そして綾小路パパが息子を退学させるつもりが無かった可能性があることについては、すごくすごーく困りましたが……。いやマジでどうしよう……?今後の展開を大きく変更するべきか、あくまで二次創作だからと割り切るべきか……。
【side:坂柳有栖】
その後の流れをも大きく左右する初戦であり、自クラスの選んだ種目であり、さらに須藤君という絶対的エースの存在から勝つことは前提だった筈のバスケットでの、勝利を目前にしておきながらのまさかの逆転負けという結果は、Cクラス全体に少なくない動揺をもたらしたでしょうね。少々危険な賭けでしたが、流石は私のクイーンと言ったところでしょう。
たしかに須藤君は以前よりも精神的に成長したようですが、それでもまだまだ未熟なことに変わりはありません。もし彼が桐葉に圧倒されながらも冷静さをもう少し保てていたら、大きく開いていたリードを守ることに徹して無事逃げ切れていたでしょうね。得意とするスポーツで圧倒されるという現実を受け入れられず、ムキになって真っ向から打ち勝つことに固執したことが敗因です。
堀北さんも桐葉には最大限の警戒を払っていたでしょうし、対応策もちゃんと考えて伝えていたんでしょうが……残り時間僅かに絶対的優位な状況から追い上げられるケースは、彼等の動揺からして想定できていなかったようですね。
2種目に選ばれたのは『タイピング技能』と連続してCクラスの選んだ種目となりましたが、外村君は動揺を抑えられないようで事前に入手していた情報からは考えられないようなタイプミスを頻発させ、結果は81対83と僅差とはいえCクラスは自らの土俵で連敗を喫してしまいました。
さらに悪い流れというものは続いてしまうもので、3種目は『数学テスト』、4種目は『英語テスト』と、立て続けにAクラスの指定した種目が選ばれました。
Cクラスの士気にトドメを刺すためこちらは『チェス』に出す予定の橋本君、『フラッシュ暗算』に出す予定の葛城君を除いた、クラスのトップ層を惜しみ無く投入しました。
対する綾小路君は『数学テスト』には軽井沢さんや佐藤さんといった今回の試験では活躍の見込めない生徒を投入し3連敗を許し、続く『英語テスト』には王さんや幸村君や平田君といったほぼベストメンバーを投入し勝負をかけにきました。しかし……
「英語テストの結果……Cクラス631点。そしてAクラス……668点。Aクラスの勝利です」
坂上先生は告げた結果は残念ながら僅差でAクラスの勝利。残る3種目を待たずして、私達Aクラスがストレートで勝負を決めました。
「惜しかったですね綾小路君。しかし堀北さんと高円寺君を投入していれば勝てたのでは?」
「そうとも言えない。堀北は英語はあまり得意じゃないし、高円寺はおそらく本条以外には真面目に取り組みそうもない。考えうるベストメンバーで挑んで無理だったのだから、正直どうしようもなかったな」
クラス間での勝敗が決定し、プロテクトポイントを失ったというのに綾小路君の声色には動揺や落胆は微塵も感じられません。
彼にとってこれまで隠してきた実力を最大限に披露してまで、Aクラスを目指すメリットが欠片も無いので当然ですね。
加えて桐葉という圧倒的なアドバンテージ差がある以上、現状ではCクラスがAクラスに勝つことなど不可能だと、徹底したリアリストである彼なら理解していた筈。私がCクラス、彼がAクラスの司令塔でもおそらく大差の無い結果だったでしょう。
高円寺君を桐葉にぶつけることができれば結果は違った可能性もありますが、桐葉は如何に不利な局面に放り込んでも逆転してくれる駒ですので、相手が綾小路君と言えどマッチアップを外すことなど造作もありません。
敢えて彼にぶつけてみるのも面白いのですが、例の月城理事長代行は綾小路君を退学させるため、邪魔なプロテクトを是が非でも剥がしたいでしょうから、もしかたら何らかの手段で試験に介入してくるやもしれません。
私と綾小路君の勝負はあくまでチェス。そのときに余計な水を差されないためにも、いち早く4勝しておく必要がありました。
とはいえCクラスの皆さんは敗北が確定したことで、モチベーションを保つことが難しくなりましたね。チェスに出してくるであろう生徒はおそらく、成績トップクラスにもかかわらず学力テストに参加させなかった堀北さんでしょうから興醒めな展開にはならないと断言できますが、もしかしたらその他の2種目は鎧袖一触な展開になるかもしれませんね。
……と、楽観的な予想を立てていたのですが─
「集計の結果、1位は10問中10問を正解し満点を出した高円寺六助。Cクラスの勝利です」
5種目の『フラッシュ暗算』にて、初めてCクラスに白星を献上してしまいました。
参加した葛城君は当初は私への復讐としてわざと敗北するつもりのようでしたが、もし裏切るような行為をすればクラスメイトを適当に何人か退学に追い込むと事前に釘を刺しておきました。仲間想いの彼が私への恨みだけでクラスメイトを犠牲になどできないでしょうし、モニター越しで観察してもこの種目に真面目に取り組んでいるようでした……ですが、どうやら相手が悪かったようですね。
「高円寺君は桐葉と相対しない限り、真面目に取り組むつもりはないと先ほどお聞きしましたが、ブラフでしたか。どのようにして彼を懐柔したのですか?」
「いや、高円寺は誰にもコントロールなんてできない。何故今回に限って真面目に取り組んだのかさっぱりわからん」
しらばっくれてるのか、それとも本心で言っているのか……綾小路君の言う通りこれまでの振る舞いからして、誰かの言うことを聞くような方では無いのでおそらく本心でしょう。……案外、桐葉と戦えなかったことに対しての私への意趣返しかもしれませんね。
続く第6戦目には2対2で行う『弓道』が選ばれ、弓道部所属の三宅君の奮闘によりCクラスの2連勝となりました。
まあ誰も経験者の居ないこの種目は初めから期待してませんでしたので問題ありません。あわよくば敗北が決定したことで集中を乱してくらないかとも思ってましたが、普段から心の鍛練を積んでいるだけあり三宅君は素晴らしい集中力を発揮していました。
あっという間に最後の種目になりましが、予め桐葉の豪運で補正をかけた以上、モニターに表示されたのは当然私の望んだ競技でした。
『チェス』 必要人数1人 持ち時間1時間(切れ負け)
ルール……概ね通常のチェスルールに準ずるが、41手目以降も持ち時間は変わらないものとする。
司令塔……任意のタイミングで最大30分間、プレイヤーに指示を出すことができる。
世界選手権の公式ルールでは持ち時間は2時間で41手目に持ち時間を60分追加、61手目に15分追加され、61手目以降は1手につき30秒追加していく方式ですが、試合時間を長引かせるという理由で不採用になることを防ぐため省きました。
「クラス間の勝敗は既に決しましたが、ここで勝てばマイナスは30ポイントと最小限で抑えられますね。とはいえこの種目は司令塔の実力が勝敗を大きく左右されます。綾小路君、チェスの腕に自信はおありですか?」
「ああ。大した取り柄の無いオレだが、幸いなことに足の速さとチェスには少しばかり自信がある」
「なるほど……それは楽しみですね」
しかしまずは前哨戦として、お互いが用意した生徒の戦いから戦いの火蓋を切ります。
私の選んだ生徒は橋本君、綾小路君の選んだ生徒は予想通り堀北さん。
「バランス良く能力の高い彼女をここまで参加させなかったのは、最後の切り札として温存していたからなんですね」
「もう出し惜しみする必要が無いからな」
両者の選択が各クラスに伝えられ、橋本君と堀北さんは移動を始める。
橋本君にはこの2週間弱でできる限りの指導を施しましたが、流石にこの短期間では所詮付け焼き刃……堀北さんがチェスの差し手ならば、苦戦は免れないでしょうね。
【side:橋本正義】
指定された教室にて、チェス盤を境に俺と堀北は向かい合う。……自クラスの敗北は早々に決まったというのに、目の前の女の闘志は欠片も揺らいじゃいないようだ。
「おいおい、随分と怖い顔してるな。もっとこの状況を楽しもうぜ?」
「面白くもない冗談を言うのね。クラスの敗北が決定してしまった以上、私はクラスポイントの支出を最小限に抑える必要がある。楽しむ余裕なんて欠片もないに決まってるでしょう」
ぐうの音も出ねえな。こちらとしても万全を期すためにクラスポイントはできるだけ多く毟り取っておきたいところだし、最後にこちらが負けて終わるのは縁起がよろしくない。
「まあそこまで肩肘張らなくても大丈夫じゃないか?俺、チェスを覚えて数ヵ月だからさ」
「生憎と、私は1週間ほどよ」
この試験ではペーパーテストのような例外はあるものの、基本的に私語はほとんど咎められることはない。だから軽いジャブとして嘘で油断を誘おうとしたが、まるで動じないか。
この種目は司令塔が大きく介入できるルールになっているし、頭を使う競技で坂柳が遅れを取るとは思えないが、決して油断できる相手ではなさそうだ。
「それではこれより第7種目、チェスを行う。両名席に着くように」
教師の指示に従い席に着きつつ、俺は堀北にわからないよう黒のポーンを右手で、白のポーンを左手で握りしめる。
「先行後攻の決め方はわかるよな?」
「ええ。……左手よ」
向こうに先行を取られちまったか、幸先悪いな。
チェスは基本的に先行有利。本条と坂柳のように差し方が似ていて実力が拮抗した者同士の闘いならば、特にそれが顕著に出る。
「どんな初手を打つのか楽しみだ」
「さて、ご期待に沿えるかしらね」
堀北は迷いなく白のポーンを手に取り、意外性も何も無く定石通りにE4の位置に移動させた。俺も黒のポーンをE5に移動させると堀北はすかさずナイトを動かし、E5に置かれたポーンを射程圏に収める。
なるほど、ここで俺がどうポーンを守るかで俺の戦術パターンを読もうってわけか。
「俺も坂柳から色々仕込まれたからな、早々に流れは渡さないぜ?」
お互い初手から長考することなく手を進めていく。坂柳のために持ち時間を30分残しておく必要があるため、序盤からのんびりしてはいられない。
堀北は定石を守りつつも非常に手堅い差し方をする一方、俺の差し方はある程度定石を無視した変則重視の攻撃的な戦術。
坂柳曰くこの差し方なら付け焼き刃でも十分間に合い、ただ定石通り打つことしかできない相手は簡単に崩れてくれるらしいが、堀北はどう攻めても1つ1つ冷静に対処してくる。戦局はやや俺が押しちゃいるが、こりゃ持ち時間の配分には気を配っとかないとな。
「随分と捻くれた戦い方ね、指導者に似たのかしら」
「俺も坂柳も性格が良いとは決して言えないから、教えたときに一番フィーリングがあったんだろうな。そっちは随分と綺麗な差し方だが……ちゃんとした指導者でもいたのか?」
指導したのが綾小路以外ならそいつが直接この競技に出てくる筈だし、指導したのは消去法で綾小路でまず間違いないだろう。合宿以降何度も探りを入れて、軽井沢恵と佐倉愛里に好かれてるってこと以外は特に何も出てこなかったが、やはりアイツには何かがある気がする。
「この1週間他を全て捨てて、ひたすらチェスのみと向き合ってきただけよ」
「へえ……ってことは俺達がチェスを選ぶと確信していたのか」
「さあ、どうかしらね」
まあこの種目だけやたら司令塔の関与が大きかったから、読まれていても別に不思議じゃない。本条のオカルト染みた非常識な手段で、選ばれるのが確定していたことまでは流石に読まれていないだろうがな。
……しかしさっきから何度かチェックをかけてはいるけど、ことごとく防がれて中々攻め切れないな。
「始めて1週間って本当か?」
「わかってはいたけど、随分とお喋りね」
「それだけが俺の取り柄さ」
ルールで禁止していないのなら、何度でも揺さぶりをかけてやる。口はいくら動かしてもタダなんだし、僅かでも動揺を誘えたら儲けものだ。
「そう、1週間よ。まあ客観的に考えれば、嘘だと言われても文句は言えないわね」
「もし本当なら独学とは思えないな。ウチの姫さんみたいにチェスに精通した奴がいたのか?」
「さあ、どうかしら」
しかしやはり堀北はまるで動揺した様子が見られない。……さて、ジャブはこれくらいにしここらで1つ核心を突いてみようか。
「それはそうと堀北、綾小路について少し聞いていいか?」
「彼の何を聞きたいの?当初は友達作りに難航してたけど、最近解決したそうよ」
「いや、それはどうでもいいよ。……無人島の一件てもしかしてさ、裏で暗躍していたのは綾小路なんじゃないか?」
明確な証拠など何も掴んじゃいないが、もしそう前会長や現会長から注目されている辻褄も合う。生徒会長の権力なら、他学年の特別試験の詳細を調べられても別に不思議じゃないしな。
「どうして思うの?」
「ただの勘さ」
「なら、今後はあまり頼らないことをお勧めするわ」
「そうか?俺の目にはお前が少し動揺してるようにも見えるんだけどな」
「残念ながら、そんな揺さぶりでは私の牙城は崩せないわ」
堀北が白のビショップで、俺のキングにチェックを─おいおいマジかよ……いつの間にかリードを奪われてやがる。いや、あえて受け身に回ることで俺が有利だと思わせていたのか?
「悠長に話を続きをする余裕あるのかしら、橋本君」
「面白くなってきたな……」
口では強がりつつも形勢は変え難い。チェックをかけられた以上守りに入らざるを得ないが、徐々に追い詰められ長考も増えていく。……こいつ、俺よりも数段強いな。
「いやぁこりゃ参ったぜ、可愛い顔してとんでもないんだな」
「あなたも見かけによらず上手なのね」
「キレキレの皮肉をありがとよ。まったく、上には上がいるな」
このまま何事も無く勝負が進めば、確実にこちらが敗北すると確信できる。……だけどな堀北、上には上がいる……これはお前にも当てはまることなんだぜ。
最終戦を待たずして決着が着いてしまいました。二次創作じゃないと許されない話の展開ですね。
桐葉君と切磋琢磨していたおかげか、ここの有栖ちゃんは原作よりもさらに頭がキレるため、月城の干渉をしっかり警戒しています。