持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

54 / 90

作者「前書きで一言つぶやくことに味をしめました。それはそれとして特殊タグで暴れました、もっといいやり方あったら教えてください」


第五十三話 暴風は追い風へ②

 

『さぁもうすぐ1000mを通過します青葉賞、逃げの作戦を打つはずの16番ノースブリーズが後方に回っており、現在先頭は3番……──』

 

「なんなのよ……あのウマ娘……」

 

 レース中盤、私がサンとの戦いで見せた武器である深呼吸を忘れ、スタミナの補給を怠ってしまった。そのためかなり後ろの方に沈んでしまったが、何も問題はないだろう。ちょっと肺が痛いだけだ。そんなもの耐えればいい。

 しかし心配なのは前の方で私を追い抜いたウマ娘。あれは先ほど、私が返しウマをしている最中に話しかけてきたウマ娘の姿だ。

 

「このまま、逃げ切ってやる! サンの闘志に火をつけてやる!」

 

「霧雨 小雨 大雨 津波、風はどんどん荒れていくかもよ。荒れれば、力が分散されるかもよ」

 

「んなっ……」

 

 これはほんの十数秒前の出来事だ。

 先頭で逃げていた私は、このまま逃げ切れるだけのスタミナを補給するために深呼吸を挟もうとしていた。しかしそんなときに、後ろからあのウマ娘がやってきたのだ。このレースの残りの距離は約1000m、距離的にかなり早めのスパートをかけ始めたのだろう。

 

 異様なのはその走り方。

 ウマ娘の走り方には二つの走り方がある。

 一つはピッチ走法と呼ばれているもの。これは簡単に言えば地面を蹴る回数、すなわちピッチを増やし、前に進む推進力を持続し続けるというものだ。

 

 もう一つはストライド走法と呼ばれているもの。こちらは先ほどのピッチ走法とは違い、逆に地面を蹴る回数を減らす。その分大きく足を延ばし、常時跳ねているような状態にする走り方だ。

 

 あのウマ娘の走り方はぱっと見ればピッチ走法にみえるかもしれない。だがそれにしては地面を蹴る間隔が長い、ストライド走法にも匹敵するくらいの長さだ。さらにあのウマ娘は、ピッチ走法と言うわけでもないのに一歩一歩をわざわざ脚が曲がるくらい踏み込んでおり、非常に非効率的な走り方をしている。そんな走り方なのに、先頭にいる私を追い抜いてきたのだ。あの走り方であのスピードを出せば、脚に想像できないくらいの負荷がかかり、いつかは脚が壊れてしまうだろう。いやそれどころか、痛みで走ることすらままならない状態になるのが先のはずだ。()()が今のはずだ。

 

 それなのに、なぜ私を追い抜くくらいのスピードを出せたのか……? 

 

「とりあえず落ち着かないと駄目ね……スゥ──……」

 

 兎にも角にも、今の状況は『私が後ろの方にいる』という状態だ。まずはこの状況を打開しなくてはならないため、深呼吸を行い、スタミナを多少回復させる。

 

「……よし、行こう!」

 

 ある程度深呼吸を挟み楽になった私の体は、脳からの信号を受けて再び前に進み始めた。

 

 

 

「っっっはぁぁぁぁぁ……ノースが上がってきた……」

 

「んだよ、意外とお前も心配なんじゃねぇか」

 

「うるさい、シャインのハリセンまだあるからね」

 

「おー怖、下げてくれよそのハリセン」

 

 クライトに手渡されたリモコンで思わずつけてしまった青葉賞、そこに映し出されていた最後方に位置するノースは、私が青葉賞を見始めて数秒、ようやく前に上がってきた。

 テレビを付けたらいきなり負けそうになっているとは本当にどういう事だろうか。私にあのような事を言っておいてこのような醜態は見ていられない。

 

 しかしまぁ、一応ノースは前の方に上がってきたので、青葉賞は最後まで見ることに決めた。

 

「ねぇクライト、シャインって東京レース場にいるんだよね?」

 

「ん、あぁいると思うぜ」

 

 ふとあることを思いついたので、クライトにシャインの居場所を確認した。クライトは特に何も考えていないような様子で頷き、確認は取れたのでウマホを取り出す。

 

 

 

「いやぁ……本当に……頼む、あの子を、ノースを勝たせてやってくれぇぇ……」

 

「そこまで神に祈るような声を出さなくても……まぁ心配か。……んにょっ」

 

 森田トレーナーとノースの青葉賞を見ていると、私の腰あたりに不気味な振動が走ったため、変な声が出てしまった。振動の犯人はポケットに入ったウマホのようだった。

 

「まったくまったく誰なのこんな大事な時に」

 

 ウマホから発せられる音を聞くと、どうやら誰かから電話が掛かってきているようだ。ノースの青葉賞を見ていたというのに誰が私に電話をかけているのだろうか。

 

 と思い画面を見てみると、私に電話をかけてきているのはサンだった。しかもただの通話ではなく、ビデオ通話で。私は迷わず応答ボタンを押し、画面に顔を向ける。

 

「シャイン! 今レース見てる!?」

 

 画面が繋がるなりサンは急いだ様子でそう聞いてくる。見てるも何も今絶賛走っている最中で、ちょうどスタンド前に来そうな状態であることをサンに伝えた。

 

 

 

「っすぅぅぅぅ……」

 

『今日は後方に下がってしまった16番ノースブリーズが、どんどんと前に上がってきた! 以前のレースでプロミネンスサンに敗れてしまったが北風はいまだ健在だ!』

 

 アルビレオでトレーナーさんと一生懸命トレーニングをしたおかげだろうか。以前の深呼吸はある程度走りが落ち着いた状態でなければ使えていなかったのだが、今の私は本格的に走っている最中にも深呼吸を行う事が出来ている。そうしている間に、あっという間に先ほどのウマ娘が目の前に来ていた。

 

「あなた……風はどんどん荒れていくって言ったわね!?」

 

 私を追い抜いたウマ娘に並びかけた時、私はそのウマ娘にそう声をかける。

 

「風はね……荒れれば荒れるほど、力を増すのよ! 分散なんてできないくらい、荒れてやるわよ!」

 

「私は、風の力を分散できるかもよ」

 

 そのウマ娘に並び、再び私が先頭に舞い戻ろうとした瞬間。なんとそのウマ娘は、さらにスパートをかけるような体制に入った。

 

「!? 無茶よ! その走り方じゃあなたの脚が!」

 

 走り方が無茶だと言う事は、先ほど最後方を走っているときに嫌というほど感じていた。だから私は思わずそのウマ娘を止めるような言葉を精いっぱい叫んだ。

 

「あーもう、さっきからうるさいよ」

 

 私の抑止の言葉を踏みにじるような目線を一度こちらに送ると、なんとそのウマ娘はどうみても脚に異様な負荷がかかる走り方で加速していった。

 おかしい、たとえ素人目には分からなくとも、私には分かる。あの走り方で加速しようものなら、たちまち脚は限界を迎えて麻痺や硬直、下手をすれば骨折まで行くだろう。そんなことが出来るわけが無い、はずなのだ。

 

「あと私は()()()じゃない。ウェザーストライクだよ」

 

『16番ノースブリーズが再び先頭に立ちかけましたが、3番ウェザーストライクがそれを受けて突き放す! 北風があともう少しのところで届かない! やはり天気そのものに勝つことはできないのか!』

 

 離されていく、スパートをかけた私が意味不明なウマ娘に離されていく。

 

「まだだ! まだ……サンに見せつけるのよ! 強くなった私を!」

 

 もはや前を見る余裕などない、首の力を抜き、下に俯きながらひたすら前を目指す。しかしいつまで経ってもウェザーストライクと名乗るウマ娘を抜ける気がしない。

 

「うわ! もっと! 走れノースゥゥゥ!」

 

 観客席からもトレーナーさんが叫んでいるのが聞こえる。いや、それどころではない、もう観客席の前を走っているのだ。一瞬だけ顔を上げてハロン棒を見ると、6という数字が表記されていた。

 

 

「ノ────ス────!!」

 

 突如聞こえたその叫び声、観客席の方から聞こえたその声は、サンのものだった。

 

 その声に脊髄反射するように頭が動き、声が聞こえる箇所を探す。しかしどこにも見当たらない、どこを探しても、サンの姿が見当たらない。

 

「ノォォォォスゥゥゥ──ー!!」

 

 ふとシャインさんの姿が見える。シャインさんは手に何かを握っており、それをよく見るとシャインさんのウマホだった。そしてそのウマホにはしっかりと、ビデオ通話でサンの姿が映し出されていた。

 ああ、やっと。やっとサンがレースを見てくれていると確信を持てた。サンはこの青葉賞を見ている。そう思うとさらに私の脚が加速するのを感じた。

 

 いつもとは違って最後方からの上昇をしたからだろうか、脚がおかしいくらいに軽い。前の方にいるウマ娘に対してどんどん()()()()()()いき、確実に追い込んでいくこの感覚、これがいつもシャインさんが感じている感覚なのだろうか。ただでさえ速度が出ている私の加速力がさらに上がった気がする、もしかしたらうぬぼれかもしれないが、これを私の新たな武器と言っても過言ではないだろう。

 

「よしっ! ここまで来たわよ……!」

 

 ひたすら走り続け、前の方で聞こえていた地面を蹴る音が真横に近づいてきたため横を見ると、私は既にウェザーストライクと並んでいるどころか先頭に舞っていた。

 

「これで一着に……!」

 

「だから、うるさいよって」

 

「まだそんなことを……」

 

 私が先頭に舞い戻り、あとは後ろの集団を振り切るだけだと意気込んだ時、なんと驚くべきことに、ウェザーストライクは更に脚を食いつぶすような無茶な走り方をし始めたのだ。

 姿勢こそ安定していないのに、なぜか私と同等かそれ以上の速度を出しているその光景は、もうこの東京レース場に来ている人すべてが感じていることだろう。

 

「嫌だ! 絶対に負けたくない! 私は負けたくなぁぁいっ!!」

 

 私は、私自身が持てる最大の力を持って地面を蹴り続ける。しかし私がそれほどまでに頑張っても、ウェザーストライクはじわじわと私より前方に突き抜けていく。

 

『ノースブリーズとウェザーストライクの一騎打ちか!? 後ろのウマ娘達もノースブリーズに追いつきかけているがその差が縮まらない! やはり一騎打ち!』

 

 だが、サンにこの青葉賞を見られていると確信した今、絶対にこのウェザーストライクに負けるわけにはいかない。『私の走りがお粗末なら帰ってこい』と言ったことを宣言したのはいいとして、だとしてもレースに負けてしまってはサンに合わせる顔が無いのだ。たとえ死んでも勝たなければならないと、私のプライドが叫んでいる。

 

「私がライバルと認めたウマ娘が、そんなにギリギリの勝負をするな──ーっ!!」

 

「っっ! うああああ────っ!!!」

 

「そんな……アンタは少し頭がイカれている……!」

 

 サンの追い打ちのような叫び声に私の心は更に燃え上げられ、今再び私と言う北風は追い風になった。太陽による熱で、上昇気流になるほどに熱され、前に進んだ。

 

「……っあああっ……は──っ……」

 

 死に物狂いで走り続け、何とかゴール板を駆け抜けた私は、急いで電光掲示板に目を移す。サンの声援によって加速したつもりなのはいいが、ウェザーストライクを抜けた気がしてないからだ。もしこれで万が一負けていたというならば私は恥ずかしくて今後外を歩けないだろう。

 

 そして、電光掲示板に書かれていた着順は──。

 

 

東京11

 

   >写真

 

 

 

14

 

「写真……」

 

 リプレイ映像を見ても、私のウェザーストライクはならんでいるように見える。写真判定でもおかしくはないだろう。

 

 沈黙。

 先ほどまで私のウェザーストライクの一騎打ちを見て熱くなっていた観客席は、いつの間にか沈黙で包まれていた。

 

「まさか私についてくるウマ娘がいるなんて思わなかったよ。意外とアンタ、強いのかもよ」

 

 ウェザーストライクは、ゴール後に私に近づいてきてそう語りかける。

 私はその声に答えず、ただ目を合わせて何も言わずに視線を電光掲示板に戻した。

 

 確定はまだしない。

 

 負けていたらどうしよう。

 

「昔の私は、地方ですら活躍できないようなウマ娘だったよ。でも、今のチームに入ることで活躍し始めていたんだよ。そんなとき、私が走るこの青葉賞で、キグナスのウマ娘が走るって聞いて、すごく楽しみにしてたんだよ」

 

 先ほど話しかけに来たウェザーストライクが未だ語り続けている。

 

「そして今日、私は中央の最強チームと呼ばれたチームのウマ娘に勝つんだよ」

 

 なんだ、そういう事か。

 この子はただ嫌味ったらしい子ではない、私が思っている以上に熱い子だったようだ。ただ、割と大多数の人を勘違いさせるくらいには毒舌気味だが……。

 

「キグナスとあなたのチーム、どちらが勝つか見ものね。でも残念、私はもうキグナスなんていうチームじゃないの。覚えておきなさい……私が所属しているチームは、いずれ学園最強になるチーム、アルビレオよ」

 

 私がウェザーストライクに向かって放つ言葉を言いきったと同時に、観客席から歓声が巻き起こる。どうやら着順が確定したようだ。

 

 先ほどのウェザーストライクとのやり取りを経たからか、今はもう負けるかもしれないという不安はない。ゆっくりと電光掲示板に目を移す。

 

東京11      確定

 

   >同着

16

   

   2/1

   

14

 

「どうやら電光掲示板には、私たちの決着を先延ばしにしろと書いてあるみたいね」

 

 電光掲示板と目を合わせたまま、ウェザーストライクにそう語りかける。

 

「……快晴すぎて、上昇気流が生まれるなんて思わないよ。それじゃあ私の所属しているチームの名前、覚えていってよ。……タルタロス

 

 タルタロス、確かマル地のウマ娘を活躍させているチームだったか。それだけ言うと、ウェザーストライクは観客席の前に手を振りに行ってしまった。

 私もシャインさんの所に行かなくては。

 

 

 

「シャインさん!!」

 

 観客席を一通り探し、シャインさんがいる箇所にやってきた。しっかり最前列に出てきているあたり、流石と言うべきか。最前列に来てくれていたからこそ、サンの声を聴くことができたし、今回の事と言い、アルビレオの時の事と言い、シャインさんには感謝してばっかりだ。もちろん、サンにも。

 

「ノース……」

 

 ビデオ通話越しにサンがそうつぶやいたのが聞こえた。正直歓声で全く聞こえてないに等しいが、全力で聴覚を働かせて聞き取った。

 

「……悪いわね、これじゃあ私の走りに圧倒されて、ターフに戻ってくる気がなくなったかしら?」

 

 私は煽るようにサンにそう言う。当然、私はサンをみすみすターフから退かすためにこう言ったのではない、答えはわかりきっているからだ。

 

「……同着でしょ? それじゃあ私を圧倒する事は出来ないよ。……また、別のレースでもう一度走って、ノース」

 

「……やっと、()()()って略して言ってくれたわね」

 

 レースに勝って、サンの心も取り戻した。

 勢いで始めたこの青葉賞だったが、私が望んでいた最高の展開になって、もう言う事は無い。

 

 

 

「おはよう……?」

 

 ゆっくりとトレーナー室の扉を開ける。もうこのトレーナー室に来るのは何日ぶりだろうか。

 トレーナーさんがいなくてもいい、いや、いてくれた方が良いのだが、長期間トレーニングをさぼった私を待つなどあり得ないからあまり過度な期待はしていない。ただ、またトレーニングを再開したいがために、トレーナーさんに私の気持ちが復活したことを伝えるために私はこのトレーナー室にやってきた。

 

「……おはよう、サン」

 

「トレーナーさん……!」

 

 扉を開けてゆっくり中を覗き込むと、なんとトレーナー室のソファに私のトレーナーさんが座っていた。信じられない、あれほどの期間サボっていたというのにまだ私が来ると信じて待っていてくれたのだろうか。戸惑いで言葉が出てこない。

 

「嘘……なんで……ずっといたの……?」

 

「ええ、サンは必ず戻ってくるって、信じていましたよ」

 

「でも……なんで信じられたの……」

 

「サンの事ですから、またどうせ落ち込んでるんだと思って、待っていれば帰ってくると確信してたんですよ。全く、相談してくれれば私も一緒に悔しさを背負いますよ。……もうちょっと頼ってください、サンは、私のたった一人の担当ウマ娘ですから」

 

 トレーナーさんはそれだけつぶやいて、トレーニングメニューの紙を差し出してきた。

 もう私の顔は涙でびちゃびちゃになってロクに見えないが、かなりぎっちぎちの密度なのは見える。

 

「今日からは今までの分を取り返すために、ハードなトレーニングをしますよ。しっかりトゥインクルシリーズに復帰するために!」

 

「……うん!!」

 

 あの日説得に来てくれたシャインやクライト、そして何より私の心の火を再点火してくれたノースに感謝をしながら、私はトレーナーさんからトレーニングメニューを受け取った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。