持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「ちなみに作者は活字が読めません。ピクシブとかの数千文字なら軽々読めますが、数万文字になると眠くなります」


第五十五話 風を感じる

 

「ふ……ふぃ~」

 

 前より厳しくなっていると感じるトレーニングを終えた私は、走り続けてへとへとになった体をベンチで休ませる。ベンチで休んでいると、トレーナーさんが水分を持ってきてくれた。

 

「おつかれさまです、サン」

 

「まだまだ! オークスには絶対勝たないといけないから! これくらいでへこたれる私じゃないよ!」

 

 私は水分を一気に飲み干して、トレーナーさんにピースしながら元気に答える。少し前までは部屋にこもって落ち込んでいた私だが、今となっては嘘のように元気に活動している。改めてノースやシャイン、クライトに感謝だ。

 

「ふふ、そうでしたね。……それじゃあもう二本くらい行きますか」

 

「うげ、本当に言ってる? もう私走れないんだけど……」

 

「これくらいでへこたれないんですよね?」

 

「うわ~トレーナーさんが性格悪い~!」

 

 そんなやり取りをしながらトレーナーさんと一緒にトレーニング終わりのストレッチを行う。このトレーニング終わりのストレッチだけは何故かトレーナーさんが目の前で動きを直接見せてやってくれるのだが、トレーナーさんは毎回違う動きをしてストレッチをするものだから驚く、一体どこにそれほどまでのストレッチストレージがあるのだろうか。……ストレッチストレージ。

 

「そういえばトレーナーさんってさ、私の前にも担当がいたんだよね? どんな子だったの?」

 

「……それについてはまた今度と言う事で」

 

 ストレッチをしている最中、そこはかとなくトレーナーさんに前の担当についての事を聞いてみた。が、帰ってきたのはいつものようにまた今度と言う言葉。トレーナーさんはいっつもこうやって前の担当の話を聞かせてくれないのだ。

 

 トレーナーさんに前の担当についての話を聞くのは諦め、ふと学園内に設置されている屋外時計を見る。時間は夕方後半、いつも私やシャインがトレーニングを追えるような時間だ。多分そろそろ……。

 

「……そろそろ、シャインもトレーニング終わるころかな」

 

 ふと口に出してしまった。別に言うつもりはなかったのに。

 私のその言葉を聞いて、トレーナーさんは腕時計に目をやる。しばらく首を10度ほど斜めにするような、思い出すようなしぐさをした。

 

「そうですね、いつもこれくらいの時間に終わっている気がします。……シャインさんの所に行きますか?」

 

「うん! 遊びにいこ!」

 

 しばらくしてトレーナーさんから帰ってきた回答は、今私が一番やりたかったことだったから、即答した。

 

 

 

空き部屋 留守にしてるよ☆】

 

「……これは……」

 

「あちゃ~、タイミング悪かったね」

 

 シャインのトレーナー室の前に来たのは言いものの、ドアにこんな看板が立てかけてあった。看板が差してあるところの土を見るに、どうやら私が来る10分前くらいには出かけていたようだ。本当にタッチの差で遊びに誘い損ねた。

 

 ……この看板、使い回しにしか見えないけど、看板自体は学園のものじゃないの……? 

 

「こう言ってはなんですけど、骨折り損でしたね」

 

「まぁまぁ、このくらいの距離ならウマ娘にゃ~余裕だよトレーナーさん」

 

「それもそうですね。……と言いたいところですが、ここしばらく厳しいトレーニングを積みすぎましたから、どこか脚に重力をかけずに……遊べる場所に行きましょう」

 

 脚に重力をかけずに遊べる場所とはいったいどういう場所なのだろう……。と私が思っていると、トレーナーさんはおもむろに車のキーを取り出した。

 

「安心してください、そんなに遠い場所じゃありませんから」

 

 それだけ言われ、私はトレーナーさんに言われるがまま車について行った。

 

 しばらく車を走らせ、ついた場所は学園の近くにある公園だった。正直これくらいの距離ならウマ娘である私は走ってでも息切れしないだろうが、多分トレーナーさんの事だからまた「脚に悪いから」などと言って行かせてくれなかっただろう。

 

 時々イジワルではあるが、根は全然優しい人なのだ。

 

 車から降り、トレーナーさんについていく。トレーナーさんが止まった場所は、ブランコの前。

 トレーナーさんは二つあるブランコのうちの片方に座り、べつに何か怒っているわけではない事を表すように微笑んで私の方を向く。

 

「ちょっとだけ、お話しましょうか」

 

「オッケー!」

 

 ゆっくりと歩み、トレーナーさんが座らなかった方のブランコに座る。揺らし始めると、体が遠心力で軽く重力を受けなくなり、ふわふわとした感覚に襲われる。

 

「……サン」

 

「ん? なに?」

 

 時間にして数十秒ほどの間ブランコを二人で揺らしていると、トレーナーさんがいきなり私の名前を呼んだ。いきなりの事だったので対応が少し遅れてしまった。

 

「なんというべきか、わからないんですけどね。……ぜひ勝ってください」

 

「勝つ……勝つ……。あ、オークスの事?」

 

「ええそうです、言葉が足りませんでしたね」

 

 わざわざしんみりとした空気を作ってから何を言い出すのかと思ったら、トレーナーさんは私のオークスを応援するのが目的であろう言葉を放った。

 

「何を言えばいいかわからないなんて、トレーナーさんでもそんなことがあるんだね」

 

「当然です、私だって一人の人間なんですから。サンも一人のウマ娘です。……しかし、あの時(桜花賞の時)の私は、サンが一人のウマ娘という以前に、しっかりと感情を持った一人の女の子という事を考えていなかった。だからこそ、サンのメンタルケアを怠ってしまった。あのような状態にしてしまった」

 

「……」

 

 ブランコに揺られながら、私はじっくりとトレーナーさんの言葉を鼓膜に刻み込む。

 トレーナーさんのブランコはいつの間にか揺れることをやめており、私だけがブランコに揺られている。

 

 

『ウフフ……ごきげんよう、ミスター木村。わたしは甘利、キグナスのサブトレーナーです』

 

『残念だけど、あなたのウマ娘、正直すごく弱そうね。わたしのツインサイクロンに惨敗しそうだわ! オホホホホホ!!』

 

『良い風が吹いてるね……』

 

『桜花賞を制したのはツインサイクロン!』

 

『ほら見なさい! プロミネンスサンはわたしのツインサイクロンの足元にも及ばなかったわ!』

 

 

 数週間前の桜花賞の記憶が鮮明によみがえってくる。きっとトレーナーさんも同じことを考えていたのだろう。

 

「桜花賞本番の時だってそうです、相手にキグナスのウマ娘がいたと言うのに、ツインサイクロンの情報を知りきれていなかった。もっともっと相手の情報を調べるべきだった。それなのに私は──」

 

「トレーナーさん」

 

 聞いていられなかったので、思わず止めてしまった。これ以上トレーナーさんが自分で自分自身を追い込むのは見ていられなかったから。

 

「あのね、トレーナーさん。私、トレーナーさんの事を恨んだことなんてないんだよ。ツインサイクロンの情報を調べ切れてなかったとしても、私が落ち込んだ時にカウンセリングでもなんでもしてくれなくても、トレーナーさんがダメだなんて一度も思ったことないよ」

 

 私もブランコを止めて、横にいるトレーナーさんに直接話しかける。トレーナーさんの顔はこちらを向いておらず、ずっと斜め下を向いている。いつも私と話すときは目を合わせて話してくれていたのに。先ほど自分で話していた過去の話で相当参っているのだろう。

 

「私、トレーナーさんの担当になれてよかったと思うよ」

 

「……本当にそう思っているんですか?」

 

「むむ、失礼だなぁ」

 

「いや……今のは『私なんかの担当でよかったと思えるんですか?』というニュアンスでした。また、言葉が足りず失礼な事を言っちゃいましたね……」

 

 またトレーナーさんが申し訳なさそうな顔をして俯いてしまった。

 

「トレーナーさんだから私は頑張れてるのかなぁって、思うんだ」

 

「それってどういう……」

 

「もちろん、シャインやクライト、橋田さんや速水さん、ノースやランスだって、私の友達でいてくれるから頑張れてる。だけど何より私が頑張れてる理由って、トレーナーさんがいるからなんだよね。……よく分かんないけどさ、トレーナーさんは、自分を追い込むほど無理して変わらず、ゆっくり穏やかに変わっていくトレーナーさんの方が良いな」

 

「そう、ですか……」

 

 トレーナーさんの気持ちだってわかる。トレーナーという仕事には担当ウマ娘を負けさせてしまった時に責任などが付いて回るから、記者に何度も何度もそこを追及されて、10割自分の実力不足だと感じてしまった節があるのだろう。だから焦っちゃって自分を卑下し続けた。そんなところだろう。

 

 桜花賞に負けたのはなにもトレーナーさんだけの責任じゃない、私の実力不足でもあったのに。

 

 しかしそれでもなおトレーナーさんは納得していないようで、空を眺めたり、かと思ったらまた地面を見たりして、何かを考えていた。

 仕方ないのでひとつ提案をしてみることにする。

 

「じゃあさトレーナーさん、約束してよ」

 

「約束ですか?」

 

「そう、約束。……もし、私が桜花賞の時みたいに、落ち込んで部屋に閉じこもるような状態になりかけたら、全力で引きとめてほしいな。引きとめてもらう代わりに、トレーナーさんの失態は全然気にしません!」

 

「私の……失態……」

 

「もしレースに勝てるくらい私の実力を上げられなかったとしても、オークスに勝てなかったとしても、コーヒーに間違えて塩を入れてもね」

 

 私の言葉を聞いて、終始暗かったトレーナーさんがクスっと笑ってくれた。

 

「去年からそうでしたね、サンは……。私の言う事を全て信じてくれて、元気に付いて来てくれて。まだトレーナー歴が浅くて心配な時でも、サンの笑顔が私の心を照らしてくれました」

 

「えへへ~……そう言われると恥ずかしいな」

 

 頭を掻き、褒め言葉から来る恥ずかしさから自分を守るため、思わず片手をブランコから離してしまい、バランスが崩れてブランコがグワングワンする。あぶない。

 

「……私の前の担当について聞きたいんでしたよね」

 

 話がひと段落つき、二人でまたブランコに揺られていたら、突然トレーナーさんがそのような語りだしをする。前の担当、という単語に私はどうしても反応してしまい、何度も何度も痙攣してるかのごとく頷いた。

 

「私のトレーナー歴は、今年を入れて三年です。それが何を意味するか、サンならわかるんじゃないでしょうか」

 

「……まさか」

 

「そうです。サンを担当しているのは年単位では一年、となれば前のウマ娘を担当していたのは二年になるというのはわかりますね? ……ウマ娘にとって最初の三年間は重要、しかし私の前の担当は負けに負けを重ね、田舎に帰ってしまいました。すべて私の責任なんです、トレーナーになったばかりで、まだ効果的なトレーニングが分からなかった。だから能力を引き出すことが出来なかった」

 

 明るくなってきていたトレーナーさんの顔がまた暗くなってきている。二年経っているというのにこの落ち込み様。相当気にしているし、ショックだったのだろう。

 

「……じゃあ見ててよ! 私がオークスで勝つところ! もうトレーナーさんに『能力を引き出すことが出来なかった……』なんて言わせないからさ」

 

 トレーナーさんのモノマネを全力でやり、トレーナーさんを安心させるつもりでそのように言葉をかける。心にショックや悲しみは残っているのかもしれない、だけど私の言葉に気持ちが落ち着いたのだろう。トレーナーさんはいつものように控えめな笑顔を見せて声を放った。

 

「ええ、見ていますよ。私のスケジュールには、オークスで負けるという予定はありませんから」

 

 

 

「風だ……すごく強い風が……」

 

 いつものように木の上に登って風を受けていると、いつもとは違う風を感じた。

 

 何かを決意したような強い風。

 

「サイクロン、オークスに向けてのトレーニング、続きをやるわよ」

 

 そう言って私が登っている木の下にやってきたのは、無駄に赤い、目立つようなスーツを着た性格の悪そうな女、甘利……いや、今はこう言ってはならないか。

 

「この学園に吹き渡る風はすごくきれいな風が多いんだ。トレーナーさんも見てみない?」

 

「わけのわからないことを言ってないでさっさと降りてきなさい、私はあの人にあなたを任されてる身なのよ? 尤も、トレーニングを少し怠ったところで、負けるなんてありえないけど! オホホホホホホ!」

 

 この人に風を感じる話をしても通じるわけないか……。

 あの人、というのはキグナスのトレーナー、私の本当のトレーナーさんの事だろう。よく分からない自慢をして下品な笑い方をしてから、トレーナーさんは私をもう一度呼び寄せ、自分一人だけ学園の練習用コースに戻ってしまった。

 

「この名の通り、風に愛された私。私の本当のトレーナーさんはこの能力を分かってくれているはずなんだけどなぁ……なんであんな人に私のサブトレーナーを担当させたんだろう……ま、トレーナーさんも忙しいし、それもしかたないのかなぁ……私の運命は風にすべて任せようじゃない」

 

 高さ5mはあるであろう木から、私は飛び降りる。当然普通の人が見れば脚にダメージが行くからやめろというような事だが、私には関係ない。

 

「っとと、最近強すぎなんじゃないの? クッションになってくれてるからありがたいけど」

 

 私の体はあるものにふわりとキャッチされ、ゆっくりと地面に足を付ける。

 

「さて……オークスの運命も、風に任せようじゃない」

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