持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

35 / 90
全てを薙ぎ倒す!クラシック期編
第三十四話 三つの冠 その障壁


 

 年末を越えて、特にトレーニングに変更がなく私たちは日々を過ごしていた。私のスタミナと根性を鍛えるためのインターバルトレーニングは相変わらず行っており、最初の頃は1セットで死にかけていたインターバルも無限にできそうなほどにスタミナが付いた。そんな私が今危惧していることがあり、現在トレセン学園内の図書館に来ている。

 

「シャイン、お求めのものは見つかった?」

 

「なんとかね」

 

 横の方から小声でサンが話しかけてきたので、私も適当な回答をする。この図書館に入り、30分くらい探してお目当てのものが見つかった。

 

「それにしても、突然どうしたの、過去のクラシック三冠・トリプルティアラの成績をまとめた本なんか取り出してきて」

 

「いや……これはサンも見といた方が良いと思って、実はあるジンクスについて研究してるんだ」

 

「ジンクス? 一体どんなジンクス?」

 

「『耳飾りを本能的に左耳に着けているウマ娘は、クラシック三冠路線に勝てない』ってジンクス」

 

 そう、私が今危惧していること、それは年末の際にトレーナーさんと話し合ったジンクスについてだった。耳飾りを本能的に左耳に着けているウマ娘は、クラシック三冠路線に勝てないと言うジンクス、その真相を探るべく、私は過去のステップ競争のタイムや勝ったウマ娘、そして耳飾りの位置を見に来たのだ。

 

 私は図書館内で歩き回り作った本の山を机の上に置き、一冊ずつ読んでいく。最初に読んだのはクラシック路線の本だ、どのウマ娘も写真越しでも圧巻といえるオーラを放っていた。そして耳飾りを見ると、やはり三冠を勝っているウマ娘は、ウオッカさんを除いて全員右耳に着けていた。読み進め、右耳についていると言うのを確認するたびに、私の中でジンクスが確定的になるのを実感した。

 

 クラシック路線の本を読み終わり、次はトリプルティアラ路線の本を手に取った。こちらもやはり、全員左耳に耳飾りを付けていた。こんなに耳飾りの位置が露骨に別れているのに、なぜジンクスと言う枠だけに収めてしまうのか、そんなことを考えることができないほど私の頭は混乱していた。なぜこのように耳飾りの位置が分かれているのか、私は理解することができなかった。

 

「私たちは何となく付けていただけなのに、なんでこんなに付けている位置が違うのか……う~ん?」

 

「そういえば、シャインも左耳だよね、私もだけど」

 

 私が耳飾りの謎に対し、頭を無駄に絞らせていると、サンがそう言いながら自らの耳飾りを指さす。入学したあの日から何度も見ている、オレンジに輝く太陽の耳飾り。それはまるでサンの活発な性格を意味しているようで、オレンジと言う色も相まってサンの赤毛によく似合っている耳飾りだ。だがこの耳飾りでさえ、サンは無意識に左耳に着けていたのだ。

 

「そういえば、サンがトリプルティアラを目指そうと思ったきっかけとか理由ってある?」

 

 私は耳飾りの位置を直しているサンに対してそのような質問を投げかける。私は耳飾りの付ける位置について考えていたが、逆に何故耳飾りを左耳に着けているウマ娘はトリプルティアラを目指すようになるのか、右耳のウマ娘はトリプルティアラ路線を目指さないのか、そのきっかけに秘密があると思ったのだ。

 

「私がトリプルティアラを目指した理由? あ~……?」

 

 サンは口を開けたまま人差し指を顎に当て、天井を見つめながら考えている。その間にも出来る限りデータを集めようと私はちらちらと本に目線を向ける。

 

「私がクラシック三冠路線じゃなくてトリプルティアラを目指した理由、それはやっぱりティアラって響きが良かったから、かなぁ……」

 

「ティアラって響きが良かったから?」

 

 ぶっちゃけ拍子抜けした、てっきりもっと重大な理由がある物だと思っていたのだが、サンの口から出てきたのは以外にもあっさりとした理由だった。

 

「あ、あっさりした理由だとか思ってるでしょ」

 

 どうやら心の中をのぞかれていたらしい、サンは頬を膨らましながらこちらを見てくる。特に否定する理由も見つけられなかったので、素直に思ったと伝える。するとサンはやれやれと言った様子で

 

「別にそれだけが理由じゃないよ? もちろん私のタイムや脚質や適正距離を考えてみてのトリプルティアラ路線だからね? それに憧れたウマ娘がトリプルティアラ路線を行ってたとかさ、他にもいろいろ理由は出てくるよ」

 

「…………あ────っ!!」

 

 私はサンの弁解を聞いて閃いた、叫びすぎて今図書館にいたウマ娘全員に怒られたが、改めて椅子に座りなおして本を手に取る、今度は三冠とトリプルティアラの本を同時にだ。私がサンのどの言葉を聞いて閃いたのか、それは『距離適性』だ。距離適性はウマ娘の能力を表すデータだ、もしかしたらこの二つの路線に出走したウマ娘の適正距離を照合する事で何か分かるかもしれないと思い、二冊同時に開いたのだ。

 

「これって……この適正距離って……」

 

 するとなんということだろうか、クラシック三冠路線に出ていたウマ娘は基本的に長いレースが得意なのに対し、トリプルティアラに出ていたウマ娘はみなマイルや短距離などのレースに出ているのが大体だ。

 

「……それで、なんで左耳飾りの適正距離が短いのか分かったの?」

 

「……分かってません」

 

 

 

 

「はぁ~、わからずじまいか~、耳飾りのヒミツ」

 

 私は自分で閃いたなどと言っておきながら、根本的な謎であった『左耳に着けているから○○』という謎を解明できていなかった。謎が分からない私たちは、あれから1時間ほどサンと仮説を言い合ったが、結局何もわからずに私たちの体力が尽きてしまい、そのまま図書館を出てきてしまった。

 私の今後に関わることが何もわからなかったので、少々不満気味な顔になっているが、耳飾りの位置によって適正距離のわずかな違いがあると言う事が分かっただけ収穫があったというものだ。

 

「ちなみにもうステップ競争の出走メンバーを募り始めるころだけど、シャインは最終的にどっちにしたの?」

 

 サンが廊下を歩きながら私に聞いてくる。私がステップ競争をどちらの路線で行くことにしたのか、少なからずファンの中で気になっている話題だろう。安心して欲しい、私はクラシック三冠路線だ。

 

 年末、トレーナーさんと一緒に年越しそばを食べた日、私たちはそばを食べ終わった後、ステップ競争の事について話し合った。どちらにするかゆっくり考えればいい、そうは言うものの、軸としてどちらにするか決めていないとさすがに不安になると言う事で、最終的にクラシック三冠路線にすることが決まったのだ。私はサンにクラシック三冠路線にしたことを伝える。

 

「へぇ……ジンクスをも恐れないでクラシック三冠路線にするんだ……さすがだね、シャイン」

 

「当り前~っての、私は普通のウマ娘よりか適正距離長いと思ってるし、私が第二のウオッカさんになっちゃうかもよ? サン」

 

 今述べたように、私は普通より適正距離が長いと思っている。トレーナーさんが適正距離の計測をしないから私は自分の適正距離について何も知らないのだが、そういう事を除いても長いと思う。そのため、過去のウオッカさんのように、クラシック三冠路線を左耳に飾りをつけて制することができるかもしれないという判断だ。トレーナーさんもその意見には賛同してくれて、しっかり皐月賞に出走登録申請はしている。

 

 サンが私の度胸に驚いている様子を楽しんでいると、あっという間に寮に戻ってきてしまった。

 

「あ、これって金鯱賞ってヤツじゃ~~ないんすか?」

 

 寮の大部屋にやってきて、サンがテレビを指さしながら陽気に喋る。テレビの方を私も見ると、確かに今日行われるレースである金鯱賞の映像が流されていた。

 

『最終直線に入り後ろの方からキングスクラウンが上がってきた! キングスクラウンが来た!』

 

 テレビの中で走っていたのは、波ウェーブをかけた金髪をなびかせている、キングスクラウンだった。過去に一度会っただけだったが、その容姿はしっかりと覚えていた。キングスは最初に見た瞬間、後方集団にいたが、最終直線に入った瞬間、バ群の狭い隙間を進路妨害ともいえない絶妙な距離を保ちながら潜り抜け、先頭に躍り出ていた。

 

『加速したキングスクラウンはもう止められない! 誰もこの速度以上を出すことができない! ぐんぐんとその差を開いていきます!』

 

 先頭に躍り出たキングスはあれほどバ群抜けに体力を使ったように見えるのに、減速などする気配もなく、二番手の子との空白を開けていく。フォームを崩さずに他の子を離していくその光景はとても綺麗で、気持ちが高揚し、だんだんテレビに食いつくように見入ってしまう。

 

「……いっっ!?」

 

「どうしたのシャイン!?」

 

 先頭で走るキングスのフォームを見ていたら、突然頭に激痛が走り、私の記憶に無いビジョンが浮かんだ。私と同じ鹿毛のウマ娘、しかしその姿は見た事が無い。なぜキングスを見てその光景が浮かんだのかわからなかった、だけど確かに私は鹿毛のウマ娘を見た。ビジョンが消えると私の体からどっと汗が流れ、鼓動が速くなるのを感じる、決して恋ではないと一応言っておく。私はこれに似ている状態を知っている、超前傾走りの反動だ、だが今私は超前傾など使っていないし、まずレース中ですらないのだ。それなのに超前傾の反動のような状態になっていると言う事は、間違いなく私の体に何かが起きたのだ。

 

「いっ……や、もう大丈夫、なんでもないよ、サン」

 

「そ、そう? それならいいんだけど……」

 

『キングスクラウン! キングスクラウンです! キングスクラウン今圧勝でゴールイン! 大阪杯に向けて第一歩を踏み出した!! 去年三冠を制した王は、かつての七冠ウマ娘、シンボリルドルフを超えるのか──っ!?』

 

「いぁっっ!! あああああああああああああ!!!」

 

 実況の人がさらに興奮して声を荒げることで、さらに激痛が加速する。逃がしようのない激痛に私は涎をダダ漏れにしながら地面に膝をつき、頭を地面に押さえつける。ここまで来るともはや超前傾の反動状態にすら似ていない、ただの異常状態だ。

 

「シャイン! しっかりしてシャイン!!」

 

 しばらく痛みは続いた、頭が裂けそうになる痛みに私の精神がおかしくなりかけていたが、サンが私のことを心配する声で状態は少しずつ回復してきていた。しかし私はなぜ超前傾の反動に似た、いやそれ以上の現象が起きたのか全く理解できなかった。耳飾りの謎といい、超前傾のような反動と言い、クラシック期に入ってから分からないことだらけで疲れてくる。

 

「ご……ごめんねサン、涎……拭くわ」

 

「あ、うん、ちょっと消毒液の霧吹きも持ってくるね」

 

 頭痛は一旦、完璧に無くなった。冷静になった私はティッシュを取りだし、地面に垂れていた涎を拭く。結局あの痛みはなんだったのだろうか、キングスを見ていたら突然起きたあの痛み。拭いている最中にも原因について考えていたが、何も思いつかずに拭き終わった。とりあえず風邪っぽかったで済ましてしまおう。

 

「……ふぅン、興味深い」

 

「ん……?」

 

 私たちの後ろの方から声が聞こえたので、振り返ってみると、白衣を着た怪しめのウマ娘が立っていた。この風貌は確か見たことがあるような……

 

「あっ! 怪しい治験の人!!」

 

「怪しい治験の人とは失礼だねぇ、プロミネンスサン君。そして横の君はマックライトニング君かな」

 

「あの、プロミネンスサンは私ですし……クライトはそもそもこの場にいません……」

 

 相変わらず人の名前は覚えていないようだ。今度は私たちにどんな怪しいアイテムを紹介してくるのか、紹介される前に逃げてしまおうかとも思ったのだが、この人から逃げたら何されるかわからない気がしたので、とりあえず何かアクションを起こされるまでぐっとこらえることにした。

 

「私は君の今の頭痛について興味を持ったんだ、特に何かするわけじゃないよ。私はアグネスタキオン、よろしく頼むよ」

 

「アグネス……」

 

 アグネスタキオン、聞いたことがある。光のような脚を持っていたのにもかかわらず、一時は退学寸前までいった人だったはずだ。確かトレーナーさんがいつも光っている人でもある。

 

「君が今体験した頭痛、詳しく教えて欲しい。例えば長時間のデスクワークをしたり、ストレスを溜め込んだりしたかい?」

 

 アグネスタキオンさんに私は先ほどの頭痛の詳細を教えた。とりあえず何かしらの病気や症状ではないかと疑ったのか、典型的な頭痛の原因が無いかを聞いてきたりもしたが、そのどれにも当てはまらなかった。

 

「ふぅン? では一体君のその強い頭痛は何が原因なんだ?」

 

「いえ、私にも何もわかりません」

 

 私自身健康的な生活は送っていると思うし、トレーニングの際にも無茶はしていない。授業中に寝たりもしているが、決して夜更かしはしていない、むしろ他の人より早めに寝るくらいだ。やはり考えられる原因はキングスのレース映像だろう、それをタキオンさんに伝えると眉を傾けてハテナを浮かべていた。

 

「キングスクラウンのレース映像? しかしレース映像だけであれだけ叫ぶ頭痛が起きるものかい……? いや、感情は不可解な現象を引き起こす……だが……」

 

「あ、あのタキオンさん?」

 

「私がトレーナー君に感じた感情とかもひっくるめるとやはり感情は……」

 

「……シャイン、これもう帰っていいんじゃないかな」

 

「えぇ……?」

 

 サンが困った顔をしながらそのような事を提案してくる。確かにタキオンさんは何かのスイッチが入ってしまったようで先ほどから何かをブツブツとしゃべっており、私たちの声など届く様子もない。今日のところはとりあえず置いて帰ってもいいだろう、タキオンさんのトレーナーさんは面倒見もいいと聞いたことがあるし、多分何とかしてくれる。

 

「結局、耳飾りの事と良い、頭痛の事と言い、何もわからなかったね、シャイン」

 

「はぁ……今日はホント、レースにも出てないのに疲れた……」

 

 まだ寮の門限までは結構時間があったので、私たちは学園側に戻り、中庭を歩きながらそのような会話をする。とりあえず今日の頭痛の件に関してはトレーナーさんに話すと言う事にして、サンと三女神像の前で別れた。決してダジャレではない。

 

「それじゃあね、シャイン」

 

「まぁこんなところで別れてもどうせまた今日中にどっかであうんだろうけどね、じゃ~」

 

 私はシャインと別れ、とりあえず中庭のベンチに座る。ここはよく日が当たるので暖かい。私は太陽に暖められながら先ほどの出来事を思い出す、シャインが突然頭痛を訴え、地面に突っ伏するほど痛がっていた様子が鮮明に思い出される。シャインのあんな姿を見たのは初めてだ。

 

「シャイン、大丈夫かなぁ……」

 

 シャインの事を思い出していると、ふと三女神像が私の視界に入る。

 

「三女神の像……」

 

 すると、突然視界が真っ白に光り、私の体が軽くなる。シャインに続き、私まで不可解な現象に巻き込まれたのだろうか。シャインのように強い頭痛が来るのだろうとかまえていると、そんなことはなく、むしろ感覚が快適なレベルにまで鋭敏になって行く。

 

「体が、軽い……?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。