持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
「ねぇノース、もし万が一京都ジュニアステークスで負けたら、どうするつもり?負けたらキグナスにはもういられないんだよ、チームのトレーニングとかもあってまともに連絡取ることも出来なくなる」
「その時は…その時かな、ランスとは別れることになるけど、地方にでも行って何とかやっていくよ、私なら地方でも勝っていける」
私たちがいつも暇つぶしに来ている山の奥でそのような会話をする、何もそんな心配をしなくてもいいのにランスは今にも泣きだしそうな顔で私の事を見つめてくる。
「それに心配しないで、ランスは私がいなくてもやって行けるだろうから。ってなんで私が負ける前提で話してるの、私は勝つから」
「それもそうだけど、それでもやっぱり心配なものは心配だよ、私のせいでノースがキグナスにいられなくなるなんて…」
「ランス…」
木々の中を流れる風の音だけが聞こえる、二人とも黙りこくってしまった、この気まずい空気をどうしてくれようかと考えていたところ、ある約束をしようと決めた
「じゃあさランス、もし万が一私が負けたらさ、絶対にホープフルで勝ってよ、私の仇を打って」
「ホープフルって…スターインシャインが出るレースか」
「そう、もしランスの中の私が許してくれないようだったら、負けて悔しい私の気持ちをホープフルで勝って拭ってよ、それで許したげる」
「…わかった、絶対ホープフルで勝つから」
「あ、それと一つ、あくまでも私は勝ちに行くから負ける前提で捉えないでね」
「じゃあノースが京都ジュニアに勝ったら、クラッカー代わりにホープフルに勝つね」
「ふっ…なにそれ、それじゃ勝っても負けてもどっちも一緒じゃん」
そう言って手を差し出すとランスも手を差し出し握手をした、私は二つの約束をランスと交わした。私は一つ目の約束を破るためにトレーニングを重ね続けた。
スゥー…スゥー…
「(そうして見つけたのが、この走り方だ!!見るがいいプロミネンスサン!!これがあんたとの決定的な違いだ!!)」
「ぐっ…はぁ…はぁ…」
レース序盤の先頭を取り合う位置取り争いに負け、ノースブリーズより少し後ろを私は走っていた。昔シャインと走った際、シャインのスピードもなかなかのものだと思っていたが、ノースブリーズの速度はそれすらも凌駕するようなスピードで
「やっぱりこれで行くかい!?」
『プロミネンスサンの走りがさらに加速する!!少し走りづらそうな姿勢ですがこれは大丈夫なのか!?』
私は自分のペースをさらに乱してスタミナを減らす、当然減らすことに寄って数秒後には私の体に限界が訪れたが、私はこの武器の為に鍛えた根性で乗り切る、そうすることによってデッド・ポイントを抜けて疲労を感じなくなるゾーンに到達する、きっとこれでノースに多少は追いつくはずだった。
スゥー…スゥー…
「(いや…離される…何も変わってない…!?)」
なぜタイムが同じで能力も同じウマ娘でこんなにも違いが出るのか、見当もつかない、ましてノースはシャインで言う『武器』を使っているそぶりも見せていない、それなのになぜ?どうして私は離されるのだ!?
観客席でサンの走りを見ていたが、どうにも様子がおかしい。先ほどサンはセカンド・ウィンドを使ったのだろう、だがセカンド・ウィンドを使ってもノースに追いつけず、サンは掛かっているように私の目には見える、それにノースの方も別の意味でおかしい、スタートから武器を使ったサン以上のスピードで走っているのに、減速する可能性すら見えない走りだ
「ノースブリーズの走りは、必ず何かしらの武器を使っているはずなんですが…サンと一緒にレース映像を見て研究しても、それがいまだになんなのか判明していないんです」
「ノースブリーズの武器に対抗するには、サンがこのレースでセカンド・ウィンド以上の武器を見つけ出すしかないってこと?」
「恐らくは…そうかと、私の力不足で、今日までにサンを仕上げられなかった…」
レースがスタートしてまだ数十秒しか経っていないが、勝敗は既についていると言っても過言ではないレース展開、確実にノースブリーズが勝つレース展開だった。これまで大差勝ちしていたノースブリーズを見ていた観客なら尚更そのように思うだろう、そんな中でプロミネンスサンはひたすらに思考を張り巡らせていた
「(能力に差があるわけでもない…それなのに武器を使った私でさえ追いつけない速度を出している…それはなぜ…?)」
必死に考えた、だがどれだけ考えても答えは出ない、キグナスのウマ娘を舐めていた、これが本物の強さだ。私が本格的に負け始めるのは時間の問題だろう、もはや勝ち目はない。
ただ一つ、ただ一つだけ疑問が私の頭に引っかかって離れなかった、それはこのレースの最序盤、ノースウィンドがたった一度だけ減速したタイミングがあった事だ
「(あの時、私たちは坂を上っていた…坂では加速できない理由がある…?)」
「やはりあれだけの事を言うだけはあるな、ノースはこのレースで勝てるだろう、君もそう思わないかい?トレーナー」
「レースに絶対はない、まだわからないぞキングス、キグナスに泥を塗るまいと判断して走る彼女たちはどこまで行くのか見ていようじゃないか」
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
レース序盤こそ抜くことができたが、第一コーナーで前に行かれ、第二コーナーを回っても前に行かれてしまってはもうこのレースの展開を完全に掌握されてしまう、そう考えた私は小さい可能性に賭ける
「(そっちが前に出るならプレッシャーで減速させてやる!!)」
私は今まで威圧感を放つ練習などしてこなかったが、シャインの見よう見まねで一か八かノースブリーズに威圧感を送ってみる、一応放っている気にはなっているが、こんな付け焼刃のような武器でノースブリーズが減速したら苦労はしない
「(無駄だね!!攻撃に徹したウマ娘なんて隙だらけだ!!)」
私がいつまでも威圧感を送っていると、突然ノースブリーズの背中からオーラのような何かが出てくる、そのオーラを受けて私は減速してしまった、今からでも私を事故に巻き込むと言わんばかりの威圧感、耐えれるわけがなかった
「(しまった…セカンド・ウィンドが…)」
減速してしまった事により、自分の限界を超えて発生していたセカンドウィンドが崩れてしまった、多少は加速しても疲れはしないが、少しだけデッドポイントの時の苦しさが息を吹き返している。
「(ダメなの…?シャインに勝つって宣言までしたのに、私は負けてしまうの…?)」
スゥー…スゥー…
「(ん?何の音…?)」
向こう正面に入り直線を走っていて、私がノースブリーズに対抗する手段がもうないと諦めかけていたその時、突然聴覚が鋭敏になったのか、何かの音が聞こえ始めた。
普通ウマ娘は走っている最中空気が耳を
「(…これだっ!!間違いない!!これだ!!ノースブリーズの武器!!ついに見破ったぞ!!武器を使っていなかったんじゃない!!もうすでに使っていたんだ!!)」
「んっ…」
「どうかしたか?シャイン」
「ううん、なんでもないよ、トレーナーさん」
今日も同じようなレース展開でノースブリーズが逃げている京都ジュニアステークス、観客席のどこに行ってもプロミネンスサンを応援する人は全体の1割くらいしかいないだろう、そんな中でも私は見逃さなかった、サンが何かを思いつく瞬間、明らかに気配が変わる瞬間をしっかりと感じた。
「さてはなんかやるつもりだね?サン、私が出れなくても良かったと思える展開を、頼むよ?」
「(レース展開は私が支配している、もうここからプロミネンスサンが勝てる可能性はない、これでランスと一緒にキグナスにいることが出来て、実績も上がる。ここで追い打ちを…)」
スゥー…
「(うっ…)はぁっ…はぁっ…!?」
第三コーナーを回ったあたりで突然体が浮いたような感覚に襲われ、私の脚がもつれてしまい、バランスを崩す、プロミネンスサンとの距離ならばたとえ減速しても逆転の可能性はないだろう、だが何故だ?何故私が技術を使おうとした瞬間に身体が浮いたような感覚になったのかが疑問だ
『おっとここでノースブリーズに襲い掛かるウマ娘が上がってきた!!プロミネンスサンだ!プロミネンスサンが再び復活した!!どんどんその差を縮めていく!!』
そんな実況が聞こえ、私はレースに集中しつつ後ろの気配を探る、確かにウマ娘が近づいてくる感覚がある。バ鹿な、確かプロミネンスサンは自らのスタミナを追い込んでセカンド・ウィンドと呼ばれる現象を人為的に引き起こす戦術だったはずだ、先ほど奴が私を掛からせようとした際、逆にカウンターをくらわせてスタミナに止めを刺したはずなのだ、それなのになぜ上がってくるスタミナが残っているんだ!?
「だけど関係はない!私が見つけたこの技術で―――
スゥー…
―――がっ…なんで…」
もう一度…
「…くっ!また…!!」
もう一度!!
「…まただ!!」
もう一度!!!!
「(クソッ!!なんで!!なんで私が技術を使おうとした瞬間に体制が不安定になるの!!)」
「(無駄だよ…もうあなたの武器は完璧に見抜いた、返し技も掴んだ、もうあなたに勝ち目はない!)」
私はどんどん速度の下がるノースブリーズを後ろから追いかけ、あっという間にノースブリーズを躱した、そのまま最終直線に突入する
『最終直線に入りプロミネンスサンが逃げている!だがしかし後ろからノースブリーズも追いかけている!!だんだんと近づいてどちらが先にゴールするのか全く分からない!!』
「(技術が使えないなら私の元々の能力で勝ってやる!!京都ジュニアステークスは私が勝つんだ!!勝たなければならないんだ!!ランスの為にも!!)」
無我夢中で走り続けた、これに勝てなければキグナスに私の席がなくなる、そうなればランスとも関わりを持てなくなる、それだけは嫌だ、絶対にいやだ、さけなくてはならないのだ。
やはり私の方が素の能力は上だった、どんどんとプロミネンスサンが私に近づいてくる、いや、私が近づいていた
「よし!!これで私が追い越す!!」
「…………あなたは一つ私の事で忘れていることがある」
私がプロミネンスサンの真後ろに近づいたあたりで、プロミネンスサンの声が聞こえた、幻聴だろうか、だがしかし確かに私の耳に聞こえたその声。忘れていることとはなんのことだ…?
「私は減速しない逃げウマ娘、プロミネンスサンだ!!いずれはあのサイレンススズカにも負けない逃げを世界中に見せつける最強の逃げウマ娘だ!!自分の武器の弱点を看破されたあんたにもう勝ち目はないんだ!!」
「何を……」
プロミネンスサンの左目が確かにこちらを向いていた、幻聴などではなく確かに聞こえたその言葉。その言葉を言い終わった後、プロミネンスサンはスタミナ切れのはずの体で再加速した、その速度は今までよりも圧倒的に速く、セカンド・ウィンドを人為的に発動している時よりも確実に速かった。
『坂を上って再びプロミネンスサンが加速する!もう誰も捕まえられない!!今大差でゴールイン!!キグナスが初めて黒星を付けられました京都ジュニアステークス!!…あっ…まるで今この瞬間、プロミネンスサンの勝利を祝うかのように天気も雲一つない晴れとなりました!!』
「サン…やりましたね」
私はゴール板を駆け抜けてからもしばらく止まれず、危うく二周目に行きかけたところでやっと止まれた、電光掲示板を見ると、しっかりと私の番号が1着の位置に表示されていた、大差勝ちをした、あのキグナスのノースブリーズに大差で勝ったのだ、シャインたちの方を向くと、シャインがこちらに大きく手を振っていた
「サン!!見れて良かった!!私、このレース見れて良かったよ!!」
歓声の中でもしっかり聞こえたシャインの声に、私は喜びの感情が高まる、私は親友が出走できなかったとしても見れただけでよかったと思えるレースを作り上げることができたのだ。北風と太陽はやはり太陽の勝利で完結したのだ。
「…サン、どうやってノースブリーズの武器に打ち勝ったの?ってか、まずノースブリーズの武器って、なんだったの?」
私はシャインにそう聞かれる、レースの直後なので話す体力はあまりないが、簡潔にシャインに説明した
「ノースブリーズの武器、それは走っている最中の息遣いだよ」
「息遣い?」
「うん、走っている最中、空気が動くような音が聞こえて、その音の元を探してたら、ノースブリーズが深呼吸をして自分のスタミナ消費量を減らしていたの、だからスタミナを気にせずに飛ばすことができた。自分のスタミナ消費量を増加させて加速できる状態にする私とは真逆の武器、そしてそれをレース中見破った私は、ノースブリーズが息を入れるタイミングで圧をかけて、減速させたってわけ」
坂で減速したのはおそらく坂を早く登る方法に達していたのだろう、走り方が極端にピッチ走法になっていた。それでも私に追いつくことができなかったのだ、そのおかげで私は彼女の深呼吸に気づくことが出来た。
最初に圧を送った際はノースブリーズが息を入れてなかったのでカウンターされてしまったが、ノースブリーズは息を入れるコンマ数秒だけ隙が生まれる、私はそこに圧を叩きこんだ。
まさか逃げの作戦を打つ私が威圧感での妨害策を使うとは思ってもいなかったが、シャインのレースを見て威圧感の出し方をある程度学んでいたのが功をなした。
それと私がスタミナ切れの状態から再加速できたことだが、これは私も良くわからない、ただコーナーを綺麗に曲がろうとしたら無駄のないコーナーリングをすることが出来て、ある程度息を入れてスタミナを回復することができたのだ。
「すごいね、威圧感で減速させるなんていつ練習したの?」
「いや、それは威圧感に関する先生がいると言うか…ははは」
レース後のインタビューも終わり、私は控え室に戻った、インタビューの後にも取材陣に囲まれるかもしれないと思ったが、特にそんなことも無くレースを無事に終えることができた、なんでもみんなが私の負担を減らそうと張り切ってくれたらしい。特にシャインには感謝しなければいけない、なんでも松葉杖をほっぽって一人で悪質な質問をする取材陣をブロックしていたようだ。
ウイニングライブも無事に終わった、木村さんも喜んでくれた、私は勝てた…のだが、何か変に不安な気持ちが湧くのは気のせいだろうか。レースが終わった後からそんな感情が気持ち悪く付きまとう…気のせいだといいんだけど…
「はぁ…はぁ…お願い…キングス…私をキグナスにいさせて…私は…キグナスのトレーニングだから強くなれたのに…速くなれたのに…」
レースが終わってすぐ、歓声がプロミネンスサンに向いている中でわたしはキングスとトレーナーさんを見つけてすぐに懇願する、もしかしたら涙も流していただろうが、そんなことを考える余裕すらなかった。
「『もし今回の勝負に負ければルール違反の黙認は無し』だと、トレーナー君は言ったのだろう?ノース、キグナスは他のウマ娘を威嚇するような弾圧行為は禁止だ、そのルールを犯した君が座るようなキグナスの席はない。なに、別に死ぬわけじゃないんだ、またチーム探しでもしたらどうだい?」
私に突き付けられたのは無情な現実だった、だけど私は引けない、私がいなくなればランスが一人で突っ走るかもしれない、だけど私はルールを犯したからこのチームにはいられない、私はこのチームのトレーニングじゃなければ強くはなれない、そしてキグナスはほかのチームじゃやらせてくれないようなトレーニングを行っている。ならランスもキグナスをやめればいいじゃないかと思うだろうが、私一人の理由でランスの地位を、人生を台無しにはしたくない。
八方ふさがりな状態での希望は、私のルール違反が無条件で認められることだった。だがそんなことをキグナスが認めるわけもなく
「静かにしろ、ノースブリーズ、お前はもう負けたんだ」
トレーナーさんが強い声でそう言う、それだけ言って二人は観客席から姿を消してしまった
「待って!待ってよ!!お願い!!待ってってばぁ!!待って……おねがいだからぁ…!!おねがい…」
私は観客がプロミネンスサンに注目している中、観客席の端の方で一人静かに絶望し泣き崩れていた。