持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第二十七話 だから私は違うんだって

 

「いや…今日一日これで歩けっつったって…お前絵面考えてみろ…おっさんと高校生だぞ…さすがにやばいって…」

 

トレーナーさんは脂汗をかきながらそう言って私の腕を自分のわきから取り出そうとする、しかしウマ娘パワーにトレーナーさんが勝てる訳もなく、私の腕はピクリとも動かない

 

「今日は私と出かけるって言っていたのに桐生院さんにばかり気が取られている人は誰ですか一体?私今日は遊べると思って楽しみにしてたのに」

 

私はもう怒り狂っていたので今思っていたことを全てトレーナーさんにぶつけてみた、私は今日確かにこのお出かけを楽しみにしていたのだ、それなのに車内で私などいない様に喋っているトレーナーさんが悪い。

私が今の気持ちを包み隠さずバカ正直にトレーナーさんに伝えると、トレーナーさんは「あぁ~」と言わんばかりの顔で頭を掻いていた

 

「確かに、そうかぁ・・・そりゃちょっと悪いことしてたな俺…」

 

「じゃあ今日一日これで歩いてもいいですね?」

 

私はトレーナーさんの脇に私の腕をぶっ刺したまんまだったので、これだこれだと見せつけるように腕をゆする

 

「それは勘弁してくれ、社会的に俺が死んでしまう」

 

「じゃあなんですか、般若の私放置しますか?」

 

確かにトレーナーさんが社会的に死んでしまうのは困ってしまうが、私が放置されたのは事実なので、レース中発しているような威圧感をトレーナーさんに向けつつ、「わかるよな?」みたいな空気を送ってみる

 

「…好きなもん買ってやるから…」

 

大体2分くらい経ってからだろうか、トレーナーさんのコートから熱が放出されて私が温まり始めたあたりで、トレーナーさんが重い口を開いた

 

「…なんでも?」

 

私の聞き間違いの可能性もあるので一応小声で聞き返してみる

 

「………なんでも」

 

「あ、それなら許す、でも私と話すのも忘れないでよ?」

 

「ほんっとにお前なぁ…何でも買うっつった瞬間にご機嫌になるなよ…はぁ…速水さんにでも借りるか…」

 

…何でも買うって言ったから本当に何でも買ってもらうつもりでいたけど、なんだかトレーナーさんの悲痛な嘆きが聞こえた気がしたので買うものは控えることにしようと思う

私たちは話を終えたのでトレーナーさんの脇から腕をすっぽ抜いて桐生院さんの元へ戻った、戻るなり桐生院さんはいつもの笑顔で私たちを出向かえた、そしてクリスマスイブと言う事でイルミネーションで飾りが施された大通りを歩いていく、ここはどこなのだろうか、少なくとも県外には

行っていないと思うが、いかんせん田舎育ちだから東京の地名を覚えられない。

 

相変わらずトレーナーさんは桐生院さんと話していたが、先ほどの話があったからか私にも少しずつ構ってくれるようになった、私が話す対象になるたびに桐生院さんは少し残念そうな顔をしている気がするのだが、気のせいだろうか…

 

しばらく三人で歩いていると、先ほどのクレープ屋さんが見えてきた、どうやら私たちは来た道を戻っていたらしい。私は今度こそクレープが食べれると思ってトレーナーさんの方を向いて提案する。

 

「おっ、さっきのクレープ屋さんじゃん、買ってよトレーナーさん」

 

「へいへい、じゃあ桐生院さん、少し待っててください、シャインの分だけ買ってきます」

 

「はい!」

 

私たちは桐生院さんを少しだけベンチで待たせ、クレープを買いにお店に入った、やっとこさトレーナーさんと二人きりになれたので数秒間だけとはいえ本来の予定通りお出かけを普通に楽しもう

 

「いらっしゃいませ、ご注文は何にしますか?」

 

あれ、この店員さん私がハロウィンの時に買ったたこ焼き屋さんの店員と同じではないだろうか

それはさておきメニューに目を落とす、私は適当に自分の好きそうなクレープを選んで注文した、もちろんトレーナーさんの分は私が買ってあげた、最初は買ってあげると言う事にトレーナーさんも驚いていたが、さっきはだいぶ冷たくしてしまった気がするのでこれくらいはする。

 

注文してから店内で店員さんがクレープを作り始める、私が住んでいたところはこんなところを見せてくれなかったのでわくわくしながらクレープを作る様子を眺める、最初はただのクリーム色の液体だったのに、店員さんが手慣れた様子で一つのペラペラな状態にしてしまった。そしてトッピングたちが一斉に盛られていき、ぐるぐると巻かれていく、なぜかその様子を見てレース後に押しかけてくる記者たちを思い出したが、嫌な記憶しか思い浮かばないのですぐに忘れることにした

 

注文してから50秒くらい経ってからだろうか、クレープが出来上がった。内側には薄い生地の上から触ると固く感じるほどに詰め込まれたクリームが入っており、てっぺんにはキウイやイチゴと言った果実がたくさん盛られ輝いている。しかも生地は注文されてから作っているため多少暖かい、この時期にありがたい出来だ。

 

トレーナーさんの方もクレープが出来上がり、受け取っているのが見えた、トレーナーさんに買ってあげたクレープは内側にチョコソースがかけられているものだ、頂上には切ったバナナがたくさん盛られている、最初こそ「高いからいいよ」などと言われたが、奢られていては私のメンツが立たないので押し切った。

 

お互いまさにこれこそがクレープと言ったようなものを手に持ち、店内を後にした、外ではずっと桐生院さんが待っていたのだろう、見るからに寒そうだ。

 

「あ、お帰りなさい」

 

「ども~、いい感じにクレープ買いました~、あこれ桐生院さんの分です」

 

「あれ?お前さっき買ってたの?桐生院さん食べない気分じゃないっけ…」

 

私は先ほど、実は桐生院さんの分も買っていたのだ、多分この人はトレーナーさんを狙っている、だからとりあえず停戦と行こうじゃないかというメッセージのつもりだ、ちなみに私はトレーナーさんが好きと言うわけではなくて、あくまでもトレーナー業に集中できなくなるのを防ぐだけだ、決して恋愛感情はない。車内で食べる気分じゃないと言ってたので受け取ってもらえないかとも思っていたが、意外とそんなこともなく快く受け取ってくれた

 

「いえ、大丈夫ですよ、別に食べたくない訳じゃありませんから」

 

「桐生院さんの好きなものが分からなかったから適当に選んじゃったけど大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ、ちょうど食べたくなってきたところでしたから!」

 

そう言うと彼女は袋の中からクレープを取り出し、今すぐにと口へ運ぶ、彼女の口に運ばれていくクレープを見つめながら私たちも自分たちのクレープを食べ始めた、トレーナーさんが選んだものは外側にバニラアイスが乗っていたので、少し羨ましいとも思ったが、私は自分の分があるので問題ない。それにしてもこのクレープけっこう美味しい、生クリームがすごく濃厚で甘い、だけど甘すぎるわけでもない絶妙なバランスを保っている、牛乳が特別なのだろうか、少し前にちょっとお高めの牛乳を飲んでみたことがあったのだが、濃厚さが異常に違ったので相当特別な牛乳なのかもしれない。上に乗っかっている果物たちもみずみずしくとても甘くておいしい、クレープを買った後は少し遠回りをしながら車へと戻った、その間もトレーナーさんと桐生院さんは話していたのだが、少しだけ私も桐生院さんと話していた、内容は特に特筆することもないトレーニング中の私の心情についてだった

 

車の中に入ると、桐生院さんが電話をしていた、しばらく車内でトレーナーさんと二人で桐生院さんを待っていたが、しばらくしてから桐生院さんが申し訳なさそうな態度で車の前に歩いてきた、どうやら急用が入ったらしく今日はお出かけが出来なくなってしまったらしい、いよっシ…いやなんでもない

 

「すいません…ミークが問題起こしちゃったみたいで…私は自分で学園に戻れますので、橋田さんはシャインさんと楽しんでください!」

 

「いえいえ、トレーナー業は急用多いですからね…申し訳ないです…」

桐生院さんと別れるときにトレーナーさんと少し話していたのが気になるがまあ私にはあ~~~んまり関係ないことなので気にしないことにした、まぁ?願ってもないトレーナーさんとの二人きりの状態が生まれたので?いいんですけど?

なんて私が考えてドヤ顔をしていると、桐生院さんが後部座席に座っていた私に近づいて私に耳打ちした。ウマ娘の聴力があれば同じ車内でもヒトに聞かれずに耳打ちすることが可能だ

 

「橋田さんと楽しんでくださいね…シャインさん…!」

 

「っっ…!?」

 

突然そのような事を耳元で言われて驚いた、桐生院さんの方を向くといつもの笑顔で私の方を向いていた、私は桐生院さんがトレーナーさんにそういう気があるのではないかと勘繰っていたが、もしかしたら実は私の早とちりだったのかもしれない…本当に狙っているならば、このような事を私に言うはずがない、このような応援するようなことを。

 

「それじゃあまた今度一緒にトレーニングメニューの談義をお願いします!!それでは!!」

 

そのまま桐生院さんはくるりと振り向き学園の方に走り去ってしまった、いや、桐生院さんは私がトレーナーさんに好意を持っていると勘違いしているのではないだろうか、その誤解を解いておけばよかったという後悔を残しつつも、私はトレーナーさんと二人きりでお出かけできるようになったこの状況を楽しんでいた。

 

二人車内でクレープをがぶがぶと貪り、味わったのちトレーナーさんは車のエンジンをかけ始めた、すごく美味しかった。しばらくトレーナーさんが車を飛ばしていると、いつの間にか先ほどとはちがうイルミネーションが施された大通りに出てきていた、先ほどの大通りよりも人が多くどこを見ても腕を組んで歩いているカップルがいた。先ほど私は腕を組むことをトレーナーさんに強要していたのですごく気まずい雰囲気が車内に流れてしまう。

 

「…なんか気まずいな、シャイン」

 

車を運転していたトレーナーさんがぽつりとつぶやいた、どうやら同じことを考えていたようだ、いやまぁそりゃそうか、トレーナーさんは強要された側なのだから。

バックミラー越しにトレーナーさんが何かを主張している気がするが、口笛を吹いてごまかす、トレーナーさんに「夜に口笛拭いたら蛇出るぞ」と言われたので素直に先ほどの出来事を謝った。

 

「よし、ここら辺で降りるか」

 

「おうふっ」

 

走っていた車が突然止まり慣性で軽く吹き飛ばされる、完全に油断していたので情けない声が喉から飛び出てしまった。どんなところに止まったのだろうと思い窓の外を見ると、大きな広場があり、その真ん中に大きなクリスマスツリーが堂々とたてられていた。あまりの大きさに車の中でも圧倒されてしまうほどだ。

 

「えっ…すごいんだけどこれ、なに?」

 

「巨大クリスマスツリーだな、俺も初めて見に来たがすごいデカいな、いや~すげぇ」

 

一足先にトレーナーさんは車の外に出ていて、まるで大きくなった親戚を見るかのようなポーズでクリスマスツリーを見つめている。私も車から抜け出してクリスマスツリーを見るが、やはり車内で感じたより強大な存在感だ、あまりの大きさにこのまま潰されてしまうのではないかという感情も沸いて来ていた。

 

「すごい綺麗だねぇ、東京の方は冬にこんなものも立てるんだぁ」

 

「ああ、すごいもんだろ?シャインには悪いことしちまったからな、今日はちょっと遠くまで連れて来たぞ」

 

「当然だよねぇ?」

 

そのままどんどんクリスマスツリーの方に向かって行き、雪が山を作っているベンチに腰掛ける、オシリが冷たい。それにしても今日のお出かけだが、どこに行っても大体イルミネーションがある、私は本当に田舎の方に住んでいたのでやはり東京は東京だと言う事を知った

 

しばらくベンチに腰かけていると何やら看板を体に付けた人が近づいてきた、所謂サンドイッチマンと言う奴だろうか、私も名前程度は知っていたがまさかこの時代にいるとは思わなかった。看板にはでかでかと『カップル割!!今だけお得!!』と書いてあり、お店に招待されてから、私たちはカップルに勘違いされているのだと悟った。

 

最初は追い払おうかとも思ったが、どうせカップルに成りすましてたら安くなるのだからもうこのままカップルのまま行こうと思い、カップルだと偽る

 

「えっ…ちょっ…えっ…?シャインさん…?」

 

横に座っていたトレーナーさんが露骨にあせり始める、あまりにも急に彼氏だと言われたから焦っているのだろうか、食事を安く済ませようとトレーナーさんに目でサインを送ったが、そのサインは届かずに結局トレーナーさんが私の嘘だと言ってサンドイッチマンの人はどこかに行ってしまった。

 

「ぶぅ~、どうして追い払っちゃうのさぁ~、せっかく安くなるところだったのに~」

 

「だから俺が社会的に死ぬんだって…頼むよマジでシャイン、バレたら本当に終わるんだから」

 

トレーナーさんは顔を青くしながら頭を掻いている、流石にこれ以上やって本当にトレーナーさんがお縄になってしまっては困ってしまうので控えておくが、ビビりすぎではないだろうかと思う。

 

こうやってベンチに座っていると、車に乗っていた時よりもたくさん人がいるように感じる、特に腕を組んで歩いている人が目に留まって仕方がない、先ほどあのような事をしてしまったから特に目に留まるのだ。結局私たちは特にやることもないのでずっとベンチに座っていたが、会話も行われず、そろそろ寮の門限が近づいて来ていたので私たちは車に戻ろうと立ち上がる

 

「なぁ…」「ねぇ…」

 

二人同時に話し始めてしまい再び気まずい空気が流れてしまう、恐らくだがトレーナーさんも言いたいことは同じだろう、私だって同じだ、だがトレーナーさんから言ってくれるならトレーナーさんから言ってほしい。

 

「……」「……」

 

しかし立ち上がってからすでに数秒経っているのに二人とも口を開かない、トレーナーさんも私がいいたことを分かっているから沈黙を決め込んでいるのだろう、だが私からも言いたくはない、だって恥ずかしいから。クリスマスツリーの明かりが立ち止まっている私たちを照らす

 

「…はぁ…」

 

ふとトレーナーさんがため息をついたと思ったら、自分の左腕を少しだけ上げ、脇が開くように動いた、ここまでの動きでもう私はトレーナーさんと考えていることが一緒だと確信した。私は迷うことなく右腕をトレーナーさんの脇にぶっ刺す。

 

「…このまま腕組んで車に行くか?」

 

トレーナーさんが私にそのような質問を投げかけてくる、目は合わせない。

当然答えは決まっていたので、声は出さずコクリと頷く。

 

「そいじゃ、行くか、シャイン」

 

私は車に行くまでの数メートルを腕組んで歩いただけなのにまるで1週間ほどに感じた、恐らく私の人生でこれほどまでに時間が遅く感じるのはしばらくないだろう。私は束の間の楽しい時間をしっかりと味わって車に乗った。

 

寮の門限にはギリギリ間に合い、私は眠るまで今日の出来事が忘れられなかった。決してトレーナーさんに好意があるわけじゃない…あるわけじゃない…

 

私はそのまま布の中で意識を手放した。最後の最後まで私は「自分は好意があるわけじゃない」と言い聞かせていた。

 

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