持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
トレーナーさんとトレセン学園まで戻ってきた私は、買ってきたお菓子を学園中に配っていた、もちろん私の未勝利戦の賞金の端くれと言っても、それなりの大金であることには間違いがないので十二分に配ることができた。トレーナーさんも配る作業を手伝ってくれて、かなりスムーズに終わった、もちろんその道中で私達もほかの人にお菓子をねだったりしたが、トレーナーさんの人相が悪すぎてガチ逃げされてしまう事が多々あって苦戦した、確かに人間性を知らずに見たら顔が怖いのは否定しない。
門限が近くなってくる頃にはお菓子をほぼほぼ配り終わっていて、トレーナーさんも時間が迫ってきたためトレーナー寮に帰った、帰り際にまたトレーナーさんは私の事をいじったのでぶっ飛ばした、トレーナーさんが帰った後、手に持っていた袋を見るとまだ数個お菓子が残っていた、魔女の仮装も割と暑くなってきたのでひとまず脱いだ。
「ん…?あれ、スタ公じゃねぇか、お前も暇なのか」
「暇って訳じゃあないんだけど…」
一旦寮に戻り、私が残ったお菓子をどうしようかと廊下をさまよっていると、クライトが前から歩いてきた、どうやらハロウィンの騒がしい雰囲気が好きじゃないようで、ずっと寮にいて一人ぶらぶらしていたようだ、私はクライトにお菓子が欲しいか聞いてみたが、この前のゲームセンターで獲得したチョコがまだ残っているようで、拒否とかそういう次元ではなく拒絶されてしまいびっくりした、
私はクライトと一緒に寮の広間についている椅子に座り、時間的にもほぼほぼ仮眠みたいになってしまっている談話をしていた、主に消費しきれないチョコの話だったり、次のレースの話だったりをしていた。私が知って驚いたのは、クライトが出るレースだ、なんとクライトの次走予定は
「あ?俺の次走予定?京王杯ジュニアステークスだ、そういやそろそろだな」
京王杯ジュニアステークス、東京競バ場にて行われる
ふつう適正距離の診断はトレーナーとウマ娘のマンツーマンで見つけていくものだが、どうやら速水さんは実戦で適正距離の本性が見えると考えているみたいで、そのとりあえずの診断として京王杯ジュニアステークスに出るらしい、あまりにも無茶に見えるかもしれないが、実戦で本性が現れると言う意見には、私もサンやプランの走り方で経験しているので、確かにいい診断方法かもしれないと私は思った。
「めんどくせぇよ…しかもG2でやるとか意味分かんねぇし…しかも自分の適正距離じゃなかったら当然負けて無駄に悔しい思いするだけだろ?」
「そ…それも確かに」
クライトは「はぁ…」とため息をついた後に、机に突っ伏して数秒もしないうちにグーグー寝息を立てて寝てしまった、京王杯の出走が近づいてきているこの時期、深夜まで起きていると豪語していたクライトが門限が来てすぐの時間に眠いとは、同じ出走相手の情報を調べていたのだろう、ただでさえ走り慣れていない短距離を適正距離の診断と言うだけで観客の前を走ることになっているのに、レースのグレードはG2と来た、その事実が与えるプレッシャーはとてつもないものだろう、速水さんも私のトレーナーさんに負けず劣らず厳しい人なんだなと実感する
「うわー!すごい!」
「えっ!?」
突然後ろから声をかけられたので振り返るとそこには、オレンジ色の髪が特徴の少女がいた、少女は名前も知らない、髪色で言えばマヤノトップガンというこれまたすごく強いウマ娘にも似ているが、マヤノトップガンさんとはまた違う初めて話すウマ娘だった、彼女はまるでサンのようにずっとニコニコしていて、なぜか私の持っているお菓子の入った袋を見ていた、おそらく私のお菓子に興味があるのだろうか、そう思い言葉をかけようとしたが、その前にオレンジ髪の少女が口を開いた。
「ねぇねぇお姉ちゃん、それってお菓子かな?もらってもいい?」
「あっうん、もちろんだよ」
やはりお菓子が欲しかったみたいだ、私は袋ごと渡そうとしたが、オレンジ髪の少女はそれを手で制止した
「袋ごとあげようとしてくれるなんてありがとう!でも私は少しでいいよ!あとこれはお礼だからね……はいこれ、ハッピーハロウィン!」
袋の中に入っていたお菓子を取り出した少女は、私の目の前にそれを差し出した、そしてそのまま笑顔で「トリックオアトリート」と言いながら手を差し出してきた、お菓子を渡すことを承諾したのにいたずらされるのかお菓子をあげるかの二択を迫られているのは少し頭が混乱するが、ここであえて意地悪をしてお菓子をあげないとこの少女に嫌われてしまうのではないかと思い、少し悩んだ末に私はお菓子を渡した、するとその少女は私の頬にキスをして「ありがとう」と言ってくれた、その後少女はすぐにオレンジ色の髪をなびかせてどこかに行ってしまったが、去り際に私の耳元で「また走る時にね」と言われた気がしたが、気のせいだろうか。
「おい」
「ひゃいッ!?」
突然背後から肩を叩かれ、変な声で返事をしてしまった、恐る恐る振り向くと、そこにはクライトが立っていた、クライトは先ほど起きたばかりでまだ目が半開きの状態でこちらを見つめていた、どうやら今のやりとりの一部始終を見られてしまっていたようで、私は顔が熱くなるのを感じた、そんな私を見たクライトは一言だけ呟いた
「お前、意外にモテんだな」
「……うるさいよ」
「じゃあ俺は部屋に戻るぜ、お前もさっさと帰れよ」
クライトはそれだけ言うと、あくびをしながら自室に戻っていった。私はクライトの姿が見えなくなるまで見届けた後、私も寮の部屋に戻った、別に私はモテるとかモテないとか気にしてないのだけれど…言葉にされると何かムカつく。
翌日、今日は本来トレーニングは休みだが、レースが近いということで、俺は京王杯ジュニアステークスに向けて最終調整を行っていた。
「……よし、とりあえずこんなもんか」
「帰りたいよぉ~…クライト~…俺今日は楽しみにしてた高級なモモ食べようと思ってたんだけど…」
「俺のトレーナーだろうが、トレーニングには付き合え、あとモモは俺にも分けろ」
「えぇ…」
本来は休日だったトレ公をグラウンドに呼び出して半ば無理やりトレーニングに付き合わせる、なんだかんだ言ってこのトレ公は突然の無理難題にも期待以上の成果で答えてくれるので、俺もその部分に甘えてしまっているのだろう、だからこそ俺も多少の無茶をさせてしまうのかもしれない、ただ今日のメニューはトレ公がやりたがっていたかなりキツめなものをこなしているので文句は言わせない、むしろ褒めてほしいくらいだ
「ふぅ……終わった……あぁ疲れた、早く帰って寝たい」
一通りのトレーニングが終わると、俺は地面に向かってぶっ倒れた、そりゃそうだ、本来一日かけてやるようなトレーニングを午前中に全部詰め込んでやったのだから、でもそれくらいしなければ、G2には勝てないのではないか、そのような怖さが私をトレーニングに駆り立てるのだ
「お疲れクライト、明日は普通にトレーニングあるから大変だぞ、レースまでにある程度仕上げとかねぇといけねぇし、それに今回のレースでお前の距離適性が短距離にもあるか調べるしな」
「…適正距離を調べるだけじゃ足りねぇ、必ず勝ってやるさ…」
「そう頑張る分にはいいが、頑張りすぎて体を壊すなよ、とりあえず今日は休日なんだし、ちょっと時間使っちまったが残りの一日の時間、有意義に使えよ、じゃ、解散するか」
そう言い残して俺はトレーナーと別れた、トレーナーと別れてすぐに俺はスタ公のトレーナーである橋田と会ったので軽く挨拶を済ませた後に、俺はトレーナー室に足を運んだ
「……ん?」
トレーナー室の扉を開けると、そこにはスタ公がいた、トレーナー室を間違えたかと一瞬驚いたが、何回も入ってきているトレーナー室を間違えるなどそうそうない、ましてスタ公のトレーナー室は全く遠いところにある、だが俺はスタ公の服装を見て納得した、こいつは今から外出するらしく、制服の上に厚手のコートを着て、首にはマフラーを巻いていた、どうやら俺に何か用事があって訪問してきたみたいだ
「おっ、クライト!ちょうどよかった、ちょっと頼みがあってね、少し待っててくれない?すぐ終わるから!」
「お、おう?」
そう言うと、シャインは足早にトレーナー室を出て行った。
「何だったんだスタ公の野郎…」
俺は疑問を抱きつつも、特に気にすることなくソファに座って待つことにした、数分後、再びドアノブが動く音がしたので振り返ると、そこには白い息を吐きながらこちらに向かってくるシャインがいた、彼女の表情はなぜか嬉々としており、鼻息を荒くしていた
「お待たせ!それじゃ行こっか!!」
「は!?」
「いいからいいから!」
そう言われて俺は手を引かれるがまま連れていかれた、そして着いた先は、なんと東京競バ場であった、途中の道筋からまさかとは思ったが本当に来ることになるなんて思ってもいなかった、しかしスタ公は足を止めることなく誰もいない、がらんとした東京競バ場をどんどん前に進んでいく、最終的に俺は観客席のところまで連れてこられていた
「それで、一体ここに来て何をするつもりだ?それにどうして俺を連れてきたんだ?」
「あれ、今クライトが一番したい事だと思うけどな?」
「あ…?何言ってんだおめぇ…」
そういってスタ公はコースの方を指さす、その動作で私がやりたいこと、そしてスタ公がやらせておきたいことが分かった
「私も調べてみたよ、京王杯ジュニアステークス、どうにも器用さが求められるコースみたいだから、コースの形状をよく理解しておくのもいいんじゃないかなって思ってさ、実際に見た方が分かりやすいでしょ」
確かに京王杯ジュニアステークスはスタート直後に上り坂があり、その後は下り坂や平坦な道が続いてスローペースで流れるレース、それでおきながら最終直線では上がりのタイムが速くなると言う傾向がある、器用さが求められるコースだ、瞬発力はもちろんの事、その器用さをうまく使うタイミングを見極めるセンスも必要だ、それを見越してスタ公はこの練習を提案したのだろう
「まぁ……確かにそうだな」
「私はどうせ暇だしここで見とくよ~」
そう言い残すとスタ公はそそくさと観客席に座った、俺もスタ公に習うように観客席に座り、コースの形状をよく見る、スタ公の言った通り、現物を見ることによってより走る時のイメージがつかみやすくなっているのが自分自身で分かった、それにウマ娘の本能だろうか、芝、それもレースの無い静かなターフがこんなに近くにあることにより、とてもリラックスできる
「……よし」
そう呟いて俺は立ち上がり、スタ公の隣に座りなおした、スタ公は「なんじゃらほい」とでも言いたげな顔でこちらを見ていた
「おい、スタ公、一つ気になったことがあるんだが」
「ん、何?」
「お前は、俺が京王杯ジュニアステークスで勝てると思っているのか?」
俺は今単純に気になっていたことを聞いてみる、俺にコースの研究など進めてもスタ公には何も利益が無いのにそんなことをする理由、ただのおせっかいなのだろうか、それとも哀れみなのだろうか、そのような事を諸々ひっくるめて聞くためにこのような質問をした
俺の質問に対して、スタ公はいつもの笑顔で答えた
「うん、絶対勝てると思ってる」
「そうか」
「だって、クライトは私の最高のライバルだもん」
「……何言ってんだか」
「あ、照れてる~」
「うるせぇ」
「まぁまぁ、とりあえず今は京王杯ジュニアの対策を頑張ろ」
スタ公は笑みを浮かべながら俺に話しかけてくる、この様子だと本当に俺に勝ってもらうつもりでいるようだ、だが正直に言えば不安しかない、今までのレースの中で、走った事が無い距離の京王杯ジュニアステークス、スタ公はその不安を察しているようで、俺のメンタルケアのためにわざわざこんなことをしたのだ、けっ、少し前まで悔しさで策に腹ァぶつけてたやつが偉そうなことしやがって。
それでも俺はスタ公を信じる事にした、俺はスタ公と会話を交わした後、トレーニングメニューの見直しを行った、まずはスタミナの増強を図る為に長距離走を行う、短距離ではスピードは出るが、その分スタミナも消耗しやすいため、実質的なスタミナ消費量は変わらないと俺は考えている、そのため長距離走を定期的に行う事で、適正距離が合わなかった時のための持久力を鍛える事、そして瞬発力のトレーニングも行おうと思い、トレ公に連絡する、するとすぐに返信が来た、内容は
『おう、お前にしてはいい考えじゃないか』とのことだった
『ぶっとばす』と一言だけメッセージを送り、俺は早速トレーニングメニューをトレ公に見せるためにスタ公とトレセンに帰る、その道中、スタ公はずっとにやにやしながら俺の方を見てきた そして俺はトレーナー室に入るなり、トレ公に先ほどのトレーニングメニューを見せた それを見たトレ公は、一瞬驚いた表情を見せつつも、すぐさま冷静になり、こちらに向かってこう言ってきた
「これなら大丈夫そうだな、あとは細かい調整をするだけだ」
「ああ、任せたぞ」
そう言いのこし、俺は寮に戻って残りの休日を少し仮眠で費やそうと思ったが、ふと、あることを思い出し、トレ公に声をかける、するとトレ公は「どうした?」と聞いてきた
「いや、ちょっと思い出したことがあってよ、確かハロウィンはスタ公もトレーナーと一緒にどこか出かけてたっていう話だっただろ?」
「あー……そうだったな、釣りだったか?いやハロウィンじゃねぇか」
「それでよ、俺たちも一緒に出掛けてみねぇか?そうすれば街中でトレーニングのヒントが見つかるかもしれねぇぞ」
「オメー口開けばトレーニングの事だな…あんまり根詰めすぎるなよ」
「わぁってるよ」
「まぁいい、俺も最近外出てなかったから丁度良かった、どこにいくかはまた今度決めよう、とりあえず今日は休め」
「あぁ、わかった」
そうして俺らは解散となった、そして翌日、俺はスタ公と共にトレーニングを行っていた
スタ公のあの特殊な走り方は前より磨きがかかっていて、かなりの速度が出ていた、あれに追いつけばG2など余裕ではないかと考え追いつこうとするが、いくら走っても追いつけない、本当にスタ公だけの武器と言ったところだ
「(サンには最後の最後で加速できる武器…スタ公にはあの特殊な走り方の武器…俺にも、何かそういう武器はないのか…?それさえあればきっとG2でも難なく勝てるようになるかもしれないのに…)」
京王杯ジュニアステークスまで、あと四日ほど