女王の女王   作:アスランLS

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数々の「待っていた」という感想ありがとうございます!
投稿ペースは不定期になりますが、一年生終了までもうすぐです。


11巻エピローグ

【side:桐葉】

 

血で血を洗う(大袈裟かな?)学年末特別試験が終了した。

俺達Aクラスは4対3で辛くも勝利したものの、5戦目からのCクラスの怒濤の追い上げには目を見張るものがあったね。特に……有栖がチェスで敗北したことについては、クラス中に決して少なくない衝撃が走ったものだ。

教室にいる俺達には試験終了と同時に解散許可が通達され、クラスメイト達はそれぞれ不安に思うところはあれど、大体の子は晴れやかな気分で帰宅していった。色々と反省点はあるけど、最終的に勝ったのは自分達だしさもありなん。

そして俺はというとコージーと今後についての話があるというので、有栖に呼び出されて毎度お馴染み特別棟へと向かっている途中である。生まれて初めての挫折に傷心してやしないかと多少心配だったけど、相変わらずの人使いの荒さからして()()()()()大丈夫そうだね。 

 

「あめんぼあかいなあいうえお~♪うきもにこえびも……およ?リュンケルじゃん。司令塔おつかれー」

「あ?……なんだロリコン野郎か、相変わらずおちゃらけた面してやがんな」

「わーお、出会い頭に辛辣」

 

いやあ、何一つ否定できないのが悲しいところだね。さらに植物狂いも加えれば満点回答だ。

 

「やっぱてめえは気づいてたみたいだな」

「まああれだけ石崎君に活力がみなぎったら、気づかない方が難しいしね」

「ちっ、あのバカが……」

 

舌打ちしつつ暴言を飛ばすが、当然満更でもないことはしっかりお見通しだったのでした。……そう指摘したら多分キレるんだろうなあ。

 

「それでリュンケル、何対何で勝ったの?」

「5対2でうちの圧勝だが、Bクラスが勝ったとは微塵も考えちゃいねえのか。一ノ瀬とは仲が良かった筈なのに薄情な奴だな」

「いやいや、卍解ちゃん達が勝ってたら今頃君は退学手続きとかで忙しい筈でしょ」

「クク、言われてみりゃそれもそうだな」

 

……もっとも、多分リュンケル達が勝つんだろうなあとは予想していたんだけどね。Bクラスはまともに戦ったらDクラスには安定して勝てるんだろうけど、リュンケルがまともに戦った試しも無し。だというのにダーティな戦術への対策も無しに馬鹿正直に受けて立ってるようじゃ、勝負以前の問題だよ卍解ちゃん。

しかし5対2か。つまり学年末特別試験後のそれぞれのクラスのcpは……

 

Aクラス……1278ポイント→1408ポイント

Bクラス……613ポイント→523ポイント

Cクラス……396ポイント→366ポイント

Dクラス……334ポイント→524ポイント

 

……になるね。コージー達は再びDクラスに戻り、卍解ちゃん達は1年の最後の最後で下位クラスに、そしてリュンケル達は晴れて上位クラスか。王座復帰の手土産には十分と言えるね。

 

「それでリュンケル、今回はどんな狡猾な手段を用いたの?桐葉君聞きたーい」

「今回は別に大したことはしちゃいねえよ。まずこちらの選ぶ10種目を全て力でねじ伏せるだけの種目にした」

「ほほう」 

 

つまり、空手とかレスリングとかだな。必要人数は全種目バラバラにしないといけないけど、格闘技なら勝ち抜き戦形式という抜け穴がある。たとえば10対10の勝ち抜き戦で山田君+戦力になりそうにない生徒9人でも、Bクラスには打つ手が無くなっちゃうだろう。アベレージは優秀だけど俺やコージー、六助のように抜きん出た戦力を持たない弊害だね。

 

「でもそれだとくじ運次第で勝てるってだけで勝率は精々5割……あ、もういいや聞かなくて。相当いけない手段を用いてBクラスを弱らせたのは想像ついた」

「話が早くて助かるぜ」

 

クククと凶悪そうに笑うリュンケル。連日に渡る嫌がらせだけで済ませてあげるとは思えないし、もしや毒でも盛った……だと流石にシャレにならないから、下剤でも盛ったのだろうか?えげつねぇ。

 

「そういうてめえはどうだったんだ?その能天気な面からして負けたとは思えねえが、てめえなら負けてもヘラヘラしてそうで判別がつかねえな」

「失敬だね君は。4対3でなんとか勝ったよ」

「はっ、てめえっつう反則臭ぇカード持っといて随分と僅差じゃねぇか。あの女も底が見えたようなもんだな」

「いやいや、向こうは向こうで六助っていう反則カードが猛威を奮ったからね」

「……あの変人が真面目に試験に取り組んだのか?」

「そだよ。いったいどういう風の吹き回しなんだか」

 

俺との勝負をふいにされた腹いせ……いやいや、そんなわかりやすい思考回路ならホリリン達も苦労してないよね。彼の全てを理解できるのは世界広しと言えど彼本人だけだろう。

 

「あとは、そうだね……コージーが噂に違わない怪物だったことも理由かな。いやあ、まさか有栖がチェスで遅れを取るとはねえ」

「……クク、だろうな。あの野郎を潰せるのは俺しかいねえ」

「ついこの間ボッコボコにされたばかりなのに言うねえ。君のそういう大胆不敵なとこ嫌いじゃないよ」

「てめえの好みなんざ知ったことじゃねぇよ。……来年からはてめえらAクラスが標的だ、せいぜい楽しみにしてな」

 

宣戦布告ともとれる捨て台詞を吐いて、リュンケルは俺が歩いてきた方へ去っていく……と思わせてすれ違い様に無言で回し蹴りをしてきたので、とりあえず受け止めておこう。

 

「危ないなあもう」

「クク、今のを完璧に見切るかよ。つくづくなんでてめえがあの女の下についているのか理解に苦しむぜ」

 

暴力万歳な君からしたらそうだろうけどさ、トップを務めるのに殴る蹴るの強さは必要ないでしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:有栖】

 

「かきのきくりのきかきくけこ~♪やあやあお待たせしてすまないね半目コンビ」

「変な括りしないでください」

 

特別試験終了後、私と綾小路君は今後の予定の話し合いをするべく、監視カメラの設置されていない特別棟に来ていました。桐葉も密接に関わっているため呼び出したのですが……来て早々いつも通りの桐葉節が炸裂しました。私が敗北したことで幻滅されたりしていないか、ほんの少しだけ不安になった時間を返して欲しくなりますね。……まあ、きっと貴方は変わらないだろうとは思っていましたが。

 

「役者が揃ったところで始めましょうか。……まずは綾小路君、お見事でした。今回の勝負は私の負けです」

「随分とあっさり認めるんだな」

「私が敗北を認めない、プライドの高い女に見えましたか?」

「認める認めないはともかくプライドは高いでしょ」

「うるさいです桐葉」

 

本当に貴方は茶々を入れるのが好きですね。

 

「私が知りたかったのは貴方と私、どちらが上なのかということ。その結果に不平不満を漏らしませんよ」

「……なあ坂柳、1つ聞きたいんだがいいか?」

「? 何でしょうか?」

「あの最終局面、お前はチェックメイトがかかる前にリザインしたが……本当に打つ手が無かったのか?」

「──っ」

 

綾小路君の指摘に私は理解が追いつかなく……いいえ、頭が理解することを拒みたくなりました。

 

「……当然でしょう?手が残されているなら私が勝負を捨てる筈が─」

「あの局面でクイーンを犠牲にこちらのルークを取っていれば、オレはチェックメイトをかけるのに手間取ることになっただろうな」

「それ、は……」

「……あー」

 

しかし綾小路君は私の触れられたくなかった部分を、容赦無く指摘しました。私達の会話から何かを察したらしい桐葉は、気まずそうに頬をかいています。

 

「……クイーンはキングを除けば最も重要な駒で、奪われることはほぼ敗北に直結します。あの局面でチェックメイトをかわしても、所詮はその場凌ぎにしかなりませんよ」

「苦しい言い逃れだな、聡明なお前らしくもない。オレの持ち時間は10秒を切っていた以上、その場さえ凌げればチェックメイトをかける前に介入ができなくなっていた」

「私の持ち時間とてほんの微々たる時間でしたし、相手が堀北さんと言えどクイーンを欠いた状態で逆転するのは難しいでしょう。まず間違いなくチェックメイトをかける前に私も介入できなくなります」

 

二人の格付けは前半戦の様子からして火を見るより明らか。私達の介入がなければ橋本君は堀北さんに敗北した筈です。

 

「まあそうなれば十中八九、堀北が勝っていただろうな。……だが可能性は0では無かった。にもかかわらず、何故そうしなかったのか知りたい」

「それ、は……」

「そういや俺も有栖とは何百回と指して勝ったり負けたりしてきたけど、有栖のクイーンを取れた試しが無いなあ」

 

余計なこと口にしないでください桐葉っ。ああもう綾小路君がさらに興味深そうにしちゃったじゃあないですか……。

……どうやら、隠し通すのは無理なようですね。桐葉が来るまでに話を始めなかった私の判断ミスです……。

 

「……そう大した理由ではありません。言ってしまえばただの験担ぎのようなものですよ」

「験担ぎ?」

「綾小路君は随分前から桐葉と仲がよろしいかったと存じています。では桐葉に聞かされなかったですか?自分はチェスでいうクイーンだと」

「そういえば以前言っていたな」

「そだね、須藤君暴力事件のとき辺りだったかな?」

 

ああ、Aクラスには何の関わりもない事件に桐葉が暇を持て余して介入しましたっけ。……綾小路君と知り合えるなら私も介入するべきでしたね。

 

「そう、私のクイーンは桐葉です。替えの利かない、決して失うわけにはいかない存在なんです。だから私はその場凌ぎなどに……いえ、もっというならたとえチェックメイトをかけられる場面でもクイーンサクリファイスは用いません」

「いやーん、有栖ちゃんてば乙女チックー♪」

「き り は ?」

「ハイすんません、黙ってマス」

 

シリアス嫌いなのはわかっていますが流石に今は空気を読んでくださいこのおバカ。

 

「……なるほど、そういう理由か」

「合理性に欠いたくだらないことに執着する、愚かな女と思うかもしれませんね」

「そんなことはない」

 

自嘲するようにそう呟くと、綾小路君は無表情のまま首を振りました。

 

「今回のお前との戦いは、これまでで最も敗北を意識させられた。お前はオレを葬ることができるかもしれない人間だと証明してみせた。そんなお前が勝負を度外視してまで拘るものが価値の無いものの筈がない。……むしろそれこそ、オレがあの施設から脱走してまで知りたかったものかもな」

「そう言っていただけると、私としても悪い気はしませんね。……ともあれ今回の勝負で私は負けてしまいましたので、黒幕だということは公表せず伏せておきますし、貴方の抱える厄介事を解決するため私と桐葉が力になりましょう。と言っても口約束では信じきれないでしょうから、後日先生方の仲介の下契約を結びましょうか」

「ああ、よろしく頼む」

 

本音を言えば桐葉も他人事ではないので、約束など無くても彼に協力するつもりでしたが、こうして協力するだけの理由がある方が綾小路君にも不要な警戒をされないでしょう。

 

…………。

 

「……ですが綾小路君、1つだけ我儘を言ってよろしいでしょうか」

「我儘?」

「チェスでの対決では負けてしまいましたが、クラス同士の戦いは私達Aクラスの勝利で終わりましたよね」

「そうだな」

「桐葉という強大なアドバンテージがある以上それは予定調和ですし、私はそれで勝ち誇れるような愚物ではありません。……ですが、もう二度と勝負を持ちかけることもないという約束は、反故にして構いませんか?」

「長々と遠回しに嘆願したけど、要はリベンジさせろってことだよコージー」

「ああ、それで構わない。ただしばらくは控えてくれると助かる。ホワイトルームからの干渉はもとより、ゲームとはいえAクラスのトップとの直接対決を制してしまった以上、どうしても余計な注目を浴びる。当分はその対処に忙しくなるからな」

「ええ、勿論です。それでは今日の所はこれでお開きにしましょう。桐葉、帰りましょうか」

「はいよ、それじゃあね()()()。きつつきこつこつかれけやき~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろいいんじゃない?」

 

綾小路君と別れ桐葉と二人で寮へと帰る途中に、突然桐葉がそんな曖昧なことを言い出した。

 

「……?いい、とはどういう意味ですか?」

「ざっと見渡したところ、周囲には人っ子一人いない。生徒達は特別試験後ということもあり皆早々に帰宅したみたいだね。ついでにこの辺りは監視カメラもなく誰かに見張られてもいない」

「いや、ですから一体何を─」

 

私の言葉を遮るように唐突に私を抱き締めました。脈絡もない唐突なセクハラに私が抗議の視線を向けると……桐葉はまるで母親のような優しい眼差しを私に向けていました。

 

「前にも言ったけど有栖、俺にまで取り繕うのはやめようよ。泣きたいときは泣きゃいいだろう?悲しかったときや……悔しかったときにはね」

「っ!……」

「天才が生まれて始めて挫折を知ったんだ。俺のように精神に欠陥ができちゃったわけでもないお前が、何も思わない訳がないだろう?」

「……」

「大丈夫。弱味を見せたくらいで、俺は幻滅したりいなくなったりしないから」

 

 

 

……それから寮へと帰るまでについては、誰にも決して打ち明けるつもりはありません。墓場まで持っていきます。桐葉の言った通り、私は相当プライドの高い女だと痛感しますね。

そして私はとんでもない判断ミスを、それこそクイーンに固執したことなど些細に思えるほどのミスを犯してしまったことに、ようやく気づくことができました。

 

 

綾小路清隆(いずれ打ち砕かなくてはならない信念の象徴)に挑む以前に、本条桐葉(絶対に勝たなくてはならない相手)との決着を未だに着けられていません。

 

 

私と桐葉についてよく知る全ての人が、彼が私の右腕だと思っているでしょうし、桐葉本人もそれを否定しないでしょう。……しかし本音を言えば私は今まで一度たりとも彼を配下などと思ったことはありません。彼は私に従っているのではなく、あくまでただお願いを聞いてくれているだけと考えています。

何故なら私と桐葉の決着は未だ着いていないのですから、真に彼が私の下につくとしたら、対等な条件を揃えた上で私が彼を上回ったときになるでしょうね。

……誰にも言うつもりはありませんが心の中でだけ、偽らざる私の本心を打ち明けましょう。

 

私は弱い女です。体だけではなく、心も。

 

彼は優しい人だから、私が敗けたとしても仲良くしてくれるでしょう。

 

でも彼はそれ以上に自分に厳しいから、自分より劣った私に従うことはなくなる……いえ、従えなくなってしまうでしょう。

 

そして彼は誰よりも残酷だから、二度と私は彼の特別になれなくなるでしょう。

 

私はそれが怖い。怖くて怖くてたまらない。

 

彼の中で私がその他大勢に埋没することを想像するだけで、胸が締め付けられるほど苦しくなる。

   

本当の意味で私が彼の特別となるためにも……私は彼に勝たなくてはなりません。

彼を失うことを恐れるあまり知らず知らずの内に決着を先伸ばしにしてしまいましたが、ようやく私も彼と向き合うべきときが来たのです。

 

 

 

 




この作品の有栖ちゃんは桐葉君のおかげで原作よりも知性が上がっていますが、桐葉君のせいで精神面が弱体化しています。原作で決め手となったクイーンサクリファイス戦術が使えなくなるくらいには。
……まあ弱った姿は読者の皆様にも私にも見せてはくれませんが。それは桐葉君だけに許された特権です。

有栖ちゃんを真っ向から打ち破ったことで、綾小路君はお気に入り4位に昇格し呼び名が下の名前+敬称に変化しました。
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