持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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全キャラ紹介回は制作中なのでお待ちください。


第四十六話 超光速 再び②

 

「だぁっはっはっはっはっは! ト……トレーナーさん、ゾロ目たくさん出したから刑務所に入ってるぅっあっはっはっはっはっ! ざまーみろー!」

 

「なんでだよ! ゾロ目三回とかなんで出ちゃうんだよ!」

 

 皐月賞の緊張をほぐす為、中山レース場の控室で行っていたモノポリー。結果は私の勝利で確定していたところ、トレーナーさんがゾロ目を三回出したら刑務所に直行する、というモノポリーのルールに苦しめられているという状況だった。

 さて、トレーナーさんがモノポリー内で警察に捕まったし、さっさとサイコロを振ってしまおうとしたその時だった。突然私たちの控室の扉がノックされ、ドアが少しだけ開き中山レース場の係員の人が顔を出した。

 

「スターインシャインさん、そろそろパドックの時間ですのでお願いしま~す」

 

「おっと、分かりました。さてシャイン、モノポリーなんて片付けよう」

 

「え、やだちょっと、私勝ってたじゃん! いやああああ!」

 

 そろそろパドックの時間が迫っているのをいいことに、トレーナーさんは私が有利だったモノポリーをさっさと片付けてしまい、私のカバンの中に手際よくしまわれた。係員の人がパドックと言う単語を発した瞬間に片づけ始めようとしていたため、係員の言葉を利用して私に負けることを意図して回避したのは間違いないだろう。納得がいかない……。

 

「さーさー、パドックに行こうそうしよう」

 

「トレーナーさん、皐月賞終わったら覚えておいてね」

 

 今すぐにでもトレーナーさんを捕まえてハリセンでしばき倒したかったが、今はとりあえずパドックがあるからそちらを優先することにした。壁にかけてあったコートを着て、手袋を付ける。私の勝負服の完璧な姿になったところで、パドックへ向かった。

 

 パドックでもいつもと何も変わらない演出をできた。パドックを見るための傍観席にあの金泉というトレーナーがいたため半分キレたような状態でパドックをやっていたが、勝ってあの余裕の笑みを濁らせるのを決意した。

 

 というより私が気になったのは、シャイニングちゃんのパドックだ。この前話し合った時、シャイニングちゃんは私が出走する皐月賞に凄い嫌悪感を感じているのは確かだった。それなのに今パドックを行っているシャイニングちゃんの顔は爽快そのもの、曇り湿り気一つない笑顔だった。

 

 いくらウマ娘でも出るのが嫌なレースというのは極まれにあると思う、そうなった時、必ず何かしらの感情が顔に出るはずなのだ。それなのにあれほどの笑顔をできるというのはどういう事なのだろうか。

 

 シャイニングというその名前にふさわしい、キラキラの路上ダンサーのような勝負服を着たシャイニングちゃんがそれほどのポーカーフェイスなのか、それとも……。

 なんにしろこのレース、シャイニングちゃんが全力でぶつかってくるのは間違いない、それも自らの限界を超える勢いでぶつかってくるはずだ。それならば私も全身全霊をかけて応えなければならない。

 

 一通りのウマ娘がパドックを終え、そのまま本バ場入場の時間になり、私はバ場入場をする。

 

 やはりこのバ場へ出た瞬間が一番気持ち良い。普通は入れないような場所にいるからこそ、すごく新鮮な感覚に陥るし、何より私はこの時の芝の匂いがたまらなく好きだ。

 

「よ、スタ公、どうせだし一緒に返しウマしようぜ」

 

「クライト……うん、いいよ!」

 

 私より先に入場していたクライトに併走、兼返しウマを頼まれ、私は快く承諾した。

 

 走ってみて私は驚愕した、クライトの走り方が前と段違いに良くなっているのだ。レースでバテないよう、ほぼジョギングみたいな走り方で返しウマをしているのだが、それでもクライトに置いてかれそうなくらいクライトの通常速度が上がっている。

 

 シャイニングちゃんにも警戒しないといけないが、クライトもそろそろやばいかもしれない……。

 

「なぁスタ公、俺たち、ライバル関係になれてるんだよな……」

 

 そんなジョギングのような返しウマをしている最中、クライトがボソッと私に聞いてきた。ライバル関係になれているか、心配するような聞き方をしていてクライトらしくないと感じてしまうが、それも当然なのだろう。

 

 クライトが地方で少しだけ走っていた頃は、戦績が振るわなかった関係上誰からも相手にされずライバルがいなかった。という話を速水さんから少しだけ聞いたことがある。だからこそ、クライトは初めてのライバルと言う関係に戸惑っているのだろう。それならば安心させるような言葉がこの場面で一番だと思う。というより、紛れもなく私たちは友達であり、ライバルだ。

 

「……うん! あたりまえじゃん!」

 

「そうか……併走、ありがとな、もう十分だ」

 

 私が回答をすると、すぐにクライトは一人で返しウマをするために走り抜けてしまったが、私があたりまえだと言った時のクライトの顔は、見た事が無いくらい穏やかな笑顔をしていた。

 

 クライトから見たことのない笑顔を見た私は何となく気分がよくなり、そしてだんだんとテンションが上がっていったため、バ場を疲れない程度に走り抜けて一人、返しウマをしている最中だった。

 

「シャインさん、相変わらず落ち着いてるわね……私もキグナスにいる頃に見習いたかったわ」

 

「ふん」

 

「ふぅン、ついつい来てしまったよアッハッハッハ!」

 

「なんかいつの間にか人増えてるんだけど……これもシャインの人望なの……か? まぁとにかく、やっちまえ~! シャイン~!」

 

 なんか……観客席の方を見ると、知り合いの顔がめちゃくちゃあるんだけど。

 ノースにランスにタキオンさんに、トレーナーさん……。みんなが観客席で私の方を見ていた。

 ぞろぞろと大人数で見られるのはイマイチ恥ずかしい感覚がしたが、悪い気はしなかった。むしろみんなが私の勝利を願ってくれているため、勝たなくてはならないという使命感がいい感じに気持ちに働く。

 

「スターインシャイン……あなたがどれほどのものなのか、見させてもらいますよ」

 

「……G1をわざわざ見に来るなんて珍しいですね、金泉トレーナー」

 

「それはあなたも同じなのでは? まさかワタシに依頼しているウマ娘のレースを見に来るとは思いませんでしたよ。ワタシって信用ありません?」

 

「いや、地方のトレーナーから突然中央のトレーナーに就職し、レベルの変化に対応して昇華できたあなたの実力は信じていますよ。だからこそシャイニングと()()()()()を任せたんです」

 

「……ふん」

 

 上の方を見ると、なんか太陽光を反射してキラキラしている服の人が見える。あれはもしかしなくても金泉とかいうにくったらしいトレーナーではないだろうか。誰かと話しているように見えるが、そちらは遠くて特徴もないため判定ができない。

 

「そんなに上の方を見て、何か気になる物があるの?」

 

「……シャイニングちゃん」

 

 後ろから声をかけられ、私は振り返る。驚いたのはシャイニングちゃんの声が()()()()()ことだった。私を見る目も、笑顔こそ保っているが目に光や生気がこもっていない。まるで私を本当に消そうとしているような。

 

 ……いや、シャイニングちゃんは本当に私を消そうとしているだろう。シャイニングちゃんからは、シーホースランスから感じたような憎しみの気配がしている。間違いなくその憎しみの矛先は私だろう。

 

 自らがやりたくない事、キグナスとして他のウマ娘を消す行為を、私は身勝手にもシャイニングちゃんに押し付けた。しかしあの時の私にはそれしか選択肢はなかった。あのまま放っておけばシャイニングちゃんは、きっと落ちるところまで落ちていた。

 

「どうしたの? 突然声をかけてきて」

 

「ううん、なんでもないよ。ただ、呑気だなぁって思っちゃって。バ鹿みたい」

 

 突然私に飛んできた言葉の投げナイフに、軽く驚いてしまう。私に対して、いや、そのほかの人物にもまるで愛犬のように人懐っこい性格だったシャイニングちゃんが、今私に対して牙を剥いた。それだけで私はこの子を変えてしまったという罪悪感を感じてしまう。

 

「シャインお姉ちゃんが悪いの、私の警告を無視したシャインお姉ちゃんが悪いの。だから負けても文句はないよね?」

 

 すでに軽く驚いていた言葉の投げナイフを、シャイニングちゃんは連投してくる。それもかなり無理やりな理由で私を憎んでいることも、シャイニングちゃんの口から出た以上確かに私を消そうとしていることも分かった。

 

「突然だね。……なら私ももう一度言うよ、シャイニングちゃんがそうやって勝つつもりでいる以上、何度だって言ってあげる。 ……私は、勝つよ」

 

 指を突き付け、声を低く宣言する。しかしシャイニングちゃんは後ずさりする様子もなく、むしろ私にこういわれることは想定内といったような顔をしていた。

 

「ううん、シャインお姉ちゃんは今日私に負けるよ。私の超高速の脚にね」

 

 超高速の脚……タキオンさんが世間から呼ばれていた超光速とはまた違うのだろうか

 シャイニングちゃんと一対一で話し合ったあの日と違い、今度は私が負けると断言され、それほど今日のシャイニングちゃんはやばいのだと考える。

 

 私とシャイニングちゃんが話をしていると、ファンファーレの音色が中山レース場に響き始めた。ファンファーレが流れている間、私とシャイニングちゃんはずっと見つめ合っていた。まるでこのレースで走るお互いの姿を確認するように。

 

「……そろそろゲートインの時間らしいね。入ろうか」

 

「超高速に追いつけるかなぁ?」

 

 二人で同時にゲートに向かい、すぐにゲートインする。それに釣られ他のウマ娘達も順調にゲートインしていく。

 一度このレースの枠番を振り返っておこう。今日、この皐月賞で走る私のウマ番は4枠7番。シャイニングちゃんのウマ番は7枠14番だ。

 

 そしてコースは知っての通り、中山レース場の芝2000m。ホープフルステークスとコース形状が同じなため、何も変わらないと思うかもしれないが。実際は変わっている。少なくとも私が知っている知識で一つ言えることがある。

 

 それは皐月賞がホープフルに比べてハイペースになりがちと言う事だ。皐月賞と言うのはホープフルと違いフルゲートになることが多い。対してホープフルはフルゲートになることが少なく、出走するウマ娘の数が少なることが多いといった具合。ウマ娘の数が少ないとどういう事になるのかと言うと、ペースが緩くなるのだ。ホープフルの過去の成績を見ても、かなりのスローペースなタイムになっているため、ペースが遅くなっているのが分かるだろう。

 

 しかし皐月賞は違う。フルゲートになり、競い合うウマ娘が多いからこそ位置取り争いが起きやすく、逃げウマ娘もいればそれだけペースも上がるのだ。

 

 前回のホープフルはランスがハイペースにしてくれたため、このコースでの走りは基本的に慣れていると言えるだろう。しかもペースが速くなるのを事前に知れるため、多少ついていくために事前準備ができるのがメリットだ。

 

『夢の舞台、皐月賞。今日ここでどんなヒーローが生まれるのか、はたまたヒーローは既に存在しているのか』

 

『ホープフルステークスをレコードで勝利したスターインシャインにも期待ですね』

 

 実況もそろそろ出走が始まるような喋り方になってきた。頭の整理を終了し、走り出す体制を整える。

 

『各バ、ゲートイン完了しました。中山レース場、皐月賞今……スタートしました!』

 

 ゲートが開き、すべてのウマ娘が走り出した衝撃で地面が揺れる。

 私はというと、少し出遅れてしまった。せっかくのG1レースなのに出遅れてしまうなんてかなりとんでもないことをやらかしてしまった。などと少しだけ焦りながら冷静にバ群を見つめる。

 

 前方一番先頭からシャイニングちゃん、私の少し前位にクライトがいる。走り方を見るにシャイニングちゃんは逃げウマ娘のようだ。

 

「……また逃げかぁ」

 

 なぜだろうか、ここ最近逃げウマ娘とばかり競い合っているような気がする。別に構わないのだが、逃げウマ娘と競っていると仕掛けるタイミングが遅くて逃げ切られるんじゃないかという心配がどうしてもこみ上げてきてしまい心臓に悪いのだ。こればっかりは慣れるしかないか……。

 

 先ほども整理していたように、皐月賞はホープフルとコース形状が変わらない、そのためスタートしてすぐに中山レース場の例の坂がやってくる。

 ホープフルの時は坂の超前傾を使おうとしていたが、スタミナを温存するために今回は使用しないで行こうと思う。

 

『各バ落ち着いて坂を登っています、先頭からシャイニングランそれに続いて──』

 

 他のウマ娘達も同じことを考えているようで、スタートしてから坂に入っても誰ひとり無茶をするウマ娘はいなかった。やはり皐月賞、みな冷静だ。

 

 しかしそんな中、一人だけその均衡を破るウマ娘がいた。

 

「それじゃ! 超高速見せちゃうね!」

 

『おっとスタートして数秒、14番シャイニングランが逃げる逃げるどんどん逃げる! 後ろのウマ娘達をもう5バ身ほど離しています!』

 

 キグナスの逃げウマ娘という時点で嫌な予感はしていたが、やはり、そうだった。シャイニングちゃんもランスと同じ、バ群を引きずり回す逃げ方をするウマ娘だった。

 

 しかし流石皐月賞と言ったところだろうか。前回ホープフルステークスではランスの逃げに対応できていないウマ娘がほとんどだったが、今回の皐月賞ではシャイニングちゃんの逃げに食らいつくウマ娘が多いようだ。適度について行っている私の後ろに誰も沈んでこないという状態だった。

 

『後ろのウマ娘達も必死に食らいつくが、3……4……5バ身以上をキープしたままだ!』

 

 なるほど……超高速とはそういう意味か……。

 

「スターインシャイン、ワタシの鍛えたウマ娘に勝てますかねぇ?」

 

 シャイニングちゃん、先頭のその場所で待っていて。

 

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