持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第二十五話 真っ白な空

 

「ここだよ!チームアルビレオって言うの!それじゃあターボはちょっとだけ用事があるからじゃーねー!」

 

その知り合いのチームに着くなりターボさんはそう言ってどこかに走り去っていった、アレが生ターボエンジンか…

私たちの目の前にはきれいに磨かれた様子があるトレーナー室の外壁、そして埃一つ見当たらないドア、そして『アルビレオ』と書かれた看板が掛かっていた。私はトレーナー室に入る前にとりあえずアルビレオについて調べてみたかったので、ウマホを取り出して調べてみる。するとちゃんとメンバー募集中で、募集条件には「逃げウマ娘、先行でも可」と書いてあった。それよりも私が注目したかったのはそのトレーニングだ、トレーニング方針について調べてみると「個人個人のやりたいトレーニングを尊重」と書いてあった、これをノースに見せてみたが「どうせ尊重とか言っといてやんわり却下してくるわよ」といつもながらに鼻をプイっとした、それでもそのしっぽは絶え間なく緊張しているように揺れている

 

「それじゃ、とりあえず方針としては問題なさそうだし入ってみようか」

 

「でも私やっぱり不安よ、私はチームに入らなくていいから…」

 

「何言ってるの、ここまで来たんだから所属希望出してみようよ」

 

「やっぱりいいって…」

 

「…それじゃあどうする?他のチーム探してみる?もうここ以外にない気がするから行った方が良いと思うけど…」

 

「でも!これでもしトレーニングの許可が出なかったらどうするのよ!あなたが言ったみたいにもうここ以外にいいチームはないのよ!?私はトレーナーなんてつけなくても自分でトレーニングをできるから!あんたのやってることはすごい余計なお世話だってわかってる!?」

 

ノースが急に怒り出す、普通の人から見れば情緒不安定に見えるかもしれないが、数日前まで彼女は学園内で一番注目されているチームの中にいて、そのプレッシャーを耐え続けてきた。前に食堂で見かけた時も、表情こそ笑っていたがしっぽはぴくぴくとストレスを感じているのを見たし、それにノースはそこから強制脱退させられる流れをこの二日間に詰め込んでいる、いくらなんでも環境が変わるスピードが速すぎる、そのショックや焦りを集めれば、人が死んだ後のショックにも匹敵するかもしれない。尚且つ今日は一日中あるかもわからない希望にずっとすがっている、それならばここまで感情が起伏するのも無理はないだろう。

 

「…ノース、サンに負けた理由はなんだと思う?」

 

「分からないわよ、分からないからこうやって強くなるためにトレーニングしてリベンジしようとしてるんじゃない」

 

「ダメだよそれじゃ、負けた理由を追い求めないと」

 

「負けた理由なんてわからないわよ!たまたま負けただけでしょ!!」

 

「…レース中、何か変な展開が無かった?」

 

私はレースが終わった直後にサンのトリックについて聞いていたので、そう質問をしてみる、これでノースが気付ければいいのだが

 

「私がレース中に使っていた技、使おうとするたびに体制が不安定になったわね、でもそれは私の足運びが悪かったからよ、だからそれが負けた理由、だからトレーニングをしたいの、でもどこも受け入れてくれないの!」

 

「確かに足運びが悪いのも負けた理由、だけどサンが妨害をしていると言う可能性を頭に入れてないの?それに最後、あなたは技術で勝負をするのをやめて、根性のみで突破しようとした。それ自体は悪い作戦ではないけど、あなたは根性に任せすぎて何も見ていなかったのよ」

 

「何も見ていなかった…?妨害をしている…?」

 

「今回だから教えてあげる、あなたが体勢を崩したのはサンがサン自身の技術で妨害していたからよ、それも負けた理由、それを追い求めないで勝利は無いんだよ」

 

「負けた理由を…追い求める…」

 

その言葉を受けてノースはハッとする、クライトの言葉は私の心に深く刺さっていたのでノースにもきっと響くと思っていたが、どうやらその予想はあっていたようだ、これで少しは落ち着いてくれるといいが

 

「…わかったわよ、行けばいいんでしょ?行けば」

 

「じゃ、行こっか」

 

「私が先にいくわよ」

 

ずかずかと私の前に出てきてノースがトレーナー室のドアを開ける、ドアを開けるとそこには優しそうな雰囲気のトレーナーさんらしき人、そして誰もいないソファ…え、誰もいない?

 

「…?え誰、君たち?」

 

「アルビレオのトレーナー室はここで間違ってないかしら?」

 

「え、うん、そうだけど」

 

「所属希望者よ、募集はしてるでしょ?」

 

なかなか偉そうな態度でかかるなぁなんて思いながら私は話を聞いていた、アルビレオのトレーナーさんは面接の準備でも始めたのか資料をまとめ始めた、その途中で私も所属希望者かどうか聞かれたが、私はトレーナーさんがもういるので丁重に断っておいた。

 

「あの、他のメンバーはいないの?」

 

「うん、所属しても結局みんな抜けてっちゃってね。あ、そうだ、面接する前に名前を聞かせてもらってもいい?」

 

「ノースブリーズよ」

 

「ノースブリ…え!?ノースブリーズ!?」

 

アルビレオのトレーナーさんは椅子から転げ落ちて驚いた、まぁこの反応も無理はないか、ノースは少し前に2着とはいえ実績を残しているし、そして何よりキグナスのウマ娘で名が通っているのだ、そのウマ娘が自分のチームに所属したいと言っている状況は人生で1回2回感じるか感じないかの衝撃だろう。ネットを見てもキグナスはノースブリーズの脱退を公にはしていないらしいし、なおさらこのような反応になっても無理はない

 

私たちはアルビレオのトレーナーさんにノースブリーズが脱退したこと、そしてチームの行先に困っていること、キグナスのトレーニングを行わせてほしい事などを説明した、アルビレオのトレーナーさんは最初こそ驚いていた反応だったが、最後の方にはすっかり落ち着いて話を聞いてくれていた。

 

「ふむ…そうか、ノースブリーズさんは―――

 

「ノースでいいわ」

 

「…ノースはキグナスを追い出されたと、それで『個人のやりたいトレーニングを尊重する』僕のチームに所属したいと」

 

「そういうこと、そして…」

 

ここでノースはキグナスのトレーニングメニューを書いた紙を差し出そうとしたが、差し出す直前で手が止まってしまう、その手は震えていて、やっぱり不安が抜けきっていないのだろう。

ここで私はアルビレオのトレーナーさんに気付かれないようにノースの背中を少しだけ指先でひっかいてあげた、もちろんいたずらのつもりはなく、応援のつもりだ。ノースは指先の感触にぶるりと体を震わせ、深呼吸をしてからトレーニングメニューを渡した

 

「…そして、キグナスのトレーニングメニューは大体記憶で覚えている限りこれよ、どう?私にこのトレーニングを行わせてくれるかしら、それともオーバーワークだと言ってやめさせるかしら」

 

「おお…こりゃずいぶんすごい密度だなぁ」

 

なんかホント、この娘はキグナスとシーホースランス以外には態度が変わるなぁと思いながら私もトレーニングメニューの手書きコピーを見ようとしたが、ノースに「キグナスの企業秘密よ」と言われて奪われてしまった、ふえ~。

 

「…いいよ、このトレーニングを行っても構わない」

 

「えっ…ほんとに…!?」

 

私も驚いた、先ほどちょびっとだけ見えたキグナスのトレーニングメニュー、恐らく2割ほどだが、それでも私のトレーニングの10割に届きかけていたような内容だった、つまりほぼ無茶なオーバーワークだ、それでもキグナスのウマ娘はこなしてしまうのだと言う恐怖の感情と、このトレーニングを行うのを認めてくれるアルビレオのトレーナーさんに驚いている。

 

「まぁちょびっとだけ手を加えさせてもらうけどね、その修正も君の思う様にならないなら却下してくれて構わないよ」

 

「すご…このトレーニングを認めてくれるチームが本当にあったなんて…!!」

 

「まぁ僕のチーム知名度もないからまともに宣伝も出来てないしね…チーム探してても気付かないでしょ…それで、どうするノース、あとは君の意思次第だ」

 

アルビレオのトレーナーさんはノースに向きなおして真剣な表情でそう聞く、ノースはちょっと後ろにのけぞって幸せを噛みしめていた、なんだかんだ言ってノースもしっかりうれしいって感じる子供なんだと感じる、そうして数秒経ってからノースは背中を前に戻し

 

「……当然よ、いや、当然です、これからよろしくお願いします、トレーナーさん」

 

「あ、喋り方は前の方が僕は喋りやすいかな…僕は森田、これからよろしくお願いね、ノース」

 

「いよっし、決まったね、やっぱりあったでしょ?ノース!」

 

「えぇ…!」

 

そんなこんなで私の方も幸せを噛みしめることにする、昼間っからぶっ通しでチームを探していたので達成感もダンチだった、いや~よかった。

なんて考えているとノースが私の手を引いて外に行こうとする、伸びをしていて聞いていなかったが、今日はとりあえずトレーニングを休みにしようと言われたらしい

 

「よかったね、チームが見つかって。これできっとこれからも活動できるよね」

 

「えぇ、あ、そうだ」

 

ノースは突然顎に手を当てて考える動作をする、数秒うんうんと悩んでから何かを決めたように姿勢を戻してから、ちょっと話に付き合ってくれと頼まれたので、快く承諾をした

 

私はノースに手を引かれるままどこかに連れて行かれる、どこかお出かけするのだろうと思っていたが、街中に何件もあるような、出かけるに王道っぽい店をどんどん通り過ぎて私たちはどこかに向かっていた、あっという間にどこかの山の中に連れて行かれてしまった、トレセンからさほど遠くもないはずなのにこんな山があったなんて初めて知ったので最初は少し慣れない光景に困惑した。

話を聞くとここはノースの秘密基地なような場所だと言う、なんでもシーホースランスと一緒にいつも休憩に使っているらしい、しかしそんな場所に私が来ていいのかとも思ったが「あなたには恩があるからね」と言われてそのまま森のさらに奥に招待された。森のさらに奥を抜けていくと、一際大きい空間に抜け出した、そこにある木にはハンモック等が付けてあって、寝ながら休憩できるようになっている。

 

「いらっしゃい、私の…いや、私たちの秘密基地へ」

 

「すごい…ここだけやけに風の通りが良くて涼しい…いや冬だから普通に寒いんだけど、それでもなんだか優しい寒さって感じ」

 

ノースは慣れた足さばきで木を駆け上り、かけてあったハンモックに寝転がってしまった、私の方もノースを見習って木を登りたかったが、いかんせん打撲している身なので一番下のハンモックで我慢する。一番下でも途中足を踏み外して大変な事故を起こしかけたが、こういう時の為に備え付けてあると言うクッションが私を助けてくれた、そうして何回も挑戦しているうちにやっとハンモックのところまで登ることができた。

 

寝転がると空の明るさが全身に降り注ぎ、心地よい風が肌を撫でる。そうして数分ハンモックに揺られていると、ノースが口を開いた

 

「…シャインさん、本当にありがとう、今日の出来事が無かったらきっと私はいつまでも過去を引きずって、いつまでも歩み始めてなかったと思う。でもあなたが助けてくれたからアルビレオに所属できた、本当、ありがと」

 

「別に気にしないで、最初に言った通り私は同世代のライバルにずっと強くあってほしいからあえて塩を送ったんだよ」

 

「あそ…気にしなくていいなら気にしないけど。

 

私はこれからキグナスじゃなくアルビレオのウマ娘として活動を始める、まだあのチームも完全に信用できるわけじゃないけど、そこら辺に関してはこれから確かめていくわ。仮にアルビレオが信用できないチームで、私が脱退することになっても、今度は一人でチームを探すために立ち上がるわ」

 

「ひひっ、その言葉を聞いて安心した、これからはもう心配いらなそうだね…」

 

空を見上げていた視線を横にずらしノースが揺られている様を見つめる、これ以上ないくらいにハンモックが横揺れしている。そのまま私は今日一日中動いたことによって訪れた眠気に誘われるまま目を閉じた、別に薄着をしているわけではないし、凍死することはないから安心して欲しい。

 

「それともうひとつ言っておくわね、キグナスについてだけど、シャイニングランっていうオレン………

 

 

…あれ、シャインさん?ああ、寝ちゃったの…」

 

高さが4mはある場所からシャインさんを見下ろす、見下ろすと言う言い方を使うとあまりよろしくないかもしれないが、別に悪意は込めていない

 

「…ランス、私達、間違ってたね…この人たちはたまたま才能があったわけじゃない…確かに努力をしてあそこまでになったんだよ…私たちが手を出していい相手じゃなかった…」

 

今更こんな森の中にいるのに喋ってもキグナスの元でトレーニングをしているランスに届くわけもないが、私はただ、今思ったことを正直にランスに伝えようとした。

しかしここで私は自分自身の言葉に間違いを見つけた、「あぁ、また間違っちゃったな」と思い、私は森の上側に見える真っ白な空を見つめながらぽつりとつぶやいた

 

「負けた理由を追い求めろだったわね、手を出していい相手じゃないわけじゃなかった、私たちがこの人たちに劣っている理由を求め切れていなかったのよ。次は勝ってみせるから、覚えといてよ、私のライバル」

 

 

心が空っぽになっているのを感じる、昨日からずっとこうだ

授業が終わってからすぐにトレーナー室に呼び出され、その後はずっとトレーニングだ、ノースに連絡しようとしても、その間の休憩時間では水分補給とストレッチ以外の事は許されないし、ウマホはトレーナー室に預ける約束になっている、なにより連絡先はキグナスのメンバーとトレーナーさん以外消されている。孤独だ、小さなころから一緒に連れ添ってきた親友と何一つ話せないのだ、だけど私はノースとの約束を守るためにトレーニングを続ける、私は仇を取るためにホープフルに勝つんだ。

 

「それでは私はこれで失礼します」

 

「帰ってからも食事のメニューを送るのを忘れないように、それとすでに抜けたメンバーの事は忘れろ、ランス」

 

ノースの事を忘れろと言われるが、そんなこと出来るはずがない

 

「ふぅ…まだ門限まで時間あるかんじかな、もしかしたらあそこにいるかも」

 

時計を見るとまだ門限まで1時間近くあった、それならば私たちの秘密基地に行けるだけの時間はある、そこにもしかしたらノースがいるかもしれない、少しでも話すことが出来れば、私のモチベーションも持ち直すというものだ

走り始めて数分、私はいつものように森をかき分けていつもの場所に向かう、広間に抜けると、やはりそこにはノースの姿があった

 

「おっいたいた、おーいノース、遊びに―――」

 

ノースに声をかけようとしたその瞬間、一瞬にして私の動きは止まってしまった、なぜなら私とノースが意地でも倒したかった相手、スターインシャインが私たちの秘密基地にやってきているからだ

 

「なんで…?なんで私たちの場所にスターインシャインが…?」

 

理由を考えても何もわからない、これまでこの場所には私たち二人しかやってきていないからスターインシャインがこの場所を知っているわけがない、それなのになぜスターインシャインがいるのか。

考えられる理由はただ一つだった、ノースがスターインシャインをここに招いたのだ、なぜだ、なぜ私以外のウマ娘をここに招いたのだ、私が一番の親友のはずだったのになぜ

 

「そっか…ノースは私と連絡が取れなくなったから、遊べなくなったからもう私には友情を感じていないんだね…」

 

ノースに捨てられた悲しみで私は静かに泣いた、もしここで声を出して泣いてしまっては二人に気付かれるからだ、しばらく泣いてから時計を見ると、10分ほど経っていた

最初こそ悲しみに包まれていた私の感情だったが、途中から私は怒りの感情が湧き始めていた

私が一番の親友なのだ、それがたまたま才能があった努力もしない地方のウマ娘に奪われてしまった、そしてその親友の座を入れ替えるのはノース自身の意思だ。

ノースは私を捨てたのだ、京都ジュニアステークスの前にあのような約束をしておきながら、私のホープフルを見ることもなく私を捨てたのだ、許せない。

 

「もう誰の為でもない、ホープフルで全員私がぶっとばしてやる…そしてノースに言ってやる、私はノースの為に走ったのではないと…!」

 

たまにアニメの表現で、血が出るほどに拳を握る描写があるが、初めて私はその描写を理解した、手にズキズキとした痛みが走っていたのに気付いたのは私が立ち上がった時だった、私は怒りを湧き上がらせている間、痛みに気付かないほどに怒っていた。

 

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