持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

21 / 90
第二十話 トレーナーさん、アレ忘れてたやんけ

 

昼下がり、次に出走する京都ジュニアステークスに向けて私とトレーナーさんは、掃除したのにもかかわらず必ずどこかしら黄ばんでいるトレーナー室で走り方の研究やコース形状の確認をしていた。そんな知識を鍛えるトレーニングをし始めて数時間、流石にマンネリしてきた私たちはソファにぐったりぶっ倒れていた

 

「うへぇ~~」

 

「あ”~…」

 

肘掛けの部分に突っ伏し、お互い数時間にわたる読書に唸っている、それも当然だ、私たち二人は本を読んでも「これいいんじゃね?」等の事実しか言わないため進展もクソもないし、まして二人とも読書をしているうちに眠気が襲ってきてしまい、右から左に本の内容が流れていった。

どうやらトレーナーさんも勉強は苦手なようだ、私も例外なく勉強が苦手なので読書等の勉強をし始めるとすぐに眠くなってしまうのだ、私をスカウトした時は偉そうなこと言ってたのにこのトレーナーはなんと情けない姿をしているのだろうか、いや、今に限っては私もか

 

『イーグルクロウが差し切った!!アルテミスステークスを制したのはイーグルクロウだ!!』

 

突っ伏して視覚をなくしても聴覚はしっかりと働くため、パソコンでひたすらにレースの映像を流している音声が聞こえる、もはや今日何時間も聞きすぎて頭が痛くなってくる実況の声だ

 

「フリースタイルレースも今は開催してないし、私たちが開催しても恋の気配ぷんぷんのこの時期に人が来るわけないしなぁ…」

 

恋の季節、クリスマスも近くなってきて、その後にはお正月、数か月すればバレンタインやホワイトデーも近くなってくる、実りの行事が多い季節、フリースタイルレースをしようにもみんな己のパートナーを見つけたりモノにするのに忙しいのだ、当然私はレース一本なので恋などは興味がない、そして最近はトレーナーさんに恋をするウマ娘も少なくないみたいだが、私は断じて違う

 

「恋といえば、お前初恋とかしたことないのか」

 

「もはやセクハラすることに抵抗なくなってきたね」

 

「…確かに、気を付ける」

 

「いいよ、別に、あと意外かもしれないけど私の初恋は小学生のころに儚く散ったよ」

 

トレーナーさんの質問に答えてあげるとトレーナーさんは興味津々な顔でソファから起き上がってこっちに向きなおした先ほどまで死にかけだったのに急に息を吹き返した顔がたまらなく腹立つ。

 

「急に興味出てきた、その話詳しく聞かせてくれよ」

 

「おだまり、急に起き上がってからに」

 

「なんだよ、聞かせてくれてもいいじゃないか、まぁいいか」

 

トレーナーさんは再びソファに突っ伏して力尽きる、今の私に話す体力も気力もないので、トレーナーさんに私の初恋のことを話すのはまたの機会にしよう。

再びトレーナー室に静寂が訪れる、外の方からはトレーニングをするウマ娘の声が聞こえてくる、いっそ私もこれから体動かすトレーニングしようかなぁ…運動服の替えあったっけ、これからが私の勝負時なので運動服が汚れていてトレーニングできなかったなんてなんだかダサい

…ん?運動服………服………勝負………京都ジュニアステークスの次は…ホープフル…G1…

 

「あ”----------っっっっっ!!!」

 

 

「うおああああああああああ!!なんだ急に!!」

 

私は腹の底から叫んだ、それに釣られてトレーナーさんも飛び上がる、私がなぜ叫んだのか、それはあることを忘れていたからだ

 

「ど…どうしたシャイン!?」

 

「わ…忘れてた!!」

 

「何を!?」

 

「勝負服のデザイン!!」

 

「………あ”---っ!!!」

 

やっぱり二人して忘れていた、私達ウマ娘はホープフルステークス、およびG1を走るにあたって自分だけの勝負服が必要なのだ、G2以下は体操着で使い回されるが、レースの頂点であるG1においては自分だけの服で走れるのだ、私たちはその勝負服のデザインを忘れていたのだ。

ホープフルは12月の後半にある、今は11月の前半だから、デザインの私の勝負服が体操着になってしまうとかマジでシャレにならないので早く決めなければならない。

 

「デザインなら俺に任せろ!こう見えてもデザイナーの端くれだ!」

 

「本当!?」

 

「自称だけど任せとけ!どんな勝負服を着たいんだ!?」

 

「自称じゃん!!」

 

トレーナーさんの自称デザイナーと言う言葉がすごく信用ならなかったが、とりあえず私はトレーナーさんに自分が思い描く理想の勝負服について語ることにしよう

 

まず最初の段階として、私がどんなデザインが良いか探すために、私のお気に入りの勝負服をいくつか思い出すことにしてみる

 

最初に思い付くのはやはりサイレンススズカさんの勝負服だろう、緑を基調とした落ち着きのあるシンプルなデザインでありながらもカッコよく、そして機能性も抜群だ、小さいころの私はあんな風に自分もなりたいと憧れたものだ。それに緑が基調になっているので芝の緑が映えるのだ。だがしかし私にはあまり合わないだろう、先ほどは憧れたと言っていたが、それは小さいころの私の話だ、今の私はなんというかああいうぴっちりしてそうな服はあまり好きではない、だから着るとすればコートのような勝負服だろう

 

次に思い出したのはテイエムオペラオーさんの勝負服、あれもとても良い、白を基調としながらもピンクと金の装飾が施された勝負服は、まるで宝塚の男役のような格好でとても輝いていた、そして極めつけは王冠だ、テイエムオペラオーさんは1年間無敗だった時期があり、その偉業を表すかのような存在感の王冠がとてもきれいだ。しかしこれもあまり参考にはできない、無論キラキラしすぎているからだ、いや別にキラキラしてればいいんだろうけどあそこまでギンギラする必要はないと思う、私は。

 

二人思い出してあまり参考にはならなかったので心配になってきた、次に思い出したのはマヤノトップガンさんの勝負服だ、マヤノトップガンさんは普段パイロットの用語のようなものを使う、『アイ・コピー』や『テイクオフ』が代表的だ、それを意識してか、勝負服もパイロットのようなものになっている、普段の元気溌剌なイメージに縦横無尽に飛び回る飛行機のパイロット服が合っているようにも見えるし、渋い色の為そのイメージに合っていないようにも見える不思議な勝負服だと私は思っている。

 

突然、私の体を貫くような電流が流れた、改めてマヤノトップガンさんの勝負服を見直すと、すごくイカしていると感じた、それは何故か?それは先ほど私が言ったように合っているとも合っていないとも見えるのが原因だと思った。例えば、この勝負服はパイロットの制服を模したものなので、いつもの彼女から感じる可愛らしさが抑えられて、代わりにクールさを感じることが出来る、そのギャップこそかっこよく感じるヒミツではないかと考えたのだ。

 

そのギャップを感じつつ、私の目標というものを表現できるような、『誰にも越えられない記録を作る』と言う事を体現できるようなデザインにしよう。まず最初に肌の露出具合をどうするか、これに関しては私は完全防御で行こうと思っている、ぶっちゃけ肌を出すのは嫌だし、これはちょっとふざけた理由かもしれないが何より冬の時に寒いかもしれないからだ。次に基本とする色を決めよう、私の名前の『スターインシャイン』ここから何かの色を取って行こう、星…星…夜空…その二つから思い浮かぶのは黄色と瑠璃色と言ったところだろう…そこからどうしよう、何も思いつかない

 

結論が出ないのででトレーナーさんに意見を求めることにする

 

「トレーナー、何か案はある?何も思いつかなくて」

 

「いや、俺もだ、今の今まで忘れてたからとくになんもデザインでねぇな」

 

トレーナーさんを見ると何やらスマホを操作していた。多分デザインのアイデアを探してくれてるんだろうと察する、しばらくするとトレーナーさんは顔を上げてこっちに向き直した トレーナーさんの表情から読み取れる情報は少ないが、どうやら何か閃いたようだ

 

「俺の知り合いのデザイナーがいいアイデアを持っているかもしれない」

 

「え?本当?」

 

「あぁ、中学の頃からの友人でな、一応連絡を取ってみよう」

 

そう言ってトレーナーさんは再びスマホを操作する、恐らく電話をしているのであろう

 

「あ、もしもし?久しぶりだな、実はちょっとお願いしたいことが……」

 

トレーナーさんが誰かに電話をかけ始めた、おそらく私のためにデザインを考えてくれる人だと思う、トレーナーさんも信頼しているみたいだし、期待できそうだ

 

「あー、マジ?助かるわ、じゃまた後で」

 

どうやら話がまとまったらしい、トレーナーさんが私に話しかけてくる

 

「今から会えないかってよ」

 

「今から!?」

 

「時間はあるだろ?ほれ行くぞ、ついてこい」

 

私は急いで身支度を整えてトレーナー室を後にした 数分車で走ると目的地に着いたようで、そこには少し古いビルがあった、どうやらここがその人の職場のようだ。

 

「まさか同じ県内にいるとは思わなかったな…おい!来たぞ!」

 

トレーナーさんは知り合いの住居に少し驚いた後、勢いよくドアを開けて中に入った、しかし中に入ってもだれもおらず、静かに扇風機が風を起こす音しか聞こえない

部屋の中は凄かった、いろんなウマ娘の勝負服の写真が書いてあって、そのすべてにいろんな特徴がメモられている

 

「お!きたね!君がシャインちゃんかな!?」

 

私たちが部屋の内装を見て驚いていると、いきなりテンションの高い声が聞こえてきた

 

「あ……はい」

 

「橋田とは古い付き合いの布原だ!よろしく!」

 

「よ……よろしくお願いします」

 

「早速だけど勝負服のデザイン案を見せてくれないかい!?それか君の思い描いている勝負服のイメージでもいいけど!?」

 

その布原と言う人は話すたびに椅子から跳ねて、目をかっ開いて話しかけてくる、何やらテンションが高すぎて私は少し後ずさってしまうが、悪い人ではなさそうだった

 

そのイメージが固まっていないことをトレーナーと布原さんに伝え、私は少しだけ時間が欲しいと外に出る、トレーナーさんも一緒に外に付いて来て、一緒に頭をひねらせてくれている

 

「シャインには強いやつらの中で輝いて欲しいからな、なんかこう、シンボリルドルフのような強い姿でいてほしいよな」

 

シンボリルドルフのような姿、いいかもしれない、私もあの勝負服は凄く気になっていたので、じゃあ私が自分自身のものを作ってきてみるのも悪くないかもしれない

だがしかし、皇帝と言うのはやりすぎだ、皇帝ではなく、マヤノトップガンさんのように渋く、黄色や瑠璃色を使った勝負服…

 

「でもかすかに、可愛さも見せていきたいよね、私の希望はかわいさとかっこよさで2:8くらいかなぁ、それくらいがちょうどいい」

 

「シャインのドレス姿とか見たいけどな」

 

「却下」

 

ドレスは小さいころに着たことがあるが、裾が長すぎてずっこけたことがあるのでそれから二度と着ないと決めているのだ。ここでふと私はあることを思いつく、小さいころに憧れていて、今でも憧れるようなもののような勝負服を作ればいいのではないかと思った、私は小さいころに好きだったものを思い出す

そうだ、それならばあのデザインが良いかもしれない

 

私は鞄の中から神を取り出し、デザインを描きまくった、強く強く、私が世界中にその存在を知らしめるのにピッタリな姿。

 

「そこは赤い方が良いんじゃないか?」

 

「赤ってどうなんだろ…」

 

時にはトレーナーさんからの提案を受けて考え込んだりもしたが、デザイン案はどんどん書き進んでいった

ここで勝負服についてもう一度解説しよう、勝負服とは、G1を走る際にウマ娘が着れる、自分だけの服だ、誰かの遺志を受け継いで走っているのか、家族のために走っているのか、自分自身のために走っているのか、勝負服はいわば思いの貯蔵庫だ、最初こそ知り合いの思いしか入っていない服だが、着ているうちにさまざまな人たちと出会い、その服にどんどん思いが足されていく。だからこそ思いの込めやすいデザインでなければならない、そのために私がえらんだデザインは――――

 

「これがデザインです、見てください」

 

「どれどれ〜?ほうほうなるほど〜」

 

私が出したデザインを見て、布原さんは顎に手を当てながら吟味していた

 

「ふむふむ……これなら大丈夫だ、むしろこれに決まりだ!」

 

「良かったぁ~…、これで一安心だな、シャイン」

 

トレーナーさんもほっとした様子だ こうして私は自分の勝負服が決まったのであった。

 

そうして布原さんに色々デザインを修正して貰ったりした後、トレーナーさんがURAの勝負服を作るようなところに出してくれたと聞いた。

私の勝負服のデザインについては、また届いた時に話そう

 

 

 

後日、トレーナー室で再び私たちはぐでっていた、かれこれずっとレース映像を見ている、この前もこれでいろいろあったような気がしなくもないが、いいだろう

 

「シャイン、体動かすトレーニング行くか?」

 

突然ソファに突っ伏していたトレーナーさんが口を開いた、私はちょうど運動をしたいと思っていた頃だったのでソファから飛び起きてトレーナーさんに答える

 

「もちろん!!行く!!」

 

というわけで急遽トレーニングをすることになった私たちはグラウンドに来ていた、なんとピッタリのタイミングでここのトレーニング場が空いていたのだ、なんと運のいいことか。

トレーニング内容もいたって普通だった、いつものように元サブトレーナー(トレーニングメニュー担当)の力を見せつけるべく、とんでもなく厳しいトレーニングメニューを提案してくるトレーナーさんが鬼に見えるが、今でこそ私はこなせるだけの体力を手に入れたのでおとなしく従う

 

私がトレーニングをしていた最中、坂が見えた、坂と言えば私の超前傾走りが対応できていないギミックだ、坂に対応させるべく行っていたトレーニングはしばらく封印されてしまったが、もう結構経つ、そろそろ再開してもいいだろうと言う事でトレーナーさんに聞いてみたら「いいだろう、ただ無理だけはするなよ」と言われ、私は坂に対する超前傾走りの練習を始めた

 

始めたのはいいが、やっぱり坂で上体を下げることができない、下げれない理由もぶっちゃけ本当にわからない、怖いわけではないのだ、ただなんか、あと少しって言うところで体が止まっちゃうと言うか、何かに引っ張られるような気がするのだ

 

「(…勢い付けてから上体下げてみるか)」

 

勢いをつけてから上体を下げる、よく腹筋をする際に腕で反動をつけて起き上がる人がいるが、あんな感じだ、私は走っている最中少しだけ体を後ろにのけぞらしてから上体を下げた

 

すると綺麗に上体を下げることができたのだ、見えないが確かに私は坂を超前傾走りで走っている、坂に対応させることができたのでトレーナーさんに自慢してやろうと思い、上体を起こそうとした

 

「―――えっ?」

 

突如体が浮いた感覚に襲われ、足には走っているときには感じない感覚がある、ふと足元を見ると、私は脚が絡まっていた、絡まって、体勢を崩していた

体が転がる感覚がある、でも突然の出来事で頭が真っ白になっているのだろうか。

 

「あっ…おい…シャイイイイイイイイイイイン!!」

 

「あぐぁっ…!!」

 

そんな感覚の中で、私の脚に何かがぶつかる感じがした、柵だ、また柵にぶつかってしまったのだ。

私は今この状況を冷静に整理して考える、私は怪我をしてしまったのだ、しかもトレーナーさんにトレーニングの解禁をお願いした直後にだ。

今までも坂の超前傾走りでぶっ飛ぶことはあった、だがここまでぶっ飛ぶことはなかったため、今回の初めてのぶっ飛び方に思考が恐怖していた、ましてトレーナーさんにまた迷惑をかけてしまうと言う事が再び重くのしかかる

 

そうした罪悪感や申し訳なさの中、痛みに悶える事しかできなかった

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。