持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第四十二話 訪問者は汚れた金ピカ野郎

 

 電気もつけず、外に浮かんでいる太陽の光だけで明るさを保っているトレーナー室。

 ソファにはキングスクラウンが座っており、デスクには一人静かに仕事をこなしているトレーナーがいた。

 

「スターインシャインはキグナスへの敵意をあらわにした、か……。ブルーマフラーも敗れ、脱退させた2人も合わせてこれで3名のメンバーがやられた。ブルーマフラーに関してはスターインシャインのあの末脚に怖気づいて、もう勝てる様子でもないな……どう思う、トレーナー君」

 

 絶え間なく流れていたタイピング音が止まり、キグナスのトレーナーは静かに口を開いた。

 

「……残りのメンバーでスターインシャインを消すしかないだろう。正直ホープフルを負けた時からはらわたが煮えくり返っている、必ずあのウマ娘は消すさ」

 

「ふ、トレーナー君らしいストレートな理由だ」

 

 キングスはグミを口に含みながら喋る。

 

「お前の前では表面上の態度を飾る必要もないだろうからな……」

 

「それはそうと、スターインシャインがトレーナー君を見た時に怯えていた様子だったんだって? ブルーマフラーからキグナスの噂を聞いたんじゃないかとは言われているが……仮にそうだとして、自分が消されるかもしれないという事実だけでそこまで恐怖するなら大した精神力じゃないだろう。キグナスの更に上のメンバーで叩き潰せばもう立ち上がれないはずさ」

 

 会話が終わり、キングスはトレーナーが仕事の続きをするべくタイピングを再開すると思っていた。しかし聞こえたのは何かのコール音。キングスがトレーナーの方を見ると、キグナスのトレーナーはどこかに電話をかけていた。

 

「トレーナー君? 何をするつもりだい?」

 

「3人に……あの3人にトレーニングを協力して貰おうと思う」

 

「……ふふ、珍しいじゃないか、久々に本気で消すつもりだね?」

 

「当然だ」

 

 しばらくのコール音の後、トレーナーの口からはきはきとした声が響く。

 

「俺だ、サブトレーナーを頼む。……わかった、当然少し回す。頼もうと思ってるのはクラシック三冠のウマ娘……1人につき4700万でいいな?」

 

「久しぶりだな、悪いが仕事だ。サブトレーナーを頼む。あぁ、お前は菓子だったな……いつもお前のトレーニング法には驚かされる。トリプルティアラ路線のウマ娘を1人頼むぞ」

 

「俺だ、うちのメンバーの面倒を……何故俺が頼もうとしていることが分かった? ……いや聞かないでおこう、お前とはなるべく関わりたくないんだ。宝塚に向けて1人の仕上げを頼む」

 

 電話を繰り返し、3本の電話を終えたトレーナーはキングスの方に紙を出して合図をする。

 

「このように配属すると通達してくれ、頼んだぞ」

 

「へぇ……スロウムーンの仕上げを彼にやらせるのかい? あまりよくない話ばかり流れているようだが」

 

 キングスは少しだけ心配そうな顔をしてトレーナーに確認したが、キグナスのトレーナーは何も答えなかった。これが構わないという返事を意味していることをキングスは知っていたため、それ以上何も聞かずに通達の準備を始めた。

 

「……ん、そういえばなぜトリプルティアラ路線のメンバーも依頼したんだい? 消すのはスターインシャインだけなんだろう?」

 

 耳をピンと立て、ふと思い出したようにキングスはトレーナーに聞く。

 

「スターインシャインの周りにいつもいるあの二人のウマ娘、あいつらも同時に消す。事実としてプロミネンスサンにはノースブリーズがやられていたからな。俺が集めた原石達が、あのようなくず鉄に負けるわけが無い。あんな……使い古された携帯やパソコンみたいな、ゴミ機械のたまり場みたいな場所から出てきたウマ娘に、俺のチームが敗れてたまるか!」

 

「トレーナー君……」

 

「……すまない、少し興奮しすぎた。とにかく、キグナスはメンバーの仕上げを協力してもらう事になる、通達を頼んだぞ」

 

 

 

 

「ぶぁっくしょい!!」

 

 突然私の隣でサンが大きなくしゃみをした。時期は4月に入りたてだし、まだまだ寒いともいえる時期だからくしゃみも出るだろうか? 

 

 もはや見慣れてきたこの汚めのトレーナー室、私とトレーナーさんのトレーナー室だ。ここにサンと木村さんが来ていた。なぜ来ていたのか、理由は特に難しくない単純な理由で。暇で暇で仕方がなかったのだ。というのも今日はトレーニングが終わった時間が早かったため、普段から一応勉強もしていて補習もない私たちはやる事が無くなってしまった。

 

 私の次走予定、皐月賞も近いために、あまり過剰に負荷をかけることも出来ない、それは桜花賞が迫っているサンも同じだ。そのためトレーナー室に集まって談笑をしていわけである。毎日杯の時とは大違い、平和そのものだ。

 

「はい、ティッシュ、鼻水出てるよ。……あれ、木村さんどうしたんですか、汗凄いですよ? ポンジュースぬるくなっちゃいますよ?」

 

「(……サンのくしゃみが今間違いなく私のコップに入りましたね……残すわけにもいかないけど……飲むわけにも……いや、やはり残してしまうのは……)」

 

 ちなみにクライトは速水さんとお出かけをすると言っていた。最近あの二人お出かけばかりしている気がするが、大丈夫なのだろうか。まぁ速水さんだし心配することはないだろう。

 暇だから集まって談笑していたとはいえ、やはり時間が経つと再びやる事が無くなってくる。もう集まって30分ほど経ったが、もう話のネタが無くなってきていた。

 

「……ん? 菊花賞がダービーの前で……オークスが秋華賞の後だよな……。なぁ、俺にもポンジュースくれよ」

 

「トレーナーさんはレースの日付覚えるまでポンジュース無しね」

 

「えぇ……」

 

 私のトレーナーさんはデスクに座ってずっとレーススケジュールの勉強をしていたが、その成長速度は絶望的で、木村さんも頭を抱えていた。

 なんて暇を持て余していると、突然トレーナー室のドアが勢いよくあけられた。

 一応壊れそうなドアだから静かに開けてほしいんだけどな……。

 

「おや……? 貧相な匂いがすると思ったら、弱小トレーナーの皆様ではありませんか」

 

 開口一番にこちらを蔑む発言を放ってきたので、何かと思って声の主を見ると、金ピカのマフラーっぽいやつと金ピカの帽子、金ピカの靴を履いためちゃくちゃ悪趣味な中年くらいの小太りな男の人が立っていた。

 

「……え? どちらさま?」

 

「おやおや、ワタシの事を知らないとは……まぁ無理もないですか、しばらく戦線には出ていませんでしたから……」

 

 私のトレーナーさんとその男性が会話をしていると、木村さんが思い出したように声を出した。

 

「もしかして……金泉トレーナーですか?」

 

「おや、そちらの抜けてそうな方は知っていましたか。そう、ワタシは金泉(かないずみ)諭吉(ゆきち)……少し前までこのトレセン学園のトレーナーとして活躍していた者です……」

 

 金泉。

 正直言うと私がトレセン学園に来たのは去年の事なので全く分からない。だがその喋るテンポや雰囲気というか、オーラが他の場所で見かける見知らぬトレーナーさんとは全く違うことが分かる。

 

「はぁ……それでその金泉さんが、一体こんなところにどんな用件で?」

 

 デスクに座っていたトレーナーさんが松葉杖を使って立ちあがり、金泉と言う人の前に立ってそう聞く。この場にいる全員が気になっていることを聞いたため、トレーナー室に元々いたメンバーの目線は一斉に金泉と言うトレーナーの元に集まった。

 

「いや? 特に何も用件は無いですよ、ただ、ワタシが()()トレーナーとそのウマ娘を、一目見ておこうと思いまして」

 

 金泉と言う男のその言葉を受けて私が警戒態勢に入るよりも先に、レースの日付を覚えることに疲れてボケボケしていたトレーナーさんの雰囲気が変わった。この男はキグナスの差し金、恐らくキグナスのトレーナーがサブトレーナー、またはアシスタントとして雇ったのだろう。キグナスの強さは12人のウマ娘を1人で担当してあれほどのものだった。しかし今後は数人で分けて担当するというスタンスをとるらしい、となればキグナスのウマ娘の強さは数倍に跳ね上がりかねない。恐らくもっと熾烈な戦いになるのだろう。

 

 この金泉と言う男にキグナスの怖さを伝えようにも、潰す、という発言をしている以上、キグナスの本性を知っての上で手伝いをしているのだろう。人を見た目で判断するのは良くない事だが、この金ピカの見た目からして、キグナスの手伝いをする代わりに大金を貰っている……といったところだろうか。本当にゲスい。

 

「おや……そんなに警戒しなくても……」

 

「警戒されることを覚悟で来たんだろ? 言っておくがな、俺たちはどんなウマ娘が相手だろうと負けるつもりはねぇ。シャインはどのウマ娘にも負けない最強のウマ娘になる!」

 

 そうだそうだ、と言わんばかりに私も睨みつける視線を送る。

 しかしこの金泉と言うトレーナーからは恐怖というものを何も感じていないように見える。どこか余裕があるような、絶対的自信があるといった感じの雰囲気を感じる。

 

「ねぇねぇ、まだ話終わらないの?」

 

 突然明るい声が聞こえたと思ったら、その金泉と言う男の後ろからオレンジ髪の子が出てきた。

 この子は見たことがあった、ハロウィンの時に私にちょっとしたキスをしてどこかに去って行った元気な子。この子もキグナスのメンバーだったなんて……。

 

「キミってハロウィンの時の……!」

 

「えへへ……ごめんね、私キグナスのウマ娘だったんだ。キグナスがシャインお姉ちゃんを標的にする前から、いつか走ることになると思ってたけど……皐月賞までおあずけだったみたい☆」

 

 やはりあの時の声は気のせいではなかった。だから「また走る時にね」か……。

 

「こいつはワタシが担当することになったシャイニングラン。シャイニングと別にもう一人いますが……力を借りるほどでもないでしょう」

 

 本音はシャイニングちゃんを結構好きだった節があるので、金泉のような男がシャイニングちゃんの頭をわしわしと撫でている絵面はかなりむかっ腹が経った。

 

「そういうわけだから! シャインお姉ちゃんとは皐月賞で走る事になったの!」

 

「……一つ聞いていい? シャイニングちゃん」

 

 シャイニングちゃんの言葉を遮り質問の時間を設ける。なぜ急にこのような事をしたのか、話が終わってこのトレーナー室を去られる前に一つだけ聞きたいことが思い立ったのだ。恐らく私とシャイニングちゃんが関わるうえで一番聞かなければならない事。

 

「シャイニングちゃんは……キグナスの本性を知っているの?」

 

「……知ってるよ。当然でしょ」

 

 目を合わせられなかった。少し答えるのをためらった様子の回答を聞いて、思わず斜め下を向いて唇を噛んだ。

 

「とにかく、あなたたちはワタシが出走させるウマ娘には勝てません。そ・れ・で・は・失礼」

 

 非常に腹が立つ挨拶をして金泉はトレーナー室から出て行ってしまった。シャイニングちゃんがトレーナー室から出る瞬間、私の方を一瞬見たような気がしたが気のせいだろうか。

 

 これまでキグナスが直接的に言葉をかけてくることはなかったが、今回金泉のような刺客を送り込んできた。と言う事はおそらく、キグナスも本格的に私を消しに来たという事だろう。避けられない道だとわかってはいたが、こうやって実際に宣戦布告をされるとやはりゾクゾクしてくる。もちろん前までの私みたいに恐怖からのゾクゾクではなく、ウマ娘の本能がもたらす勝負精神が掻き立てられているゾクゾクだ。

 

 私が挑むクラシック三冠路線、様々なウマ娘が自らの勝利の為に奮闘しているところ申し訳ないが、私が一着の座をすべて奪ってみせよう。

 

 私がこれから本格的に訪れるであろうキグナスとの戦いに意気込んでいると、背後で立ち上がる音がした。

 

「……許せませんね、キグナスというのは」

 

 立ち上がっていたのは木村さんだった。顔こそ見えないものの、木村さんからははっきりと怒っている気配がしていた。所謂アドレナリンという奴やつだろうか、恐らくそれであろう匂いもする。

 

「私は橋田さんから話を聞いただけなのであまり信じれてませんでしたが……あの金泉と言う男を見てしっかりと確信しました。私も戦いますよ、キグナスと。サンをトリプルティアラはおろかそのほかのG1にも勝つウマ娘に仕上げて、キグナスに対抗してみせます」

 

 言葉の一つ一つを喋るたびに、木村さんが握っていた拳の力が強くなっているように見える。確かに私も金泉という男の態度にもキグナスにも怒っている。だがこれほどまでに怒るという事は木村さんの過去に何かあったのではないか。そう思ってしまうほどの剣幕だった。

 

「サン! 私たちのトレーナー室に戻りますよ、トリプルティアラに向けての作戦を練り直します!」

 

「了解だよ! トレーナーさん!」

 

 そういうと木村さんはそのまま怒った勢いでコップのポンジュースを一気飲みして机に叩きつけ、そのままサンと一緒にずかずかとトレーナー室を出て行った。

 トレーナー室を出ていくときに汗を沢山流して一瞬フリーズしていたが、まぁ木村さんだし、ちょっと考え事があったのだろう。

 

「シャイン、キグナスも本格的に消しに来たみたいだな」

 

 二人きりになったトレーナー室で、トレーナーさんが私にそう語りかける。だが私がトレーナーさんに返す言葉など決まっている。

 

「もちろん、全員ぶっ飛ばしちゃうけどねぇぇぇ!」

 

「おうともよぉぉぉ!」

 

 私の言葉を聞いてトレーナーさんも笑顔になった。気合を入れ直したトレーナーさんはデスクに戻りトレーニングメニューの見直しを始めたようで、笑顔を崩さぬままタイピングをしている。

 ……ここで私はトレーナーさんに質問をしてみる事にした。

 

「フェブラリーステークスはぁぁぁぁぁ!?」

 

「12月2日ァァァァァ!」

 

「はい違ぁぁぁぁぁう!!」

 

 本当にまだまだ手がかかりそうである。

 

「シャインお手製ハリセンが痛ぁぁぁぁぁい!」

 

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