持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「CSMのギャレンバックル買いました」


第六十二話 タルタロス始動

 

「……まさかシャインちゃんがタルタロスに移籍するとはな……」

 

 雨が降っている中、俺とシャインのトレーナー室だった部屋に、速水さんや木村さん、サンやクライトなど、シャインと深い関係を持っている人たちが集まっていた。皆同じ理由で。

 

 その理由は俺が一番よく知っている。シャインの移籍の件だ。ダービーが終わった翌日、なぜかシャインはタルタロスに移籍する意思を学園に示し、受理された。

 

 最初こそ俺はシャインのふざけた嘘だと思うようにした。しかしトレーナーが見れる資料と、打ちひしがれていた俺に追い打ちするかのようにやってきたたづなさんの報告で、俺の自分に対する嘘は砕かれた。タルタロスのトレーナーである原田トレーナーがなぜ突然シャインを引き抜いたのかは分からない、ただ一つ言えるのは、俺の担当ウマ娘がいなくなったと言う事だ。

 

 そしてショックを受けていた俺は、意外にも冷静にまずみんなに報告することを選んだ。覚えている限りシャインと深いかかわりを持っている人物を皆このトレーナー室に電話で呼び寄せ、最初からじっくりと説明した。

 

「ぜってぇあり得ねぇ、スタ公が橋田を簡単に裏切るわけねぇだろうが!」

 

 クライトは激高してトレーナー室にあるソファに拳をくらわせる。

 

「あいつだ……あいつがスタ公に何かしやがったんだ……」

 

 シャインの移籍について話す際、速水さんとクライトから聞いたことなのだが、どうやらタルタロスの原田トレーナーはクライトの以前のトレーナーだったようで、原田トレーナー自身クライトに何かを思っているらしいと聞いた。

 

 シャインがクライトと深く関わっているから引き抜いたのだろうか? いや、そんな理由でシャインを引き抜くだろうか。分からない。もしかしたらシャインが自主的に望んだ可能性もあるのだ、一概に引き抜かれたとも考えられない。

 

「シャインさんは私に約束した、私とランスの夢を背負ってくれると。その時のシャインさんの目は希望に満ちていて、とても移籍なんてする様子はなかったはずなのに……」

 

「それにスターインシャインは、負けたことによるショックで自暴自棄になる性格でもないだろう? なぜ……」

 

 各々がシャインの移籍に対しての感想を語る中、俺だけはデスクに向かって突っ伏していた。突っ伏する事しかできないからだ。

 

「なんにしたって、引き抜き返すしかないでしょう。橋田さんもシャインさんがいないままトレーナーを続けようと思ってないでしょう?」

 

「うん、私もトレーナーさんの言う通りだと思うよ。シャインは絶対に橋田さんの元を離れるような性格じゃないと思う」

 

 これからどうしようか木村さんに提案されていると、突然クライトがトレーナー室を出ていこうとしたため、速水さんが急いでそれを止める。

 

「お、おいどこ行くんだクライト、まだ橋田が……」

 

「原田の野郎を探す。探し出してぶん殴る。それしかねぇだろうが! スタ公の奴を取り戻す」

 

 クライトはそれだけ言うと速水さんの声も無視してトレーナー室から走って出て行ってしまっ

 た。

 

「おい!? おいクラ~イ~ト~!!」

 

「行ってしまいましたね……。そろそろトレーニングの時間ですか、それでは私とサンは失礼させてもらいます。また何かシャインさんを引き抜くことについて思いついたらすぐに連絡しますね。サン、行きますよ……」

 

「橋田さん、きっと私が言えば私のトレーナーさん……アルビレオも全力で協力してくれるわ。必ず戻ってくるから……」

 

 クライトがトレーナー室を出て行ったのを皮切りに、集まっていた人たちは次々と解散していった。俺もこれ以上何を話せばいいのか全く分からないので、何も言わず机にダイブしていた。

 

 

 

「どこだ……どこにいる……!」

 

 俺はスタ公の奴のトレーナー室を出てから学園内を走っている。普通の学校なら廊下を走るなと怒られるのだろうが、トレセン学園ならば廊下を走っても良いと言われている。それでも全力疾走は危ないんじゃないかと思うがな。

 

 そんなことはどうでもいい、今はとりあえず原田の野郎を見つけて、スタ公の為にも橋田の野郎の為にもぶん殴ってやらないといけない。

 

 そう思いながら廊下を走り続け、教室棟を全部見終わったかと思った瞬間だった。

 

「むぐっ!?」

 

 俺の口元に乱暴に手が添えられ、教室の一つに引きずり込まれる。突然の事過ぎて俺は反応できなかった。

 

「暴れるなよクライト」

 

 その一言が聞こえ、冷静になる。落ち着いて前を見ると、原田の野郎が俺の口を押えているのがしっかりと見えた。同時にここがどの教室なのかも分かった。ここは使われていない開き教室、助けは来ないと分かっていてこのような行動をしたのだろう。

 

「(離しやがれ……! ぶん殴るぞ……!)」

 

 口元を抑えられているため声は出せないが、目線を送ることはできる。めせんを送ったところでどうにもならないとは分かっているが、俺は必死に殺意の目線を送る。

 

「おお、怖い怖い。地方現役のお前からは考えられない顔だな」

 

 ふざけたことを、誰がここまで俺をひねくれさせたのか。

 

「なんか教室棟が騒がしいからよ、そこら辺にいたウマ娘に話を聞いたら『マックライトニングさんが原田さんを探してましたよ?』なんて言ってよ。何の用だ?」

 

 何の用だ? と質問しつつも、原田は俺の口元の手を離す様子はない。それどころかますます押す力を増し、俺の頭は壁に押し付けられ動きが取れない。

 

「どうせスターインシャインの事だろ? 分かってんだよ。お前はスターインシャインを取り戻しに僕を探していた。よかったな、僕が見つかったぞ?」

 

「ぐ……」

 

「残念だけど、僕はスターインシャインを手放すつもりはさらさらない。あのウマ娘はキグナスを必ず倒せる素質を持っている。僕は最強の力を手に入れたんだ」

 

 原田の野郎は口角を上げながら狂気に満ちた目でそう語る。タルタロスはマル地のウマ娘の活躍が多かったし、原田の野郎もマル地しかタルタロスには集めていないと言っていた。そのため何故マル地ではないスタ公を引き抜いたのかはいまいち分からなかったが、今その理由が分かった。

 

 原田の野郎は、ただスタ公の奴を手に入れて学園最強になることだった。

 

「何か言いたげだな? 言ってみろよ」

 

 途端にもがく力を抜いて原田を見ていると、原田の野郎は俺の口から手を離した。

 

「どうした? 何か言いたかったんじゃないのか?」

 

「……いや、お前って地方時代に比べて意外とバカになったんだなと思ってよ」

 

「なんだと?」

 

 原田の野郎はバカと言う単語に少し反応した。ここらへんも地方時代と変わっていない。こいつは地方でトレーナーをやっていた時から何かと煽りに弱いからな、確かにすぐ激昂していたあの頃に比べれば落ち着いているが、それでも怒りの感情はふつふつと感じる。

 

「自分の『マル地しか集めない』信念を曲げてまでスタ公の奴が欲しかったか? そりゃずいぶんだな。あいつは『誰にも越えられない記録を作る』目標をずっと諦めてない、お前も少しは見習ってみたらどうだ?」

 

 久しぶりに原田の野郎と話しているから汗が止まらない、しかしここで俺が何とかしなければスタ公は一生戻ってこないと思うと不思議と緊張が止む。

 

 突然衝撃音が聞こえ、耳がぴんと立つ感覚を感じる。目の前で原田が机を蹴り飛ばしたようだ。

 

「そうか、お前はそこまで僕に楯突きたいか。お前を見捨てたからか? もう一度言っておくがお前には才能が無いんだぞ? 才能が無いウマ娘を見捨てて何が悪い? 僕はトレーナーとして当然といえる行動を取ったまで──

 

「何もかも間違ってんだなぁ、それが」

 

 原田の言葉を遮って俺は喋る。原田が語る理論は聞いていられなかったから。

 

「今となっちゃ、俺にお前は必要ねぇよ。もう俺の才能を見出してくれるトレーナーは見つけたからな」

 

「……僕は宝塚記念に向け、キグナスからスロウムーンと言うウマ娘の教育を任されている。そこだ……そこでスロウムーンを打ち破ってみろ。そうすればお前に才能があると認識してやってもいい。いいな? 宝塚記念だ……宝塚記念に出走してこい……!」

 

「目的を見失ってるみたいだから一応言っておくんだが、俺はスタ公を取り戻しに来たんだからな? お前のエラっそうな態度を見に来たわけじゃねぇ」

 

 勝手に1人で興奮している原田を見ながら俺はそう吐き捨てる。しかし原田は俺の言葉を無視して空き教室を出て行った。

 

 ……レコーダーでも持ってれば良かったか? 

 

「……変わっちまったよなぁ……原田よぉ……」

 

 俺以外誰もいなくなった空き教室で、それだけつぶやいた。

 

「あ、そうだ」

 

 俺はスマホを取りだし、トレ公に電話をかける。

 

『もしもしクライト? 今お前どこにいるんだ?』

 

「あぁ気にすんな、もう用事は終わった」

 

『用事は終わったってお前……原田に会ったのか?』

 

「まぁそれはそれとしてトレ公、俺よ、宝塚記念に出走してぇ」

 

『は!?』

 

 

 

「トレーナーさんがイライラしているよ……」

 

「そうだね」

 

 ウェザーストライクの少し怯え気味な声が少し反響する。タルタロスのトレーナー室に戻ってきた原田は、怒りをあらわにしてデスクに向いていたため当然の反応と言えるだろう、ウェザーストライクの声にすごく冷たく反応だけして私は下を向く。

 

 このトレーナー室にいると鼻がもげそうになる、何故かはわからないがすごく臭いにおいがする。

 

 トレーナーさんの事を裏切ってタルタロスに移籍したあの日から、私はずっとタルタロスのトレーナー室……いや、もはやトレーナー学園と言った方が良いレベルの施設でトレーニングをしていた。もちろんトレセン学園の寮には戻してもらえるのだが、遊びの時間など一切なく、私のメンタルは限界に近かった。

 

 いや、むしろこれが普通なのかもしれない。ダービーでは遊びすぎ浮かれすぎで負けたのだ、これくらい暇な時間が無い方が強くなれるのだろう。私の目標にも近づける。

 

「もういっそタルタロスに馴染んだ方が楽に生きれるのかな……」

 

 私は誰にも聞こえないような声量でそうつぶやく。

 

 すでに私の音声データは原田に保管され、私はトレーナーさんの元に戻りたくても戻れない状況下におかれている。それならばもういっそ吹っ切れてタルタロスで頑張ればいいのではないだろうか。

 

 ……考えていてもネガティブな思考だけが働く。ちょうど休憩時間も終わるころだったので、トレーニングに集中すれば少しは気がまぎれるだろうかと思い、タルタロスが抱えているトレーニング用の部屋に向かおうとソファを立ち上がった。

 

「待てスターインシャイン、どこに行くんだ?」

 

 私が何か行動を起こすときは、こうやっていちいち原田に報告しなくてはならない。他のメンバーは別に何も報告していないのに、私だけがこの報告をやらされている。恐らくは変な行動をされたくないが故の一応の行動管理だろう。

 

「トレーニング部屋です、宝塚記念に向けて調整をしておこうと思って」

 

「……トレーニングするのはいいが、一つ勘違いをしている」

 

「え?」

 

「お前は宝塚記念に出走しない、ファン投票の上位に選ばれても。あくまでもお前はキグナスを崩壊させるための()()。忘れるな」

 

「……はい」

 

 黒い盗聴器の本体をちらつかせながら原田はそう私に言う。私は道具、それは今もこれからも変わらない。やはり何も考えずタルタロスで功績をあげた方が私は幸せなのだろうか。そのような疑問の答えを頭の中で探しながら私はトレーニング室へと向かった。

 

 

 

「……これ俺くさったしたいじゃね? メラゾーマ撃ってみてくれよ」

 

 いつもなら『馬鹿か!』と言って飛んでくるハリセンが飛んでこない。違和感しかない。

 

 誰もいないトレーナー室で俺はひたすら机に頬を擦りつけて目的を見失っていた。

 先ほど退室していったみんなから励ましのメールが届いているが、今の俺はシャインがいなくなってしまったストレスでハゲ増しそうだ。

 

 励ましのメールでハゲ増す、我ながら死ぬほどおもんないギャグが思いついたものだ。

 俺が脳内でそんなギャグを披露していると、突然トレーナー室のドアがノックされた。シャインと仲が良い人たちは先ほどみんな呼んだと思っていたが、まだだれか呼んでいただろうか。

 

「どうぞ~」

 

 脱力した声帯でそのように呼びかける、声を確認してノックの主は扉をゆっくりと開け始めた。俺も誰が来たのか見ないといけないため、ゆっくりと扉の方を向く。するとそこに立っていたのは。

 

「……生徒会長のシンボリルドルフだ、スターインシャインのトレーナー……で間違いないかな」

 

「……はえ?」

 

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