持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
第一話 流星
『ウマ娘』。彼女たちは、走るために生まれてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と
共に生まれ、その魂を受け継いで走る──。
それが、彼女たちの運命。
しかしこれは、別世界の名前が存在しない
唯一無二の存在であるウマ娘の物語。
流星のような彼女達の走りは、どれほどの観客を魅了するのか
その運命は、まだ誰にも分からない。
トレセン学園の校門前、栗毛のウマ娘が一人立っていた。
4月、もう桜が咲き始めて、冬の寒さがウソみたいに暖かくなる頃。
「ついにこの時が来たんだね……私」
そんなあたたかくなって気が抜けるような季節もとい、めちゃくちゃ眠くなってくる季節に、私はとある場所に来ていた。
日本ウマ娘トレーニングセンター学園スクール、通称トレセン学園。競争者の道を歩むウマ娘はみんな、ここでトレーナーと共にライバルと切磋琢磨し、戦うのだ。数々のウマ娘達が、ここトレセン学園で自らの夢を叶えるため、ターフを駆け抜けている。
「私もトレセンのウマ娘になれるんだ……芝の上を駆け抜けて……たくさんのウマ娘達と戦って……あれ? 教室どっちだっけ?」
そしてついに今日、このトレセン学園に私も入学するんです。
「あれま、入学生の子かい? もうそろそろ教室に入らないといけないんじゃないのかい?」
「あ、いえ、その、教室の場所分からなくて」
私が校門の前で何もできずに仁王立ちをしていると、近所のウマ娘のおばあちゃんが声をかけてくれた、このおばあちゃんに教室までの道のりを聞こうと考え、教室の場所を質問する。
「えぇ……わからないのかい? あなた、名前はなんていうんだい?」
確かに名前も名乗らずに道案内して貰うのは失礼かもしれない。
「ぇ私? 私、スターインシャインって言います!」
私は自分の名前を名乗り、おばあちゃんに大体の道筋を聞く。聞いたところによると、このおばあちゃんは過去にトレセンに通っていたらしい。私はそのおばあちゃんに教室がある棟までの大体の道のりを聞き、たどり着くことができた。
まぁ1時間後になんだけど。
「や……やっとみつけた……ぜぇ……おばあちゃんの説明聞いても分からなくて20分くらいロスしたかな……念のため早めに出発しててよかった……」
「トレセン学園にようこそ、スターインシャインさん、私はトレセン学園の理事長秘書をしております、駿川たづなと申します!」
「あ……どうも」
教室がたくさんある棟の前で待ち構えていたのは、緑を基調としたファッションで佇む人だった、笑顔で出迎えてくれたあたりどうやら門限には間に合ったみたいで、私はその人につれられるまま私の教室に案内された。
「シャインさんの教室はこちらです」
たづなと名乗る人に案内され、私は教室の扉を開けた。教室に入ると、たくさんのウマ娘達がいた、机の数とウマ娘の数が1人分合わないところを見ると、どうやら最後に来たのは私らしい。ここにいるウマ娘がみんな私のライバルになるのか、なんて考えていると、黒髪のウマ娘と目があった。
「あん……? 何見てんだお前」
急に飛んできた言葉の投げナイフに私は少し戸惑ってしまい、とっさに目を離した。目が合うなり威嚇されるなんて……あんまり目を合わせないようにしておこうかな……私が目を離したのを確認すると、その黒髪のウマ娘はふんと鼻を鳴らして窓の外を見直した、何とか難を逃れたようで私は安心した。
「あなたがこのクラスの最後のメンバーか」
なんて思っていると、突然横にいた赤髪ポニーテールのウマ娘に話しかけられた、存在感は確かにあるのに声をかけられるまで横にいる事に全然気づかなかった、なんだか不思議な雰囲気を持った子だ。
「私の名前はプロミネンスサン、これから同級生としてよろしく」
「私はスターインシャイン、よろしくね!」
「スターインシャイン……いい名前だね、シャインって呼んでもいい?」
「いいよ、サン! ところであの子は……」
私はさっき威嚇された黒髪の子について聞きたくなった、私が単純に興味を持ったからというのもあるが、入学生のはずなのにすごく威圧感あるから、気になったからだ。
「ああ……あの子は気にしなくていいと思うよ、なんでも少し前からああみたいで」
「へ……へぇ……」
「もうすぐ入学式です、新入生の皆様は体育館にお集まりください」
そんなことを話していると、教室の放送機器から声が流れた。
「もうそんな時間か、行こう、シャイン」
「うん!」
そうして私たちは入学式に向かった、入学式は特に問題が起こることもなく、ただ理事長と名乗る小柄な女の子がめちゃくちゃ長い話をしたくらいだった。そんな中私達、というか私だけかもしれないけど、常に立っている状態がきつすぎて貧血気味になっていた。ぶっちゃけそろそろ解放してくれないと私ぶっ倒れそうなのだが、そんな希望は理事長の楽しそうに話す姿からは微塵も想像できない。
そうして私たちが直立状態の体制から解放されたのは、45分くらい後だった。
「はぁ~……疲れたねぇ、シャイン」
「慣れないよね……長時間立って話聞くの……」
なんで入学式や卒業式って、生徒を長時間立たせて話を聞かせるんだろう……こればっかりは小さい時から慣れない、脛とこがメキメキ言ってる……
「ねぇ見た? 食堂来る前の廊下にいた人、あれって三冠ウマ娘のシンボリルドルフさんだったよね」
先ほど見かけたウマ娘、シンボリルドルフさん、競争ウマ娘に置いて誰も叶えたことのない大記録を残し、皐月賞、
「見た見た……すごいよねぇ、貫録がまるで違ったよ、確かサンはトリプルティアラが目標なんだよね? サンもトリプルティアラを達成したらあんな感じになっちゃうのかなぁ……」
先ほど入学式から帰ってくるときの廊下で聞いた話なのだが、なんでもプロミネンスサンはトリプルティアラを目標としているらしい。トリプルティアラとは3つのレースの総称で、世間一般的に知られているクラシック三冠とは違い、もう一つの三冠と言っても過言ではなく、三冠ウマ娘と同じくとても難しい目標だ。
「いや、さすがにそんなことはないよ、あの人が特別なだけだと思う。シャインは何か目標とかないの?」
私の目標、それは小さいころから考えていたものが一つだけある。
「私の目標は、『誰にも越えられない記録を残す』こと!」
「誰にも越えられない記録?」
「『誰にも越えられない記録』そんなものの定義はどこにもないけど、トウカイテイオーさんみたいな長期休養明けの有馬記念や、セイウンスカイさんの菊花賞レコードみたいな、歴史に残るような記録を作るのが私の目標なんだ。私の歴史的記録の答えを見つけるために、私はトレセンに来たんだ」
「へぇ~、誰にも越えられない記録かぁ……ずいぶん大きく出たね、でもいいの? すでに七冠っていう壁を目の当たりにしたのに」
「うっ……それは……ははは……」
「いい目標だと思うよ、頑張ってね、シャイン」
「ありがとう……サン……」
「そういえば、前にも日本一を目指したウマ娘がいた気がするわね、スペちゃん」
背後から声がした、振り返るとそこには、サイレンススズカさんとスペシャルウィークさんがいた。
サイレンススズカさんと言えば、大逃げでとてつもない勝利を何度も収めたレジェンド中のレジェンド、スペシャルウィークさんも、ジャパンカップでとんでもなく強い海外のウマ娘をねじ伏せた、まさにレジェンドウマ娘。
「うわぁ……」
「ちょ……スズカさんそれは昔の話ですってぇ……」
「ふふ……でも今でこそ、日本一を名乗っていいんじゃないかしら?」
「まだまだ! スズカさんに圧勝するまでは名乗れません!」
「楽しみにしてるわ、スペちゃん。 誰にも越えられない記録を残す……それは途方もなく大変な道になる、叶えられない夢かもしれない、でも現に日本一に手が届いているウマ娘はいるわ、だからあなたも頑張ってね」
「だから昔の話ですってばぁ!」
「はい!」
レジェンドウマ娘に応援されるなんて……私本当に叶えられるかもしれない……!
「とか言ってたらとうとうこの時が来てしまったね……サン」
「新入生専用の模擬レースだねぇ~、シャイン」
そう、今から私たちは模擬レースを走る、トレセンで生徒としているにはトレーナーが必須だ、そのトレーナーさんを付けるために、私たちは模擬レースで自分の実力を見せつけて、スカウトされる。つまりこの模擬レースが私達ウマ娘の最初の関門と言ってもいい。
観客席の方を見ると、トレーナーであろう人達はもちろんの事、青毛のウマ娘も見かけた。
「私は中距離で申し込んだけど、サンは?」
「そりゃ当然、中距離でしょ、トリプルティアラを狙うんだしね」
「じゃあ私達、ライバルだね……」
「ははは、まぁどっちかが負けても死ぬわけじゃないんだし、気楽にやろうよ」
「うげぇ……それでも怖いなぁ……」
気楽にやる、なんて言っておきながらサンからはとてつもないやる気をひしひしと感じた。「恐らくこのレースではサンが一番の強敵となることが間違いない」と私の中で本能的に答えが出るのは不思議ではなかった。
「…………」
観客席でただ一人、男がグラウンドを見つめていた。その顔はクマを作り、髪もぼさぼさであり、どんな人が見ても不健康と答えるであろう見た目をしていた。
「今日は何か良いのいそうなのか?」
その男に少し離れた場所から別の男が話しかける。先ほどの男とはうって変わり、健康的な見た目をしている。
「どうでしょう……あの赤い髪の毛の奴とか?」
そう言われて健康的な見た目の男は、あらかじめ学園から渡されていた入学生の資料から男の言った特徴のウマ娘のデータを探す。
「え~っと、プロミネンスサンか、なんでもトリプルティアラを狙ってるらしいぞ」
「トリプルティアラか……」
そう言って、不健康な見た目の男は肩を落とす。
「どうした? 露骨に元気がなくなるじゃないか、トリプルティアラは不満なのか?」
「不満と言うかなんというか……まだこれから担当を持つって言う自覚が湧かなくて、どんな目標を持ったウマ娘をスカウトすればいいのか分からなくて」
「まぁお前はまだトレセンに入って間もないんだし、あんまり素質を見抜く目も育ってないだろ、今日のレースもちゃんと見て、ゆっくり目を培っていけ」
「そうですね……はい、そうします」
「よろしくね、シャイン」
「うへぇ……ちょっと気持ち悪くなってきた……」
私たちはグラウンドについているゲートの中に入ってすでにレースの準備が出来ていた、もうすぐ模擬レースが始まってしまう……何度も段ボールで予行練習はしたのにいざゲートに入るとすごい緊張してくる……ウォエッ……
どうやって走ろうか、いままで特にレースなどしてこなかったからどのようにすればいいのかいまいち分からないのが本音だ。さっきのサンとの一件もあるし何かしらの走り方は決めておきたいのだが、この緊張した状態で私が冷静に走り方を考えることができる訳もなく、ただひたすらに頭の中で意味の分からない自問自答を繰り返すだけであった。
「(ああ……だれかレジェンドウマ娘の魂が一時的に乗り移ってくれないかなぁ……それかゲートが壊れて模擬レース中止とか……)」
そんな私の心情をゲートが察知して待ってくれるわけもなく、スタートのランプが光る。
そして数秒後には勢いよくゲートが開く音が響き、ついにレースが始まってしまった。
「やばっ……」
レースが始まってしまったという衝撃から頭が真っ白になり、走り出すことが出来なかった。
私は出遅れてしまい、最後方からのスタートになってしまった、先頭集団はおろか、中団までもが途方の先にいる。
ゲートの中で考えていた走り方を、少しは冷静になった頭で考えていると、突然前の方で赤いポニーテールが揺れるのが見えた、そして次の瞬間――
「……はいはいはい!失礼するよ!」
「ちょ……え……ウッソぉ!?」
前の方にいたサンは後続をぐんぐん突き離し、あっという間に二番手と5バ身くらい離れている。
「くぅっ……他の子たちも早い……」
第一コーナーを回り、私は後ろの方にいた。前の方ではウマ娘達がすでに垂れていて、サンは意気揚々と遠くの方で走っている。すると、垂れているウマ娘の集団が私の方に近づいてくる、というより私から近づいていると言った方が正しいかもしれない。
「やばいやばいやばい!垂れちゃうって!」
後ろの方にいた私はあっという間に垂れたウマ娘の集団に飲み込まれてしまった、右も左もウマ娘だらけでどうしようもない。
「やっぱり速かったですね、プロミネンスサン、それにしても逃げか……」
「……逃げでトリプルティアラに挑むのか、面白いじゃないか」
「同じく逃げでトリプルティアラに挑んだウマ娘と言えば、ダイワスカーレットにも似ていますね……」
「逃げるのはいいが、あそこまで逃げるのは勝ちの定石じゃない、あれでトリプルティアラを勝つとなれば、それこそサイレンススズカのような素質がいるだろうな」
「異次元の逃亡者、サイレンススズカ、彼女以上の逃げ足なんていないんじゃないんですか?」
「分からんぞ? 時代は変わっていくんだ、確かに今は越えられないと思うかもしれないが、いつかは必ず超えるようなウマ娘が出てきてもおかしくはない」
「それがプロミネンスサンって事ですか……」
「うううう……っ!」
完全に垂れウマ集団に飲まれてしまい、私は動けなくなっていた。第二コーナーに入り、そのまま何も展開が変わらず第三コーナーに入る。相変わらずサンは逃げ続け、その後ろの方で私は垂れ続けている、周りを見るに他の子たちも変わらないだろう、完全にサンの独壇場だ。
「(これじゃあこのままサンにゴールされちゃう……でも……諦められない……)」
そう、私は誰にも越えられない記録を残すんだ、こんなところで負けていられない……!!
「あっ……」
強くそう思った瞬間、私の目の前に道が見える……まるで天の川みたいな、星の道…………これなら集団を抜けられる!
「…………私はこんなところで、負けてられないんだぁぁぁぁぁ!」
もうゴールまでの距離もそんなにない……ここが勝負……!
「はぁっ……はぁっ……」
レースがスタートしてからもうだいぶ走っている、やっぱり2000mは長いなぁ……でも……レースの序盤であれだけ逃げに逃げ、後ろのウマ娘達を離したんだ、ここから私がスタミナ切れになっても、追いつける子なんて……
「はぁっ……えっ……?」
後ろからドゴドゴと、まるで巨人が走ってくるような、強大な轟音が聞こえる、心なしか地面も地震が起きたように揺れている気がする。その足音の正体は――
「なんだあいつ!?」
「おいおいマジか……」
「嘘……シャイン……っ!?」
「サァァン!……逃がさないっっ!」
なんと後ろからその轟音を響かせていたのは、私の同級生、スターインシャインだった。
サンの姿が見えてきた……既に第四コーナーは回っていて最終直線だ、もう時間は無い……
「絶対に差し切らせないっっっ!」
私が近づいているのを後ろ目で確認したのだろう、サンは残り少ないであろうスタミナで私から逃げようとする。大外から私が追いすがり、内ではサンが私から逃げている状態だ。
「追い越したっ!……いやっ……差し返されたっ……!?」
私は目の前で起きた出来事がウソのように思えた、私がスパートをかけ、サンを追い越したと思ったその瞬間、なんとサンが再び私以上に加速したのだ。そんなことありえないと思っていた、もうサンは最初にたくさん飛ばして疲れ切っているはず、なのになんでまた加速できるの……
「(シャインのこの走り方、無謀かもしれないけど真似したら更に加速することができた!私は走り方のフォームなんてないただ勘だけで完成した走り方だ……シャインの走り方を真似ればもしかしたらと思って、やってみた甲斐があった!)」
「私だって、
「私だって……!」
「私だって!」
もうすでに脚の感覚はない、もしかしたらすでに骨折とかしているかもしれない、けど走るのはやめない、応援されたんだ、私はあのサイレンススズカさんに応援されたんだ、模擬レースくらい勝てなくて、なにが越えられない記録を作るだ。応援されたことを思い出し、再び私の脚にエンジンがかかる。
「っっっっ……ぅあああああああああ!」
「そんなっ……さらに加速するなんて……」
「まさかあの子が差し切るなんて……」
「スターインシャイン……すごい末脚だな」
「はぁぁっ……はぁぁっ……はぁぁっげほっ……げぇぇっほ……おえっ……げほっげほっ……」
私はゴール板を駆け抜けた瞬間に身体が赴くままにターフに転がった、スピードもなにもかもそのままでだ。本来なら怪我をすると言われて怒られるかもしれないが、私は初めてのレースだったので文句は言わないで欲しい。
「はぁっ……はぁっ……負けた……っ……のか……」
私は、2分の1バ身差でサンを差し切った。
「勝ったんだ……勝てたんだ……私……やった……やったやったやった……」
「はぁ……はぁ…………おめでとう、シャイン」
サンが私に近づいて言葉を出す、その表情は凄く満足げで、私も自分自身の顔が笑顔になるのが分かる。
「はぁあ……はぁ……サン……すごく強かった!!最後の逃げの再加速、すごかったよ!!」
「結果的に同じように再加速したシャインに負けちゃったけどね……まぁ私も2着にはなれたわけだし、多分トレーナーさんからのオファーもシャインほどじゃないにしろ来るでしょ……」
「また一緒にレースしようよ……サン……!」
「その時は私が逃げ切るよ……シャイン……!!」
サンはこちらに向かって手を差し伸べてくる。ぶっちゃけもう肺は痛いわ脚は痛いわで動きたくなかったが、ここで手を取らないのは人としてどうかと思ったから、サンの手をしっかり握り、立ち上がった。
そこから教室に戻るまでお互いに言葉は発さなかった、が、私たちはお互いに何となく言いたいことが分かっていた。
『絶対に、同じレースで戦う……っ!!』