持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「眠い。ひたすら眠い。今回の話はしっかり考えて書きはしたんですけど、土曜日の21時から急ピッチで全文字書いたので誤字があるかもしれないです……一応確認予約投稿した後も確認をしながら眠りにつきます」


第五十八話 日本ダービー前夜

 

「よっしゃあ、遊園地行くぞ」

 

 めっちゃ棒読みでそのように宣言したのは無論私のトレーナーさん。まぁこの部屋に私とトレーナーさんしかいないしね。

 

 時刻は夕暮れ時と言ったところだろうか。私とトレーナーさんはトレーナー室にてダービーのライバルについてある程度見ていた。

 

「どうしたの急に? 明日ダービーだけど?」

 

 トレーナーさんに続いて私が言ったように、明日が日本ダービーなのだ。こんなタイミングで遊園地に行こうなどと言うのは狂気でしかない。

 

「いや、明日ダービーだからこそ、思いっきり遊んで落ち着けたくないか?」

 

「う~んちょっとよく分からないけど……まぁダービーで戦うキグナスのメンバーについても名前は調べたし、調査終了って事で行きますか!」

 

 しかし今、ちょうどトレーナーさんと一緒に遊びたいと思っていた私はたやすく遊園地に行く決断をした。私はすぐにソファから立ち上がり、近場の遊園地について調べ始めた。トレーナーさんはデスクから立ち上がり、荷物をまとめ始めた。そんな感じで順調に遊園地へ行く予定は進むと思っていたが、こんな時に限ってある来客が来た。

 

「トレーナーさん!」

 

 そのように私のトレーナーさんを呼ぶ声が聞こえ、トレーナー室のドアが開けられた。トレーナーさんと遊びに行こうと思っていた時間を邪魔されて眉間にしわが寄るのを感じる。

 すぐに扉の方に目をやるなり視界に入ってきたのは、なんだかんだ入学式に話した時以来のたづなさんの姿だった。

 

「明日はダービーですね。もっとも運のいいウマ娘が勝つと言われるダービー……これまで、数々のG1を制してきたスターインシャインさんとそのトレーナー、橋田トレーナーさんにご挨拶をと思いまして」

 

「えあっ、やっぱり学園側でもうちのシャインは有名なんですか~?」

 

「……」

 

 表現するならば、開いた口がふさがらないという表現がふさわしいだろうか。挨拶をしに来たと言っていたたづなさんは、そのままトレーナーさんとトレーニングの話やレースの話で盛り上がって一向に私について触れなくなってしまった。いやいや私は? ダービー走る本人である私はどうなってるわけ? 

 

 ていうかたづなさん、いつにも増してニッコニコじゃない? 

 

「……あれ……私今何考えてた?」

 

 なんか、私までいつもと違う感覚になってる気がする。なんでだろう、表現しようがない感情だ。

 いつもなんだかんだ言って騒いでいる私だが、内心では色々な事を事細かに、客観的に見て言語化している。今だってそうだ、私の状況を客観的に見て言葉に起こし、頭で考えている。

 

 だが、この感情だけは言葉に、言語化することができない。私の語彙では、理解が出来ない。

 

 ……いけない、なんかタキオンさんみたいに難しい事ばっか考えて頭痛くなってきた。タキオンさんも感情の力をよくテーマにして研究しているが、私のこの感情について話したら面白がるだろうか。

 

「ん? シャイン、どっか行くのか?」

 

「ううん、なんでもない。ただ電話しに行くだけだから、出発の準備出来たら教えて~」

 

「トレーナーさん、出発とは何のことでしょうか?」

 

「ああ、これから遊園地に行こうかって話をしていたところなんですよ」

 

「ダービーの前にお二人でお出かけですか、とても素晴らしいです♪ ただ、門限には遅れない様に──」

 

 考えているうちに本当にタキオンさんに報告したくなってしまい、私はトレーナー室の外に出てタキオンさんに電話を掛けた。なんだか話が終わりそうな雰囲気だったが、部室から出ても中から盛り上がっているような話し声が聞こえるあたり、しばらく終わらないだろう。

 

「……もしもし? 君から電話をするなんて珍しいじゃないか。やはり想いの継承の実験に賛同してくれ──」

 

「あ~、その話はまた今度考えておきますから! ……今回電話したのは別の話があるからなんです」

 

 私は、タキオンさんにすべてを説明した。トレーナーさんとたづなさんが話しているとなんだか言語化できないような感情が芽生えること、それをもって感情に重きを置くタキオンさんなら何かわかるんじゃないかと思って電話を掛けたこと、本当にすべて説明した。

 

「──って言う事なんですよぉ!」

 

「ふぅン。……ふぅン……シャイン君……」

 

 私が説明を終えると、呆れたような口調で私の名前を呼びつつタキオンさんは口癖をふんふん鳴らしていた。

 

「えと……つまり……。いやはや、私も今まで感情について研究してきたが、なかなか直球で伝えづらいなこれは……」

 

「いいんです! 直球で伝えてください!」

 

 タキオンさんは言葉を濁らせるので、私はいつもぐいぐい話しかけられている恨みを晴らす勢いで問い詰める。しかしタキオンさんは聞くだけで分かるような焦った声を出してごまかすだけだ。

 

「ねぇ~タキオンさんってば~、直球に行ってくださいよ~」

 

「い~や、やめておこう。とりあえず君のトレーナー君と遊園地に行ってみることをお勧めするよ。きっと行ってみれば答えが見つかるだろう。……行くだけじゃなく、()()()()()必要もありそうだが……」

 

「……? どういう意味ですか?」

 

「いいや、なんでもない。気にしないでくれたまえ。……ふぅン、全くトレーナー君、私はどうしていつもこのような話ばかりに遭遇するんだ……

 

 タキオンさんは時々このように意味深な言葉を言ってやめる。説明を求めてみるがいつもはぐらかされてしまう。今だってそうだ。

 

「お~い、シャイン、たづなさんとの話終わったから行くぞ~」

 

 私がタキオンさんと電話をしていると、トレーナー室のドアが開けられトレーナーさんが顔を出した。

 言葉でそのまま言っているようにもう遊園地に行く準備が出来たらしい。

 

「ふぅン、どうやら行くようだね。では私はこれで失礼する──」

 

「え? ちょっと!? タキオンさん!?」

 

 別れの言葉を早口で言い終わるが否やタキオンさんは電話を切ってしまった。いつも自分が興味を持ったことに対してはしつこく噛みついてくるのにこういう時ばっかり興味を持たないですぐに去ってしまうというのは本当に厄介だ。

 

 

 

「お~、なんだかんだで来るの初めてかもな~」

 

 ……いつの間にか私はトレーナーさんの車に乗っており、トレーナーさんが遠くに見える遊園地を見た感想を助手席で聞いていた。

 

 あの後、結局私の感情の説明は付かないままトレーナーさんに車に誘導され、遊園地に向かって車を走らされてしまった。

 

「いや~。……車の中から見るのもいいけど、いい加減入場するか」

 

 到着してからも車から降りずずっと遊園地を眺めていたトレーナーさんだったが、しばらく遊園地を眺めたのちにそう言って入場の準備を始めた。

 

「あ、あのさトレーナー」

 

「ん? どうした?」

 

 タキオンさんの言っていた『言ってみる必要』というのを車に乗っている最中ずっと考えていた。言ってみる必要と言うのは恐らく私の感情についてとりあえずトレーナーさんに相談してみるべきという意味だと私は捉え、私は聞こうとしてみた。

 

「あ……え……感情が……」

 

「感情?」

 

「観覧車って最後に乗りたいなぁ!!」

 

 聞いてみようとも思ったが、なんだかとても恥ずかしくなってしまい言えなかった。

 

「お、確かに観覧車は最後がいいかもなぁ、時間食うし」

 

 危ない、うまくごまかせたようでよかった。しかしどうしようか、もう私の本能はビビり散らかしてトレーナーさんに感情の事を相談したくないと言っているが、タキオンさんの助言を無下にするわけにもいかない。

 

「よし! それじゃあ入場するぞー!」

 

 そんなことを考えて焦っているうちにトレーナーさんは入場する準備を終えてしまい、さっさと遊園地の方に向かってしまった。

 

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 その後、遊園地に入場してから私たちは色々なアトラクションに乗ってみた。だが、どのアトラクションに乗っていても私の頭の中にはあの感情の事だけが引っかかっており、イマイチ楽しむことが出来なかった。トレーナーさんに相談しようとして見ても、結局入場の時みたいに言えなくなってしまい、ごまかす。そんなことを繰り返していると、時間もアトラクションもあっという間に過ぎてしまって、いつの間にか門限の時間があともう少し、というところまできていた。

 

 そして最後の最後、入場するときに約束していた観覧車の時間がやってきた。

 

「おお、観覧車ってこんなに高いもんなんだな。こっから学園見えねぇかな」

 

 観覧車に乗ってしばらく、ちょうど私たちが乗っている台が頂上にたどり着こうというところでトレーナーさんがそのように感想を述べている。

 

 私もそれに釣られて観覧車の外を見てみる、確かに観覧車は高いところまで上り詰めており、高所恐怖症の人が見たら失神しそうな景色が広がっていた。

 

「明日、ダービーだな。一生に一度しか出れないレース。緊張してるか?」

 

 ずっと黙っているなぁと思っていたら、突然落ち着いた口調でトレーナーさんがそのように聞いてくる。

 

「もちろん緊張してるよ、それを言ったら、トレーナーさんこそどうなのさ、緊張してるんじゃないの?」

 

「当然だろ、俺だって担当ウマ娘がここまで強くなるなんて思ってもいなかった。ダービーウマ娘のトレーナーになれるなんて10年くらい先の話だと思ってたよ」

 

 トレーナーさんは目を輝かせながらそのように語る。トレーナーの目標である『誰にも負けないウマ娘を育てること』に加え、私の目標でもある『誰にも越えられない記録を作ること』がもうすぐ達成されるかもしれないのだ。もちろんシンボリルドルフさんなど、七冠ウマ娘と呼ばれている人に比べればまだまだだが、途中経過として喜ぶのは構わないだろう。

 

 そしてこういう時、夢を語る時のトレーナーさんの目は綺麗な目だ。

 

 いやいや、そんなことを考えている場合ではない。

 

「あのさ、トレーナーさん」

 

 私もトレーナーさんの口調に釣られるようにトーンを落とす。

 

「私、トレーナーさんに言いたいことがあるんだ」

 

 この遊園地に来てアトラクションを乗っている最中、私はずっと感情の事について考えていた。というのは先ほども私の中で反芻した事実だ。そしてその感情について考えている最中、私はある一つの答えにたどり着いた。それと同時に、タキオンさんの言っていた『言ってみる必要』という言葉の意味も理解できた。

 

「なんだ? シャイン」

 

 私はタキオンさんが間接的に教えてくれた言葉を伝えるために、トレーナーさんを見る。

 

「あ、いや……なんていうかなぁ……そのさぁ……」

 

 しかし、口にしてしまいたい言葉が寸で止まる。いざ言おうとするとどうしても恥ずかしくなってしまってどうしようもない。

 

「ん? どうした?」

 

 中途半端に喋ってしまったせいでトレーナーさんが問い詰めてくる。やらかした。入場する前に一回『観覧車は最後がいい』なんていってごまかしていたが、今の状況で別の言葉が思い浮かばない、別の言葉に逃げることができない。

 

「その~……あはは……」

 

「……ん? マジでどうした?」

 

 まずい、明らかに私の態度が挙動不審だからトレーナーさんが怪しがっている。いや別に怪しがられて困る状態でもないのだが、ないのだが……。

 

「……私ね、トレーナーさんの事、大好きだなぁって」

 

 口にしてしまった。とうとう思っていた言葉を口にしてしまった。

 

 そう、私は今言ったようにトレーナーさんの事が大好きだ。

 もちろんこの『好き』は恋愛的な意味ではなく、友情的なもの。これまでトレーナーさんと一緒にトレーニングをしてきて、とても苦しく、とても楽しい日々を過ごしてきた。そうしているうちに私はトレーナーさんに対して、相棒のような安心感というか、いつまでも一緒にいろんなウマ娘と戦っていたいと思うようになった。

 

 クリスマスの時にも同じような感情になっていたが、あの時に私が感じているのはトレーナーさんに対する好意ではないと言い聞かせていたので好意ではない、きっと。

 

 いや絶対。

 

「ん~……お前やっぱり時々よくないよな」

 

「よ……よくないってなに」

 

「いや、なんというか、不意打ちしてくるよな。……別によ、俺だってお前の事が好きだ」

 

「あふっ」

 

 口に含んでいたスポーツドリンクを吹き出してしまった。

 トレーナーさんから出てきた言葉の意味が分からなかった。

 

「……え? 好きって……」

 

「俺だって、お前のその末脚をいつまでも見ていたい。お前の末脚を極限まで輝かせたい。もちろんシャイン自身も見ていたい、お前の明るい性格を見ていたい」

 

「ちょちょちょちょっと……流石にまずいよトレーナーさん」

 

「……そうだな、流石に頼みにくいか」

 

 言い終わって私は後悔した、トレーナーさんは何を言おうとしていたのだろう。もし私が止めていなかったら、もしまずいと警告していなかったら、トレーナーさんは何を言ったのだろうか。それが気になってしまう事を視野に入れていなかった、めちゃくちゃ後悔してる。

 

「ん~、でも一応トレーナーさんが何を言おうとしたのかは聞いておこうかな」

 

 もちろんそんな後悔を私がほったらかすわけもない、即座にトレーナーさんに再発言を催促する。

 さぁ、早く、言え。

 

「いや、あまりこういう事を言うものじゃない、やめておくよ」

 

「あ~待って待って待って! ……いいの? 後悔するかもしれないよ? もしここで言わなかったら一生後悔するかも……私みたいなのはなかなかいないよ?」

 

 いや今この場で後悔してこんなことをしているのは紛れもない私なのだが、そんなことはどうでもいい。

 

 トレーナーさんが言うのを渋ろうとするので私はひたすら必死に言葉の続きを催促し続ける。

 

「……そうだな、確かにお前みたいなやつはなかなかいない、きっと後悔するだろうな。……シャイン、お前に言いたいこと、いや、頼みたいことがある」

 

 頼みたいこと。

 そんなものの内容はとっくのとうにわかっているのだが、一応私が聞いてあげようと言う事で眉を上げてトレーナーさんを見る。トレーナーさんも覚悟を決めたようで深呼吸をしている。

 

「……最近体がたるんできたから一緒にトレーニングしてくれ。きっとお前なら俺の事を励ましながらトレーニングしてくれるし、お前についていけるようになればきっと俺も前より筋肉がつくはずだ。無駄にムキムキなのが自慢だったのに肉付いてきてて……」

 

「あ~もうしょうがないなぁトレーナーさんは! 生徒に対してそんなことを申し込むなんてよくないなぁ! まぁ? 私も別にまんざらでもないから受け……は?」

 

「あ、やっぱりよくないか? だよなぁ……ウマ娘とヒトとじゃ体力が根本的に違うもんなぁ……流石にシャインのトレーニングに支障が出る可能性あるか」

 

 えと、一体どういう……。

 

 トレーナーさんが言うであろう言葉を先に予想して反応したが、トレーナーさんが言った言葉は私の予想とかなり違っているように聞こえた。

 

「……つまりどういうこと?」

 

「え、俺がシャインと一緒にトレーニングして体を引き締めたいだけだけど」

 

「……あ──ーッッ!! も──このバ鹿トレーナーはぁぁぁぁぁ!!」

 

「なんでぇぇぇぇええ!?」

 

 非常にムカついたので私お手製の折り畳みハリセンで思いっきりトレーナーさんをはたいた。

 

 観覧車は楽しかったです。

 

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