持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第三十一話 津波収まらず 

 

「クソッ! どけっ! どけよ! 私を前に行かせろ! クソおおおお!」

 

 前の方ですでにゴールしたスターインシャインとマックライトニングが見える。クソ、途中スターインシャインに妨害されなければ私は必ず一着になれたと言うのに。健闘むなしく私は8着で終わってしまった。

 

 電光掲示板を見て私は現実を信じられなかった、スターインシャインが電光掲示板に乗るのは百歩譲っていいだろう、だが何故あいつが一着で私の番号が見当たらないのか。私は勝てるはずだった、勝てるはずだったのに、あの茶色い髪をしたやつのせいで私は沈まざるを得ない状況に追い込まれた。あいつのせいだ、もとはと言えばノースが裏切ったのもあいつが変な優しさを見せたからだ。

 

「確定……だと……? ……ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁ! ぅあああああああああああ!」

 

 私は人目など気にせずに、天を仰いで乾いた声で叫んだ、思いっきり泣いていた。尤もどれだけ叫んだとしても、歓声にかき消されて誰にも聞こえていないだろうが。

 

 ランスが一人泣き叫ぶ様子を、観客席にいたノースブリーズは何も言わずに見つめている。その様子に気づいた橋田も同様に見ていた。しばらくしてノースは柵を飛び越す、最初こそURAの関係者に止められたが、その抑止をも破り、ランスに近づいて話しかける。

 

「ランス……これでわかったでしょ? あの人たちは才能と言う言葉だけで強くなったんじゃない、私たちと同じように努力を幾万にも積み重ねてあそこまでになったのよ」

 

 これで少しでも友の誤解を解くことが出来ればいいと思い、思うがままの言葉をかけた。

 

「うるさい! 私達は……私たちは……クソッ!」

 

 ノースに対して言葉を出せず、逃げるようにランスは離れていった。

 一人残されたノースは、友がレースの鬼になっている様子を見て、喜怒哀楽だけでは絶対に表わすことができない感情に苛まれていた。少し前まではかけがえのない友人だったランスが、自分がたった一瞬、彼女の心情を察することができなかっただけでああなってしまった苦しみは計り知れない。

 

「……ランス……私があなたをそこまで変えてしまったの……? でもまさかそんな……そんな急変を遂げるなんて……ううっ……ごめっ……」

 

 観客席に取り残されていた橋田は、観客席の内側に戻ってきてから嗚咽しているノースの肩を軽く叩き、そのまま何も言わずに立ち尽くしてシャインの方を向いた。

 

「すまねぇな、トレ公……くっ……そっ……またダメ、だったわ……ハハッ……やっぱ強えわ……スタ公……面白れぇ……」

 

 3人の最強角が競い合い、まさにランスが巻き起こしたかった大荒れの津波の中、勝ち星を手にしたシャインに観客席から地面が割れんばかりの歓声が沸き起こる。シャインがゴール板を超えてからすぐ、クライトもゴールして地面に仰向けで倒れこむ。模擬レースの時のように怒り狂うわけでもなく、ただ満面の笑みで空を見上げていた。阪神JFでは味わえなかった強敵との戦い、地方の時代には感じもしなかったスリル、そのすべてがクライトの満足するものだった。

 

「おっと……こんなもんで満足してちゃいけねぇな、次は勝ってやるぜ、スタ公」

 

 それだけつぶやくとクライトは立ち上がり、主役の舞台を邪魔するまい、速く速水のところに行こうと足早に去って行った。立ち去る時でさえ、クライトは微笑んでいた。

 

「あ”──っ……つっかれた……ほんっと……」

 

 時同じくしてシャインも地面に倒れこみ、笑っていた。額に汗を輝かせて、高く(そび)え立つ観客席を見上げて笑っていた。ノースやトレーナーとの約束を守れた事や、G1を勝ち抜いてきたクライトに勝てた事。そして何より、最後の坂で自分自身に負けずトラウマを克服できた喜びに、瞳には抑えがたい喜びが溢れ出ていた。

 

『タイムは2:00.5! ホープフルステークスのレースレコードです! スターインシャインが、ジュニア期の終わりを飾り、未来に繋がる希望を掴みました!』

 

「レコード……私が……レコード……」

 

 電光掲示板には確かに、赤い背景にはっきりと『レコード』という文字が書いてあった。

 私の目標、誰にも越えられない記録を作ると言う目標の第一歩、G1ホープフルステークスは最高の形で締めることができたのだ。

 

「おぉぉぉぉい! シャイィィィィン!」

 

 観客席の方でトレーナーさんが呼んでいるのが見える。私は鉛のようになってしまった足を引きずるように歩き、トレーナーさんの方に向かった。

 

「トレーナーさん! やったよ! 私勝ったよ! レコード! しかもレコード!」

 

 トレーナーさんの元についてすぐに、わたしは飛び跳ねて喜び、トレーナーさんにどつきながら歓喜した。当然私が勝ったので観客席に近づこうものなら周りの観客たちが騒いでしまうが、それに負けないくらいの声でトレーナーさんに話しかけた。

 

「わかった! わかったからそれ以上どついてくるのをやめろ!」

 

 トレーナーさんからやめろと言われてしまったので私はしぶしぶどつくのをやめた。横の方を見るとノースも小さく微笑み、祝福の言葉を投げかけてくれる。

 

「いやまさか……本当にやりやがるとは思わなかったぞ、シャイン。しかもレコードだ」

 

「当たり前じゃん。だって誰にも越えられない記録作っちゃうんだから!」

 

「あら、あなたの目標ってそうだったの」

 

 トレーナーさんの耳にタコができるほど語った目標について話すと、突然横からノースがにやにやしながら私の方を見てきた。どこかその目は愚かな人を見るような目だったのが気になったが、なぜそのような目で私を見ているのか、すぐに理由が分かった。

 

「誰にも越えられない記録を残すなら、これからファンも増えるのよ? 現在進行形でファンになってくれてる人や、将来のファンに感謝しなくていいの? トレーナーさんだけに感謝したらファンはどんな気持ちになればいいのよ」

 

「あぁ~……そっか、これからはそういうファンの人たちの事も考えないといけないのかぁ」

 

 完全に失敗した、私はレコードで勝った事ばかりに気を取られてトレーナーさんとばかり話してしまっていた。すぐさま私はコースの真ん中あたりに戻り、せめて観客に見せられるパフォーマンスは何かないだろうかと頭をひねらせる。本物の勝者は疲れたからと言って勝った時だろうとだらしないところは見せない、せめてかっこいいパフォーマンスはできないだろうか。

 

「よし! 久々に()()、やってみるか!」

 

 私は勢いよく観客席の方向に走り出し、そのままの勢いで1mほど飛び上がってから全身を斜めに回転させる、所謂コークスクリューと言う奴だ。私は小さいころからコークスクリューの真似事的な事をやっていたので、コークスクリューもどきなら披露することができる。

 

 視界が回転しているが、観客席から確かに大きな歓声が沸き上がっているのが聞こえる、しかしこれでは終わらない。私はコークスクリューの少ない滞空時間が終わり、着地してから勢いを殺さないようにしてもう一度飛び上がる、それも先ほどより高く。二連続コークスクリューだ。

 着地もしっかりと決め、舞台劇場が終わった後の人のようにお辞儀をした。

 

「うおああああああああああああああ!」

「かっけえええええええええええ!」

「スターインシャイ──ーン!」

 

 すでにもう耳が壊れそうなくらいの歓声だったのに、それすらも超える音量で私は称えられている。ちなみに脚が鉛のようになっている状態でコークスクリューもどきなんてやってしまったせいで、気付かれない程度に足がプルプルしている、調子に乗るのはだめだわこれ。

 

「これでまた目標に……一歩近づいたかな? トレーナーさん……」

 

 当然離れているのでトレーナーさんに聞こえる訳もないが、私は思わずつぶやいていた。

 

「ふふっ……あなたの担当はいつも調子に乗っちゃうのね、脚がぷるぷるしてるわ」

 

「えっ? ……あっほんとだ、あいつよく見たらプルプルしてんな」

 

 ノースブリーズが急に吹き出してそんなことを言うので、シャインの方を見てみると、確かに足が小刻みにプルプルしている。それも注意深く見ないと気付かない程度に。

 

「はぁ……やっぱりあいつ、いざというときに決まらないんだよなぁ……」

 

「まだ私シャインさんと和解してからそんなに経ってないけど、そういう人なのは分かるわ。でもいいんじゃないかしら、完璧すぎるより、少しはおちゃめなところがあるのが一番よ」

 

「だとしてもなぁ……」

 

 しかし、今俺たちの後ろ側で耳がぶっ壊れんばかりの声を上げている人全員がシャインをたたえてくれている。つまり俺の担当を、俺の初めての担当を祝福してくれているのだ、これ以上にうれしい事があるだろうか。俺はトレーナーになる前はよく推しウマ娘にお金を賭けていたが、その時以上の喜びと興奮が俺の中を巡っている。

 

「ま、いっか」

 

 私は観客へのパフォーマンスが終わった後、いつものように控室に戻ってからウイニングライブの時間まで休憩する事にした。初のG1だったこともあるのか、私の体は散々怪我をした未勝利戦の時以上に疲れている気がする。控室に戻る途中速水さんにも出会った、速水さんはいつもの高いテンションでは喋らず、ただ一言「強くなったもんだな」とだけ言ってクライトの控室がある方に行ってしまった。

 

 はたして負けたのが悔しいのか、それとも次の勝負へのやる気が溢れているのか。私からしてみればどちらにしてもまたクライトと一緒に走れればいいのだが、まぁあの速水さんクライトコンビに限って諦めるなんてことはないか。

 

「きゅ」

 

 私がいつも持ち歩いている簡易的な布団を作るためのセットを広げ、そこに顔をうずめて横になる。腹部から地面に向かって熱が向かうのをしっかりと感じる、中学生の頃に熱移動とかやった気がするけどそれだろうか、もう覚えていない。

 

 そんな関係のない事を考えていると、一人の控室ではあっという間に時間が過ぎてしまい、ウイニングライブの時間が来た。

 

 

 

『さぁウイニングライブの時間となりました! 本日はG1レースの為、特別な楽曲で行われます!』

 

『楽曲名は【ENDLESS DREAM】!』

 

 照明がゆっくりと灯され始め、私が乗っているステージがだんだんと上に上がる。もうウイニングライブの場も慣れたものだが、今回に関して『も』ダンスと歌詞が練習と完全に違うので完璧に緊張している。

 

 二着だったクライトと一緒に私は一生懸命練習できたはずのダンスを必死に踊る。初挑戦となるので多分ぎこちない動きになっているだろう。クライトの動き完璧なんだけど、やばすぎ。

 

「(ふぅ、本当は阪神JFのように一着の位置でもう一度踊りたかったがな……ま、今日はとやかく言わず素直にスタ公の勝利を祝ってやるか)」

 

 

 

「やっぱりあの子は私と走るよ! トレーナーさん!」

 

 ウイニングライブが行われる会場を見下ろすことができるような部屋で、オレンジ髪のウマ娘は話し始める。年相応に元気な彼女を見ても、表情一つ変えずキグナスのトレーナーはランスが脱退するという資料をまとめる。

 

「やはりそうなるのか……()()()()()()()()

 

 少しだけ資料から目を離し、キグナスのトレーナーは背伸びをする

 

「光の速さで走る私と、流れ星みたいな走りをするあの人とどっちが速いか、確かめてみたいじゃん!」

 

 シャイニングランと呼ばれたウマ娘は、ガラスからウイニングライブを見ていたがトレーナーの方に戻り、いつもやってるかのようにトレーナーに絡み始めた。そこに他意は全くない様子で、ソファの後ろからトレーナーにおんぶするような形になって、トレーナーの頭を撫ではじめる。そしてだんだんその力は強くなっていく。

 

「おい、頭をゴリゴリするのはやめろ」

 

「トレーナーさんの頭ってなんでいっつもこんなに硬いの? 固めすぎだよ~」

 

 ウイニングライブの照明もあまり届かず、真っ暗で何も見えないような部屋で机の上の照明だけが輝いている。

 

「こんなところに来ていたの、シャイニングラン」

 

 突如何もない場所からスッと白髪が多いウマ娘が出てくる。

 

「え~? もう見つかっちゃったの~?」

 

「私とかくれんぼで勝負だなんて、いい度胸じゃない。私は()()()()()()()()()()()()のよ? いくら隠れても無駄」

 

「ぶ~、なにも寮のテレビで見るだけなことないじゃん……現地で見るとこんなに楽しいのに」

 

 オレンジ髪のウマ娘はしぶしぶリンゴの刺繍が施されたお気に入りのバッグと照明用の懐中電灯を持ち、帰る準備をして部屋から出て行った。残された白髪のウマ娘もすぐに出ていこうとするがトレーナーに止められる。

 

「東京スポーツ杯ではご苦労だったな、ムーン。もう完璧に見えているようで何よりだ」

 

「実際は見えているわけではありませんがね、ですがおかげさまではっきりと見えます」

 

「そういえば、あの厄介なウマ娘はどうなってるんだ?」

 

「いえ、まだ何も。私たちキグナスに対して何かを仕掛けようとはしてるみたいですが、イマイチ居場所が掴めないままです。あの……あの人はキグナスに何をしたいんですか?」

 

「それはお前には関係ない、もう今日は帰っていいぞ」

 

 ムーンと呼ばれたウマ娘の報告を受けてトレーナーは残念そうな顔すら見せずに、部屋から出ていくよう言った。ムーンと呼ばれたウマ娘は静かに礼をして、特に何も持たずに部屋から出て行った。

 

「お前はいったい、俺のキグナスにどんなウマ娘をぶつけて来ようって言うんだ? トレセン学園を前のような状態にするだか何だか知らないが、事実としてリギルやスピカと言った強豪が集まる大型チームは存在していた。今更キグナスのようなチームが生まれたから排除するなんてお門違いなのではないか? ……もしかして、スターインシャインもお前の送り出したウマ娘なのか? なぁ、()()()

 

 

「いやぁ今日のレースは本当に上手く行ったね! いやぁ褒めてくれてもいいんだよ? トレーナー」

 

 帰りの車の中でわたしは大声でしゃべる。ウイニングライブが終わってすぐに、私たちはトレセンに帰るためにトレーナーさんの車に乗っていた。当然ノースも一緒だ。

 

「そういえばシャインさん、ランスの武器について何も知らなかったのによく見抜いたわね」

 

 車に揺られていると隣でこくりこくりとしていたノースが思い出したように話しかけてくる。

 

「いや、ランスの武器については見抜いてないよ」

 

「え? 見抜いてなかったの?」

 

 ノースは眠そうな顔で驚く。そう、私はランスの武器を見抜くことはできなかった。だがあの一瞬、私が逃げの作戦に変え、ランスに並びかけた時に私は勝負をしていた。

 

「ランスは私に対して強い憎しみを持っている、そして前に一回話した態度からして相当プライドが高いと思った。だから絶対に私を先頭にするまいと抜かそうとしてくるだろうと踏んで、逃げの作戦にしたの。ウマ娘にとって一番プレッシャーを受けやすい位置に来るだろうってね」

 

「へぇ……意外と策士なのね、あなた」

 

「憎しみに囚われてはいけない、って言うメッセージを込めた作戦でもあるけどね。でもその様子だと何も変わってなかったみたいだね……」

 

「えぇ……ランスは未だレースの鬼だったわ、私が……ランスを考えられなかったから……」

 

「違うよ……悪いのはノースじゃないよ……」

 

 ノースの目に涙が浮かんでいるのが見える。しかしあの秘密基地にズカズカと入り込んでしまったのは事実私なのだ、だからノースが憎まれる理由はない。ここは少しでもメンタル回復の為に励ましの言葉を沢山投げかけてみる。

 

「その通りだ、ノース。シャインが言う通り、あまり自分で深く背負いすぎるな……ってあれ? お前ら……寝たのかよ」

 

 俺の語りについて返答が帰ってこなかったので、後部座席を見てみたらすやすやと眠るウマ娘が二人座っていた。今日G1と言う舞台を制したとは思えないくらいかわいらしい寝顔に、少しだけ俺の中に最悪と言っていいほどの魔が差してしまうが、ここで素直に従うほどバ鹿ではない。

 

 ホープフルを制して、次は大阪杯、そしてその次は皐月賞か桜花賞、どちらかを選ぶ時が必ず来る。それまでシャインにはゆっくり休んでほしい。俺は眠っている二人を見て眠くなってしまったが、片手で少しだけ目をほぐし、車を走らせる。

 

「これでまた、目標に近づいたな、シャイン」

 





「大阪杯に向けてのトレーニング、何がいいですかね?速水さん」

「橋田、大阪杯はシニア期からだ……」

「え"!?」
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