持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第三十七話 ドンナ

 

「おや、目が覚めたんだね」

 

 私が起きるや否や、ドアを開けてウマ娘であろう人が笑顔で入ってくる。髪の毛の色は鹿毛だ。

 手にはおぼんと一緒にたまご粥のようなものが入ったお皿を持っており。その容器から漂うたまご粥らしからぬ、香ばしいような、調味料を最大限に活用したような匂いに、私は思わずお腹を鳴らしてしまう。

 

「あの……あなたは?」

 

「アタシかい? そうだねぇ……『ドンナ』とでも呼んでくれ」

 

 ドンナと名乗るその人は、気さくな雰囲気で話しつつも、確かなオーラを感じる人だった。ここがこの人の家だとするなら、恐らくこの人が先ほど見つけた有マ記念の写真に写っていたウマ娘だろう。

 

 つまりこの人は有マ記念を制するほどのウマ娘だと言う事になる。しかし私の知識がスペシャルウィークさんやキングヘイローさん、それにエルコンドルパサーさんやグラスワンダーさん、あとセイウンスカイさんのような、黄金世代と呼ばれる人たちのレースに偏っているため、イマイチこの人が活躍していたレースを知らない。

 

 というより、この人の姿は夢の中で見たあのウマ娘の姿だ。面識のない人が夢の中に出てくるというのはいったいどういう事だろうか。疑問に思いつつも、どこかで会ったことがあるか、などと質問する事は出来なかった。先ほども述べたように私とこのドンナという人は面識がない、面識が無い人から突然そのような質問をされても相手は困るだけだろう。

 

 私はとりあえず今一番疑問に思っていることを質問することにした。

 

「ここは一体どこなんですか?」

 

「ここかい? あんたたちが登っていた山のふもとさ。多分あそこの写真を見て、アタシがトレセン学園のウマ娘って事は察しがついてるんだろ? アタシは引退してからここで過ごしてたんだよ。この家も、アタシ特製の家。あ、土地の権利もしっかり買ってるからね、レース賞金も結構あるんだ」

 

 なんで山のふもとで隠居生活みたいなことをしているのか、その理由については特に気にしないでおこう。土地の権利と言えばかなり高いイメージがあるのだが、それほどまでに有名なウマ娘だったのだろうか。改めて私の知識の偏りを実感する。

 

 いやいや、そんなことを言っている場合ではない。私の命が助かったことが分かったなら、真っ先に確認しなければならないことがあるはずだ。

 

「私の……私のトレーナーさんはどうなったんですか!?」

 

「安心しな、別室でのびてるよ。多少怪我はしてるみたいだけど、しばらく安静にしてれば何とかなるよ。私が引退してからそんなに経ってないはずだけど……最近のトレーナーっていうのは凄いねぇ、担当ウマ娘をかばうために空中で無理やり動いた挙句、自分を下敷きにするなんて」

 

 その言葉を聞いて心から安心する、今回は私のせいでトレーナーさんもろとも落ちてしまったんだ、トレーナーさんが無事じゃなかったのなら私はこれから生きていく顔が無い。

 

 それに私をかばおうとしてくれたと言う話で、本当に申し訳ない気持ちが湧き出てくる。トレーナーさんが目覚めたら、めいっぱい謝って、めいっぱい感謝しよう。

 

「よ、よかったぁ……」

 

「ふふ……あんた、相当トレーナーさんが好きみたいだねぇ。それにしてもまさか、山の上からトレセン学園のトレーナーとその担当ウマ娘が一緒に降ってくるなんて……びっくりしちゃったよ、アッハハハハハ!!」

 

 ドンナさんはひとしきり大笑いした後、たまご粥を私に手渡してくれた。

 

「さ、食べな、あんただいぶ長い間寝てたから、お腹減ってるでしょ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 指摘された瞬間、私は自分が空腹であることに気付いた。先ほど器を受け取った際にも、正直ゆっくり器を受け取ったと思うが、お腹が減っているために激しく受け取ったかもしれないと錯覚するくらいだ。

 

 たまご粥自体は美味しかった。いや、もう、とてもおいしかった。もはやお粥とは思えないくらいのスパイシーな刺激が口に広がりつつも、しっかりとたまごがまろやかにしてくれていた。

 

 味が濃いので白ご飯もしっかり合っており。味からして鶏がらスープの素も入っているのだろう、とてもおいしい。他の人がおいしいと叫んでいたら、横槍を突っ込んであたりまえ~っと叫んでしまいたくなる味だ。

 

「ぐっ……げほっげほっ……うえっ、鼻からご飯が……」

 

「ハハハハ! そんなにがっつくからさ! さて、アタシは別室でのびてるあんたのトレーナーでも起こしてくるかな」

 

「あづっ」

 

「いや、それにしてもよく食べるねぇ……」

 

 私がたまご粥に舌つづみを打っていると、ドンナという人は、トレーナーさんを起こすために私が今寝ていた部屋から出ていってしまった。

 

 私は一度たまご粥を食べる手を止め、今いる部屋を改めて見回してみる。それにしてもこの家はどのくらい広いのだろうか、あの人は自分で作ったなどと言っていたが、建築をする際には崩れないようにいろいろ慎重に設計する必要があると聞いたことがある。

 

 あのドンナと言う人は私の少し年上くらいに見え、まだそのような建築について勉強するような歳でも無いように感じる。だがこうしてこの家が建っているということは、あの人の技術が優れている証拠だろう。

 

 そのような努力だろうか、を今この目で見て、競争能力だけでは将来生活できないということを痛感した。まぁそれに関して私はまだ考える時期でもないが。

 

「ほら……さっさと起きるんだ、よっ!!」

 

「ってぇぇぇぇぇ!! どなーた!?」

 

 ……何やら別の部屋から鈍い音とトレーナーさんの叫び声が聞こえた気がするが、まぁトレーナーさんだし気にしないでおこう。

 なんて言っていたらたまご粥をあっという間に食べ終わってしまった。本当においしかった。

 

「シャイン! 怪我はないのか!?」

 

 すると突然ドアを開けてトレーナーさんが入ってきた。ドンナと言う人もトレーナーさんに続き、やれやれといった様子で部屋に入ってくる。

 

「一応木造建築なんだから乱暴に扱うんじゃないよ」

 

「ん、あぁすまない……」

 

 トレーナーさんは脚を少し引きずっており、恐らく着地した時に打ったのだろう。私は思わずベッドから飛び起き、トレーナーさんの脚をなでてしまう。

 

「ちょ、脚は大丈夫なの……?」

 

「おう、俺の脚を心配してくれるのはいいんだが、触られると普通に痛いし、学生がおっさんの脚をなでている絵面を考えてくれ、シャイン」

 

「あ、ごめんごめんトレーナーさん、でも本当によかった……二人して無事で……」

 

 私はトレーナーさんの脚から離れて再びベッドに座る。私がほっと一息ついていると、ドンナさんが壁に寄りかかりながら、少し不満げに口を開いた。

 

「アタシが助けたって事を忘れないで欲しいねぇ」

 

「ドンナさん、だったな、俺とシャインを助けてくれてありがとう」

 

 トレーナーさんがすぐに感謝を伝えると、ドンナさんは不満げな顔から最初見た時のような笑顔に戻った。

 

「いいえ、どういたしまして。ところで、ウマ娘の方は脚とか怪我してないかい?」

 

 ドンナさんはニッコリとした笑顔でそういうと、その後に私の心配をしてきた。

 トレーナーさんがクッションになってくれたおかげか、どこも痛くない。

 そのことを伝えるとドンナさんは、私の手を引いて外に歩いて行った。

 

「あ、トレーナーの方は脚が痛むだろうし部屋で休んでな」

 

「え、あ、はい……?」

 

 私もトレーナーさんを休ませた方が良いと思うので、ドンナさんの意見に無言でヘドバンしておいた。

 

 外に行く最中、家の内装がある程度分かった。どうやら私が寝ていたのはたった一つの寝室らしく、トレーナーさんはリビングのソファに寝かせられていたらしい。来客用に用意されたであろうダイニングテーブル・チェアがあり、キッチンも設置されていた。ガスや水道、電気なんかはやはり工事をしてもらったらしい。

 

 家自体は二階建てだった。私の家はマンションだったし、中学の頃は友達もろくにいなかったので、このような一軒家に入ったことはなかった。そのため一軒家、しかも二階建ての家に入っていたと言うのはなかなか新鮮に感じる。

 

 家を出た瞬間、私は驚愕した。目の前に広がっていたのは、しっかりと柵が付いており、地面も整地され芝も生えている、トレセン学園についているグラウンドよりも大きい、いっそ本物と同じくらいのサイズであろうコースが広がっていた。コース形状は見た感じ中山競バ場に似ている感じだ。

 

「でっっっか……!」

 

「ふふ、驚いただろ? これもアタシが土地を買って作ったのさ。作ったと言うか、工事して貰ったかな」

 

「え、このコースで、何をするんですか?」

 

 私は驚きすぎて、間抜けな声でそのような質問をしてしまう。ウマ娘がコースに出てきて行うことなど一つだと言うのに。

 

 ドンナさんは、くくくっと不敵に笑いながら答えた。

 

「あんたのトレーナーが怪我した分、アタシが特別にトレーニングを付けてやるよ。これでもトレーニング内容は頭に入ってるからね、効果はあると思うよ」

 

「え、いいんですか?」

 

 私は申し訳ない気分になりつつも、内心とても喜んでいた。

 この人にトレーニングを付けてもらえるというのは、私にとってとても利益になることかもしれない。

 

 先ほども言った通り、この人は間違いなく有マ記念を制している人だ、その人が行うトレーニングが何を意味するかは、言わなくても分かるだろう。

 

 トレーナーさんがG1ウマ娘を排出しているチームで行っていたトレーニングで私の能力を向上させていたように、この人の行うメニューを行えば、私もそのくらいのレベルに上がることができるかもしれないのだ。ぜひともトレーニングをさせてもらいたい。

 

「ぜひ、お願いします!」

 

「その返事を待っていたよ。それで? トレーニングはどうするよ? 併走するかい? それともアタシがやってたトレーニングをやるかい?」

 

「併走……」

 

 ドンナさんの提案の中に少しだけでてきた、併走と言う単語に私は少し反応してしまった。有マ記念を勝つほどのレジェンドと走るというのは、セイウンスカイさんとのマッチレース以来だ。一瞬ためらいつつも、セイウンスカイさんとの着差をハナ差まで縮めた自信が少し湧いてきてしまい、マッチレースを挑むことにした。

 

「あの、ドンナさん、私と、マッチレースをしてくれませんか!」

 

 私がそのように提案すると、ドンナさんの顔が心配そうな顔に変わった、

 

「マッチレース? 別にいいけど……後悔しないかい?」

 

「後悔、ですか?」

 

「だって、あんたまだクラシック期になりたてだろう? 一応アタシはG1を何回も走ってきてるんだ、大分離しちまわないか心配だけど」

 

 ドンナさんはそのような的外れな心配をしてくる。確かに大差以上に離されるかもしれない、だが私だって負けてはいない、何せホープフルステークスを私はレコード勝ちしている。セイウンスカイさんとのマッチレースの時のように、絶対に負けると言えるようなレースではないと思う。

 

「いらない心配ですよドンナさん。私、勝ちますから!」

 

 私がそう大きな声で言うと、ドンナさんはこちらを向いて目を丸くして驚いていた。しかしすぐに下を向いてにやにやし始めた。しばらくにやにやしていると、ドンナさんは吹き出し始めた。

 

「く……くくくくっ……ダッハハハハハハハ! そうかいそうかい! 良い意気だ! ウマ娘にはそういう根性も必要!」

 

「そ、それじゃあ……」

 

「いいよ、その挑戦、受けて立つよ。それとあんた、名前はなんていうんだい? あんたのトレーナーはシャインなんて呼んでいたけど……」

 

「私の名前は、スターインシャインです!」

 

「そっか、それでシャインね。よし、シャイン! あんたが、引退したとはいえまだ時間も経っていないアタシに勝てるかどうか、試してやるよ!」

 

 元気に言葉を言い終わったドンナさんを見ると、いつの間にか競争ウマ娘が発する特殊なオーラが滲み出ていた。

 私はレース中色々なウマ娘のオーラを感じとっているが、そのどれよりも濃いオーラだった。なんならセイウンスカイさんのものにも匹敵するかもしれないと感じる。

 

 さらにもう一つ、この人からはなにか、必ず勝てると言った自信を感じる。だがしかしその自信から、何か『武器』を持っているといったような意図は感じられない。このような自信を持つことも、もしかしたらウマ娘にとって大事な要素なのかもしれない。

 

 私がジュニア期の時、セイウンスカイさんとマッチレースをした際のように、このマッチレースも大変なものになりそうだ……。

 




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