持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第二十四話 暴風注意報!!

 

授業が終わってトレーニングが始まるまでの休み時間、トレセン学園には色々なウマ娘がいるが、この時間だけは万全の体調で友達と話せたりするため、至高の時間だろう。その時間を当然私は親友と話す時間に費やしていた、廊下を歩きながらくだらない話を繰り返す

 

「それでさ、私三平方の定理なんて完全に忘れてたんだけど、サンは覚えてた?」

 

「いや、普通に覚えてたけど…ウソでしょシャイン?」

 

「俺もだな」

 

「…あそうか、それが普通なのか」

 

こういう会話をするときだけは私の中学時代を呪いたくなる、私は中学はまともに勉強していなかったので中学の範囲が出てくると本当にわからない、といっても『呪う』と言う表現はちょっとしたギャグも込めているのであまり真に受けてほしくはない、私はわからなくても教えてくれる親友がいるので満足だ。

 

そんな会話をつづけながら、私たちは校舎と校舎をつなぐ廊下に出た、今日はレースが終わった後の京都ジュニアのように晴れていたのでとても涼し…いやめちゃくちゃ寒い風が私たちを出迎えてくれる。中庭の景色を見ても大樹のウロに誰かが刺さっているだけで特に変わったところはない、大樹のウロとは、ウマ娘達がレースに負けた時の気持ちを吐き出す一種のパワースポットみたいなところだ…え?大樹のウロに誰かが刺さってる?

 

「…え?サン、ちょっとあれ…」

 

「ブハッ」

 

私は明らかにおかしいと思った景色を指さして二人の視線を誘うように指をさす、私がなぜに指をさしたのか、いやこれに関しては私別に悪くないよ、だってあれ気になるでしょ、大樹のウロにウマ娘ぶっ刺さってんだから。

 

「…あれ引き抜いた方が良いのかな?でも見た感じもがいてる感じもないし…死んじゃってる?いや、にしてはパンツが見えない様にしっかりスカート掴んでずっと上に腕上げてるな…え、本当に何あれ」

 

サンが冷静にぶっ刺さってる人を分析して私に質問を投げかけてくる。クライトはめんどくさい空気を察したのか立ったままアイマスクを付けていないふりをしている、逃れ方舐めてるでしょ。私がアイマスクをひん剥くとレモンを口に突っ込まれたような嫌そうな顔でこちらを見ていた、無理やりにでも付き合わせようと思う。

 

とりあえず私たち三人はおそるおそるそのぶっ刺さっているウマ娘に近づいてみる、やはり先ほどサンが言ったように、生きているのは確かなのだが、抜け出そうとするそぶりも何もしないので目的が不明だ、それとも誰かに埋められてしまって、この体制じゃ抜け出せないとかだろうか。私とサンがおじおじしていると、突然クライトが「何してんだお前」と言って足を引っ張った、最初こそ私たちは止めたが、すぐにそのウマ娘は自分で地面から抜け出そうと大樹のウロのふちを掴んで力んだ。

 

「えっ…あなたは…」

 

そうして大樹のウロから抜け出てきたのは、先日京都ジュニアステークスでサンと戦ったノースブリーズだった、ノースブリーズは顔にたくさん土を付けながら、まるで三日間徹夜したような顔で佇んでいた。ノースブリーズの顔を見た瞬間こそサンに負けたことを悔やんでいるのかと思っていたが、どうやらそんな様子ではないようだ。

 

「…なによ」

 

私たちがちょっとだけ驚いていると、突然ノースブリーズが口を開く、その声すら、前にゲームセンターや食堂で聞いたような高貴そうな声とは違う、ボロボロにチューニングしたギターの弦のような声だった。これは本当に何かあったようだ

 

「いや、なんで大樹のウロに突き刺さってんのかなって…」

 

「それにキグナスのトレーニングはどうした?天下のキグナスならこんな時間にはトレーニング始めてんだろ」

 

クライトの質問に私達もうなずく、ノースブリーズはキグナスのウマ娘だ、そしてキグナスはとても厳しいトレーニングを行っていると聞く、厳しいトレーニングなのにこんな時間にまだトレーニングを初めていないのは変だ。その質問を聞くと、ノースブリーズは今にも泣きだしそうな顔で語りだした

 

「…キグナスは、追い出されたわよ」

 

 

『追い出されたぁ!?』

 

 

全員で発言がシンクロした、そりゃそうだ、チームを追い出されるなんていう事があるだろうか、いや、もし京都ジュニアで負けたのがきっかけで追い出されたのだとしたらさすがにもうちょっとノースブリーズの才能を信じたりするはずだろう、それなのになぜ即時脱退なのか、理由を聞いてみた。

ノースブリーズが言うには、キグナスは他のウマ娘に対して威嚇する事、私達でいうこの前のゲームセンターの出来事だろう、そういう事をキグナスは禁止しているらしい。尚且つキグナスはルール違反に厳しい、そのルールを破ったノースブリーズは、京都ジュニアステークスでサンに勝てばキグナスに残る、負ければ脱退と言う事を決められていたらしい

 

そして無論、京都ジュニアステークスはサンが制した、サンに負けたことによってノースブリーズはキグナスを追い出されたらしい

 

「私が勝ってしまったせいでキグナスから…」

 

「…うるさいわよ、負けたらキグナスから脱退することになる事実をレース前に言って、あなたに手加減されて勝つなんて御免だわ。そもそも言ったところで手加減なんてする気はないでしょうけど」

 

「まぁね」

 

「それで…なんで大樹のウロに突き刺さってたのか聞いていい?綺麗にまっすぐぶっ刺さってたけど」

 

「…する事が無かったから、かしら?なんかもうランスとまともに話せなくなってしまったショックと負けてしまった悔しさでどうにでもなれって感じで、それで大樹にぶっ刺されば何かやることが思いつくんじゃないかなって思って刺さってみたわ、ここってダンゴムシ生息してるのね」

 

どうしてそうなったのかは謎だったが、やることなくて暇じゃないか、という事よりそれくらいの事をしてしまうほどに追い込まれているのだろうと私は感じた。それもそうかもしれない、長年の親友とまともに連絡も取れなくなってしまったショック、そして自分を強いウマ娘としてくれていたトレーニングすらも出来なくなってしまっては、もう競争ウマ娘として終わりと言っても過言ではないかもしれない。だがそんなことがあるだろうか、いくらキグナスのキツいトレーニングと言っても、全部のチームが全部のチーム、そのトレーニングをオーバートレーニングだと言い張りはしないだろう、それで私は一つの提案をした

 

「私達と次のチーム探しをしようよ、ノースブリーズ…あぁいや、これからは呼びやすいようにノースって呼ばせてもらうね、もしこれで良いチームが見つかれば、多少はキグナスも見直してくれるんじゃないかな」

 

「…話を聞いてたかしら、キグナスのようなトレーニングを容認してくれるようなチームなんていない―――

 

「まだわからないよ、学園中のすべてのチームにそのトレーニングメニューを見せてみた?それまでは断言できないと思うけど。どうかな、私達と一緒に次のチームを探そうよ」

 

ノースの言葉を遮ってまで私はチームを探すことを勧めてみた、ノースはしばらく苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、しばらくして私の言葉に対する答えを出してくれた

 

「…これで見つからなかったら、容赦しないわよ」

 

「あったりまえ!!任せちゃってよ!クライトとサンも良いよね?」

 

「ただ一つだけ聞いていいかしら…なぜあなたは、いやあなたたちは私の事を手伝おうとしてくれるの?元々は敵だったのよ?それもかなり酷い言葉も言った、それなのに何故私を助けるの?」

 

「そりゃぁ、サン?」

 

「ねぇ?シャイン」

 

「そして間に挟まる俺も、なぁ?」

 

『同じ世代のライバルに強くあってほしいからだよ』

 

「…バ鹿じゃないかしら、敵に塩を送るなんて」

 

「何も親の仇ってわけじゃないんだから、レース以外では普通の女の子なんだからさ」

 

二人とも迷うそぶりを見せず静かにうなずいてくれた、そうして私たちはノースの次に所属するチームを探すことになった

 

さて、まず最初にどうしようか、今回私たちが探さないといけないのは『キグナスのトレーニングを真似してくれるチーム』だ、となれば大きなチームは逆に悪手となる、大きいチームこそ担当ウマ娘の体調管理に気を使っているだろうから、まず厳しすぎるトレーニングは行わないだろう。となれば小さいチームと行きたいところだが、それこそまた悪手になってしまう、小さいチームはトレーニングは行ってくれるだろうが担当ウマ娘への対応がどうかが分からない、私たちがこの学園に入学してくるより前に、担当にひどく当たるトレーナーがいたらしいが、それを心配してしまう。そんなことを考えていると、その様子を見たノースが心配そうに話しかけてくる

 

「…ずいぶん考えているようだけど、やっぱり諦めるかしら?」

 

「まっさか、とりあえず学園でメンバー募集してるチーム探してみようか」

 

と言うわけで私たちは食堂に向かった、なぜ食堂なのかって?それは食堂にメンバー募集のポスターを張るチームが多いからだ。私も最初こそチーム探しで食堂をめぐることがあったが、今ではすっかりマンツーマン形式でトゥインクルシリーズに臨んでいる。

とまぁ私の話になってしまったが、今はノースの次のチーム探しだ、とりあえず食堂の壁を見て回ると、色々なチームの勧誘ポスターがあった、やはり胡散臭いチームのポスターも多い…

 

左から見ていき、右に行くにつれてだんだん怪しくなっていく、特に一番右のガチムチファイトクラブとかいう怪しいチームなんかもう見るからにヤバイ雰囲気しか醸し出していない。だがそんな中で、私は一枚のポスターに目が止まった。

 

「ほらほら見てノース『君も今日からウマ娘!?』だって、なんかよさげなチームじゃない?どうよどうよほらほら」

 

「…いや何このチーム、私たちは元からウマ娘でしょ、却下よ」

 

「オメー意外と図々しいやつだな」

 

「まぁまぁクライト、私達の方も手分けして何かしらよさげなチームを見つけてこようよ」

 

「応」

 

一つの塊になってチームのポスターを探していたのでは非効率だったため、私たちは一人ずつ分かれて色々なチームの勧誘を探し始めた

 

「このチームはどう?」

 

「『ウマ娘ダート開拓チーム』って何…私芝の適性だから走れないわね…」

 

「こっちはどうだよ」

 

「『天下統一』……論外かしら、というかこれ短距離のチームじゃない、私の適性は中長距離よ…」

 

「つったってよぉ、良さげなチームなんざメイクデビューの時期にほとんど席埋まっちまったぜ?俺たちも手伝うって言っといてあれだけど本当にあんのかよスタ公」

 

「一つくらいあるでしょ、というかあってくれないと困る」

 

手分けしてポスターをいろいろ閲覧し始めてから一時間、流石に時間も経ちはじめていたのでクライトとサンはトレーニングに向かってしまった、私はというと、未だノースと一緒にチームの勧誘を探していたのだが、全然よさげなチームが見つかる気がしない。このチームなら行けるか?というチームを少しだけ見に行っても、キグナスのトレーニングを行わせてくれるようなチームはどこにもいなかった。ノースの方も私の体力に引きずり回されてヘロヘロになっているのが目に見えてわかる、これ以上はノースの体調にも影響を及ぼしかねない、だけどここで諦めてしまってはこのままずるずると堕ちていくだけだ、何とか見つけ出さなくては。と私が決意を固めると不意に声をかけられた。

 

「チーム探してるの?」

 

「あっ、あなたは…」

 

振り返った先にいたのは青い髪の毛に軽くグラデーションのかかっているように見えるツインテール、ああそうだ、この子…いやこの人?はツインターボさんだ。

ツインターボ、後先考えない圧倒的な逃げが特徴で、大体のレースは最終的にスタミナが切れて所謂『逆噴射』をしてしまうのだが、時々そのまま逃げ切ることがある人だ、逆噴射を連発するウマ娘ではあるのだが、その根性はおそらく私やサン、クライトよりも強大だろう、なんていってもあのライスシャワーさんに黒星をつけたこともある、実力があるのは確かな人だ

 

「ダブルジェットさん…!」

 

「ツインターボ!!なんでみんなターボの名前間違えるの!?」

 

なんだか初めて見た気がしない掛け合いを見た後、ツインターボさんは自信ありげに自分の事を親指で指さし、自分の知り合いのチームにノースが来ないかと言う事を述べた。確かにレジェンドのツインターボさんが勧めるチームなら心配は特にいらないだろうが、そのチームがキグナスのトレーニングを行えなければ意味がない、というわけで私たちは、ターボさんの知り合いのチームに連れて行かれた。

 


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