持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第十九話 稲妻はどこに落ちる

 

クライトと東京競バ場に行ったりしてしばらく経ち、クライトは相変わらず誰ともかかわろうとせず、ただひたすらに速水さんとトレーニングをしている。私の方も私の方で京都ジュニアステークスに向けての練習を吐きそうになりながら遂行していた、時間とは速いもので、今日がクライトの京王杯ジュニアステークスだ

 

京王杯ジュニアステークス当日に私は何をしていたのかと言うと、やはり食堂にてレースが始まる前のみんなの様子を見ていた、私がサウジアラビアロイヤルカップを走る時と同じように、みんなざわついていた、G2のためか私の時より音量が上がっている気がするし、壁の反響も相まってとても騒がしい、そんな中私はそのバ群やトレーナー群をかき分けてクライトの姿を探す。

 

「おーい! いたいた!」

 

「おうスタ公、この前は悪かったな、おかげで冷静になれた」

 

「もちろんよ! だって私達友達じゃない?」

 

「友達か…そうだな、ありがとう」

 

私はクライトからかけられた感謝の言葉に少しだけ驚いてしまう、あのクライトが素直に感謝を伝える何て明日は槍が降るかもしれない

 

「そういえばクライト、もうすぐ出走なんでしょ?あっち行かなくて大丈夫なの?」

 

「今トレ公呼んだところだ」

 

「あそう、じゃあ私も乗せてってもらおうかな、応援しに」

 

「来んな、寄るな、立つな、うぉい!」 

 

私はクライトからの拒絶を無視してクライトの隣に立つ、実際今日はトレーニングがピンポイントでお休みだし、ここしばらくは私が応援される側だったからたまには私が応援しに行くのもいいだろう。

 

「おっす待たせたなクライト、今日はあの頃のように…あれ?なんでシャインちゃんがいるんだ?」

 

「あ、特に気にしないでください」

 

「とか何とか言って俺の横に居座るなスタ公…」

 

「まぁいいじゃないかクライト、友達が出来てるんだから。あと『俺』って言うのもいつか治していこうぜ、流石に世間体とかもあるから」

 

「俺は俺だ、俺が俺をどう呼ぼうが自由だろうが」

 

その後クライトと速水さんがなにやら騒いでいたが、結局私が仲裁に入って落ち着かせた。その後速水さんの車に乗って私たちは東京競バ場に向かった、ちなみに私が応援するために車に乗りたいことを伝えたら「オッケー☆」とノンタイムで答えてくれた。やっぱりいい人だと思う。

そして私たちを乗せた車はあっという間に競馬場に到着した、到着してすぐにクライトと別れ、私は速水さんと一緒にクライトの関係者席へと連れていかれる。そこは普通の観客席より高いところにあり、コース全てを見渡せるような位置にあった

 

「ん~~~っ!良い風が吹いてるわ~っ!!」

 

「シャインちゃん、くれぐれも関係者席から落下して怪我したとかやめてくれよ、橋田に合わせる顔がなくなる」

 

「分かってますって~」

 

 

ざわざわと騒がしい入り口を抜け、トレ公やスタ公と別れた後、控室で深呼吸をする

京王杯ジュニアステークスは11レース、そして今は9レース目だ、じわじわと俺の番が迫ってくる感覚に吐き気さえ覚え始めていた。しかしここで弱音を吐いていてはせっかくコースの研究をナマの景色で行わせ、私を冷静にしてくれたスタ公に申し訳が立たない。その後はスポスポとレースが終了し、とうとう私の番が来た

 

舞台裏に案内され、初めて不安に駆られたままパドックの場に立つ、俺は普段パドックをやる気満々で行う為、不安に気持ちがつつまれたパドックは違う景色が見えた、いつもより歓声がよく聞こえ、ここで負けてしまった時の結末だけが俺の頭の中でぐるぐるとまわっている。

 

『もう君には何も期待できなくなってしまった、すまない』

 

恐らく今客観的に自分の姿を見ると、いつもより少しばかり覇気がないように見えるのだろう、観客も少しだけ不思議がっているように見える。私に対する期待がすべて壊れている顔、この顔はいつ振りだろうか、トレーナーに()()()()()を言われたあの日からだろうか

 

「なんだかクライト怖がってるように見える…前にお出かけに誘った時もこんな感じだった」

 

「あいつ、普段あんな態度だけど意外と怖がりなんだよ、いや、あんな態度だからこそ怖がりなのか…」

 

「そろそろ始まりますよ」

 

「ん、そうだな、レース場の方に移動するか」

 

俺はゲートに入る直前に客席を見る、下の方にはいなかったので関係者席の方を見ると、そこには当然のようにスタ公の姿があった、正直来てほしくはなかったが、来ないとそれはそれで怖い。スタ公は俺が見つめている事に気づくと、私に向かって大きく手を振ってきた。その行動を見て俺の緊張が一気にほぐれた気がする、俺は軽くゲンコツする動作を見せつけ、ゲートに入った。

ゲートに入ると、俺の視界は一瞬にして真っ暗になった、それと同時に体が浮いたような錯覚に陥る。初めて感じる感覚だった

 

関係者席にて私はクライトの出走を待っていた、レースが始まる直前になってクライトの様子がおかしいことに私は気づいた、まるで何かを怯えるような表情、震えていた体はゲートに入ってさらに激しくなっていた。そんなクライトの様子を見た私は思わず手を振って落ち着くように指示を出したつもりだが、届いただろうか。

 

「我ながら今回は無茶な事をやらせていると思っている」

 

突然速水さんがそう切り出して語り始めた

 

「距離適性を見極めるだけなのに公式レースに出させるなんてどうかしている、それ自体は俺も理解しているんだが…時間がなかったんだ」

 

「時間?」

 

「さっき普段あんな態度だけど怖がりだと言っただろ?実はその逆でな、クライトはあんな態度だから怖がりなんだ」

 

速水さんの言葉の意味が分からなかった、クライトのあの粗っぽい性格だからこそ怖がり、とはどういう事だろうか、あの性格で怖がりと言うイメージが私に掴めなかったのでよくわからずに聞き返してしまった

 

『スタートしました!』

 

実況の日との声がこだましてふとコースの方を見るともうレースが始まってしまっていた、短距離のレースなら1分ちょっとで決着がついてしまう、その瞬間を見逃すまいとレースにくぎ付けになるが、速水さんはレースが始まっているのにもかかわらず語り続ける

 

「ちょうどいい機会だしクライトの過去について話そうか」

 

「でも速水さん、レースが…」

 

「見ながら話そう」

 

速水さんの言う通り私はレースを見ながら速水さんの話を聞いた。

 

速水さんの話はこうだった。

 

元々クライトは地方のトレセンに所属していたウマ娘で、中等部の頃からレースに出走して2年経つも、なかなか結果が出ずにいたらしい、その時にクライトの担当をしていたトレーナーはクライトの才能を信じてトレーニングを続けたが、一向に結果が出る気配はなく、クライトのモチベーションは徐々に下がっていった。

それでもクライトのトレーナーさんはひたすらにクライトを応援し、何回もレースに出させてくれていた、落ち込んだ時はクライトを励まし、トレーニングメニューもひたすらに考えていたらしい。

しかしある日、トレーニング中にクライトが転倒し、骨折してしまう。幸いにも命にかかわるような怪我ではなかったが、その時のクライトのトレーナーさんはその骨折によってクライトを見限り、何も言わずに去ってしまったらしい、ただトレーナー室に一つの置手紙を残して。その出来事によってクライトの心は完全に折れてしまい、そのまま学園を去ったらしい。本人曰く口調が荒くなったのもその頃かららしい

 

それからしばらく経った後、トレセン学園の関係者がクライトを見抜いたと言いスカウトをした。

しかし、クライトは今までの事を思い出してしまったのか、担当トレーナーを拒絶してしまった。だがそのトレセンの関係者は諦めず、クライトに色々なトレーナーを紹介した、でもそのたびにクライトが拒絶してしまい、紹介されたトレーナーも諦めることの繰り返しだったらしい。

 

そして最終的にトレセンの関係者は自分自身をトレーナーとしてクライトに勧めた、当然クライトは拒絶したが、今回は諦めなかったトレセンの関係者が紹介されていたために、拒絶しても引き下がらなかった、何日も何日も、クライトの元に向かい自分をトレーナーとして契約して、中央に来ないかと迫った、時に警察を呼ばれて注意を受けることもあった、それでもトレセンの関係者はひたすら諦めずに粘った、それほどまでにクライトの才能を信じていたのだ

 

「半年くらい経ったあたりでとうとうクライトが諦めて、そのトレセンの関係者がクライトのトレーナーになったと言うわけだ」

 

「そのトレセンの関係者ってもしかして…」

 

「ああ、俺だ」

 

「あれ?でも速水さんって私のトレーナーさんに感化されて担当を持ったんじゃ…」

 

「ん?ああそういえばそんなこと言ってたな、ありゃ嘘だ」

 

「嘘ぉ!?嘘だったんですかあれ!?」

 

「今でこそ波に乗ってるが、あのころの橋田はまだ担当を持ったばっかで不安な顔してたろ?そんな奴に対して昔からコンビ組んでましたなんて言ったら怖気づいちまうだろ。あ、舐めてるわけじゃないからな」

 

昔話の流れで大体そうではないかと思っていたが、やはりクライトと速水さんは昔から関わっていたらしい、通りでクライトが速水さんと話すときだけ私達と話す時にはない信用があるわけだ。それにしてもびっくりしたのがクライトが中学生のころから出走していたと言う事だ、まさか私が荒れ狂っていた時にクライトが一生懸命走っていたなんて思いもしなかった。

 

そして速水さんはしばらく走っていなかったクライトのレース勘を取り戻す為だったり、クライトの現時点での力を試すためにも早い段階にこのG2と言う舞台を選んだようだ

 

「クライトは」

 

「ん?」

 

「クライトは今どんな気持ちなんでしょうね」

 

「さぁな、俺にもわからない」

 

速水さんの顔を見ると、とても悲しそうな顔をしていて、まるでクライトの事を本当に心配しているようだった、まるで結婚式とかで自分の娘を見送る父親のような顔だ

 

「まあ今はあいつが短距離の適性があるかどうかを見ていこう」

 

「はい!」

 

『第3コーナーを回って直線に入ります』

 

「そろそろだな」

 

「えっ?なにがですか」

 

「もうすぐクライトが来るぞ」

 

速水さんの言葉を聞いて私は再びコースを見る、確かにもうそろそろゴールだからクライトがスパートをかけ始めるころだろう、レース前にあれだけ不安そうな顔をしていたクライトがかけるスパートはいったいどれほどなのかよく見ておこうと私は目を凝らす。

 

「うおおおぁぁぁぁ!!見とけよこのクソったれトレーナーめぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

クライトは加速した、今ではもう昔の事になってしまった模擬レースの時に見たクライトのスパート。それは今まで見たことのないような速度で、まさに稲妻のように駆け抜けていった、だがしかしG2と言う舞台だったのが災いして緊張したのか、体制が少し崩れて減速してしまって、クライトは2着に終わった

 

だがそんな事は関係なく、観客はクライトの走りに歓声を上げ、会場全体からは拍手が沸き起こっていた。もちろん1着の子に向けた拍手や歓声がほとんどだろうが、確かにクライトに対する声も聞こえた。私たちはすぐに関係者席から観客席の方に降りた、観客席の方についてみると、まだクライトはターフに大の字に寝転がっていた。そんなクライトに速水さんが声をかける

 

「すまなかったな、2着なら、よくやったほうだ、クライト」

 

「だから負けるっつったんだ…ふざっけんなよ…トレ公ぉ…!!」

 

その言葉にクライトはとても悔しそうに答えて泣いていた、顔をしわくちゃにして泣いていた、普段のクライトは目つきが悪く暴走族のリーダーのような風貌をしているが、その泣いている顔は確かに純粋無垢な年頃の女の子の顔だった―――

 

その後私と速水さんはクライトのウイニングライブを見に行った、当然一番前の席を確保して。クライトのダンスはキレがあり、振り付けも完璧で、見ててすごいと思った。そして何より驚いたのは、クライトが楽しそうに踊っているところだ、あんなに見た目が怖くて他人を威嚇しまくるクライトしか見ていなかった私にとっては衝撃的だった。そのクライトの姿を見て、クライトのトレーナーとして、速水さんはクライトの事をどう思っているのか聞いてみた。

 

すると速水さんは少し考え込んだ後、笑顔で私の質問に答えてくれた その速水さんの表情はどこか嬉しそうで、それでいて懐かしむように遠くを見つめていた、速水さん曰く、クライトは今まで色々とあったが、そのすべてを乗り越えてきた、だからこそ今のひねくれクライトがいるんだろうと言っていた。その話を聞いていたらなぜだか思わず涙が出てしまった

 

 

「お邪魔しまーす!!」

 

「ん、今日も遊びに来たのか、シャインちゃん」

 

「すいません速水さん、うちのシャインが」

 

「いやいいよ、構わないさ、クライトなら勝手に飛び出してトレーニングしに行ったよ」

 

クライトの京王杯ジュニアステークスが終わった次の日、私はトレーナーさんと一緒に速水さんのトレーナー室に遊びに来ていた、やっぱりこっちのトレーナー室は綺麗だ

 

クライトはあの後、トレセンに帰ってきてすぐにトレーナー室に来て速水さんに抱きつき、わんわん泣いたらしいが、すぐに泣き止んでからトレーニングメニューを自分で作ってしまったらしい

 

そして速水さんは、これからもクライトのライバルとして、クライトの事をよろしく頼むと言ってきた。私はそれに力強くうなずいた。クライトは私にとって大切な友達であり、ライバルでもある、クライトと競い合い、高め合っていける存在になれたらいいなと思う。私はクライトの過去を聞いた次の日、クライトがトレーニングをする姿を眺めていた、相変わらず目つきの悪いクライトだったが、今日はいつもよりも気合が入っているように見える。クライトは短距離の適性があったらしく、今後のレーススケジュールのためにも短距離の練習をしているらしい、私はそんなクライトを横目に、クライトの作った練習メニューをこなしていく。

 

「ん?お前もやるのか?」

 

「うん!だってせっかく一緒にトレーニングするんだもん!」

 

「まあ別に良いけど、俺の真似しても無駄だと思うぞ?」

 

「えっ?どういうこと?」

 

「俺のメニュー、俺用に考えてあるからな、他の奴がやっても意味あるのかわからないぞ」

 

「まぁいいっしょ!!暇だし!!」

 

「暇ならどっかいってくれや…」

 

そんな会話をしながら、私とクライトは黙々と走り込みを続ける。昨日の京王杯ジュニアステークスで負けたから悔しがっているかとも思っていたが、そんな心配もいらないようだった。

私は昨日の出来事を通してクライトの事を見直した、今までクライトはただ怖いけど割と優しいだけのウマ娘だとばかり思ってた、でも違った、クライトは誰よりも速く走るために努力を惜しまない、どんな辛い事にも耐えられる強い心を持っている、そして自分の事だけでなく、他人の事まで考えられる優しさを持っているウマ娘だった。

 

「………」

 

私はそんなクライトに、何か声をかけようとしたのだが、何も思いつかなかった。そんな私を見てなのか

 

「―――俺はもう、負けねぇからな、負けた理由をひたすら追い求めてやる」

 

クライトは、決意に満ちた顔でそう言った

 

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