持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「ダービーは日本競……オホン、中央G1の一大レースだからすごく大きく書きたいよなぁ……」


第五十九話 受け継ぐ想い 日本ダービー

 

「~♪」

 

 トレセンから一際離れたところに作られたタルタロスのトレーナー室兼トレーニング場。

 そこにトレーナーの口笛が響く。

 

「今日はトレーナーさんがやけにご機嫌だよ……」

 

 たまたま近場を通ったためトレーナー室に来ていたウェザーストライクがやたら上機嫌な原田の口笛に反応する。その時点でぴたりと口笛が止まり、窓の方を見ていた原田はウェザーの方を見る。

 

「まぁご機嫌になって当然だからね」

 

「……なにかあった?」

 

「強いて言うならそうだなぁ……僕にとって最強の切り札が手に入ったことかな。昨日の時点で……」

 

「……昨日……あ、駅前のシュークリーム? キグナスのトレーナーにでも渡すやつかな……」

 

「あ、それじゃないんだけどね。まぁいいや」

 

 原田はウェザーに説明をしようとも思ったが、ウェザーがあまり話を聞かない事を知っていたためにそれ以上は何も説明しなかった。

 それっきり原田は黙り、それまで口笛が響いていたトレーナー室にはウェザーストライクが『切り札』について考察する独り言のみが響いていた。

 

「ウェザー」

 

「あでも切り札と言うにはあまりにも……ん?」

 

「タルタロスはもしかしたら最強の武器を手に入れるかもしれない、そうすればきっとタルタロスは最強のチームとして輝ける。僕が地方で成し遂げられなかった事が……」

 

「最強の武器……? はて……」

 

 原田がそのように意味深な事を言うも、ウェザーはイマイチ理解していなかった。

 

 

「はい、はい。じゃあスペ先輩、今日は応援お願いしますね!」

 

 通話終了ボタンを押し、携帯をスリープモードにする。

 私の武器「想いの継承」においてスペシャルウィークさんの存在は欠かせないため、あらかじめ東京レース場にスペシャルウィークさんを招くための電話だ。

 

「ん、電話終わったか」

 

「うん! 多分これで来てくれるはずだよ、これで想いの継承はとりあえず発現するかなぁ。……ってもう着くのか、あぶない」

 

 窓の外を見ると、長電話だったためかすでに東京レース場が近づいてきており、急いで勝負服を取り出したり、準備をする。

 

「よし! それじゃあいつもみたいに控室で準備しとけ~」

 

「あ~い、それじゃあ行ってき……」

 

 レース場に着いて車を降りると、言葉にならない感覚が私の全身を巡った。

 

 今ここで車を降りてダービーに出走すると、なにかとてもまずいことになるのではないか。取り返しのつかないことになるのではないか。

 そのような感覚がいつまでも続いていた。

 

 忘れもしない昨日のトレーナーさんに対する感情とはまた違う。一種の恐怖心のようなものだった。

 

「ん、シャイン?」

 

 走ってもないのに脈拍が上昇している。不思議と落ち着いた思考ではあるが、明らかに普通ではない感覚だ。

 ふと手に何かが当たり、当たった何かを見る。それは皐月賞の後にシャイニングちゃんからもらったタコのキーホルダーだった。

 

 そのタコのキーホルダーをしばらく揉んでいると、気分が落ち着いてきた。

 

 ここ最近このような事で振り回されることが多すぎて疲れてくる……。

 

「あれ、お~いシャ~イ~ン~」

 

「はっ……ごめんごめん、行ってきまーす。すぐに着替えちゃうから気持ち早めに来ていいよ」

 

「あいよ~」

 

 見慣れた東京レース場の場内、しかし見慣れたというのはいつも言っていることなのでそろそろ違う事も言ってみよう。

 2年も競争ウマ娘として走っていると、知り合いも増えてくる。そしてその知り合いは何度もレースでぶつかることがある。それすなわち、レース場で見かける機会も増えるという事だ。一度私の対戦相手を確認して、まとめてみよう。

 

「よう、スタ公。今度は皐月賞の時みたいにならないからよ、いいレースしようぜ」

 

「クライト……そうだね、あったりまえ☆ってね!」

 

 マックライトニング。

 入学当初からの知り合いで、他人に食らいつく勢いの走りが特徴だ。枠番は8枠16番、かなり大外になっているため、今回のダービーはかなりきつくなるだろう。

 世間での人気は無いが、その内に秘めた実力を私はよく分かっている。

 

「シャインおねえちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

「おっとっとシャイニングちゃん、ここで走りすぎて本番疲れないでよ?」

 

「わかってるよぉ!」

 

 シャイニングラン。

 キグナスのウマ娘で、今はキグナスとして私を消しに来てはいないだろうけど、どうなのだろう……。まぁそんなことはないだろう、この目が語っている。枠番は6枠12番、可もなく不可もなくと言ったところだろうか。といっても逃げのシャイニングちゃんは位置取りなどあまりない走りのため関係ない気がするが。

 

「騒がしいわねあなたたち……」

 

「ノースだって殺伐と走るんじゃなくて、こうやってみんなで走るの嫌いじゃないでしょ?」

 

「……ええ」

 

 ノースブリーズ。

 元キグナス、現アルビオレのウマ娘だ。皐月賞の時は出走回避をしていたため、私と走るのはこれが初めてだ。枠番は2枠3番、内に入れたのはかなり大きいのではないだろうか。もし青葉賞の時よりスキルアップしているならば、ノースより外にいるシャイニングちゃんにハナを取らせずに走ることも可能だろう。

 

「……スターインシャインと共に戦ったメンバーがここに集まっているな」

 

「おっ、ランスもやっぱりダービー走るんだ! ホープフルの時以来の勝負だね」

 

 シーホースランス。

 同じく元キグナスのウマ娘、ノースと同じように皐月賞の時は出走回避をしており、ダービーで初めてステップ競争に参戦したウマ娘だ。特に飛びぬけた武器は無いが、地力で他のウマ娘を薙ぎ倒す実力の持ち主だ。枠番は7枠15番

 

 大体こんなところだろうか。

 

 まとめると、今回の東京優駿ことダービーでの知り合いの枠番はこうだ。

 

 マックライトニング 8枠16番

 

 シャイニングラン  6枠12番

 

 ノースブリーズ   2枠3番

 

 シーホースランス  7枠15番

 

 そして私、スターインシャインが1枠2番だ。

 

 東京レース場の芝2400mは内枠が有利なコースで有名だ。そのため私の枠番、1枠2番はなかなかに有利な枠番だと言えるだろう。世間では「最も運の良いウマ娘が勝つ」などと言われる日本ダービー、その枠番で有利な内枠を取れている時点で私は結構運があると言っても良いのではないだろうか。

 

 皐月賞を勝利し、NHKマイルカップも勝利した私が日本ダービーまで勝つことが出来れば、私の目標である誰にも越えられない記録に大きく近づくだろう。

 

 それに私がダービーに勝つことが出来れば、クラシック期の初期に調べていた「耳飾りを左耳に付けているウマ娘はクラシック三冠路線に勝てない」というジンクスを破ることができる。

 

「いつにも増してウキウキしてるじゃない? シャインさん」

 

「そりゃあね、だって誰にも越えられない記録が迫ってきてるんだもん!」

 

「あぁ……そう言えばそんな記録が目標って言ってたわね。残念だけどその記録は私がもらいたいところね」

 

「いいや、スタ公の目標は俺のものだな」

 

「私だって皐月賞の時のリベンジするもん!」

 

「モテモテだな……」

 

「ご、ごめん! 私勝負服に着替えないといけないから!」

 

 3人がかりで囲まれてしまっていたため、私はそのバ群を抜けて自分の控室に向かった。

 

 控室について扉を閉めると、先ほどの騒がしかった空間とは違い静かな状態になる。その静かな空間で勝負服に着替えようとして制服を脱ぐと、あることに気付いた。改めて先ほどの自分を見てみると、入学当初に比べてかなり友人が増えたのだと実感する。正直入学したらレース一筋になると考えていたから、かなり嬉しい。

 

「……えへへ、みんな私の記録を奪うために、私に勝つために頑張ってくれてるのかぁ……」

 

 そのまま嬉しくなってしまい、勝負服に着替えることを忘れていた私は下着姿のままあることも忘れていた。

 

「お──っすシャイン、そろそろ着替え終わったと思ったから来たぞ~」

 

「……あぇっ?」

 

 トレーナーさんに少し時間を空けてから控室に来るよう言っていたのを忘れていた。

 控室に一人だったため、控室のど真ん中でガッツリ下着姿になっている私がトレーナーさんに見られるのは回避しようがない事だった。

 

「え、なんでお前下──」

 

「すけべぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「なぜだぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 とっさにトレーナーさんを蹴飛ばしてしまい、そのままの勢いでトレーナーさんは控室の外に飛んで行った。そして狙ったかのように控室のドアが何故か閉まり、ひと段落ついた。

 

 とんでもない破壊音の後に控室の外で悲鳴が聞こえた気がしなくもないが、きっと気のせいだと言い聞かせて私は勝負服に着替えた。

 

 

 

「おま……お……お前……やってくれたな……」

 

「本当に悪かったと思っておりま候」

 

「本当に悪かったと思ってる奴は候って使わないんだよ」

 

「……ごめんなさい」

 

 結局気のせいだと言い聞かせて勝負服に着替えたのはいいものの、トレーナーさんを吹き飛ばしたのは事実なので着替えてすぐにトレーナーさんを救出した。

 そして今猛烈に謝っている。

 

「まぁそれはいいとして、もうそろそろパドックの時間だな。緊張してくるぜ」

 

「それはいいとしてで片付くんだ……。そうだね、もうすぐ私の記録がまた一つ増えるんだよ」

 

「誰にも負けないウマ娘……誰にも越えられない記録を作る……俺たちの目標が一歩一歩確実に成就へ近づいてるのを感じるな」

 

 成就なんて頭良さそうな単語をトレーナーさんが使っているので驚いてしまった。

 そう考えている私の思考を読み取ったのか、トレーナーさんが渋い顔をしてこちらを見てきた気がした。気にしないでおこう。

 

 

 

「入れ」

 

「お疲れ様です」

 

 シャインが到着する少し前の東京レース場。シャインと同じようにキグナスにも控室が存在する、ここはデルタリボルバーの控室だ。

 先に控室に来ていたキグナスのトレーナーと金泉トレーナーにリボルバーは挨拶を済ませ、中に入って体を拭いてから勝負服を着る。

 

「どのくらい走った?」

 

「今日と同じ2400mを2周ほど学園のトラックで……」

 

「そうか、スタミナの方は?」

 

「まだまだ走れます、パフォーマンスを低下させずに走るとなれば同じ距離であと5周は行けるかと」

 

 リボルバーの報告を聞きながら、キグナスのトレーナーはひたすらパソコンにデータを記入していく。一方で金泉トレーナーはというと、以前皐月賞の時にキグナスのトレーナーから感じた殺気を忘れられず控室の隅で静かに座っていた。

 

「完璧に目覚めたみたいだな、お前の力に」

 

「ええ、最初の頃の私は全くスタミナが無く、短距離レースすら走れなかったウマ娘でしたね。だけど今、こうしてダービーを走れるくらいのスタミナを手に入れることが出来ました。全てお二人のおかげです」

 

「キグナスの看板は最近になって汚されてきている。誰が汚しているかは当然分かっているな?」

 

「……スターインシャイン、プロミネンスサンの二人ですね」

 

「ああそうだ、今回の日本ダービーにはスターインシャインが出走している。そしてお前も出走している。分かるな? お前が消すんだ(やるんだ)

 

「……分かりました」

 

 リボルバーは一瞬迷ったような表情を見せたが、すぐに覚悟を決めた顔になり、キグナスのトレーナーに頷いた。

 

 

 

「さぁて出走だ! 出走だ!」

 

「パドックのパフォーマンスはミスるなよ、スタ公」

 

 パドックの時間が迫ってきて、私が気分が高い状態でスキップをしていると、クライトにツッコミを貰ってしまった。

 

「シャインお姉ちゃんに限ってそんなことないよ~」

 

「おめ~もいつの間にかスタ公信者になったなオイ。俺の方が友達の歴長いんだぞ」

 

「私は皐月賞でライバルになったもん!」

 

「いやいやいや、俺だって皐月賞に出走してたからそこに差はね~だろ」

 

「見えてないもん! 遅すぎて見えなかったもん!」

 

「なんだ? このチビ助」

 

「うるさいよ黒髪のヤンキーさん!」

 

 私がクライトから突っ込みを貰って頭を掻いていたら、いつの間にかクライトとシャイニングちゃんがまた喧嘩をしていた。

 んも~何かと相手の事を煽るあたり精神年齢おんなじなんだから……

 

 パドックの方を見ると、どうやら次はもう私の番らしい。正直この二人を置いていこうか迷ったが……置いていくことにした。喧嘩が発展するかもしれないが、まぁ多分誰かが止めてくれることを祈って。

 

 

 

「なんだかんだランスと走るのも久しぶりね」

 

「腕は落ちてない?」

 

「当然じゃない」

 

 シャインさんのパドックが行われている裏側で、ランスと久しぶりに対面で話しかけてみた。

 といってもありきたりな話しかけ方でぎこちなかっただろうか。

 

「……少し口調変わった?」

 

 突然ランスがそのように私に聞いてきた。どこか口調が変わっていただろうか。

 

「前はそんな風に上品なしゃべり方じゃなかったよね、どこかで習ったの? えと……ホープフルステークスのあたり?」

 

 ホープフルというと私とシャインさんが仲良くなり始めたころだ。確かにあのころを振り返ってみると、口調が前に比べて変わっている気がする。

 

「……ふふっ」

 

「な、何笑ってるの?」

 

「いや? ランスが私の小さい変化に気付いてくれるあたり、まだ私の事をよく見てくれてるんだなって実感できたのよ」

 

「なにさそりゃ……」

 

 

 

『1枠2番、スターインシャイン。いつもの磔のポーズですね、気合が入っているんでしょうか。先ほどから顔がニヤニヤしています』

 

 実況の人がそのように言ったため、鏡こそないものの私は自分の顔を気にして真顔を保つようにしてみた。

 

 今回も私のパドックのパフォーマンスは完璧だったため、パドックを見るための席では歓声が上がっていた。しかし、ある程度パドック上でのパフォーマンスを行うと、次の人に変わらなくてはならない。私はしぶしぶパドックの裏側に戻って行った。

 

「いやぁやっぱり私は人気みたいだねぇ……」

 

 などといいパドックの余韻に浸っていると、あるウマ娘とすれ違った。

 

「……スターインシャイン、良いダービーを」

 

「?? よ、よいダービーを……?」

 

 突然良いダービーを、などと言われて戸惑ってしまい、私はとっさに同じことを言いかえすしかできなかった。あの姿は確かデルタリボルバー……というウマ娘だった気がしなくもないが、どういう意味だったのだろうか。そんなことはわからないが、きっとあの子は私に勝つ自信があるのだろう。それならばレース中私に武器を使うときがあるかもしれないから、気を付けておこう。

 

 いや~私も顔を知らないような子に知られているウマ娘なのか~! 

 

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