持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第十三話 私の過去について、鼻塩塩

 

スカイさんと模擬レースをしたあと、私はしっかりと回復しトレーニングに打ち込んでいた、といっても模擬レースから間隔が開いていないから、未勝利戦の時のようにオーバートレーニング症候群にならないように抑えたトレーニングをしている。

トレーニング内容は変わらず私の・・・トレーナーが付けた名前は『超前傾走り』だったか、トレーナーのネーミングセンスにはいろいろ物申したいが、まぁ分かりやすいし良いだろう、そのトレーニングをしている

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

超前傾走りのトレーニング内容は単純だ、ただひたすら直線コースを超前傾で走るだけ、・・・ただ走るだけと言っても私への負担は計り知れない、というのもこの超前傾走り、初めて見つけたクライトとの模擬レースではテンションが上がって、イーグルと競い合った未勝利戦では勝利した喜びで気づかなかったが、おそらく現実的に99%無理な体制で走っているからだろう、使った直後はとてつもない反動が来るのだ、全身から汗が吹き出し、少し油断すると過呼吸気味になるくらい体力を消耗する

 

「うぉぉぉぉぉぉぉああああ!!!」

 

だからこのように回数を重ねることによって慣れを起こし、少しでも反動を少なくしつつ、超前傾走りをしている最中の速度を上げていこうというものだった、正直私が行っていたインターバルトレーニング30週より辛いトレーニングだが、気合で吐きそうになりながらもトレーニングに耐えている

そうして超前傾走りのトレーニングを続けてはや1ヶ月くらい、私の超前傾走りは確実にモノになってきていた、スピードも前より出せるようになっていたし、反動もある程度少なくなってきていた

 

「うああああああああああああ!!!!」

 

それにしても・・・

 

地面が近くて怖いッッ!!

 

いやマジで、クライトと走っているときや未勝利戦の時は感じなかったけど、この走り方をしていると高速で流れる地面が目の前にあるからとんでもなく怖い!!マジで!!勘弁願いたいくらい怖いの!!

だって考えても見てほしい、私達ウマ娘は最高速度時速60キロくらいはくだらない脚力なのだ、と言う事は時速60キロはくだらない速度で私の顔の目の前を芝が流れていくのだ、そりゃ怖いに決まっている、しかも接触したら大けがするような状態で怖いと言うなって方が無理だ

今でこそ多少慣れたものの怖い、下手したら大けがすると言うリスクを常に考えながらも恐怖を感じないくらいになるまでが目標だとトレーナーさんは言うが、ぶっちゃけこの恐怖だけはどれだけ走っても無くならない気がする

 

「おーーーい!!今日はこの辺で切り上げよう!!  ・・・おう、お疲れ、シャイン」

 

「全くホントに・・・きっつ・・・うっハァァ…ハァァ・・・」

 

「おいおい大丈夫か、服びっちゃびちゃじゃねぇか、もう10月になるんだぞ、体が冷えるとやばいからこれ着とけ」

 

「ぜぇ・・・ありがと、トレーナー」

 

トレーナーからトレーニング終了の合図を受けたので私はベンチに死ぬように倒れこむ、まるで疲れがベンチに吸い込まれるように流れていくが、いくらゼロに近くなったとはいえやはり負の数は負の数、超前傾で走った後に反動が来る、トレーナーさんもこの反動の辛さは理解してくれているようで、反動が来ている最中は特に話しかけることもしないでいてくれてる

1分ほど経ち反動の波が消え、私はやっと息を吹き返したように元気になる

少しだけこの元気になる瞬間がクセになっている自分がいるかもしれない、いかんいかん

 

「あそうだ、シャインこれ見てみろ」

 

「ん?あ、これって・・・もう出たのかぁ」

 

「ああ、サウジアラビアロイヤルカップの出走表だ」

 

「そっかぁ、もうそんな時期だったかぁ」

 

「そんな時期て、もうサウジアラビアロイヤルカップが目の前まで迫ってきてるんだぞ」

 

「わーってますって、何のためにこれまで苦しい練習乗り越えてきたと思ってるんですか」

 

既に10月の前半に差し掛かり、私が出走予定のサウジアラビアロイヤルカップの出走表が出る時期だと言うのを忘れていた、トレーナーから出走表を受け取り、私と一緒に走るメンバーを見てみると、特に知り合いが走ると言う事もなかった、私は上位人気に推されるほどではなかったみたいで、別の子が推されていた、この子たちは一応注意しておかないと負けるかもしれない

さらに言うと私が初めて重賞レースで超前傾走りを試すレースだ、1か月間必死に練習してきた超前傾走りでどこまで対抗できるか、正直不安ではあったが、負けて落ち込むほど今の私のメンタルはもろくない、負けたら負けたでまた練習を積み重ねていこうと思った

 

・・・いやもちろん勝ちに行くよ?うん

 

とりあえず出走表を見て思った事はそれくらいだったので私はトレーナーに出走表を返し、水分補給を行う、容器から流れ込んでくる液体が体内に流れ込んで全身が冷えるのを感じる、それほどまで私の体はあったまって疲労していた

 

「今日で超前傾走りのトレーニングを初めて一ヶ月くらいか、よく怪我せずにここまでこなしたな、シャイン」

 

「けぷ、当たり前~、怪我してサウジアラビアロイヤルカップに出られないなんてことになったら目も当てられないもん、転倒には細心の注意を払ってたよ」

 

「悪いな、常に怪我と隣り合わせなトレーニングで」

 

「気にしないで、これをモノにするのがとりあえずの目標でしょ、私が強くなれる方法なんだから意地でもこなすよ、トレーナー、まぁちょっとは怪我の確率減らしてほしいけどね」

 

そんなこんなでドリンクを飲み終わってあたりを見渡していると、遠くの方にタイムを計っている二人のウマ娘が見えた、1回だけしか見た事が無いが、確実にその姿を覚えていたので目に留まった、ノースブリーズとシーホースランスだった、二人とも恐ろしいスピードで走り続けている、テレビで見た時よりも数段早く感じ、少しだけ危機感を覚える

 

「・・・あれのどっちだ?ノースブリーズは」

 

私が二人を見つめていたのをトレーナーも気付いたようで、そのような質問を投げかけてくる、私はその質問に軽く答えると、トレーナーさんが深呼吸する音が聞こえた

 

「どうやら相当力を付けてるみたいだな、流石キグナスのメンバーってところか」

 

「まさか怖気づいたなんて言わないよね、トレーナー?」

 

「ったりめぇよ、シャインならあのキグナスのメンバーと戦っても勝てるかもしれないからな、勝てる可能性があるならとことんやってやるさ!」

 

どうやら私だけでなくトレーナーさんも闘志が燃えているようで、なんだか瞳孔に炎がついていそうなほどに熱く喋っている、なんだかかわいらしく思わず笑ってしまう、あ、一応言っておくけど別にトレーナーさんが好きだとかそういうわけではない、別に私とトレーナーさんは親友みたいな立ち位置なだけだ

 

「ん、なんだよシャイン」

 

「別に?なんだか私をスカウトした時はこんなキャラしてなかったのになって思って、もしかして私のこと好きだったりして」

 

「いや別にお前の事が好きなわけではないが……変わったと言えば確かにそうだな、俺も初めて担当を持つから、担当とどんな距離感で話したりどんな話し方をすればいいのか正直分からなかったけど、お前と一緒にメイクデビューや未勝利戦を乗り越えて、だんだん俺というものに勝ちたいって気持ちが生まれてきたんだ、そのうちに気付いたらこんな感じになってたな、全然意識してなかった」

 

そう言われて私も自分の事を振り返る、私の方も確かに最初この人がトレーナーになった時は自分の目標とトレーナーの目標しか頭になかったけど、今はどちらかと言うと目標7割、『この人』というものと一緒にレースに勝ちたいと言う気持ち3割くらいと言ったところだ、それに速いうちに敗北の悔しさを知れたのもあり、客観的に自分の事を見てもかなりいい状態と言えるだろう、トレーナーもただ暑苦しいと言うわけではなく、しっかりとレースメニューを組めるようになり、トレーニングメニューを日々徹夜する事もありながら詳細まで考えてくれている

 

「ほれほれぇ、やっぱり私の事が好きなんじゃないかぁ、このサブトレーナーめぇ」

 

「サブトレーナーは昔の話だ、それと離れろ、周りの目も気になるし、俺の立場的にもやばいからあんまり体を押し付けるなバ鹿たれ」

 

「なんだとぅ?喧嘩すっかぁ?」

 

「お前なんか今日めんどくさい酔っ払いみたいだな、勘弁してくれウマ娘と喧嘩しても勝てる気しねぇ」

 

トレーナーさんは特に顔を赤らめる訳でもなくただいつものクマまみれの真顔で眼をパチパチさせながらサッパリと言い切った、んまぁ確かに私も距離が近かった気がしなくもないので少しだけ控えようと思う

 

「そういえば、シャインはどうして『誰にも越えられない記録を作る』って言う目標を持ったんだ?なんだかんだ聞いたことなかったよな」

 

トレーナーさんから離れた後、ベンチで首やらの関節をボキボキ鳴らしていると、突然トレーナーさんにそのような事を言われた、確かにそうだ、今までトレーナーさんには私の目標の理由を話したことがなかった、考えてみれば、サンやクライト、木村さんや速水さんにも話した事が無い気がする、ちょうどいい機会だと思ったから、トレーナーさんに話そうと思う

 

「ちょっとばかし長くなるかもしれないけどいい?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

話し始める覚悟を決めて、少しだけ深呼吸をしてから私は話し始める、というかトレーナーさんはこれから話をすると言うのに資料を片付け始めている、聞くのか片付けるのかどっちかにしてほしいものだ

 

「私が『競争ウマ娘になり、誰にも越えられない記録を作る』という目標を志したのは中学生のころからで、まず私の家庭事情から話すと、私の家庭は埼玉の方に住む三人家族なの、父親、母親、そして私、普通の三人家族」

 

「埼玉の方だったのか、大分地方の方だな、それにしても三人家族か、兄弟3人くらいいるもんだと思ってたわ、なんとなく」

 

「残念なことにちっさなころから一人っ子だよ、決して裕福ではなくて、父親はずっと単身赴任でどこかに出向いてたし、母親も家事が得意と言うわけではない、普通くらいの家庭だったよ、だけど私は幸せな家庭で暮らしていたの、父親も母親も私を一生懸命育ててくれた」

 

「優しいご両親だったんだな」

 

「うん、私が何か悩みがある時はいっつも親身になって聞いてくれるし、誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントも頼めば「私の為に」って言ってお金を稼いで買ってくれた、自慢の両親だよ。ちょうど住宅街のど真ん中と言う事もあってさ、近所に爺ちゃん婆ちゃん多くてね、子供の私はかわいがってもらえてとても楽しい日々だったんだ」

 

トレーナーさんは何かの資料をまとめ終わったようで私の後ろでグラウンドの柵に寄りかかって静かに話を聞き始めていた

 

「そんな私も小学生の頃から成績がある程度良くて将来の夢も持ってた、特に長けていたのは算数で、学年の上位をいっつも独占してたの、だけど中学生になって私は途端に周りについていけなくなってさ、最初は努力すれば巻き返せると思って特に気にしてもいなかったんだけど、どう頑張っても周り以上になることができなくて、そんな生活を続けているうちに私はだんだんと自信も無くし、勉強も運動も出来ないひねくれたウマ娘になったの」

 

「中学で急に回りについていけなくなるか…確かにたまに聞く話だな、シャインもその一人だったのか」

 

途端にトレーナーさんが暗い顔になる、シャイン『も』と言う事はトレーナーさんもそうなのだろうか。そうしてひねくれていた私に両親は「気にしなくていい」「地道にがんばって行こう」と言ってくれるが、その言葉さえも私の心をえぐる言葉になり、いつしか私は自分の部屋に閉じこもった、自分の人生を諦め、将来平凡な仕事に就いて普通以下の生活でも生活出来りゃいいかな、そんな考えで生きていたのだ、どうせ私には何も才能などないと、諦めていたのだ

 

「だけどね、ひねくれていたって言ってもある時に、え~っと確か私が中学二年生になる直前だったかな、そこで転機が訪れたの、私が自分の部屋のテレビで有マ記念を見ているときの事でさ」

 

そう、()()有マ記念だ、トウカイテイオーさんが奇跡の復活を成し遂げたあのレースを見て、私はそれまで感じたことのないほどに感動した「私も努力すれば、きっとこの人のように復活できる」そう信じて私は一年間でトレセン学園に入学できるくらいになるために努力した、死に物狂いで勉強して、何度も嘔吐を繰り返しながら中央に行けるだけの身体能力を手に入れた、両親も私のトレセン入学に賛成してくれて、両親はおろか近所のおばあちゃんやおじいちゃんたちまで苦しい生活の中私の学費を捻出してくれた・・・

 

 

 

「そうして私は両親の助けや近所のみんなの助けがあってトレセンに来ることができたってわけ、中学の二年間親不孝しかしていなかったから、トレセンでただ勝つだけじゃだめだと思った私は、誰にも越えられない記録を残して、沢山稼いで親や近所のみんなに楽をしてもらおうと思ったから

 

まぁあと追加で、私がただ単に後世に名を残したいっていうだけの理由もあるけどね!」

 

「そんな経緯があったんだな、それにしてもお前が成績悪いやつだったなんて信じられないな」

 

「レジェンドウマ娘にもデビュー前の時期があるみたいな感じだよ、私だって努力してここまでにしたんだから、しっかり磨いてよ?トレーナー」

 

気持ちからかい程度にトレーナーさんにそういうと「おう」とだけ返事をし、トレーナーさんは腕を組んで私の話を再び振り返って感銘しているようだった

 

「なるほど・・・スターインシャインさんの人生のアジェンダはそのようなヒストリーがあったのですね」

 

「そうなんだよね~っ、いやはやあの時の私は今思い出しても本当に荒れ狂っていたと思います…ってうぉあっ!?誰あなた!?」

 

そんなトレーナーさんを見つめていたら急に後ろから聞いた事が無い声がしたので大きな声を出してしまった、私たちの後ろにはいつの間にかちょっとクリーム色のような髪色のぱっつんの子が立っていた、どうやら今の話を最初から最後まで聞いていたようで、この人も何やら感動している様子・・・なのかな・・・

 

「失礼しました、私の名前はグッドプランニング、対戦相手のアビリティを視察しておこうと思いまして、あなたの情報を記したサイトのコンバージョンだけでは限界があるので直接会いに来たわけです、アポもなくすいません」

 

「コンバ・・・アポ・・・?」

 

「…サウジアラビアロイヤルカップではスターインシャインさんと対戦すると認識していますが?そこで私のレースドミナント戦術を成功させるためにこうしてシャインさんの話を聞きに来たんですよ、おかげさまでストラテジーがある程度完成しました」

 

「ドミナ……?ストラ……?」

 

何やら聞いた事が無い単語が飛び交ってしまい混乱したが、要約するとサウジアラビアロイヤルカップで戦う私の情報を知るためにトレセンが管理しているウマ娘のデータが乗っているサイトを見たが、サイトだけでは情報量に限界があるため、私の情報をもっと深く知るために直接会いに来たらしい

 

「先ほどの極限まで前傾した走り、素晴らしかったです、私の所持しているシャインさんのインフォメーションにある前傾走りより洗練されているように感じました、もしかして未勝利戦の時からカリキュラムはあの練習のみなんですか?それとシャインさんの過去の体験について気になるポイントがかなりあり、それについても回答して貰いたいです、それと――――――」

 

「ちょ・・・ちょっとストップ・・・」

 

私はトレーニングが終わって休憩していた最中なのにズバズバと質問してくる態度、しかも対戦相手と堂々と仲良い風に喋り挙句色々な情報を抜き出そうとしてくるこの子の姿勢・・・

どうやらこのグッドプランニングと言う子もかなりキャラが濃い子のようだ・・・

しばらくグッドプランニングの質問責めを受けていたが、1時間したあたりでグッドプランニングも満足してくれたようで話が終わった

一応私たちの作戦の核心に迫るようなことは喋っていないと思うが、ぶっちゃけ質問責めが長すぎて曖昧だ

 

「ふむ・・・なるほど、シャインさんのインフォメーションがだいぶ揃ってきましたね・・・これで私のプランは・・・」

 

私達への質問責めが終わるや否や、グッドプランニングは私達なんていない様に振る舞って、独り言をつぶやきながらどこかに歩き去ってしまった、トレーナーさんも質問責めにあい疲弊していた

 

「だ・・・だいぶとがった子だったかな・・・」

 

「・・・おう」

 

グッドプランニング、私と同じくサウジアラビアロイヤルカップに出走するウマ娘、しかし私は、サンやスカイさんのようなウマ娘と戦っている経験があるので、ああいうタイプこそもしかしたらとんでもなく強いのではないかと勘繰ってしまう、なんとなくそんなことを感じ戦慄していると、どうやらその予想は的中したようで

 

「・・・!?お、おいシャインこれ!!これ見ろ!!」

 

「え?何?・・・あ~…なるほどねぇ…そりゃああそこまで意気込むわけだわ」

 

トレーナーさんが驚いて出走表を返してきたと思ったら、先ほどは特に見ていなかったから気付かなかったのだろう、その出走表には堂々と、『一番人気 グッドプランニング』と書かれていた

 

「私の企画(プランニング)に、間違いはありませんよ、スターインシャインさん」

 

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