗り切った」

「か、彼女らには僕達には無い、大量のプライベートポイントがあったからできたことだろう!?1ヶ月でクラスポイントを0にした僕らが2000万ポイントなんてかき集められる筈が─」

「クラスポイントが0になったのも、クラスをまとめられなかったお前の責任だ」

「それは……いくらなんでも理不尽だよ」

「ああ、理不尽だ。だがそれがお前の選んだ道だ。誰一人も欠けさせないなんて甘ったれた幻想を周囲にも強要するのなら、本条のように常識外の救済手段を保持しておくべきだし、何より失敗したときは全て責任を負う覚悟が必要だ」

「──ぼ、僕は───!」

「つくづくがっかりさせられたもんだ。所詮お前は口だけの男だったようだ。できもしない理想を語って人格者を気取っておきながら、化けの皮が剥がれた途端背負ったもの全て放り出し、クラスメイトが追い詰められていやうが見て見ぬ振りするだけで1人勝手に自滅していく、無価値で無能で無責任などうしようもない生徒……それがお前だ」

 

うわあ、ほんと情け容赦無いなコージー……何を意図しているかは薄々わかったけど、ここまで執拗な追い討ちを躊躇いもなくやってのけるとは、この子も俺や有栖に負けず劣らずの人でなしのようだ。

 

「いつまで夢を見てるつもりだ」

「それが、君の本性……なのかな?恐ろしく容赦ない、冷たい言葉だね……」

「守りたいと願うのはお前の自由だが、それなら最後まで足掻き続けるしかない。その過程でもし誰かが脱落したとしても、それを受け入れ前に進み続けなければならない。お前が立ち止まってしまえば、次々と脱落していくのだからな」

「じゃあ……僕はどこで弱音を吐けばいいのかな……僕だけが、我慢して歩き続けなければいけないのかな……?」

「そんなことはないだろ。困ったときは周りを頼ればいい。お前に手を差し伸べてくれる奴は沢山いる。今のお前は、それを見ようとしていないだけだ」

 

おっとサンドバックタイムはここで打ち止めか。まあコージーの言うことはもっともだ。目に見えて落ち込んでいる平田君を、最初はCクラスの誰もが励まそうとしただろう。それらを全て無下にした彼が「自分だけ誰にも弱音を吐けないのはおかしい」なんてちゃんちゃらおかしいよね、うん。

 

「……僕は……こんな弱い僕が……みんなの前を歩いても、いいのかな……?」

「今のお前なら、前を歩いても大丈夫だ」

「っ……ありがとうっ……ありがとう綾小路くん……!」

 

さて、見たいものは見れたし退散しますかね。

自分で徹底的にぶっ壊しておいて、自分で組み立て直す……まさかこんなえげつない立ち直らせ方があったとはね。

というかもしかしてコージー、軽井沢ちゃんや卍解ちゃんもこんな感じで立ち直らせたの?だとしたら勿論コージーも怖いけど、それでコージーに懸想しているあの2人はもっと怖いなあ。

 

 

 

 




何気に桐葉君が綾小路君のアレな面を目の当たりにしたのは初めてですね。有栖ちゃんを凌駕する情け容赦の無さにちょっと引いたみたいです。
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