持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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活動報告では投稿できなくなったなんて言いましたが、徹夜して気合で投稿しました、gg


第十五話 予想外ーアンエクスペクティドー

 

「ん…」

 

目覚まし時計が鳴るより早くに起きてしまった、今の時刻はまだ朝の三時だった

やはり緊張から来ているのだろう、体が常にこわばっている気がする、当たり前だ、それもそのはず、今日はサウジアラビアロイヤルカップ当日だ、私の初めての重賞レース、同時に私の超前傾走りを初めて重賞で使用するレースでもある

 

私はとりあえず眠れるわけもないので顔を洗ってからベッドに寝直し、一人静かな部屋で天井を見つめ上げる、今日は私の初めての重賞レースだ、こんな時に私の両親がここにいたらどんな話をしてくれただろうか? そんなことばかりが頭に浮かんでくる。

 

そうして考え事をしていると、トレーナーさんから連絡が来た、トレーナーさんも眠れていないのだろう、深夜三時に声を出したら他の人に迷惑かもしれないが、私はトレーナーさんに電話をかけてみた。

 

『おはようシャイン』

 

「おはよ~う」

 

『眠れたか?』

 

「うんまぁ、こんな時間に起きるくらいには緊張してるけどね」

 

『そりゃそうだろ、俺だって緊張してる、だけどお前なら大丈夫だ、俺はずっと見てきたんだぜ?だから自信を持って走ってこい!』

 

「…ありがと、それじゃ私、頑張ってくるよ!」

 

『おう、頑張ってくれよ、じゃあまた数時間後に』

 

「うん、それじゃ」

 

電話を切り、少しだけ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる そしてもう一度ベッドに入り込み目を瞑った。

 

 

目を瞑って感覚的に5秒後、ジリリリリリリリ!!と、あと2時間はなるはずの無かった目覚まし時計が鳴る、時計を止めて体を起こすと、もうすでに5時になっていた、私まだ5秒しか寝た気がしないんだけど、もうちょっと寝かせてくれてもいいと思う

 

「今度こそおはよう、かな」

 

サウジアラビアロイヤルカップ、正真正銘当日の朝、朝三時に起きるくらい緊張していた私でも、今日の朝ごはんはしっかりと食べることが出来た、なんせこれから走るのだ、体力をつけるためにもしっかり食べないと

 

「今日の作戦だが…」

「良く見ておけ」

「今日は頑張るよ」

「勝負服どこ?」「G3には勝負服ねぇよ…」

 

それにしても本当に人が多い…… 周りを見るとウマ娘やトレーナーであろう人達みんなが一様に真剣そうな顔つきをしている、レース映像は相手の研究に必要な材料だ、今日はそんな材料が公開される日でもあれば、今日の勝負に人生をかけている子もいるかもしれない、私はいつも通りの雰囲気でトレーナーさんの元に向かう

 

「おう、来たか、それじゃ行くぞ」

 

「オッケ~☆」

 

私達はトレーナーさんの車に乗って競バ場へ向かう、私はこの日のために今まで超前傾走りの練習をやってきたんだ、負けられない。そんなことを考えているうちに、車は目的地に着いたようで、車を降りた。

 

「そいじゃ、しっかり見ておくからな」

 

「ふふっ、しっかり見といてよ?トレーナー!」

 

いつものように関係者用の入り口から入り、控え室へと向かう そして着替えなどを行い、いよいよ本番へと臨む、心臓がバクバクとうなっているのがよくわかる、これが重賞を走る前の緊張か…… しかしここまで来たらもうやるしかないだろう、私の目標『誰にも越えられない記録を作る』と言う目標の為、最初の一歩を踏み出すべく、パドックへと向かった

 

パドックに出ると、すでに多くの観客がいた、そしてその中には当然のように記者団もいた、あれは超前傾走りの時に無理やり取材してきた記者だろうか、とりあえず威嚇だけしてパドックに集中した、パドックで私の姿を見せつけている最中、ノースブリーズとシーホースランスの二人がいるのは当然だと思っていたが、そのほかにも10人ほどのウマ娘達が見えた、多分あれはキグナスのメンバー…であろう人達だろう、その目線すべてが私に向いていたのだが、全員から送られてくる視線がとんでもなく威圧感がある、え怖

 

今日のレース映像も私と対峙するときのデータとして使用するのだろう、京都ジュニアステークスでは恐らく苦戦するだろうなどと思いながら舞台裏に戻った

 

「今日は宜しくお願いしますね、スターインシャインさん」

 

「グッドプランニング…」

 

舞台裏でパドックが終わるのを待っていると、突然後ろの方から機械的に無表情な挨拶が聞こえた、グッドプランニングだった。

彼女は相変わらずの無表情でこちらを見つめている

 

「私が描くレース展開に、間違いはありません、今日は私が勝利をもらいます」

 

「それはちょっと私の思ってる展開と違うかな、今日は私が勝つ予定だから」

 

「…………」

 

いつもより自身が乗っていた私は、宣戦布告のつもりでそう言い切る、私がそういうと、彼女は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに元に戻り、その場を去った、去り際にその顔は少しだけ笑っていた気がする。

 

そしてパドックが終わると、いよいよ入場の時間が迫ってきた、私はせめてレース前にも緊張を緩めておこうと、レース場に続く地下通路にトレーナーさんを呼び出した、当然のようにトレーナーさんは地下通路に来てくれていた

 

「シャイン、今日も頑張れよ」

 

レース前の会話なので手短に終わらせるためか、トレーナーさんは足早にそう言う、私はその応援に一言だけ返事をすると、とりあえず作戦の再確認をすることになった、といってもまぁ私達は気合で乗り切る作戦を打つので、あまり作戦と言う作戦はないのだが

 

「今日の作戦なんだが、やはりお前には追込しかない、よな、ただし今回はいつもよりさらに抑え気味にして、終盤に…いいな?」

 

「了解」

 

「それともう一つ、これは一番大事だからよく聞けよ?」

 

「ん?」

 

「…奴の計画を狂わせてやれ、分かったな?」

 

トレーナーさんは悪い笑顔でニヤっと笑い、そう言い切った、私の答えは当然決まっている

 

「うん!任せて!!」

 

「よし、行ってこい!」

 

トレーナーさんはそういって私の背中を強く叩く、その衝撃で体に走っていた不安はすべて抜けきった。トレーナーさんとの会話を終えた後、私は勢い良くレース場に飛び出して行った、するとそこには、たくさんの人がいて、私を見て歓声を上げてくれる その光景を見た瞬間、私の緊張は完全にどこかへ消えてしまった

 

『さぁやってまいりましたサウジアラビアロイヤルカップ、本日の天候は晴れ、絶好のレース日よりとなっております』

 

『今年は昨年以上のメンバーが揃っており、まさにレベルの高いレースが期待できますね!』

 

『えぇ、そして何よりデビューしたてのスターインシャインが出走していますからね、あの特殊な走り方が重賞に通用するのか、楽しみです』

 

私は入場を終え、ゲートに入る、この瞬間が一番緊張してしまう、他の選手もそうだが、私にとっては特にだ、なんせデビューしてから初めて自分の走りを見せるのだ、しかもそれがG3という重賞レースの場、こんなにも緊張してしまっても仕方がないと思うが…とりあえず落ち着けと自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる

 

「(グッドプランニングはどのように出てくるのか…)」

 

そしてファンファーレが鳴り響くと、会場からは大きめの拍手が送られる、ファンファーレが終わるころにはすでに私は拍手も何も聞こえないくらい集中していた

 

『サウジアラビアロイヤルカップ、東京競バ場、芝1600m、今…』

 

『スタートしました!!』

 

私はゲートが開く音と同時に飛び出す、出遅れることも最初に比べれば少なくなったから立派なものだ、私はまず後方集団の更に後方からついていくように走る

 

「やっぱり先行勢が多いな……」

 

東京競バ場の1600m、このコースは外差しがあまり有効ではないコースで、差しや追込はあまりいい作戦とは言えない、それに比べて内から攻める先行や逃げはそもそものコース形で有利を取れている。

前の方を見ると逃げのウマ娘が4人ほどいる、その少し後ろの方に先行策を打っているグッドプランニングがいた。グッドプランニングは先行の作戦を打つため、追込の私は少しだけ不利なレース展開を押し付けられる、しかし私にとってそんなことは関係ない、ただ全力で走って勝てばそれでいいのだから!

 

『第3コーナーを回りました!』

 

しかし…そろそろスパートをかけようか、などと考えていたら、突然私の前の方にバ群が迫り始める、なぜ私がスパートをかけようと思った瞬間に来たのか、疑問には思ったがとにかくこのバ群を抜けなくては話にならない、私は外側を回り始めるが、またしてもバ群が私の前に動く、明らかに私の動きを妨害する動きだ、だけどまさか、出走するウマ娘全員で妨害するわけがない、私をピンポイントで妨害したいウマ娘は一人しかいない、グッドプランニングだ

 

「く…っそ…!」

 

バ群に動きを制限され、思うようにスパートをかけられずにシャインはもがいていた、このバ群はグッドプランニングが動かしたものだと、シャインは直感で理解した、だが理解したからどうというわけでもなく、ひたすらシャインは前に立ちふさがるバ群に頭を悩ませるのみだった

 

「(流石シャインさん、私がバ群を操作していることにもう気付いたみたいですね、でもいくら気づいたところで、シャインさんのような最後の最後に捲し上げるタイプの追込が走りにくいレース展開は研究済みです、絶対に前には出させませんよ)」

 

「(やられた…!これがグッドプランニングの強さ、武器だ…!こんなに早くから使える武器があるなんて…)」

 

こうしてバ群が前にいることにより、もう一つだけ封じられたものがある、それは超前傾走りだ、まだ大差をつけて負けているだけなら、速度で勝敗が決まる速度勝負になるだけだが、前が完璧に塞がっているこの状況で超前傾走りを使おうとすれば衝突は免れない、そして衝突した先にあるのは私の転倒のみだ、私はバ群で前を塞がれたことにより、超前傾走りまで封じられたのだ

 

「(私は昔からこうだった……私は、昔からこうやって周りを動かしてきたんです…)」

 

小さなころから私はこの堅い考え方を持っていた、その考え方や喋り方のせいで私は周りの同級生たちから嫌われていたんだ、私だって好きでこんな考え方をしていたわけではない、私の過去の記録やこれまでの出来事をまとめ上げて考えて、両親が原因だ、小さなころから私はこのような考え方を強要され、勉強を教え込まれてきたんだ、理由を聞いてみると「変に勉強せず、周りに流されてしまう子になってほしくないから」だそうだ。

 

しかし、私は納得がいかなかった、周りから嫌われ、孤独に過ごし、将来社会人になり遊べなくなると言うのに学生の時間を勉学で10割食いつぶす生活に、私は反対した。何も勉強がしたくない訳ではない、デメリットやメリットの数を加味してもやはり勉強5~7割の生活が将来的に高水準なはずだ、なのに親は私に勉強を突き付けた。

 

だから私は堅い考え方を維持しながら、慈悲を捨てて、周りを弾圧し動かすようになった、小学生の頃も、中学生の頃も、生徒会に務め、私を嫌う人も嫌ってない人もすべてを動かしてきた、もちろん私の論理の結果そのようにするのが最適解と判断したうえでだ。そうしているうちに私は

 

 

「(私は、バ群でさえも自由自在に動かせるようになったんです!)」

 

 

「そういえば今日、シャインさんのレースじゃありませんでした?」

 

今の今まで二人でレース場の研究をしていた静かなトレーナー室でトレーナーさんが静かにそうつぶやく、

 

「そういやぁ…姿が見えないような、トレーナーさん、レース表とか見てない?」

 

私はトレーナーさんに質問する、トレーナーさんはすぐにパソコンを起動させ確認してくれた

 

「えーっと、ああ、サウジアラビアロイヤルカップに出走予定ですね、時間は…もう始まっている頃ですね」

 

「ほんとに!?じゃあテレビ見ようよ!シャインのレースを見よう!そうしよう!」

 

私とトレーナーさんはすぐにテレビのリモコンのスイッチをつけ、チャンネルを合わせた、テレビではすでにレースが始まっており、いつものようにシャインは追込の位置についていた、しかし何か様子がおかしい、シャインがもがいているような、そんな走り方だった

 

「シャイン、どうしたんだろう…何か変じゃない?」

 

「相手にグッドプランニングがいるみたいですね」

 

「グッドプランニング?誰?」

 

聞いた事が無いウマ娘の名前に思わず質問してしまった、私はこれまでトレーニング一色だったために他のウマ娘の名前と言えば、レジェンドウマ娘の面々、キグナスのメンバーとシャイン、クライトくらいしか知らないのだ

 

「作戦を立てることに長けた子みたいです、なんでも対戦前に相手の情報をまとめ上げ、不正にならない範囲でその相手が走りにくくなるようなレース展開を作り上げる天才と言われています、恐らくシャインさんもグッドプランニングの作戦にかかっているかもしれません」

 

トレーナーさんにグッドプランニングのプロフィールを聞いて、私は少しゾッとした、それはもはや作戦というより、相手にかける呪いのようなものだと思ったからだ、グッドプランニング一人で相手を陥れるならまだしも、レース展開そのものを動かしての妨害を行われたのでは気付くこともままならない、そしてどのように妨害されているのか理解することが出来ずにさらに掛かる、まさに呪いのような作戦だ

 

「うわぁ……ちょっと怖いね……」

 

私が正直な感想を述べるとトレーナーさんがクスリと笑いながら答えてくれた

 

「確かに、まあ、シャインさんのことだから大丈夫だとは思いますけどね、尤もあの子は結構メンタル弱いところがあるので心配なところはありますが…」

 

「そうだねぇ、でもまぁこの前落ち込んでた状態から立ち直ったし、メンタルも多少成長してるでしょ、勝てるよ」

 

「だと良いんですけどね」

 

トレーナーさんにそんなことを言ってしまったが、私はテレビの向こう側にいるシャインのレースを見ながら、ふとこんなことを思った

 

「(もし、もし万が一シャインがグッドプランニングの魔の手から逃れられなかったら…)」

 

考えただけで背筋が凍りついた、今現在走っているシャインの顔を見る限り、シャインはすでにもがいているように走っている、恐らく既にグッドプランニングの術中にいるのかもしれない、もしも本当にシャインが負けてしまったら、そう考えると怖くて仕方がなかった。

 

「大丈夫ですよ、ほら、シャインさんだって頑張ってます、あんなに苦しい表情をしていますが、シャインさんはこれまでだってレース中あんな表情してたじゃないですか」

 

「いや、う~ん、それはそうなんだけど…その言い方はなかなか…」

 

 

「(…ここまでは私のプラン通りですね、ここまでは)」

 

私はいつものようにバ群を自由自在に操り、シャインさんが走りにくいようなレース展開を作り上げる、私はいつものように先頭集団から抜け出し、先頭に踊り立つ

 

『さぁ先頭集団が第4コーナーに差し掛かります!ここで後続との差が大きく開き始めました!』

 

「(やはりここからが勝負どころですかね、でもこの程度の差なら問題ないでしょう)」

 

そう思いながら私はバ群を操作してシャインさんからどんどん距離を離す、しかしその時だった。

 

『ここで後方から凄い勢いで上がってくるウマ娘がいるぞ!?』

 

実況の声を聞いて思わず振り返ると、そこにはシャインさんの姿があった、なぜか私のバ群がシャインさんの前にはいなかったのだ、確かに私は後方からの気配をかき分け、バ群の位置を調整していたはずなのに、なぜシャインさんの前にバ群が動いていないのか、わからなかった

 

「(なっ…どうしてあの人が上がって来れるんですか!?)」

 

驚きながらも私はすぐにバ群を操ってシャインさんを再び妨害しようとする、しかし通用しなかった

 

『おーっと!後方から来たウマ娘の驚異的な追い上げに前の選手が対応できない!!これは大外から一気にまくられる形になるのか!?』

 

実況の通り、私が作ったバ群の隙間を縫うようにシャインさんが追い抜きにかかる。

そしてあっという間に私に追いつき並走を始める、その表情には余裕の笑みすら浮かんでいた。

シャインさんの背中を見ながら私は考える、何故こんなことになったのか?何故シャインさんがバ群を抜け出すことができたのか、答えはすぐに分かった。

私が今までやっていた事は全て無駄だったのだ。

どんなにバ群を操っても、どんなに相手の逃げ道を塞いでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だからこそ彼女は、まるで前には誰もいないかのようにバ群を抜けてこれた

だが不思議と悔しくはなかった。むしろ納得した気分だ。

きっとこの人には勝てないと最初から分かっていたんだろう、観客席から湧き上がる歓声が物語っている

 

「(…周りに、流される…?)」

 

ふと私は、昔から親に言われてきた言葉を思い出す「変に勉強せず、周りに流されてしまう子」

私は今、周りに流されかけていたのだろうか、周りに流されかけていただろう、観客席の歓声がシャインさんに向いているものだと自分で考え、負けるのが確定していると考え、勝負を降りようとしていた

 

「(…あなたたちが言いたいことは、こういう事だったんですね)」

 

グッドプランニングは半ば諦めたような気持ちになっていた、だが550m地点あたりで親から受けた言葉の本当の意味を知り、じわじわとグッドプランニングに勝ちたいという感情が燃えていた。

用意していたプランを全て投げ捨て、シャインが巻き起こしたアンエクスペクティドを覆すような、ガッツで乗り切りたいと言う感情が生まれてはじめて湧き起っていた。

前の方ではシャインが東京競バ場の直線に存在する坂を上り始める、恐らくそこでシャインは減速するはずだと、グッドプランニングは誰にも縛られない、自分自身にも縛られない、()()()スパートをかけ始める

 

「私のプランに、私のガッツに間違いはない!!逃がしませんよシャインさん!!」

 

坂に向かって()()()走るシャインさんが見える、やはり超前傾走りは坂には未対応だった、それならばさかを走る練習をしていた私の方が速い、これなら追い越せる

 

「これで私の勝―――

 

そう思った、そう思っていた、だがしかし私の体がこわばってしまう、一応言っておくが私はサレンダ―したわけでも周りに流されているわけでもない、本気でシャインさんにぶつかっている

 

「(シャインの…シャインさんの背後から…何かが見える…?)」

 

 

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