持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「作者はナイスネイチャ推しです」


第五十四話 うなぎのぼりが妥当かなっ!

 

「どうも、今朝はいい調子、ですかね」

 

「……原田トレーナー」

 

 トレセン学園のグラウンドにて、キグナスのトレーナーに原田は近づいた。キグナスのトレーナーが普通のトレーナーではないと語る原田が話しかけてきたために、一本だけ眉にしわを作り、キグナスのトレーナーは受け答えをする。

 

 話自体は他愛のない世間話だった。トレーナー活動の話、最近のG2・G3のレースで活躍しているウマ娘の話など、何一つ違和感はない会話だった。

 

「ところで、面白いものを持っているみたいですね。もしよかったらなんですけど、見せてもらえませんか?」

 

 突然原田が話の見えない発言をする。何の脈絡もない、急な要求。

 

「なんのことですかね、よく分かりませんが」

 

 キグナスのトレーナーは何か心当たりがあるように目を痙攣させつつも、そんなものは無いと言い切る。しかしそんなことを言われるのは知っていたかのように、まるで予定通りと言わんばかりに、原田はある一点に手を伸ばし、あるものを取り出した。

 

「なっ……!?」

 

「さしづめ盗聴、録音ってところですか。良く出来てますね、これ」

 

 原田が自らのスーツから取り出したものは、四角く黒いもの。何かの機械にも見えるし、ただの四角いものにも見える。

 

『いえ、ですのでトリプルティアラがダメなら、ダブルティアラ、つまりオークスと秋華賞を狙えば良いのでは? という意見です』

 

()()からはあるウマ娘の声と思われる音声が流れている。黒い端末に映し出されている日付は数週間前のものだった。これは小型の盗聴器だ、キグナスのトレーナーがそれぞれ違う店で素材を買い、自らで開発したため購入履歴も存在しないような代物。

 

「なるほど……これはついこの間()()()ウマ娘の声ですか。へぇ……プロミネンスサンを復活させることになった要因だからですか?」

 

「……」

 

 原田はその盗聴器をにやにやしながらいじっている、焦っているキグナスのトレーナーの反応を楽しみながら。

 

「これは貰っていいですよね? 何かと便利そうですし。……もちろん拒否はしませんよね? もし拒否というなら、これを証拠として学園に告発させてもらいます。まさかあのキグナスが初めてボロを出すなんて、思いもしませんでしたよ」

 

「……五重のカギをどうやって……」

 

「……さぁ? 私にもわかりません。勘ですよ、カ・ン」

 

「ふざけるな! そんなことあり得るはずがないだろう!」

 

「まぁ、私もこれを使うかもしれませんし、承諾さえしてくれれば告発はしないと誓いましょう。拒否すれば……無論です。拒否出来ればの話ですけどね」

 

 原田はそう言いながらどこかに歩き去って行った。残されたキグナスのトレーナーは地面に片方の膝を突き、手で頭を押さえる。

 これまで学園内のウマ娘、トレーナー、そして生徒会にすらボロを出すことが無かった自分が、初めてボロを出してしまったショックにキグナスのトレーナーは打ちひしがれていた。

 何より、なぜ端末の存在がバレてしまったのか、理由が分からないがゆえに、さらに原田・タルタロスに対しての嫌悪感が増していた。

 

「……クソ……」

 

 そのショックから出るのは、その一言のみだった。

 

 

 

『さぁ外から回ってくるのはマックライトニング! 内からはプロミネンスサン! 今日も逃げているがじわじわと詰められている! しかし! プロミネンスサン! プロミネンスサン! 今日は逃げ切った──ー!!』

 

 京都新聞杯 プロミネンスサン  1着

 

 マックライトニング 2着

 

『最後方に位置している一番人気スターインシャイン! 今日も上がってきている! しかし前はまだ遠いぞ! 届くのか!?』

 

「シャインちゃーん! 言われた通りちゃんと友達も何人か応援に呼びましたー! けっぱるべー!」

 

「にゃはは~、いつの間にかこんなに人気者になっちゃって~」

 

「スペちゃんの友達の事はあまり知らないけど、頑張るデェェス!! グラスの薙刀をお守りに持ってキマシター!」

 

「エル……?」「デェェェス! ウッ!」

 

「ウソでしょ……」

 

『先頭のウマ娘はもうくたびれている! スターインシャインが後ろから襲ってくるぞ! スターインシャイン! 差し切ってゴールイン! 皐月賞ウマ娘の称号は伊達じゃない! NHKマイルカップも制した! G1三勝快勝!』

 

「ふぅ! ……ほんのちょっぴり力借りましたよ、エルさん」

 

 NHKマイルカップ スターインシャイン  1着

 

 

 

「それじゃあ……サンの復活とシャインのG1三勝を祝って……」

 

『かんぱぁぁぁい!!!』

 

 夕方、今日開催されているメインレースをすべて見終わり、興奮冷めやらぬ状態でトレーナー室は盛り上がっていた。いつかの時に見たことがあるトレーナー室の装飾、多分あの時の使い回しだろうが、むしろこれだから安心するまであるかもしれない。

 

 今行われているのは、桜花賞で敗れてメンタルが落ち込んでいたサンが京都新聞杯で復活したことと、私がNHKマイルカップを勝利したことでG1の勝利数が三勝になったことを祝うパーティだ。何かと大きな出来事が起こるたびにこうやってパーティを開いていると浮かれていると思われるかもしれないが、この三人とトレーナーさんの仲だから許してほしい。

 

「お前とシャインちゃんには離されてばっかりだな、橋田」

 

「いやぁそんなこと……ありますかね?」

 

「調子に乗らないっ!!」

 

「痛っったぁ!!」

 

 私の隣でポンジュースを飲みながら調子に乗っているトレーナーさんを、サンから返してもらったハリセンではたく。

 もはやこのハリセン芸もおなじみになってきたように感じる。

 

「しかし……橋田、お前最近トレーニングが適当になってきてるんじゃないか? たまに見に来ると、前に比べて……というか、今年就職したような新人トレーナーのトレーニングより甘いぞ」

 

「そうですかね? まぁでも、困ったときにシャインには想いの継承があるからな」

 

「あったりまえよ!」

 

 しかし、皐月賞やNHKマイルカップでも見せたように、私には想いの継承があるため多少トレーニングが甘くても大丈夫ではあるだろう。いざとなったらまた厳しいトレーニングをすれば良い。

 

「それにしても、サンもよくやったよねぇ。ほぼ一カ月活動してなかったのにそこから猛トレーニングして本調子に戻したんだから」

 

 ノースが走った青葉賞以来、サンはモチベーションを取り戻してトレーニングを行っていた。

 ずっと部屋の中にこもるという生活をしていたサンだったが、なんと4日ほどで調子が戻ってしまったのだ。

 そんなトレーニングについていくサンもすごいし、それを()()()()()()()()()()()()()()()メニューを組めてしまう木村さんが凄すぎる。

 

「ホント、私のトレーナーさんには頭が上がらないよ」

 

「スタ公、サンの奴を褒めるのもいいが、やってることで言えばお前も大概だからな」

 

「えぇ……そんなこと……あるかな?」

 

「ふふふ……シャインよ……調子に乗るなぁっ!!」

 

「痛っったいんだけど!?」

 

 想いの継承もこの数週間の間で使いこなせるようになっている。そのレースに関わりのあるレジェンドウマ娘の方々と仲良くなったりするのは大変だが、それだけ苦労した分発現した時の威力は絶大だ。 ってかトレーナーさんが私のハリセンを使いこなしている。

 

「おかわり貰ってもいいですか?」

 

「……ご飯が……もう少ない……?」

 

 ちなみに、この場にはダービーウマ娘のスペシャルウィークさんもご招待している。

 

 その後、みんなでご飯を食べたり離したりして、私とサンを祝う会はあっという間に終わってしまった。部屋に残った私とトレーナーさんは、二人でトレーナー室の装飾を外して片付ける。

 

そして、みんなが帰って一通りの後処理が終わったトレーナー室。

 

「さて、シャイン。二次会・兼・ダービーに向けての作戦だ」

 

 お互いにソファに座って、日本ダービーが行われるレース場もとい、東京レース場のコース図を広げる。

 

『ヴィクトリアマイル! 制したのはビッゲストタワー!』

 

 今日の日付は5月15日、ヴィクトリアマイルのリプレイを見ながら、もうすぐ行われる私の運命のレース、日本ダービーの作戦会議を始めた。

 

 NHKマイルカップが終わり、もう残す所はダービーと菊花賞のクラシック三冠レース、G1・ジャパンカップ、秋の天皇賞、ほかには宝塚記念と有馬記念のグランプリレースのみだ。

 その第一歩、日本ダービー。私は既に皐月賞を勝っており、一冠を手にしている状況。ダービーを勝利する事が出来れば、残りは菊花賞だけになる。絶対にクラシック三冠を取りたい身としては、必然的にダービーで勝たなくてはならないのだ。まぁ、想いの継承を使えば二倍近く強くなれるので、私が勝つのは目に見えていると言ってもいい。

 

「とりあえずだな……やっぱり狙いは想いの継承だな。ダービーに深く関わりのあるウマ娘といえば、やはりスペシャルウィークやトウカイテイオーといったあそこらへんの強いウマ娘だ、しっかり仲良くなったな?」

 

「うん、というか入学式の日にスペシャルウィークさんには会ってるよ」

 

 これはNHKマイルカップの時に分かった事なのだが、私の想いの継承にはある程度ムラがあるようで、対象のウマ娘とあまり仲がよくなかったりすると、力を完全に継承できない時がある。その証拠に、NHKマイルカップの際に継承したエルコンドルパサーさんの力は、2~5割くらいしか継承出来てないといった手ごたえだった。

 そのため、私達は何か重要なレースに出て、想いの継承を発動したいときはあらかじめそのレースに勝ったウマ娘や関わりが深いウマ娘を調べて仲良くなるようにしたのだ。

 

「そうだなぁ、とりあえず想いの継承さえしちゃえばお前勝てるしなぁ」

 

「この体質のおかげだねっ。三冠ウマ娘になったら、ファンの人にたくさん囲まれちゃうのかなぁ……レースの賞金でちょっとだけ美味しいもの食べても許されるよね?」

 

「アンタが三冠ウマ娘になるのか、それとも拒まれるのか、気になるところだね」

 

 私がトレーナーさんとダービーに向けての作戦を立てていると、部屋に入ってくる人物がいた。ドアの方を見ると、クラシック期が始まってすぐくらいの頃に山の中で出会ったドンナさんが来ていた。初めて見た時よりもラフな格好をしていて、意外な一面を見てしまった気分だ。赤いバッテン柄がイカしている。

 

「ドンナさん! 学園に来てたんですか!?」

 

「ちょっと食材の買い足しのついでにね、それに山の中に一人だと人との会話が恋しくなるんだよ」

 

 確かに、あれだけ広い土地で優雅に暮らせるとはいえ、近くに何もお店が無いから食材も有限、それに人もいないから孤独になるのは仕方ない事なのだろう。まして現役時代などどこに行ってもライバルやトレーナーさんと一緒だっただろうから、なおさらだ。

 

「そんな風に未来への希望や妄想を膨らませるのはいいけど、今の時代は完全にアンタが先頭を走ってる、それをよく思ってない連中もいる。思わぬ伏兵にやられる可能性だってあることを、忘れちゃいけないよ」

 

「分かってますって!」

 

「それならいいけど」

 

「なんですか~、私なら大丈夫ですよ~。ちょっとした新しい武器を手に入れたんで!」

 

 ドンナさんはまるで私が分かってないような顔をしているので、ちょっとだけ顔を膨らませて私の現状について自慢げに報告してみる。

 

「それなら、その武器の長所をしっかり生かせるようにしっかり練習しておきな。アタシはそろそろ行くからね。……日本ダービー、頑張りな」

 

「はい!」

 

 部屋を出ていく寸前に、ドンナさんはそれだけ言い残して帰って行った。キグナスに消されることを危惧してなのか終始不安そうな態度であったが、なんだかんだ私の勝利を願ってくれていると分かって安心した。

 

「さて、まぁ今日の作戦会議はこんな感じだな~」

 

「そうだね! 寮の門限までまだあるから、どこか出かける?」

 

「いいねぇ、特大ジャンボたこ焼き食べに行くか!」

 

 

 

「……」

 

「どうしたんだい? 顔色が悪いようだけど……」

 

 一通り全員のトレーニングが終わり、いつものようにキグナスのトレーナーがトレーナー室でレースの分析などをしていた時。キングスが机に突っ伏し始めていたトレーナーに心配するような声をかける。

 

「いや……なんでもない……」

 

「……今日の君はすごく珍しい行動ばかりだ、何かあったと考える以外にない」

 

「……最近、あまりにも予想外の事が起きすぎてな……」

 

「ノースの事や、スターインシャインの事だね?」

 

 キグナスのトレーナーは顔を上げ、声は出さずに頷く。心配をしてくれたキングスに礼を伝えた後一度深呼吸をし、一口珈琲を飲むと、キグナスのトレーナーは再び資料の整理を始めた。

 

「心配だ、最近の君は少し頑張りすぎているんじゃないか? 今度少しだけ休暇を取った方が良い」

 

「……キングス、俺はキグナスのメンバー全員を最強にする。それがあいつとの──」

 

 トレーナーは途中で言葉を止める。トレーナー室の扉がノックされたからだ。

 

「入れ、リボルバー」

 

「失礼します」

 

 扉を開けて入ってきたのは、きれいな黒髪をなびかせたウマ娘。リボルバーと呼ばれたそのウマ娘は、静かにトレーナーが座っているデスクの前に歩いていき、喋り始める。

 

「報告します、私のスタミナについての調()()が終わりました。金泉トレーナーには予定通りスピードトレーニングを施行してもらうよう申請をしました」

 

「そうか、やっと調整が終わったか……長かったな。お前もキングスと同じく特殊な体質で、1年ほど綿密なトレーニングを行わないと能力が覚醒しない、なかなか厄介な体質だ。だが今、その調整が終わり、今やお前は5000mでも走れるような心臓を手にできた」

 

「はい、ジュニア期の時から今日に至るまで、私の事を見捨てずにトレーニングをしてくれて、本当にありがとうございます」

 

「その感謝は金泉にも伝えておけ。リボルバー、これからはお前の時代だ、今の世代を圧倒するんだ」

 

 キグナスのトレーナーの言葉を聞き、リボルバーと呼ばれるウマ娘は礼をしてトレーナー室を出て行った。

 

()()()()()()()()……三つの心臓を持つウマ娘、と言ったところかな、トレーナー君」

 

「ああ、スターインシャインのあの能力を上回る力を、リボルバーは手に入れた。……しかし、俺の助言が少しあるとはいえ、よく金泉もリボルバーの能力を覚醒させたものだ。そこは感謝しなけらばならないな」

 

「……ところで、私が苦労して買ったモンブランが開封、完食されていたんだが……トレーナー君、知っているかい?」

 

「……今度予定を開けよう」 「まったく……」

 

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