持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
「なんだ…これは…」
シャインさんの後ろから
結局最後の最後で全力を出し切れず、シャインさんがゴールする景色がしっかりと私の網膜に刻まれた。
『今日もすべてをひっくり返したぞ!!スターインシャインが一着でゴールイン!!』
「はぁっ…はぁっ…ぃよっしゃあああ!!!」
私とトレーナーさんは超前傾走りを坂に対応させることをすっかり忘れていて、私は最後の坂で上体を起こすしかなかった、その欠点を突かれ、後続のウマ娘達に抜かれるかもしれないと一瞬思ったが、意外にもそんなことはなく、私は7バ身差をつけて一着でゴールした
ゴールして数秒後、見事私の一着でレースが確定し、私は全身で叫んだ、初めての重賞を躓くことなく乗り越えられた
ゴールした後すぐに超前傾走りの反動で地面に倒れこむ、やはりまだ完全に反動を消すことはできないようだ、芝の匂いを嗅ぎながら勝利を噛みしめる、観客席からは見なくても分かるくらい、耳が痛くなるほどの歓声が沸いていた、この歓声を聞いてくれ、私が小さなころからずっと憧れてきた、受けてみたかった歓声だ、トレーナーさんもこちらに大きく手を振っている、私はその光景を見て涙が出そうになった、私は初めて重賞に勝つことができた、実家の両親たち、おじいちゃんやおばあちゃんたちも、ジュニア期の私の晴れ姿を見てくれているだろうか。
私の後に続いて、グッドプランニングが私の方に駆け寄ってくる
「…お見事でした、まさか私の計画した展開が打ち破られるなんて、夢にも思っていませんでしたよ、…また戦う時を楽しみにしています」
「だから言ったでしょ、私の思い描いてる展開と違うって、次も私が勝っちゃうから、よろしくね!!」
「ふっ…新しくなった私の計画と根性に、間違いはありませんよ」
プランは悔しい表情を確かに見せた、だけどどこか満足そうな顔をしていた、お互いにいつか再び戦おう、私が倒れながら手を差し出すと、グッドプランニングは握手を返してくれた、私たちが握手をすると、観客席からはひときわ大きな歓声が沸き上がった、トレーナーさんも叫んでいるのが見える、きっと喜んでくれたんだろうな、私はそれが嬉しくてたまらなかった、こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった その後私たちはコースから出て、観客たちにサインを求められたりして対応に追われていたが、なんとか時間を作り、トレーナーさんと合流することが出来た
「うおおおおおおシャイィィィィン!!」
「うぉあっぎゃああああ!!ちょ、離して、トレーナー!!」
トレーナーさんは私の姿を見るなり、ウマ娘じゃないかと勘違いするような速度で走ってきたと思ったら私に抱き着いて来た、包み隠さずいうと先ほどまでレース展開に熱狂していたおっさん臭い。私はトレーナーさんが急に抱き着いてきたのでびっくりしてぶっ飛ばそうかとも思ったが、レースを一着で勝ち、帰ってきたのだとお互いに確かめたかったためやめておいた。しばらくするとトレーナーさんは私から離れ、いつもの笑顔を見せてくれた、私もそれに応えようと笑顔を見せた。私はこの瞬間、間違いなく幸せだった、おっさん臭かったけど
「まったくさぁ、絵図やばいから今後はやめときなよ?」
「分かってるさ、ただシャインだから今回くらいはいいかなって思っただけだ」
「私だからって何よ?」
「…さぁ?」
「まぁ兎に角、よくやった!デビューから急に重賞出走して勝つなんてなかなかないぞ!!」
「あったりまえでしょ~、次はもっと上の重賞狙っちゃう?」
「ホープフルまでG1はないがな!」
「それもそっか」
とりあえずウイニングライブがあるため、トレーナーさんとは一時的に別れて控室に戻った、今回は特に大怪我をしているわけではないのでトレーナーさんの治療もいらないから席取りに集中して貰えるのだ。
「ふぅ~~っ…はぁ…強かったなぁ…」
控室に戻った後、私は今回のレースを振り返ってみたのだが、私は改めて自分の弱さを知った、私は今まで超前傾走りや元々持っていた末脚があったから、自分が強いと思っていた。だがそれは大きな間違いだと知った、確かにスタミナやパワーといった面ではプランより私の方が優れている部分が多いかもしれない、だが戦略性に関しては完敗だった。
今回のレースで今後必要なものだとわかったことは、レース中に相手がどういったことを考えているのか、相手がどのような武器を使用してくるのかを読み取る能力だった、この能力を身に着けることができれば、今後G2やG1のレースに出ても勝てる可能性が高くなるかもしれないと思った、これからトレーニングに励む中で、どうやって身につけるかを考えなければ……
そんなことを思いながら着替えてライブの準備をしていると、ドアをノックする音が聞こえたので私は返事をした、ドアを開ける音がすると、サンが息を切らして立っていた、今日はトレーニングのはずだが、何をしにここまで来たのだろうか、というかここはレース関係者以外は入れないはずなんだけど…
「シャイン重賞勝利おめでと~~っ!!」
サンがここに来た理由や来れた理由を疑問に思っていると、サンは突然右腕を上に突き上げ私に向かってそう大声で叫んだ、今日は木村さんとトレーニングって言ってたし、観客席にもいないように感じたから、私が勝ったことは知れるはずがない、と言う事は私の活躍をテレビで見ていてくれたのだろうか、それにしてもすごい声量だ、私の耳が壊れてしまいそうだった
「えっ…いや…サン、ここ入れないはずでしょ…」
「いやぁ~シャインが勝ったからうれしさが止まらなくてさ~、それで無理やり突破してきちゃった☆」
何を言っているのだろうかこの赤毛は、と一瞬思ったが、それも私の事を戦友として心から応援してくれているからこその行動なのだろう
「ぷっ……あっははははははははははは!!!!ありがとう、サン!!」
私は思わず笑ってしまった、だってそりゃそうだろう、この一言を言う為だけに関係者以外立ち入り禁止の場所に突撃して、しかもあんなに大きな声で叫ばれたら誰だって笑うと思う、でもやっぱり嬉しいものだな、誰かに祝われるのは
「それにしてもよくグッドプランニングの作戦から抜け出したね、私だったら抜け出せなくて負けてたかもしれないよ」
私がグッドプランニングの呪縛から抜け出した方法、それは道中グッドプランニングが操作したバ群によって私の進路が塞がれた際、私はあるトリック…と言うより、カモフラージュと言った方が妥当か、を仕掛けていたのだ
私はグッドプランニングをマークするのをやめ、バ群を乱すことに集中していた、恐らくグッドプランニングがバ群の位置を把握しているのは、自分へ向くマークのプレッシャーで大体の位置を把握していたのだろう、進路を塞がれてからすぐにそう思った私はバ群に対し異常なまでのプレッシャーを送ったつもりになってみた、するとやはりというか、トレーナーさんやサンに言われた通りなのだろう、威圧感でバ群は乱れた。
しかしそれだけではだめだ、バ群が乱れたのがバレたらすぐに再びまとめ上げるはずだと考え、バ群を乱してすぐにプレッシャーを送る標的をグッドプランニングへ変えた、そうすることでプランはバ群が乱れていることに気付くことが出来なくなった、そのままプレッシャーを送り続け、私は気づかれてもすぐにバ群を動かせないような大外へ移動していった、そうして最後の直線、プレッシャーを送るのをやめ、超前傾走りで一気にバ群より前に飛び出た、そのおかげで私は最終直線を邪魔されることなく駆け抜けることができたのだ
プランの武器は私の武器より使い勝手が難しい、私の武器はリスクさえ重いもののいうなればただ走っているだけだ、だがプランの武器は相手の走り方や思考をすべて読んだうえで、後ろを見ずにバ群の位置を把握する必要があった、だから私がとっさに思い付いた作戦が無ければ、本当に負けていただろう。そういう考え方で見ると、本当に綿密に考えられ、私とプランで一手違えば結果が大きく変わったレースだった。
そのような作戦を実行する場面も多くあったおかげなのかは知らないが、今回は気合で乗り切る場面も少なかったのだ
「…そもそもサンって逃げだからバ群に邪魔されないんじゃないかな…あっ…」
そんなことを話していると、サンの後ろから男の人たちが来る、関係者だ、私はサンに目で合図を送るが、サンはなんにもわかってない顔をして話を続ける、そのうちに後ろに立っている関係者のオーラが強くなる、こんなに存在感があると言うのにサンは全く気付かず、とうとうしびれを切らした関係者に肩を掴まれてどこかに連れて行かれた
「ごめんなさぁ~~~い!!!」
「申し訳ありませんでした、スターインシャインさん」
「あっいえ、全然大丈夫なんですけど…」
関係者の一人が私に向かって頭を下げる、その人に続くように私も頭を下げる、すぐに関係者の人は頭を上げて、サンが連れて行かれた方向に行ってしまった、まぁ現役ウマ娘だし何されるわけでもないと思うけど、説教は免れないだろう、気の毒に。
そんなことをしていると私のウイニングライブの時間が来た、今回の楽曲はピンポイントで練習していないものだったので絶望していたのだが、まぁ気合で踊るしかないだろう
ステージに向かって、楽曲が始まるのを待ちながら必死に振付を思い出そうとするが、マジで何も出てこない、私の横にはグッドプランニングと知らない子が立っているが、恐らくこの二人は完璧に仕上げているのだろう、それなのにセンターの私が踊れなかったら大惨事どころの話ではない、スペシャルウィークさんのデビュー戦のライブみたいになってしまう。
楽曲が始まってから数秒、やはり振付をさほど覚えていないダンスを踊るのは無理があったようで、ものすごくぎこちない動きになってしまっている、どうしてこうも小さいところで私は運が悪いのだろうか、というより覚えないといけないダンスの種類が多すぎるのがいけないと思うんだ、私。
そうしてウイニングライブ本番にて私が苦戦していると、私の右側で踊っていたグッドプランニングがいきなり手を掴んできて、本来ないであろう振付を踊り始めた、突然の出来事に頭がパニックになってしまうが、プランの顔を見ると、まかせてくださいと言わんばかりに笑顔だった、しかも完成度が高く、この楽曲の振付を初めて見る観客がまったく気付かないくらいに完璧な振り付けだった。
予定通りの振付で踊らないと気が済まない性格だと思っていたが、その場で振付を考えて実行するなど、意外とクリエイティブなことが出来るんだと知った
「おまたせ~」
「おう、じゃあ乗っちゃってくれ」
「いつも悪いね、運転して貰っちゃって」
「構わないさ」
そうして無事に終わったウイニングライブのあと、私はトレーナーさんと合流し、競バ場から帰ろうと車に乗った時、車の窓がノックされた、もうすでにエンジンは掛かっていたのでトレーナーさんが窓を開けると、グッドプランニングが来ていた
「どうしたの?」
「いえ、特に何かあるわけではないのですが、ただ今日のレースの事で感謝を伝えたくて」
「感謝?」
「私は今日のレースで、ある大切な事に気付けました、勝てなかったのは当然悔しいですが…そのことに気付けたのはシャインさん、あなたが私を追い抜いてくれたおかげです」
大切な事、グッドプランニングが微笑を絶やさないほどに大切と言う事など私には想像がつかなかったが、恐らく彼女自身の人生にまで関わってくるほどに大切な事なのだろう、私は別にそんなことを意識して走っていたわけではないが、それでプランが大切な事に気付けて、感謝を伝えたいと言う事ならば素直に受け取っておこう
「そっか、じゃあこれからもっと強くなっちゃうかな?」
「もちろんですよ」
会話が終わった後、トレーナーさんは窓を閉め、プランが車から離れたのを確認してから車を発進させた、静かな車内にレースの余韻と言わんばかりにトレーナーさんが車に置いている洋楽が流れる。窓の外では見慣れた景色が流れていくが、その流れるスピードがとても遅く感じた、これはウマ娘だからなのだろうか
「サウジアラビアロイヤルカップも終わって、次は京都ジュニアステークスか、速いもんだな、時間が流れるのは」
「そうだね、京都ジュニアステークスが終わったらとうとうホープフルステークスだもんね!!」
「ああ、そうだな、まぁとりあえずサウジアラビアロイヤルカップを勝って、初の重賞勝利と来たんだ、記念にパーティでも開こうぜ」
「あ、いいねそれ、ケーキ買ってよ、あとローストビーフも食べたいなぁ、それとポテトサラダもいいよね、ちなみに全部トレーナーのおごりね!」
「お前意外に強欲な奴だな…」
トレーナーさんをからかいつつ、私が次に出走する京都ジュニアステークスに思いを馳せる、こういってはあれだが、恐らくプラン以上に強敵であるノースブリーズ、プロミネンスサンが相手にいるのだ、生半可な実力では勝てない、私は少しだけ不安に思う
「サンやクライト、木村さんや速水さんも呼ぶか!」
でもまぁ、私にはこうやって応援してくれる人たちがいるから、なんだかんだ頑張れるだろう、キグナスのような存在がいる厳しいレース界隈だが、私も競争ウマ娘としてデビューした以上厳しいなどと言ってはいられない、やる以上は勝つ、それだけを考えてノースブリーズ、そしてサンとぶつかり合おう
「いいの?人数分おごりの金額増えるよ?」
「…それは勘弁願いたいな」