持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第二十八話 決戦の日 届く勝負服

 

トレーナーさんとのイブデートが終わり、朝が来てから私はいつもの生活に戻った。いつものようにトレーニングを行い、時々トレーナーさんをぶっ飛ばす日々。療養期間のブランクによって落ちてしまったタイムもそこそこ戻ってきたのだが、一つだけ結局できずじまいの事があって悩んでいる。坂に対する超前傾のことだ

 

「シャイン!坂の超前傾だ!」

 

「(うげ、マジ?まぁ行くけどさ…)」

 

今日はホープフル当日だが、ブランクを感じる私はアップで少しだけトレーニングをしていた。トレーナーさんが走っている最中の私に指示を出してくる。もはや坂を超前傾で走ることにさえ嫌気がさしている私は、少し反応が遅れてから坂に走り始めた。

 

そして上体を起こしてから一気に沈み込ませる、この方法でいつものように姿勢は坂に対して平行な超前傾になる、が…やはりダメであった、坂を超前傾で走り始めてすぐに身の毛のよだつ恐怖が全身を覆ってしまう。「結局また走れなかった」と思い私が立ち尽くしていると、トレーナーさんが私の事を励ましてくれる。だがその言葉でさえ今の私には無力だった

 

「どうする?ホープフルまではあと数時間だぞ?坂の超前傾を習得するのは諦めて、コーナリング技と直線の超前傾で勝負するか?」

 

「いや…それは…いやでもなぁ…」

 

トレーナーさんからそのような選択を迫られるが、イマイチ踏ん切りがつかない。だって仮に坂の超前傾を使わずにホープフルに出たとして、坂の超前傾が必要な時が来たらどうしようか、それ以上の技を持っていない私は確実に負けてしまう。となれば習得しない訳にはいかないが、それを習得できないのが今の状況だ。それであれば普通のトレーニングに集中してしまうのが一番いい選択肢なような気がするが、結局前者のような思考が出てきて永遠に選択が決まらない。

 

「…んまぁ一旦トレーナー室戻ろうか、時間もないしな」

 

しばらく私がごもっていると、トレーナーさんに肩を叩かれトレーナー室に戻った。

 

 

「あそうだ、思い出したよシャイン、完全に忘れてたけどさ」

 

トレーナー室に戻るまでの道筋で突然トレーナーさんが何かを思い出して声を上げる。私は先ほどの選択肢をいつまでも考えていたのに、いったいなんだろうかとトレーナーさんの方を向くと、ウマホの画面を差し出されていた

 

「ん?何この画面」

 

「ほら、勝負服だよ、発送完了になってるから多分トレーナー室に届いてるんじゃないか?」

 

「あぁ~」

 

間抜けな声を出してしまったが、私は内心喜んでいる。

トレーナーさんに勝負服のことを話されて私はようやく思い出した、そういえば今日届くようなことを確かに言っていた。私は早く勝負服を着てみたい一心でトレーナー室に走り出した

 

「あっ…おい!グラウンド以外で調子乗って怪我とかするなよ!?」

 

「あたりまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

バゴォンと効果音が鳴りそうなほどにドアを蹴り破って勝負服を探す、私は荷物の届け方については知らないのでトレーナー室のどこにあるのかはわからない。私はロッカーの中だったり、トレーナーさんのデスクの中だったりを探したが、後者に関しては見てはいけないような本が出てきて終わりだった。結局トレーナーさんが追い付いてくるまでに見つけることが出来なかったが、トレーナーさんは場所を知っていたのですぐに出してくれるそうだ。

 

トレーナーさんが奥の方から段ボールを持ってきて私の前に置く。私の人生で、私の唯一無二の勝負服が目の前にある事実に少しだけたじろいでしまう。

 

「…どうした?開けていいんだぞ?」

 

「う、うん…ただちょっと、怖いかなぁって…」

 

「開けないなら俺が開けるぞ」

 

そう言ってトレーナーさんが手を伸ばすが私はその手を掴んで止める、あくまでも私が開けたいからだ

 

「…開けるから…」

 

「おう」

 

トレーナーさんが手を引いたのを確認したら、今度は私が段ボールに手を伸ばす。テープをピリピリと剥がしていき、だんだんと梱包を崩していく。そうして箱を開けた先にあったのは

確かに私が注文した私の勝負服だった。その光景を見て私は少しだけ感極まりつつもすぐに取り出して着ようとする、トレーナーさんの方を見ても静かにうなずいてくれたので着てもいいのだろう

 

「…え、いや、トレーナーさん出てってよ」

 

「あ、すまん」

 

危うくトレーナーさんに裸を見られかけてはいたが、今の会話で少しは落ち着いたのでゆっくり着替えはじめる

 

 

「シャイン?もういいか?」

 

ドアの向こう側からトレーナーさんの声が聞こえる、私の方は既に着替え終わっていたので元気に答える。答えてすぐにトレーナーさんがドアを開けて入ってくる、私はトレーナーさんに勝負服を見せつけるように仁王立ちをする

 

「すげぇ…決まってるな、シャイン」

 

「でしょ?結構いいデザインだと思うよ、これ」

 

私が頼んだ勝負服は所謂ガンマンの服と言うのだろうか、といってもタイキシャトル先輩のように肌を出しまくっているわけではない。拍車が付いたブーツを履き、気持ち控えめに十二星座の刺繍が施された紺色のコートは裾がひざ裏まで届き、二股に分かれている。その中には黒いベスト、さらに下に白いシャツ、赤いネクタイを着ている、サスペンダー付きでだ。

 

手袋ももちろん付けている、手袋の色も重要な要素だったが、私はワインレッドと言う色の手袋を付けている。ワインレッドには主役の風格・個性・自信という意味があり、これから重賞を総なめする私にぴったりな色だ。これまで述べた服装に加えシルクハットを被った姿を、私はトレーナーさんに披露した。

 

私がこのデザインにした理由、もちろん先ほど述べたような手袋の色言葉、スターインシャインと言う私の名前から取った星座のコートなどもそうだが、それ以上の理由もある。最初に言った通り、というか事細かに説明している時点で分かるだろうが、この勝負服はガンマン風になっている。ガンマンは西部開拓時代に現れた、銃器に長けた保安官やならず者の事を言う。私は『みんなが手にしたいG1の座を奪いに、ターフに現れたならず者』と言う意味でこのセットにしたのだ。

 

「あ、でもさすがに勝負服のまま競バ場行くわけにはいかないから、一旦脱げよ」

 

「え~…結構着るの大変だったんだけど」

 

「もともと時間に余裕あったのにその時間削って勝負服を試しに着てるんだ、文句は言うな」

 

「うへぇ…」

 

「じゃ、俺は車に行ってるから、ちゃんと勝負服持って来いよ」

 

「あたりまえじゃい、わかってるっちゅーに」

 

私はもうこのまま行っても良かったのだが、しぶしぶトレーナーさんを再び追い出してトレセンの制服に着替え直した。レモンを口に突っ込まれたような顔をしながら、勝負服を持ってトレーナーさんの車に向かった。

 

「おっ、ちゃんと着替えて来たな、それじゃ行くぞ」

 

「うい~…」

 

「…ん?あれってシャインの知り合いじゃないか?というかあれノースブリーズか」

 

「え?ノース?」

 

私が車に乗ろうとしたら突然トレーナーさんが私の後ろ側を指さしてそう言った。トレーナーさんが指差した方に視線を向けると、確かにノースがこちらに歩いて来ていた、車の前に来ると立ち止まってあいさつ代わりに風船ガムを手渡された。

 

「おはよう、今日はホープフルね、気合も入ってるみたいだし、安心したわ」

 

「ん、うん、そうだね、G1だし、絶対勝ちたいもん。ノースはどうしたの?」

 

「私は今回のホープフル、ランスを応援してたんだけど…ちょっとした事情があって…それは車に乗ってから話すわ、乗せてもらえる?」

 

トレーナーさんの方を見ると、車の窓からグッドポーズを差し出していた、私は勝負服を入れた箱を持ったままノースと一緒に車に乗り込んだ。

 

車に乗ってから数分、私はノースが言っていた『ちょっとした事情』について聞いてみた

 

「あ、そうそう、その事情についてなんだけど…ランスの事でちょっと…」

 

ランスと言うのは、ノースといつも一緒にいたシーホースランスの事だろう。シーホースランスは芝もダートも走れるウマ娘で、アグネスデジタルの再来とも言われているウマ娘であり、ノースとはまた違った意味で強いウマ娘のはずだ。二人は私がノースと和解する前からとても仲が良いのを知っていた、それなのに何かしらの事情があると言うのはどういう事だろうか。私はノースが車に乗る前「ランスを応援してたんだけど」と言っていたのが引っかかっていた。

 

「昨日、実はランスに呼び出されたのよ、場所はあなたも来た私たちの秘密基地。最初こそキグナスのトレーニングの休憩を縫って呼び出してくれたものだと思っていたんだけど、そうでもなかったみたい」

 

途端にノースの顔が暗くなる

 

「どういうこと?二人とも仲良いからただ遊んだんじゃなくて?」

 

「それがね、そうでもなかったの。なんでもあなたと私が秘密基地に来ているのをあの子、見てたみたい。私とランスはあなたやプロミネンスサン、マックライトニングを倒すって約束をしてたから…それで私がランスを裏切って、シャインと仲良くしてると思ってるみたいなの…いや、裏切ってしまったのは事実だから謝罪はしたんだけど…それでもだめで…」

 

ノースはシーホースランスがあの時、秘密基地に行った日あの場にいたという。あの日ランスが私たちの後を付けてきていたのだろうか。私、全然ランスの気配に気づかなかったのだが…

 

私はノースがランスに呼び出された日の事を事細かに聞いた

 

 

最初は秘密基地に呼び出され、久しぶりにランスと話せる時間を楽しみにしていたらしく、慣れた脚付きで森の中を抜けて行ったらしい。

 

「ランス!久しぶり!会いたかった!こうして話せる時間が作れるなんて、どんな技を使ったの!?」

 

私は森を抜けて秘密基地に出た。そしてランスを見つけしだい飛びつくように話しかけた、だがランスは明るく出迎えてはくれず、敵を見るような顔で私を見ていた。私はその顔を見てランスの様子が普通じゃないことがすぐにわかった、だが何も私に敵意を向けているとは気づかず、いつものように接してしまう。だがランスはいつまでたっても何も喋らない、そのため私はランスに顔の事について聞いた

 

「ラ…ランス?どうしたの?顔が怖いよ」

 

「…ノース、あんたは私とシャイン、どっちを選ぶの?」

 

それまで黙りこくっていたランスは突然口を開いて、そのような事を聞いてくる。質問の意図がいまいち分からないが、私たちの今までの関係からとっさにランスと答えた。のだが、ランスの顔は未だに私を睨んでいた

 

「なら、なんでこの秘密基地にシャインがいたの?私達だけの秘密基地って決めてたのになんでシャインがいたの?私たちの敵だったシャインがなんで?私達だけの…秘密基地だったのに…」

 

「それは…まずランス、シャインさんは悪い人じゃなかったのよ、私がキグナスを追い出されてからのチーム探しをあの人たちは一日かけてやってくれた。その間の会話でもあの三人が悪い人たちじゃないことがしっかりと分かったの、だからシャインさんをここに呼んだの。別にランスを裏切ったわけじゃ―――

 

「うるさい!!私たちは小さい時から親友だった…それなのになんであいつらがノースと仲良くしてるのかが理解できないの!!それにそれを受け入れてるノースも理解できない!!あいつらはキグナスの敵だ!!絶対私が倒すんだ!!あいつらと仲良くしてるお前も敵だ!!」

 

その時のランスの表情は、過去に一度だけ見た本当にキレていたランスの顔だった

 

「私は今回のホープフルステークス、ノースの為に走ると約束した。だけどもう違う、私は自分自身のために走って自分の為勝つ!覚えていろ、必ず裏切ったことを後悔させてやる!」

 

ランスはそれだけ告げて私の言葉すら聞かずに走り去ってしまった。理由があるとはいえ友を裏切ってしまった罪悪感、そして友が何も利益が無い復讐に燃えてしまった事に絶望した。

 

 

「そっか…いや、私が秘密基地に容易に足を踏み入れてしまったから…」

 

「いいえ、招いてしまったのは私よ、気にしないで」

 

「それならいいんだけどさ…それで、私に何かを頼みに来たんだよね?」

 

トレーナーさんの車がカーブを曲がり、中山競バ場まではあと少しと言うところだ、競バ場についてからではあまり話す事も出来ないので早めに用件を聞くことにする。

 

「あら、要件があることまでお見通しなの…なら言わせてもらうわね」

 

ノースが一呼吸おいてから、覚悟を決めたような顔をしてから私に告げた

 

「…ランスを、シーホースランスを倒してほしい、それも僅差じゃダメ、圧倒的に、完膚なきまでに叩き潰して。私たちはあなたたちの事をたまたま才能があっただけの能天気な奴らと思っていた、だけど私はしっかりと努力していることや優しい心の持ち主だということを知ったからあなたたちを信用した。だから、努力して手に入れたその力で、圧倒的な敗北をランスにぶつけて欲しい」

 

ノースは決して目をそむけずに私の方を見てそう言った。私も深呼吸をしてから窓の外を見つめた、ノースはその間も私の方を見ているのが窓の反射で見えた。

 

「もちろん、友の気持ちを考えず安易に秘密基地にシャインさんを招いたのは私のミスだった、友の気持ちを考えられなかった、私の罪よ。だけどあんな、あんなふうにみんなを憎むようなランスは見たくない。だからシャインさんが勝って、復讐心を燃やすのをやめさせてほしい」

 

「…うん、わかった、約束するよ。私だって自分が足を踏み入れたせいで同期の子がそんな風になるなんて耐えられないし。勝つよ、ノース」

 

「約束…」

 

「大丈夫、今度の約束はしっかり守らせるから、もう二度とノースには約束破らせないよ」

 

私はノースの方を向いてからそう答えた。そう聞くとノースは少しだけ目に涙を浮かべて車の進む方向を向いた。

 

「なんか後ろで青春?してるところ悪いが、もうそろそろ中山だ、シャイン、勝負服の箱後ろから取り出しとけ」

 

「ほいほい」

 

後部座席で膝立ちになり、後ろの方から勝負服が入った箱を手に持つ。ここに私の勝負服が入っていると言う事実でもうテンションが高まってくる。

 

「あの…もしかしたら私のせいで無駄なプレッシャー与えちゃったりしちゃったかしら?」

 

チームのルールを破ってしまったとはいえ、シーホースランスがそれほどまでにキグナスを守ろうとする、守ろうと思うキグナスの不思議なカリスマ性に私が口を「へ」の字にしていると、ノースが心配そうにこちらを向いてくる。別に私は何も感じていなかったので心配いらないとノースに伝える。

 

「そう…それならいいんだけど、ランスは何か仕掛けてくるかもしれないから…」

 

 

 

 

「ランス、本当に良かったのか?過去の親友を傷つけるようなことを言って」

 

「いえ、いいんです、むしろあの時間を作ってくれたトレーナーさんには感謝しています」

 

「それならばいいがな。それと忘れてないな?君も今回のレースで負ければキグナスを強制脱退だ、しっかりと自覚しろ」

 

「当然わかっています、ですが私はしっかりと勝つ勝算があって弾圧行為をしたんです、負けはしませんよ、トレーナーさん。」

 

「……そうか」

 

「(スターインシャイン…マックライトニング…待っていろ、お前らはもうすぐ海馬(シーホース)が巻き起こす津波に飲まれる、それまで呑気に生きてろ…二度と立ち上がれないほどにそのプライドをズタズタにしてやるからな…!!)」

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