持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
いける……! このままなら逃げ切れる……!
『最終直線に入って未だプロミネンスサンが逃げている! 後ろからは誰も上がってこない! このまま桜花賞を制するのはプロミネンスサンか!』
まだスタミナは残ってる、スパートをかけて多少後ろから上がってきてるウマ娘がいるけど、心配はいらない。この流れのまま押し切ってやる!
『残り400といったところで後ろから飛んできたツインサイクロン! プロミネンスサン苦しいか! プロミネンスサン苦しいか!』
「うそっ!?」
「良い風が吹いてるね。……チャオ~」
後ろの方からいつの間にこんなに上がってきてたの……。
逃げなきゃ……もっとスタミナを振り絞って逃げなきゃ……。
「っ……脚が前に進まないっ!? なんで!?」
スタミナはあるはずなのになんで脚が動かないのかわからない。確実にあと200は走れるはずのスタミナはあるはずだ。
『耐えられない! 躱された! プロミネンスサンが躱された! ツインサイクロンが先頭! ツインサイクロンが先頭! 桜花賞! 制したのは! ツインサイクロン!!』
「一つ、シャイン君のスタミナにある程度、本当に多少の余裕があること。一つ、そのレースに深く関わる人物がいること。一つ、その人物とシャインくんが友好関係を持っていること。条件はひとまずこんなものだろうねぇ、細かい要因も探せばあるだろうけど……私に考えついたのはこのくらいだ」
皐月賞が終わってその日に言われたタキオンさんの言葉を思い出す。私の想いの継承についての話だ。
どうやら私の想いの継承が発動する条件がイマイチ見えないらしく、タキオンさんが証明に手間取っているらしい。
私としても新しい武器の可能性なので証明はして欲しいが、ひとまず私の超前傾で頑張ろうと思った。
「サン、最近休んでるなぁ……」
そんな皐月賞が終わり、2日くらい経っただろうか。トレセン学園の教室にて休み時間の最中、教室の外を見ながら頬杖をついてそのようにふとつぶやく。皐月賞が終わって数日、トレセン学園でサンを見かけることが少なくなった。少なくなったというより、全く見なくなったという方が正しいかもしれない。
「確かに……そうだな、桜花賞の時くらいからあいつの姿見てねぇな。サンの奴何してんだ?」
ふとつぶやいただけなのに聞こえてしまうあたりやはりウマ娘の聴覚は優れていると感じる、同じ教室内で椅子に座りこんでいたクライトが反応を示した。
「俺もスタ公も桜花賞の時は皐月賞の仕上げで忙しかったからな……桜花賞なんて目にも入ってなかったし、何があったのかなんて知りようがないな……」
確かに、あのころは私自身シャイニングちゃんとのことで木が立っていたこともあって桜花賞と言うレースそのものを忘れていた。自分が走らないレースの情報は皐月賞に本腰を入れる過程で不要なために記憶から排除されたのだろう。
しかし何か引っかかるような……。
何があったのかなんて知りようがない、何があったか、何がどうなったか。
着順はどうなったか……。
「そういえば私達、桜花賞の結果見た!?」
思考を張り巡らせているうちに一つ重要な情報を知らないことに気付いた。私達は桜花賞の結果をなんだかんだ見ていないのだ。しかもG1レースの結果が出ているのにもかかわらず学園内で全く誰も話題に上げていなかった。やはり同時期に行われる皐月賞や、少し後に行われる日本ダービーに比べて話題性は少しばかり低いのだろうか。
いやそれにしたって学園内で多少は話題になるでしょ、桜花賞って言うなれば第二の皐月賞だよ。
「そういや見てねぇな。全く俺ら、サンの友人のくせして全く桜花賞に興味ねぇな、ナハハハハハハハ!」
「笑い事じゃないと思うけどね……いや、私も忘れてたけどさ……」
私の机に座りながらクライトがそのように大笑いをしている。しかしながら、サンの友人でありながらサンのレースに全く関心を持たない私達を客観的に見て笑うのは少し違う気がしたのでやんわり止めておいた。
「わーってるよ、ちょっとした冗談だ」
私がやんわり止めようとすると、私の心情を察したのかクライトはにやにやした表情を崩さないまま頭を掻いてそのように言った。
「んまぁ木村さんはいるだろうし、サンのトレーナー室行ってみる?」
「ん」
私たちが桜花賞の結果を全く見ていなかったのは少しだけ置いといて、サンが学園に来ていないことがまず不可解だ。とりあえず木村さんにどうなっているかの確認を取るために私たちはサンのトレーナー室へ向かう事にした。
「あ、スターインシャインさんよ!」
「きゃーっ!! サインして~!」
「うげっ」
サンのトレーナー室に向かっている最中、ちょうど学園の中庭あたりを歩いていた時。突如背後から黄色い歓声が聞こえ、嫌な予感がして私の額を汗が伝う。壊れたブリキ人形のように後ろをゆっくり振り返ると、そこには私が皐月賞を勝ったことによって生まれた新たなファンの二人がこちらをつぶらな瞳で見ながら走ってきていた。
「おう、よかったな、ファンだぞ皐月賞バさんよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだって!」
「スターインシャインさ―ん!!」
「まって~~!!」
クライトのからかいをいなす余裕も持っておらず、私が狼狽えているとファンの二人が色紙を持って私に全力疾走してきた。
皐月賞が終わってからこうだ、この二人は皐月賞での私の走りに感動して私の熱烈なファンになってくれたまではいいのだが、その情熱が異常なほどに高いのだ。今日だって、昨日サインは済ましたはずなのになぜかもう一回サインをねだられているし、挙句そのサインは二人の学生かばんに張り付けてある始末だ。しかも一度捕まったら3時間は離してくれない。
私は二番手に1バ身まで詰められたときくらいの走りで全力疾走し始める。
「やばいってやばいってやばいって!」
「スタ公が本気で走ってんの面白ぇなぁ……」
中庭で厄介な人物に見つかるというアクシデントはあった、しかし何とかファンの二人を撒きながら、私とクライトはサンのトレーナー室にやってきた。
「そういえば私達ってなんだかんだサンのトレーナー室に入ったこともなかったよね」
「そういやぁ……そうか? ……そうか、サンのスタ公もサンもどっちかって言うと俺たちのトレーナー室に来てる印象だなぁ」
その綺麗なトレーナー室の扉に対し、見た事が無い違和感を覚え、ふとここに訪れた事が無いという事実を思い出す。
しっかり拭かれた跡がある扉のドアノブに手をかけ、私とクライトはサンのトレーナー室に入った。
中に入ると超絶綺麗としか言いようがないトレーナー室が広がっていた。地面はきれいに掃除され、部屋の角に蜘蛛の巣も作られていない。棚もちゃんと整理されていて、机の上に関しては物が散らばってない事で一瞬木村さんをミニマリストか何かと勘違いしてしまいそうだった。
「……シャインさん、クライトさん、サンを見てませんか?」
意外にも木村さんから出てきた第一声はそのような質問だった。話を聞くとどうやら木村さんも桜花賞が終わってからサンと連絡が取れていないらしく、寮に問い合わせても鍵が占めてあるらしい。私達は木村さんにサンの居所を聞こうと思ってこのトレーナー室にやってきていたために、いきなり出鼻を折られてしまった気分だ。
「あの、木村さん。サンは桜花賞で何かあったんですか?」
とりあえずソファに案内されたため、ひとまず一息ついてから木村さんにそう質問した。あの元気で破天荒なサンが突然音信不通になるなどあり得ない。となれば桜花賞で何かがあったと考えるしかないのだ。私達は桜花賞の現場に立ち会っていないため、その現場をよく知っているだろう木村さんにそう質問したのだ。
木村さんは桜花賞の時を思い出したくないかのように頭を抱えて、ゆっくりと語り口を開いた。
「単刀直入に言うと、サンは桜花賞で負けました」
「ンだと……?」
「サンが……」
木村さんから出てきたのは衝撃の事実だった。正直なところ、最初は信じられなかった。また木村さんが笑顔で放つ冗談に聞こえない冗談だと思った。サンは間違いなく逃げウマ娘としての才能が爆発しているし、うぬぼれかもしれないが皐月賞バである私を負かしたことも過去にあるのだ。そんなサンが簡単に負けるはずがない。
しかし黙っていてもただただ外で車が走る音やウマ娘達がトレーニングをする声が微かに聞こえるだけで、木村さんはいつまでもネタばらしをしてくれない為、サンが桜花賞に負けたのは紛れもない事実なのだろうと私の中で確信した。
隣の方を見てもクライトがスマホを取り出して青ざめたような悲しいような顔をしている。
きっと木村さんの発言を聞いてすぐに調べ始めたのだろう。
「金泉トレーナーと話をした日の次の日くらいに、甘李と言うトレーナーがここを訪ねました。その甘李と言うトレーナーはキグナスのサブトレーナーでした」
「二人目のサブトレーナー……」
「担当ウマ娘はツインサイクロンと言うウマ娘でした。甘李は私とサンへの宣戦布告通り、サンを打ち負かしました」
話を聞いているうち、次第にわなわなと手が震えてくる。キグナスのウマ娘にサンは負けたのだ、キグナスが圧倒的な勝利を叩きつけた後にトレセン学園を追い出すというスタンスなのは知っての通り。サンはその前段階である圧倒的な勝利を叩きつけられるという工程を遂行させてしまったのだ。
負け方は差されることによる敗北。最終直線まで先頭を走って逃げていたサンは、後方から走ってきたツインサイクロンに躱され、サンの武器である「逃げて差す」を使おうとしたが使えずに失速してしまったらしい。原因は未だ分かっておらず、サンがなぜ失速してしまったのかはレース映像を見ただけではわからない。
「そしてその桜花賞で負けてから連絡が取れず、学園内のウマ娘に聞いても情報が無いというのが今の状況です……」
「サン……まさか負けてたなんて……」
「まさか負けたくらいで心が折れるような奴じゃないと思うが……」
それまで木村さんが語る声が響いていたトレーナー室に再び静寂が流れた。ジュニア期はおろかメイクデビューからの親友であるサンがどこにいるのかわからない。そのような状態で普通の生活をしろと言われても無理というものだろう。
「とりあえず、クライトと私でサンを探してみます。木村さんはここでサンの帰りを待つべく、トレーニングメニューを作ってください!」
「いや、そういうわけにも……」
「いいですから! サンのオークスでは絶対リベンジマッチを決めてくださいよ!」
私は強引に木村さんの言葉を遮ってトレーナー室をクライトと一緒に出た。
トレーナー室を出るとサンがフレーメン反応を起こしたような顔をしながらこちらを向いてくる。
「おい、キグナスって負けたら消されるんじゃねぇのかよ」
「確かにそうだよ。……だけど、サン自身に戦う意志があれば何とかなるんじゃないかな。圧倒的な勝利を叩きつける、という点でキグナスが単純に戦績で勝ちたいならサンはもう消されちゃうと思う。けど万が一『圧倒的な勝利で相手の心を折る』というのが目的なら、サンが戦う意志を無くさない限り消されないんじゃないかなって思うけど」
「んなアホなことあるかね……」
そこから私たちは、色々な場所に向かってサンを探した。学園内の教室、サンやクライトと一緒に言ったゲームセンター、私とサンが初めて走ったあのコースのあたり。とりあえず思いつくところはみんな立ち寄った。しかしそのどこにもサンはおらず、近所の人に聞いても目撃情報一つないといった状況だ。
「ん~~っ、困ったねぇ。目撃情報もないしサンが行きそうな場所ももう大体行きつくしたし、どのウマ娘が勝つかの予想をするより難しいよこれ」
学園の中庭のあたりに戻ってきて、私とクライトは贅沢にも一人一つベンチを使って伸びていた。
「あ、そうだよスタ公、あいつの寮室は?」
ベンチで寝ていたクライトが思い出したように言う。
「え、でも木村さんが言うには寮室はあり得ないんじゃない?」
「分からねぇだろ、行って見なきゃ」
行って見なきゃわからないとクライトに言われ、確かに……。と思ってしまった。
木村さんが寮に問い合わせてみたと言っていたが、寮室を直接見たわけではない。それならば室内にいても出てこないと言う事が可能だ。しかしウマ娘である私達が直接押しかければ、逃げることはできない。
ベンチから起き上がり、クライトと一緒に寮を目指す。寮に到着してから寮長室に問い合わせると、サンが音信不通になっていることを寮長の人は何となく知っていた。話を聞けば一応部屋にはいるらしく、サンの友人ということを話したらマスターキーを貸してくれた。
サンの寮室の前に行き、マスターキーをシリンダーに差し込む。
ここ数日全く姿を見なかったサン、私の友人が一体どうなってしまったのか。今ドアを開けて確かめる。
「サン……」
ドアを開けて中を見ると、太陽が差しこむ隙間すらないくらいカーテンを閉め切り真っ暗な部屋に、布団にくるまっているサンがいた。
「シャイン……?」