持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
作者「既存ウマ娘を書くのが久しぶりすぎてキャラが崩れてないか心配すぎる」
「……生徒会長さんが一体何の用事かな……今俺の精神が取り込み中で……」
「突然押しかけてすまない、しかし……スターインシャインの移籍について、どう考えても不審に考えるしかなかったからな」
生徒と話している時とは一風変わったシンボリルドルフのオーラに、俺は思わず後ずさりしたくなってしまうが、椅子に座っているせいでできない。思わず背筋が伸びて冷や汗が出てくる。
「さて……スターインシャインの移籍だが、君も不審に思っているのは……その顔を見るに間違いないね」
「ああ、今でも信じられない……シャインが俺を裏切ってタルタロスに移籍するなんて……」
涙が溢れそうになるが、寸ででこらえる。いくら悲しいからと言って、大の大人が女の子の前で泣くとかかなり気持ち悪いと思うので泣くわけにはいかない。
「きっとスターインシャインは、タルタロスの原田というトレーナーに脅迫をされたのではないかな? キグナスとタルタロスは以前から問題行動が目立つんだ」
「問題行動?」
俺はキグナスが他のウマ娘を消していると言う事は分かっている。しかしタルタロスがキグナスと並べられるほどの問題行動をしているということが引っかかった。きっと相当真面目な話をしに来たのだと本能で理解し、すぐにだらしない机を片付けて対応の準備をする。
「それで……タルタロスの問題行動っていうのは?」
「学園内での盗聴や弾圧だ」
盗聴、という単語に俺は反応されてしまう。きっとシャインは弾圧行為に対しては全力で立ち向かうはずだ。しかし盗聴となれば話は別、シャインは何か重大な秘密を盗聴されてしまって、立ち向かうもクソもない状況なのではないだろうか。
「学園もキグナスとタルタロスの問題行動は分かっている……分かっているんだが……」
「だが?」
「……証拠を掴めていない。いくら探しても……いくら警戒していてもだ……。確かに、学園も問題行動の事実は知っているから、キグナスを無条件で咎めることはできる。だが確固とした証拠が無いのにもかかわらずチームを咎めるのは、恐らくその事実を後々キグナスに利用される……」
シンボリルドルフはそこまで言って顔をしかめる、学園ほぼトップの生徒会長ですら苦戦する問題。それにシャインが巻き込まれたという絶望感も当然あったのだが、その問題の事でルドルフは俺に一体何の用なのだろうか。
俺が疑問に思っていることは、すぐにルドルフが答えてくれた。
「え……シャインに……どうにかして協力をしてほしい……?」
「外部で証拠を出さないのであれば、内側から証拠を見つけ出すしかない。今、タルタロスの内部に潜入できているスターインシャインが希望なんだ。当然、移籍してすぐにこの話をしても君の精神状態が正常ではない事も承知している。しかし一時を争う
ルドルフが語る事は尤もと言えば尤もだ、しかし言うなれば俺たちをただただ利用するだけではないのだろうか。ただ俺たちは学園の出来物を取り除くために利用されるだけではないのだろうか。そう受け取ってしまい、イマイチ答えを出すことが出来なかった。
「協力するリターンは……?」
「……もしタルタロスの事を更正するチャンスが訪れたのなら、その過程でスターインシャインを何とかして君の元に戻そう。きっとそれが、君たちの望む事だろう?」
「少し、考えさせてくれ……」
答えを出すことができなかった俺は、目の前に佇む強大な存在、生徒会長シンボリルドルフにそれしか言えなかった。
「私の目標は『ウマ娘誰もが幸福になれる時代を創ること』。キグナスとタルタロスを更正させられれば、きっと学園は今のような殺伐激越とした環境ではなく、前のように切磋琢磨できる環境になる……どうか一考してみてくれ」
正直
「失礼する。また後日、日を改めて返答を聞かせてもらおう」
ルドルフはそう言ってソファを立ち、トレーナー室を後にする。取り残された俺はどうすればよいのだろうか。
「シャインと連絡を……」
確かに、ルドルフの作戦を承諾し、何とかシャインと連絡を取ることができるようになれば、引き抜き返すこともできるかもしれない。しかしそうやすやすとタルタロスがシャインとの連絡を取らせるだろうか。……分からない、何が正解なのか、全く分からない……。
「クソッ……シャイン……シャイン……」
「(……同病相憐……いや、惻隠之心か……。未来あるスターインシャインがタルタロスに引き抜かれたのはなんとも言葉にし難く過酷だ、しかし一方で最も過酷なのは本人たち……本人たちの感情は第三者に知りようもないものだからな……)」
「クライトォ~無理だってぇ~……ぜってぇ無理だってぇ~……」
「うるせぇ! 俺は絶対に宝塚記念に出走するからな!」
原田の野郎との会話を終え、トレ公が橋田の野郎みてぇに机に突っ伏してやがるトレーナー室に俺は帰ってきた。トレ公に宝塚記念に出走する意思を表明したのはいいものの、トレ公自体は宝塚に反対みたいで、俺は
「やぁ~だぁ~……ダービーからそんなに間隔開かないじゃ~ん……ほぼ一カ月だぜ~?」
「だとしても俺は出走する! 原田の野郎に一泡吹かせてぇ! 俺は絶対に出走するからな!」
「いくらお前の好きなように走らせたくてもこれは無理だろぉ~……」
トレ公はどこかで見た担当を失った野郎みてぇにうじうじわめきやがる。いい加減このやり取りも数十分やっているのでそろそろ結論を出したいんだが……。
トレ公の野郎を見てもあと数時間は説得に時間がかかるような雰囲気だ。仕方ない……お互いに恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけどな……。
「『君の才能が捨てられるのはもったいない!』……」
「ちょっ」
俺が発した言葉に即座にトレ公が反応する、やはりこれは言うべきではないだろうか、既に俺も恥ずかしい。
「『俺が君を導いて見せる!』……『絶対に中央で活躍させて見せる!』」
「や……やめてクライト……俺の黒歴史がっ!!」
「……こんなこと言ってたやつが今更レーススパン程度で止まってんじゃねぇ、バカ」
これはトレ公の野郎が俺をスカウトするときに行っていた言葉の一部だ。これを言うとトレ公の野郎はいっつも恥ずかしくなってしまうため、こうやってほぼ無理やり意見を通すことができる、俺の切り札だ。当然一言一句覚えているのだが、わざわざ覚えてしまっている俺を自分自身で見つめ直してしまい、恥ずかしくなるため、あまり使いたくはない……。
「……仕方ね、分かったよ。お前がそこまで一つのレースに執着するなんて珍しいからな。それがお前の、本当にしたい事なんだな」
「言えば分かるじゃねぇか、むしろ何がつっかえになって今の今までゴネてたんだよ」
俺がトレ公の黒歴史をちょっと掘り返しただけで、意外にもトレ公は俺の宝塚出走を承諾してくれた。……いや、こいつのことだし、また変に俺の体を気遣って無理するのかもしれないが。
「しかし……どうするんだ? 宝塚記念に出走するには人気投票の上位に上がる必要があるぞ? もう投票締め切りまで時間も無い。6月になったら即発表。こう言ってはなんだが、G1一勝のみのお前が、特に荒れている今世代で人気上位に上がるとは考えにくい気がしなくもない……」
「そこはまぁ、パっとやってポンだよ」
「なにがだよ」
「でさ、なんで俺らゴミ拾いしてるわけ?」
「黙って拾えトレ公」
がやがやと人の声がする商店街。俺の発案でトレーナー室からすぐに出発した俺たちは、商店街でゴミ拾いをしていた。俺は隣で嫌な顔をしながらゴミを拾っているトレ公に喝を入れて、俺自身も地面に落ちていた缶を拾う。というのもしっかり俺に作戦があって……。
「こうしてれば商店街の人らが俺たちを知るだろ? そうして俺の戦績を調べて感激するわけだ、そうすればきっと人気投票上位に行けるんじゃないか? 悪くても20位以内くらいにはな。どうせ宝塚記念までレース出る暇なんてないんだから今できることやるんだよコラ」
「お前ってやつは本当にさ……」
「え? なんかダメな作戦だったか?」
「最高じゃねぇかクライトッッ!!」
「だぁぁぁよなぁぁぁぁぁっ!?」
「「だぁぁぁっはっはっはっはっ!!」」
実際の所かなりいい作戦ではあると思う、現代ならSNSなどで俺たちの行動が拡散される可能性もあるし、商店街もきれいになるし、学園の印象も良くなる。
俺の作戦の内容を話すと、どうやらトレ公にスイッチが入ったようでバンバンゴミを拾っている。それに釣られるように俺も拾うスピードを上げていった。
「ん……」
ふと俺の目の前にまだ中身が入っている未開封の缶が落ちてきた。それに合わせて、俺の方向……いや正確には落とした缶の方向に向かってくる足音が聞こえた。
「ああ……ごめんなさい……」
顔を上げると、どうやら俺の目の前に立っているこのウマ娘が缶を落としてしまったようだ。俺はとっさに缶を拾いあげ、そのウマ娘に向けて突き出す。
「おうよ、落としたぜ」
「……プルタブの方向を私に向けて渡してもらえますか……?」
俺が缶を手渡そうとした寸前、突然そのウマ娘はそのように俺に指示してきた。別に渡されてから自分で向きを変えればいいのに、なんでわざわざそう指示してきたのかはわからなかった。
「ん? 別にいいけどよ、なんでだ?」
「……プルタブのように小さい物の形を捉えるのは少し手間なので……」
「……言ってる意味が分からねぇな、捉える? 一体どういう意味だ?」
「……私は目が見えないので……」
突然何を言っているのだろうかこのウマ娘は。目が見えないなどあり得ない。だってさっきこのウマ娘は確かに缶の方向に自分で歩いてきた。点字ブロックも、盲導犬も、杖も無しに、早歩きで。
それなのに目が見えないというのは少々無理がある。
「おいおい、それじゃあそもそもどうやってここまで歩いてきたんだよ、勘で歩いてきたのか?」
思わず俺はそのウマ娘にこうツッコんでしまった。しかしそのウマ娘は表情一つ変えずにこう返してきた。
「ええ……そうですけど……。私……一応大雑把には見えるんで……」
頭がこんがらがりそうだ。目が見えてないけど見えてる? どういう意味だろうか。
「危ないっ!!」
俺が混乱していると、突然叫び声が聞こえた。
声がした方向を見ると、看板の塗装でもしていたのだろうか、三脚から人が落ちている最中だった。俺は急いでその人の下に走り、何とかギリギリキャッチした。
「あっぶねぇぇぇぇ! 気を付けてくれよ本当に……」
「ご……ごめんねぇ……怪我は無いかい?」
「それは自分の体に言いな」
本来なら走っても間に合わないような位置にいたのだが、ウマ娘である俺の脚力なら容易いものだ。俺がキャッチした人はすぐに立ち上がって俺に感謝を述べてから三脚を立て直していた。三脚の方にも怪我人がいなくて良かった。
「うげえ、インクがスカートに……」
しかしまぁ、塗装していただけあってインクが入っていたバケツも落ちてきたようで、俺のスカートは見事に赤色になっていた。
「ん?」
ここまで考えて、俺は異変に気付いた。インクは落ちてきた、しかしバケツが無いのだ。バケツが落ちたのならそれなりの衝撃音はするだろうし、もうちょっとインクは飛び散っているはず。それなのに地面はちょっとインクが落ちただけで済んでいる。看板に塗っていたインクが落ちてきたのか?
「あの……これも落としましたよ……」
「あらぁ、よく掴んだわねぇ。ありがとうねぇ」
驚いた、なんとインクが入っていたバケツは缶を落としたウマ娘が掴んでいたのだ。どうやら俺のスカートに付いたインクは落下中の遠心力で少しこぼれたインクのようだった、不運すぎるだろ。しかし……なんという事だろうか。そのウマ娘のスカートはおろか服にすらインクがかすっていない。察知して当たらない位置でバケツを拾ったというのか……?
正直そこまで見えているのならプルタブの向きを自分に向けるくらい簡単なのではないかと思ったが、今回のバケツは大きな動きだから位置を感じやすかったからだとでもいうのだろうか。とにかく不思議なウマ娘だ。
「あなたたちお名前は?」
「……マックライトニング」
「スロウムーン」
「~!?」
三脚から落ちた人に名前を聞かれ、俺たち二人で答えているとなんということか、そのウマ娘は原田の野郎が言っていた名前をつぶやいた。
『……僕は宝塚記念に向け、キグナスからスロウムーンと言うウマ娘の教育を任されている』
こいつが……目の見えないこいつが、スロウムーン?