持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第二十二話 北風と太陽①

―――私は朝の4時くらいに目覚ましで目を覚ました、なぜこんな時間に目覚ましをセットしているのかって?前回のサウジアラビアロイヤルカップの時に早起きしたのをきっかけに初めてみただけだ、トレーニングまでの時間もたっぷり作れるしね、尤も今私は打撲してるわけなんだけど。

 

それに私の部屋は同室のウマ娘がいないから、こんな時間に目覚まし時計をかけても迷惑にならないのだ、最初こそ寂しいものだと思っていたが、一人だからこそのメリットを見つけると意外と便利なものだ、壁も厚いしね。

 

「んぶっ」

 

私は松葉杖をつきながら一人しか入れないくらい狭い洗面台で顔を洗う、顔を洗うたびに思うのだが、どうして水で顔を洗っただけで少し眠気が覚めた気になるのだろうか、不思議で仕方がない、特に調べる気も起きないので気にしてはいないが。

顔を洗い終わり、暴れに暴れまくった寝癖を10分くらいかけて直し、ベッドのある寝室に戻る、私のベッドがある方の壁にかけてあるカレンダーを確認し、今日の予定を確認すると気持ちがわくわくするのを実感した、今日は京都ジュニアステークスだ。

 

最初こそ出走できなくて悲しい気持ちに覆われていたが、この前のパーティのおかげである程度私の気持ちは明るくなっていた、特にサンの言っていた「出れなくても良かった、このレースを見れて良かったと思えるようなレース」が楽しみで仕方がないのだ、そのために今日は早起きしてレースを見る準備を万端にしようとしていた。

今日のレース展開はどうなるのだろうか、誰が勝つのだろうか、サンとノースブリーズの決着は付くのか、そんなことを考えているうちに時間はどんどん過ぎていき、とりあえず食堂に行くくらいの時間になった。

私は松葉杖を使ってゆっくりと立ち上がり、ドアを開けると、クライトが待ってましたと言わんばかりに立っていた。クライトは私を見るなり近づいてきて、私を背中に乗せた。

 

「えっちょっ!?どうしたのクライト!?」

 

「今日はサンのレース見んだろ、おぶってってやるよ」

 

「いや、ありがたいけど…松葉杖邪魔じゃない?」

 

「気にすんな、適当に俺の制服の中に刺しといてくれ」

 

そう言うとクライトは私を背負い、走り出した。この状態で走って大丈夫なのか心配だったが、クライトの足取りはしっかりしていて、問題なさそうだった、私が松葉杖を使わずに済むようになったのはいい事なのだが、なんだか申し訳ない気分になってしまった。そのまま数分走ると食堂に着いた、私は競バ場に行ってトレーナーさんと走り方や作戦の勉強をしながら見るつもりだが、この食堂にはテレビもついているので万が一のことがあったりしていざとなったらここで見るのもありだろう。

 

「これで少しはこの前の借りが返せたか、スタ公」

 

「うん、助かったよクライト、松葉杖で歩くのって周りの視線もあるし走れないしで苦手だったんだよね、ありがと」

 

「どうせこれから橋田のとこに行くんだろ?あとでトレーナー室までの道も運んでやるよ」

 

「助かる~!!」

 

私はゆっくりとクライトの背中から下りて、クライトの首元から松葉杖を取り出して食事を取りに歩き出した、松葉杖を突きつつトレーで料理を取るのももう慣れたもので、サクサクと取って行けるようになった、クライトは私の隣で同じようにご飯を取っていた、朝っぱらからコロッケ5枚に山盛りの城ご飯を食べようとするクライトのその姿は圧巻だった…

 

―――それからしばらく、食事を済ませた私たちは一度寮に戻り、各々持っていくものをカバンに詰め込んだ後、今度はトレーナー室に向かった、そしてトレーナー室の扉を開けると、そこにはパソコンに向かって仕事をしているトレーナーさんがいた。部屋に入ってもトレーナーさんはまだ私たちに気づいていないようで、カタカタというキーボードの音だけが響いていた。その音を聞いているだけで、私の胸が張り裂けそうなくらい緊張感を帯びているのが分かり、まるで心臓を握られているかのような感覚に陥る、やはり仕事をしているときのトレーナーは別の生物になっているような気がする、それくらいの集中力と圧迫感だ。

私は深呼吸をして心を落ち着かせてから声をかけた。

 

「ん…?ああ、シャインにクライト、入ってきてたのか、全然気づかなかったな…二人ともサンのレースを見るために来た感じか?まだレースまでは数時間もあるぞ」

 

それもそうだ、今はまだ朝の8時、レースが始まるもクソもないような時間だ。だが私に関してはトレーニングも出来ずに暇だし、クライトはもうリラックスする気満々にソファに寝転がっているから今日はトレーニングしたくない日なのだろう。

 

「まぁいいけど、サンと木村さんはレースの作戦だったりを立ててるだろうから邪魔はするなよ?」

 

「ああ、もうこのトレーナー室に呼んだぞ」

 

「え!?」

 

クライトがトレーナーさんの呼びかけにすっと答え、トレーナーさんが驚いたちょうどその瞬間、サンがトレーナー室に突撃してきた。飛び蹴りとともに登場したのはいつも通りの赤いポニーテールの髪にオレンジの瞳、サンはいつも通りの笑顔で

 

「私を呼んだマックライトニングってウマ娘は、ここかぁぁぁい!?」

 

確かにクライトが呼んだのには呼んだのだが、なぜこんなにもハイテンションなのだろう、まぁサンの事だしレース前を楽しんでいるだけかもしれない。

そんなことを考えながら、私はトレーナーさんと一緒にサンを出迎えて応援の言葉を投げかけた

 

「シャイン、今日のレース、絶対見に来てね、シャインの分まで走ってくるから!」

 

「当り前だよ!今日は頑張ってきてね!学園で今一番注目されてるチーム、キグナスとの初めての勝負、応援してるよ!!」

 

「太陽は絶対に逃げ切るよ、シャイン」

 

そう言うとサンは空いたままのトレーナー室から見える太陽に重なるように私に背中を見せつけた、逆光でサンが輝いて見える。サンは今こんなことを言っているけれど相手はノースブリーズ、大差勝ちするようなウマ娘にサンが勝てないと根っから思っている訳じゃないが、それでもやはり心配になる、私自身が出ていて勝てるかどうか不安になる相手なのだ。

 

「サン、友達から応援の言葉を受けるのもいいですが、レース前の打ち合わせも忘れないでくださいね」

 

私のトレーナーさんがサンに応援の言葉をかけ終わったあたりで木村さんがトレーナー室にやってきて、サンとは一時別れることになった、サンは少しだけ寂しい表情をしていたが、すぐにいつものやかましいサンに切り替えて自分のトレーナーの元へ走っていった。

 

その後はトレーナー室で出走時間が近づいてくるのを待っていたが、暇だったので私とクライトは食堂に行きテレビを見ながら時間を潰していた、すると食堂の入り口の方から大きな歓声が上がった。

 

「すごいよ!キグナスのノースブリーズさんが来てる!!」

「普段自分たちのチームだけで食事してるのに食堂来るなんて奇跡だわ!!」

「ノースブリーズさん、サインください!!」

 

「はいはい、落ち着いてください、私はどこにも逃げませんから」

 

「でもノースさんは逃げウマですよね!?」

 

「それはレースでの話です、皆さんからは逃げませんよ」

 

『キャァァァァァァ!!!』

 

歓声が上がった方を向くと、ノースブリーズが入ってきたところだった、私は急いでクライトの手を引いて食堂を出た、大勢の人が居る、そんな中で鉢合わせしてしまえばクライトとノースブリーズが喧嘩して面倒なことになってしまう。幸い私たちが食堂を出るルートには誰も居なくなっていたので事なきを得た。

食堂を出て数分経った頃、私たちは再びトレーナー室に戻っていた

 

「なんで急に食堂から出たんだよ?スタ公」

 

「いやぁ~…はは…ね?」

 

「ね?じゃねぇ、ちゃんと説明しろ」

 

…結局食堂から逃げてもクライトの質問責めに合う事になったあたり、トレーナー室で時間を潰すのが私達にはちょうど良かったのだろうか…

それからしばらく、クライトと私が暇を持て余していると12時くらいになってトレーナー室の扉が開いた。そこにはトレーナーの姿があった。

 

「あれ?お前ら帰ってきてたのか、そろそろ行くぞ、向こうで飯も食おう」

 

「トレ公はいいのか?」

 

「速水さんは桃食うから家で見るってよ、クライトを任したって言われたから飯もついでにな」

 

「へぇ、じゃあ寿司よろしく」

 

「勘弁してくれ、クライト」

 

それからほどなくして私たちはトレーナーさんの車に乗り込み、昼ご飯を食べに行ったのち、京都競バ場に向かった。そこにはすでに観客が溢れており、これから始まる重賞レースの予想を行う人もいれば、純粋に自分が好きなウマ娘を応援しに来ている人もみんないた。今日ばっかりは関係者席じゃなく観客席で見ると決めていた私は、京都ジュニアの出走時間までにいい席を取れるか心配になってきていた、観客席の方はトレーナーさんの方に任せて私はクライトと共に地下通路で待機することにした。

 

「それじゃよろしく、ちゃんと確保しててね」

 

「まかしとけ、じゃあクライト、シャインをよろしく頼む、打撲した脚に響くと悪いからな」

 

「おう」

 

競バ場に来てからもクライトは私の事をおんぶしてくれたのでこれ以上なく移動が楽だった、だがそのせいでクライトの体力が減っていくのが申し訳なかった。クライトは私よりも足が速いはずなのに私を背負って全力疾走するのは相当な負担がかかるはずだ。そう思いクライトを止めようともしたが

 

「黙ってろ、俺からすれば変に恩を残す方が気持ち悪い」

 

と言われて断られてしまった、別に京王杯の時競バ場に連れて行ったのは恩というものでもない気がするが…まぁクライトがそういうなら絶対に曲げないだろうから私はおとなしくクライトに運ばれていった。

 

 

私たちが地下通路についてしばらくして、パドックが終わったのであろうサンが歩いてきた

 

「あーーっ!!パドックにいないと思ったら!こんなところで待ってたの!?」

 

「うひひ、レース前に話しておきたいじゃん?」

 

「別に普通に観客席に呼んでくれればレース前に話しに行けるのに!」

 

「誰の目線もないこういうところで話しておきたいじゃん!」

 

そう言いながらシャインは私に抱き着いてきた、ほぼ半年くらい関わってきてシャインは本当に人懐っこいと思う、でもさすがにシャインがこんなことをする姿はあまり見たことがないから、シャインにとって私達は特別な存在なんだと思えてくる。

かくしてシャインとクライトは観客席に向かっていった、レース前と言う事で緊張していた私の心はすっかりほぐされてしまった。

そのシャインたちとすれ違う様に、奥の方からノースブリーズが歩いてくる

 

「今日の京都ジュニア、勝つのは私です」

 

「それはどうかな~?私を他の逃げウマ娘と同じに見ないで欲しいな」

 

「私からすればみんな同じです、黙ってさっさと入場してください」

 

本当に私たちに対する敵意を隠そうともしないノースをしわくちゃな顔で睨みつけた後、私は本バ場入場をした。

 

『ここで3番人気プロミネンスサンが入場しました』

『凛々しい顔ですね、やる気が感じ取れます』

 

実況が私の事を観客全員に紹介する、この感じも何か月ぶりだろうか、私はメイクデビューから出走していなかったので本当に久しぶりだ、入場した瞬間観客全員が湧き上がる、みんなが私の事を見てくれていることを実感して鳥肌が立つ

 

「おっ、シャインのトレ公もなかなかいい席取るな」

 

「だから任せとけっていっただろ?」

 

「さっすがトレーナーさん」

 

それから私は、バ場の状態を見るために軽く走った、今日は少し前から雨が降り始めて、今はやや重と言ったところだろうが、レースが始まるころには重バ場になっているだろう、今日のレースは少しだけ苦戦を強いられるかもしれない、というのも私は重バ場がなぜだか苦手なのだ。太陽だから雨が苦手、というギャグを抜きにしても苦手だ、理由はわからない

 

『さぁ、このレースで最も注目されているウマ娘、デビューしてからのレースはすべて大差勝ち、今世代の最強を担うかもしれないウマ娘、1番人気 ノースブリーズです!!』

 

私の後に続いてノースブリーズが入場した、観客はまるでレースが終わった後のような耳が痛たくなるほどに大きな歓声を上げて盛り上がっている、少しだけその風景に嫉妬しつつも、私はすぐにゲートインをすませる

 

「あ、皆さんここにいたんですね」

 

「木村さんもどもども~」

 

「今日のサンはどんな感じでした?」

 

「良くもなく悪くも無くです、緊張が彼女に良い効果をもたらしてくれて、キグナスに対抗できるのを祈るしか」

 

それからまもなくしてファンファーレが鳴り響き、サンを含めた出走ウマ娘達はゲートに入り始めた、やはりと言うかなんというか、ノースブリーズとサンだけは一番落ち着いてゲートインしていたように見えた

そしてすぐに実況の人がスタートまでの実況をし始める、とうとう私が出れなくなってしまったレースがスタートしてしまうのだ、私は今日のレース展開が心配でもう目も当てられていない。

 

『京都ジュニアステークス、今…』

 

実況の日との声に合わせて、ゲートの中にいるウマ娘達が一斉に構える

 

『スタートしました!!』

 

 

京都ジュニアステークスがスタートした、スタートは誰ひとり出遅れることなくスタートした。だがこのレースにおいて唯一の問題が起きていた

 

『おおっとスタート直後からプロミネンスサンとノースブリーズが飛ばしている!!』

 

スタート直後、なんとまだ最終直線でもないのにまるでスパートのような速度を出す二人がいた。サンとノースブリーズは同じ逃げの作戦を打つウマ娘、こうなるのはわかっていた。こうなってしまえばもうこのレースは二人の独壇場になるだろう、まず間違いなく後続は二人のペースに巻き込まれてスタミナを切らすウマ娘で溢れる。

 

「さすがの逃げだな、あの二人」

 

「いや、それが…キグナスの逃げはこれからが問題なんです」

 

「え?」

 

私は木村さんにそのようなことを言われ、ふとコースの方に目を戻すと、なんとあのサンが位置取り争いに負けていたのだ、先頭を取れていない。

ノースブリーズは前の方で余裕の表情を見せて加速している、サンにとってはかなりの大誤算だろう、同じ逃げの作戦を打っているのにここまで差が出てしまうものなのか。そう考えているうちにすでに二人は坂に差し掛かる、すると

 

「あっ!差しかえした!!」

 

「よしよし、あれならサンの野郎がハナを取ったまま行けるな」

 

しかし坂を抜けて数秒後、すぐにノースブリーズがサンの前に飛び出してしまった

 

 

「はっはっはっはっ…」

 

なぜノースブリーズは私より前に出れるのだろうか、能力の違いだと思う人もいるかもしれないが、確かに私のタイムとノースブリーズのタイムはほぼ同じ、良くて互角のはずなんだ、それなのになぜ私よりとびぬけて走れるのか私には分からない…

 

レースがスタートしてまだ数十秒しか経っていない、まだ時間はある、ノースブリーズのこの謎を解けば、必ず勝てるはずだ…

 

「(無駄です、これはあなたたちが使っているような武器とは違う、あなたはもう私を超えることはできない)」

 

必ず、その秘密を見破ってみせる!!

 

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