女王の女王   作:アスランLS

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特別試験で負けたクラスの、今後キーマンになる可能性の高い生徒達と交流します。華やかさは欠片もありませんのでご注意を!


桐葉君と敗残兵達

 

「うぉぉおおおらぁぁあああああ!!!」

 

3月30日早朝……体育館バスケットコートにて、燃える男須藤健はボールを抱え雄叫びと共に跳躍する。

彼の身長は183㎝。日本人にしては文句無しの長身ではあるものの、バスケット選手としては決して抜きん出ているというほどではなく、ダンクシュートをするには少々物足りないレベルの高さ。

しかし彼はそんなセオリーなど知ったことではないと言わんばかりに高く、高く跳び上がる。

生まれ持った天性のバネは勿論のこと、明けても暮れても愚直にバスケに向き合い続けた経験は確かに彼の血肉となっている。

空を翔る彼は手にしたボールをそのままリングへと叩き込む─

 

 

 

「どあほう」

「ぬぁああっ!?」

 

─寸前に俺がはたき落としました。ケン坊が桜木ならこっちは流川で対抗するまでさ!流川別にディフェンスに定評ねーけど。

溢れたボールをすぐさま拾って、俺はゴールへ向けてカウンターを仕掛ける。

 

「待ちやがれコラ!」

「残念、一手遅いね!はっ!」

「ぬがっ!?またスリーかよ!」

 

後ろから猛追するケン坊だが、彼我の身体能力差は歴然なため追いつくことは敵わず、俺は悠々とスリーポイントを放つ。

ダンクなど花拳繍腿、3Pこそ王者の技よ。

 

「……おっ、入った入った。はいこれで10点越えたね、また俺の勝ちー」

「ちっくしょぉぉおおお……!」

 

選抜種目試験も含めると通算5連敗に達したケン坊は、その場に仰向けで倒れ込んだ。

 

「ここまで完膚なきまで負けたら突っかかる気力も湧かねぇ……なあ本条、なんでお前そんな強ぇのにバスケ部入らなかったんだよ?」

「そりゃあ俺はバスケが強いんじゃなくてバスケ()強い、だからね。数ある選択肢から選び取る程興味が無かっただけだよ」

「ああ、そういや空手で全国制覇してたっけか……」

 

まあ空手部にしたって、大量のポイントが欲しいと有栖におねだりされてなかったら、絶対入ってなかったけどね。スポーツで俺に対抗するには六助や清隆君クラスじゃないとダメだし、勝つとわかりきっている勝負なんてただの茶番でつまらねー。部活動なんて有栖と過ごす時間を削ってまですることじゃない。

 

「しっかしバスケでリベンジしたいから来てくれって、一体どういう風の吹き回しだい?君は山内君のことで俺や有栖を恨んでた筈だけど」

「……ああ、そのことか」

 

ケン坊は起き上がりつつ、少々バツが悪そうに目を逸らしながら話し始める。……やれやれ、なんだいその女々しい有り様は。

 

「そりゃつい先日まで恨んでいたかもしれねぇがよ……本当は最初からわかってたんだよ。春樹が狙われたのは坂柳を怒らせたことが原因ってことも、お前らに誘導されたがクラスを裏切ると決めたのは春樹自身だってこともな」

「だろうね。入学時ならともかく、体育祭で一皮剥けたケン坊ならそれを理解しても何ら不思議じゃない。けど理屈はわかっていても友人に肩入れしちゃうのは、まあ血の通った人間である以上は仕方がないんじゃないかな」

 

俺も10割有栖に非がある場合でもあの娘の味方になるだろうし。……だいたいいつもそうな気もするなあ。あの娘名前も見た目もアリスなのに中身ジャバウォックだし。

 

「それで最近ようやくわだかまりが解けたから、特別試験のときのリベンジがしたくて俺を呼び出したわけだね。結果はこのザマだったけど」

「うるせぇよ!?……リベンジしたかったって気持ちもあったが、それ以上に確かめたかったんだよ」

「確かめたかった、ねえ……特別試験で俺を倒すことに固執してなきゃ、もしかしたらDクラスは勝てていたんじゃないかってことをかい?」

「っ……ほんと何でも見抜いてくんのな。お前が歩くプライバシーの侵害とか呼ばれてる意味がようやくわかったぜ」

「いやあ、それほどでも。……で、今日やりあってみてどうだった?」

「お前は強ぇよ。バスケの技術だけなら負けねぇが身体能力が段違いだし、何より俺の行動がどういう訳か全部先読みされちまう。今の俺じゃ逆立ちしても勝てそうにねぇ。……だが、あのとき俺がゴール前でこぼれ球を拾うことに集中してたら、あのまま逃げ切れたかもしれねぇ。そう思うと、俺を信じてくれた鈴音に申し訳が立たなくてな……」  

「ま、それは否定しないよ」

 

残り時間も僅かだったし、逆転するにはどうしてもスリー一辺倒で絞るしかなかった。ブランクのあった俺の3P成功率はお世辞にもそこまで高くなく、実際に1度ドフリーで盛大に外してる。あのときケン坊がリバウンドに参加できていれば、ファルコンにも高い確率で競り勝てただろう。

そうなればリードのまま逃げ切ることができ、最終結果は4対3……いや、2回戦目の外村君も動揺することなく順当に勝って5対2だったかもしれない。

……でもまあ、

 

「たらればで落ち込んでるとこ悪いけどさ、もし君がそこまで冷静に徹することができる子なら、有栖だってもう少し早めに俺を投入してたと思うよ?あの子はリスクなんていちいち恐れやしないけど、勝ち筋の無い無謀な賭けに出るほど愚か者じゃないよ」

「うっ……いやまあ、そう言われたらそうなんだろうけどよ……」

「それでも割り切れないってんならさ、次勝てるように死ぬほど鍛えるしか無いんじゃない?……打ちのめされたことがない選手なんて、かつていたことがない。ただ一流選手はあらゆる努力をはらって速やかに立ち上がろうと努める。並の選手は立ち上がるが少しばかり遅い。そして……」

「敗者はいつまでも横たわったまま、か……」

 

流石はスポーツマン、当然この不朽の名言は知ってるよね。

 

「少なくともホリリンはきっとすぐに立ち上がって、次の戦いに備えてると思うよ。だというのに君がいつまでもウジウジしててどうするのさ」

「鈴音が……そうか、そうだな。あいつはどんなときだって諦めなかった。きっと今回だって……」

 

何やらぶつぶつと呟きつつも、ケン坊はようやく立ち上がった。まっすぐに俺を見据える彼の瞳に、さっきまでの脆弱さはまるで感じられなかった。

 

「本条、現状ではお前に逆立ちしても勝てそうにねぇ。いや、もしかしたらこの先俺がどれだけ必死に努力しようが届かねぇかもしれねぇ。……たが、最後に勝つのは俺達Dクラスだ!」

「ん、その意気や良し。俺達Aクラスは24時間365日誰からの挑戦でも受け付けているよ」

 

右手の人差し指に出来たペンだこからして、バスケだけじゃなく勉強も真剣に取り組み始めたのだろう。

負けたとはいえ俺達と接戦を演じた彼らDクラスは、2年生からさらなる躍進が期待できる。そして彼は歴代最低と言われたDクラスの飛躍の象徴となるかもしれないね。

さてと、用事も済んだことだし、俺はジャージからスーツに着替えて体育館を後にする……前に、1つだけ聞いておこうかな?

   

「ところでケン坊。ずっと気になってたことがあるんだけど、リュンケルってさあ……」

「あ?あのクソ野郎がどうしたんだよ?……もしやまたアイツ何かゲスいことでも企んで─」

「ヤンキー時代のミッチーみたいだよね」

「思ったより100倍くだらねぇな!?いや確かに見た目だけは似てるけどよ!」

 

いつか泣きながら「バスケがしたいです……」とか言ってくれないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交遊関係は広く浅く適当に、がモットー。

三学期では有栖が散々じゃちぼーぎゃくムーブを行ったせいで、Aクラスの生徒に敵意を持つ子がそれはもうわんさか出たもんだけど、俺はそのほぼ全員と和解を済ませている。

誰よりも優れた眼のお陰で俺は相手のパーソナルスペースを見抜き、最も心地よいと感じる距離感で接することができる。多少警戒したところで30分もありゃ親睦を深めることなど造作もない。……ホリリンとかリュンケルとか櫛田ちゃんといった、どの距離感でも敵意とか警戒とか嫌悪を手放さないような子は別だけどね。

そんな訳で仲の良い生徒はクラス学年問わず膨大ではあるものの、休日に約束をして一緒に遊びに出掛けるほど親しい子となると片手の指で数えられるくらいまで一気に絞られる。というか基本的に有栖と過ごす時間が最優先で、あの娘が一人でゆっくりしたい日は適当にケヤキモールでもぶらつき、たまたま目に留まったグループに違和感なくすっと入り込むという手口で時間を潰すことが多い。

3日前は満足先輩と高育史に残るであろう熾烈な卓球勝負を繰り広げ、時任君達Cクラスリュンケルアンチグループの愚痴を延々と聞き、清隆君達のグループと映画を観に行ったりとそれなりに有意義な1日を過ごしたものだ。

さて、今日は誰と巡り会うかなー……っと、意外な人物発見。

 

「やあザキちん、奇遇だね」

「……本条か」

 

Bクラスのイケメン参謀、ザキちんこと神崎隆二君。有栖曰く結構良いとこのボンボンで入学前から何度か面識はあったらしいけど、寂しいことに両者とも互いへの興味は欠片も存在していない模様。

 

「せっかくの春休みに1人で行動?仲良しBクラスにしては随分と珍しいね」

「元々俺は人付き合いがあまり得意な方ではないから、さほど珍しいことじゃない。……それに、今はCクラスだ」

 

ありゃりゃ、デリケートな部分に触れちゃったかな?反省反省。

 

「特別試験は残念だったねー。司令塔はプロテクトポイントを持つ生徒が務める、って思い込みの裏をかいたリュンケルの作戦勝ちってとこかな」

「それだけなら多少の動揺と混乱はあれど、正攻法で戦っていれば俺達は負けなかった。奴は卑劣な戦略で強引に勝利を掴んだに過ぎない」  

「ほほう、卑劣な戦略とは穏やかじゃないね。どうやら連日に渡るしょぼい嫌がらせだけじゃなさそうだ」

「試験当日にクラスメイトの何人かが腹痛を起こした。事情聴取したところ、全員が試験前にカラオケ店で石崎達に絡まれたとのことだ」

「あちゃー、そりゃ盛られましたな」

 

俺の言葉を肯定するように、ザキちんは目を閉じて神妙に頷く。しかしリュンケルも随分と危険な博打に出たもんだね。有栖や清隆君なら守られるケースを想定して、飲食物の残りを保存しておくようクラスメイトに働きかけ……いや、そもそもあの二人にそんな綱渡りな戦略を打つほどリュンケルもバカじゃないよね。

 

「学校には訴えなかったの?明確な証拠は多分出てこないだろうけど、何もしないよりは─」

「俺を含むクラスメイト達もそう主張した。だが一之瀬は今回のことを戒めにすると学校への訴えは起こさないと決めた」

「へえ、そりゃまた……えーと、何て言おうか……」

「甘い、と言いたいんだろう。気を遣わなくていい。だが今回のような龍園の汚い策略は、今後は全て俺が防いでみせる」

 

目を閉じたザキちんの瞳に宿るのは強い決意……そして必要とあらば仲間を犠牲にしてでも勝利を掴むという覚悟。

 

「常に一歩引いて卍解ちゃんを支えてきた君が、とうとう重い腰を上げようってことね」

「一之瀬のクラスを率いる統率力と求心力は堀北、龍園、坂柳、そしてお前と比べても劣っていない。……しかし彼女には危機的状況を回避する能力や、いざというときに弱者を切り捨てる決断力が欠けている」

「それはまあ、誰よりも善であるが故の代償だね」

 

リュンケルのように卑劣な手段を用いないことは別に大した問題ではないけど、相手が卑劣な手段を用いてくることを想定しないことは大問題だ。ホリリンなら対策を講じる、有栖や清隆君ならそれすら利用し自身の計画に組み込む。しかし他人の善性を信じる……いや信じたいあの子は、ダーティな戦術に対してどうしても後手に回ってしまう。リュンケルからすれば格好の獲物だろうね。

 

「一之瀬の善性にケチをつけるつもりはない。彼女に不向きだというなら、代わりに俺が動くまでだ」

「らしくもなく積極的だねザキちん。……クラスポイント差が大きく縮まっちゃったし、ホリリン達と仲良しこよしもしてられなくなった?」

「ああ、先ほど一之瀬からDクラスとの協力関係を解消したと連絡がきた。新学期から俺達は崖っぷちに立たされることになるだろう。このままでは俺達は、Aクラスを巡る戦いから脱落してしまう。だからこそ俺が……」

 

不意にザキちんの携帯から着信音が鳴り響く。俺に許可を取ってから画面を確認すると。ザキちんは片方の眉を僅かに吊り上げた。

 

「すまない本条、急用が入ったのでこれで失礼する」

「ん、いいよー。ここで会ったのも偶然だしね」

 

ザキちんは踵を返して去っていく……かと思いきや一旦歩みを止めた。

 

「本条……俺はまだ、Aクラスを諦めた訳ではない。かならず這い上がって、お前に勝ってみせる」

 

こちらを振り返ることなくそれだけを言い残し、今度こそざきちんは去っていった。

 

「ザキちんはまだまだ青いなあ。きっと凄く苦労するけど、頑張ってくれたまえ」

 

決意を新たにしたザキちんだけど、彼はすぐに本当の絶望を知るだろう。何故ならBクラスの本当の弱点とは卍解ちゃんのリーダーの資質などではない。彼女を最高のリーダーだと盲信するクラスメイト達だ。

過去に過ちを犯したかはしらないが、今の卍解ちゃんは生粋の善人だ。彼女の生き方は非常に綺麗で尊く素敵で聞こえが良い。……だからクラスメイト達は卍解ちゃんの判断を疑わないし疑えない。1人2人がその卍解ちゃんの在り方に疑問を投げかけたところで、同調圧力に屈するしかないだろうね。

 

ザキちん1人がいくらあがいたところで、卍解ちゃん達を救い上げることなどできはしない。

 

未来を見通す俺の眼は、冷徹にそう判断を下した。

 




☆桐葉君がぶっちゃける、仲良くはなれないだろう生徒ランキング☆

5位……桐山生叶(鬼龍院と仲良くしている奴なんて信用できるか!)
4位……葛城康平(以前までならともかく、流石にもう修復不可能と思われる)
3位……堀北鈴音(Aクラスに上がるための最大の障害と仲良しこよしなんてできる筈も無く……)
2位……白波千尋(もはやトラウマ)
1位……櫛田桔梗(彼女が欲してやまないもの全てを当たり前のように持っているため、ぶっちゃけ堀北さんよりも嫌ってる)


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