持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第十話 反射神経で私がヤバい

 

「今日は何食べようかなぁ…」

 

昨日のゲームセンターでの一件があり、私は他のウマ娘より早めに起きて誰もいない食堂に来ていた、誰もいない食堂はトレセンに来てから初めての光景だったので少しだけ感動のような感情が芽生えてしまっている私がいる、普段とは違ってイスを選び放題だし、おかずが軒並み食われているなんて言う事も無いので取り放題である、ここの食堂のおばちゃんはおかずがなくなるといくらでも作ってくれるのだが、割と威圧感があって怖いので私は苦手なのだ

 

「あれ?」

 

先ほど私は誰もいない食堂と言ってしまったが、少しだけ訂正しよう、人がいないと思っていた食堂だ、誰もいないように感じた食堂にぽつんと一人、赤髪のウマ娘が座って食事を摂っていた、無論そのウマ娘は私の同期であるプロミネンスサンだ

サンはお皿に山のように盛られたオクラをひたすら咀嚼している

 

「サンも早いね、それにしてもなんでオクラだけを山盛り…?」

 

「あら、シャインも早起きしたんだ、オクラは私の大好物なんだ」

 

「オクラが大好物だったんだ・・・私は今日はまぁ、ね」

 

「いやぁ、やっぱり昨日あんなことがあるとトレーニングを早めにやらずにはいられないよね!!私もさっさとご飯食べてトレーニングしに行くところだよ」

 

「昨日の一件が悔しかったから」なんて言うのはなんだかこっ恥ずかしかったので少しだけ離すことに困っているとサンは恥ずかしがることもなくすらすらと自分の事を話す、顔を見なくても正直に自分の気持ちを伝えるその姿勢からやる気に満ち溢れているのが分かる、そんなサンを見て、不思議と私も元々出ていたやる気がさらに出てくるのを感じた

それはそうと、私は一つ疑問に思ったことがある、いつものメンバーには私たち二人だけではなくもう一人いるはず、クライトはいないのだろうか、クライトはもともとこんな時間に起きるらしいので、一緒に食事しているもんだと思っていたが姿が見当たらなかったので質問してみた

 

「クライト?クライトならさっきグラウンドでゴルシ先輩に絡まれて麻雀やってた」

 

「気の毒に……」

 

サンは一瞬にして目が死んだ魚のようになり、無情な事実を伝えた、ゴルシ先輩に絡まれたのなら無事では帰れないだろう、クライトがゴルシ先輩に絡まれてしまっているなら食堂で待っていても絶対に今日中には帰ってこないだろう、そう考えた私はクライトを諦め、サンの隣に座り朝食を食べることにした

 

「そういえばレーススケジュール、決まったんだって?」

 

私が白米の上に乗っけた納豆をかきこんでいると、サンがそんな質問をしてきて反射的にギクッとなる、もともとは私のトレーナーさんがレーススケジュールが立てられないって事で昨日の予定がなくなってしまったのだ、もしかしたらその担当ウマ娘である私であっても少しだけ不快な気持ちを抱いているかもしれないと言う不安があり、ぎこちない態度になってしまう

 

「う、うん、だから今日はレースに向けてトレーニング開始するの」

 

「あんまりトレーニングしすぎてこの前のメイクデビューみたいにならないでよ?オーバートレーニング症候群発症するまでやるなんて」

 

「わかってるって、多分それに関してはトレーナーさんも配慮してくれると思うし」

 

前回のメイクデビュー、勝ったのはいいものの、レース終盤でオーバートレーニング症候群の影響で沈んだのは確かだ、だが私のトレーナーも一年やっているプロだ、一度問題が発生すれば二度と起こらない様にするはず、レーススケジュールが立てられないから信用できないかもしれないけど、かれこれ数か月一緒にトレーニングした私が言うんだ、間違いない

…そしてサンは昨日急に暇をもらった理由について気付いていない様子だったので私は安心していた。

 

「へぇ~、ずいぶん信用してるんだねぇ、ふぅ、じゃあ私ご飯も食べ終わったし、トレーニング行ってくるよ、シャインもがんばってね」

 

「はいは~い、私はまだ食べ終わってないから追っかけらんないや、いってらっしゃ~い」

 

「(……あ、そういやごちそうさま言うの忘れたな、ごめんね胃袋のオクラたち…)」

 

サンは着替えるために自分のトレーナー室に向かった、私もほかの人が来てからちまちま食べ始めてる最中に話しかけられたりして変に時間を食う前にご飯を食べてしまおうと思い、再び納豆をかきこんだ、ちなみに私は納豆に梅肉をかける派だ

 

 

 

なんだかんだあり私はご飯を食べ終えてトレーナー室にやってきた、もし昨日の夜に送られてきた連絡が本当ならここでレーススケジュールが分かるのだが…少しだけ不安な事がある、実は今日、寮から出る際にトレーナーさんに連絡しておいたのだが、その連絡が帰ってこないのだ、もしかしたら何かあったのではないだろうか、そんな不安を抱えながら私はトレーナー室へ入る覚悟を決めた

 

「おう、来たか」

 

「いつもいつでも、あなたのそばにいつの間にか現れる、あなたの担当スターインシャインさんです~」

 

そこにはしっかりトレーナーさんがいたので、何かあったと言うわけではないだろうと思ったが

トレーナー室のドアを開けて中に入り、とっさに思い付いたよくわからない登場セリフを吐いてからソファに座ってしまったから私は気付かなかったが、よくよくトレーナーさんを見てみるとなんとトレーナー室のパソコンの前に猫背で座り、目の下にクマをいっぱい作って髪の毛がぼさぼさ、目もかすかに赤くしてパソコンに向かうトレーナーさんを見て、私の中に多少あった「レーススケジュールが完成していない可能性」は、違う形で打ち砕かれた

 

「ちょ……トレーナー、まさにザ・寝不足の人じゃん……ちゃんと寝たの?」

 

「いや……『完成した』ってメッセージ送ってから徹夜で作り始めた……」

 

「メッセージ送った時点で完成してないじゃん!」

 

本当に困ったトレーナーである、もしかしたら意外と信用ならないかもしれないぞこの男

とりあえずトレーナーさんからレーススケジュールを受けとった、スケジュールを見ると、次走予定、つまり私の最初のレースは「サウジアラビアロイヤルカップ」だった

サウジアラビアロイヤルカップとは、東京競バ場で行われる1600m、G3のレースだ、そう、G3、重賞レースである、まだ私はオープンすら走っていないのに重賞のレースに出て勝つことができるのだろうか

 

「これ、G3って……ちょっと早すぎるんじゃないの?いくら高い目標があるからって……」

 

「俺の傲慢かもしれない、うぬぼれかもしれないけど、シャインは多分G3でももう勝てる脚を持っていると踏んでの決断だ、まぁサウジアラビアロイヤルカップ以降の予定も立ててはいるけど、結果によってはある程度変えることもあるからよろしく」

 

「いやまぁ、そりゃ出るって言うなら頑張るけど、ちょっと怖いなぁ…」

 

私は少し臆病になっていた、というのも、サンに負けたメイクデビューを思い出しての恐怖だ、私が走った最初のメイクデビューは、私が勝てるとたかをくくっていたから負けてしまった、サンの闘志に気付けなかった敗北だ、だからあれから客観的に見て、勝てる可能性が少ない状態では調子に乗ったことは控えようと思っていたのだが、そう思った矢先にこれである

 

「いける……シャインなら……ぐぅ」

 

トレーナーさんは最後にそう言って机に突っ伏して眠ってしまった、見た目以上に疲労していたのであろう、パソコンの画面にトレーニングメニューは書いてあるからこれをこなしておくとして、問題はレースの方だ

 

「いけるっていったって……割と言葉無責任だなぁ…」

 

結局私はこのG3出走に対する意見を出せず、ジャージに着替え、トレーナーさんが最後に開いていた画面のトレーニングメニューだけ印刷し、トレーナーさんを放置してグラウンドに向かった、一応ちゃんと毛布はかけてあげた、褒めてもいいのよ

 

トレーナー室からトレーニングメニューを持ち出して、あれから30分ほど一人でトレーニングを続けた、別のトラックを見ると麻雀を打っていたはずのクライトもトレーニングを初めていた、どうやらゴルシ先輩に早めに解放されたようである

トレーナーも睡眠がとれたみたい……なのかな、すぐに起きて駆けつけてくれた

 

「ふぅ……やっぱりくるね、トレーナーが提案するトレーニングメニュー」

 

「まぁな、サブトレーナーの経験はあるから」

 

「レーススケジュールは立てられないけどね」

 

「勘弁してくださいシャインさん…」

 

トレーナーはそういってふざけたように私に頭を下げた、本当にこのトレーナーは……

ここで私はあることを思い出した、ホープフルステークスの事だ、ホープフルステークスに出走したいことを伝えないといけないことを思い出した

キグナスに所属している例の二人のどちらかが出るかもしれないと言うのもあるが、単純に私が「誰にも越えられない記録」の為に出走したいと言うのもあったのでトレーナーに聞くと、どうやら先ほど私が見たレーススケジュールに書いてあったらしい

 

「改まって言わなくても、出走するつもりでいたがな、ちゃんとレーススケジュール表の最後の方見たか?」

 

そういえば確かにそうだった気がする、そう言ってトレーナーさんから再び貰ったレーススケジュール表の最後の方を見ると、そこにはしっかりと「最初の一歩、G1 ホープフルステークス出走ォ!!」と書いてあった

 

「メイクデビューが終わっても俺たちの目標は変わらない、誰にも越えられない記録を作り、誰にも負けないウマ娘になる、そうだろ?」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 

「いやぁ~、目標が高いっていいねぇ~」

 

私がトレーナーさんと再びお互いの目標を確認し、これからの未来を思い描いて楽しさにふけっていると、ふと後ろの方からやわらかいような、そんな声が聞こえた、声がした方を向くと、トレセンの赤いジャージを着た、少しだけ緑色が混ざっているような葦毛のウマ娘が立っていて、その姿はどこかで見たことがあったような…そうだ、セイウンスカイさんだ、私の目の前にはセイウンスカイさんが立っていた……セイウンスカイさんが立っていた!?

 

「セイウンスカイ……さん……本物だ……」

 

セイウンスカイさんと言えば、皐月賞と菊花賞を勝ち、なおかつ菊花賞をレコードで制したウマ娘だ……私が人生で1番推しているウマ娘と言っても過言ではないくらいすごい大逃げを見せたウマ娘だ……推してると言っても私は追込だけど、自分にないものは羨ましいアレだろうか

 

「あれ?もしかして知ってる?」

 

「知ってるも何も、有名じゃないですか!菊花賞レコード、京都大賞典の逃げ切り、他にもいろいろ実績残してる方なんですから!」

 

「にゃはは~、セイちゃんもすっかり有名人ですね~」

 

そういってセイウンスカイさんはいかにも「コメくいてー」と言いそうな顔で空を見上げていた

すると、奥の方から男の人が歩いてきた、スカイさんのトレーナーさんだろう

…私のトレーナーと比べるとどっちにも失礼なのだが、それにしても本当に、私のトレーナーは服装の身だしなみこそいいものの、スキンケアを怠っているのだろう、ひげは生えてるし、肌は男の人の肌にしても少しゴツゴツしてるし、挙句今は目の下のクマとぼさぼさの髪の毛付きだ

 

「おいスカイ、あまり人のトレーニングの邪魔をするなよ?ましてデビューした手のウマ娘なんてここが肝心なんだ、うちのスカイがすみません、トレーニングの最中でしたよね」

 

「いえ、全然大丈夫ですよ、セイウンスカイさんやそのトレーナーさんを見れて光栄です」

 

「(私と話すときと全然態度違うじゃん、いい度胸じゃない)」

 

私はちょっとした念を込めた怒りを感じながら、セイウンスカイさんのトレーナーと話すトレーナーを見つめていた、見つめるついでに脇腹にエルボーをぶっ刺しておいた

 

「……にゃはっ☆」

 

「……どうした?スカイ」

 

「ねぇ君、確かスターインシャインって子だよね?もしよかったら私とマッチレースしない?」

 

 

 

 

「えええええええっっっっ!?」

 

私とトレーナーさんは同時に叫んだ、何せあのセイウンスカイさんがまだデビューしたての私にマッチレースを申し込んでくれたのだ、いやその事実に対する喜びもあるのだが、セイウンスカイさんに私が勝てるわけがないと言う申し訳なさも相まって「ええ!?」となってしまう

 

「(また何かよからぬことやるつもりじゃないだろうな……!スカイ……!)」

 

「(さすがにセイちゃんも自分より下の子いじめて楽しむようなウマ娘じゃありませんよ、ただこの子、ちょっと私達の間でも有名で気になってて、ちょっと走ってみたいかなぁって思っちゃってですね☆)」

 

「(……まぁこの二人が良いならいいけど……)」

 

「えっ……いやっ………………えっ……?」

 

スカイさんがマッチレース?私と?G1で?何度も勝ってる?スカイさんが!?

突然の出来事過ぎて頭の整理が追い付かない、いかがいたそうかとトレーナーに目だけ合わせて聞いてみると、トレーナーも頭から脂汗を垂れ流しながら横に頭を振っていた、ぶっちゃけ私も同意見である、走れるわけがない

 

「……ダメかな?」

 

「いや、えいや、あの、えっと、別にダメというわけではないんですけど、あっと……」

 

「ダメそうなら遠慮せずに断ってくれ」

 

「いえっ!!大丈夫ですよっ……ぁ……」

 

私は丁重に断ろうとした、断ろうとしたはずなのだが、つい体の反射神経にに任せていいといってしまった、やばい、やばやばのやばだ、いや本当にやばい、スカイさんに私が勝てるわけがない

私が返事をして間もなくスカイさんはにんまりと笑いマッチレースの準備をしている、トレーナーの方を見るとさっきよりも脂汗を書いて「なんで大丈夫とか言っちゃったの!?」とでも言いたげな顔をしていた

 

「(あれ……おかしいな……私今日G3に向けてのトレーニングする予定だったのに……)」

 

「よろしくね~、シャインちゃん」

 

私の横にはいつも通りのほほんとした態度のスカイさんが佇んでいた、普通の人から見ればただのほほんとしているだけだが、その態度からはわからないほど、先ほど話していた時とは違うオーラがにじみ出ていて、レースが始まっていない状態なのに私の毛が逆立っていたG1ウマ娘とは名前だけじゃないと再確認させられた

 

しかも観戦席には誰が呼んだのか、ギャラリーがたくさん集まってきていた、なんでも高身長で葦毛のウマ娘が集めていたらしい

 

「狭いところは苦手だから、備え付けの簡易ゲートは付けないでいいかなぁ?」

 

「はっ……はいっ……」

 

「も~、そんなに緊張しなくてもいいのに~」

 

スカイさんは緊張をほぐすつもりで言ってくれたのだろうが、レジェンドウマ娘とマッチレースをする数分前、そして自分はデビューしたての状況で緊張するなって方が無理や、なんて思いながら、私はこのマッチレースが始まらないことをひたすらに願っているだけだった、このマッチレース……どうなるのだろうか……

 

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