持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「指が凍りそうです\(^O^)/」


第六十四話 明鏡止水

 

「へぇ、あなたがマックライトニング……原田トレーナーが目の仇にしているウマ娘とは聞いていたけど……」

 

「おい……さっき言ってたこと、本当なのかよ、目が見えないけど大雑把には見えるって。いや……本当だと信じるしかないよな。もう見せられた後だし」

 

 スロウムーンと名乗ったそのウマ娘と三脚から落ちたおばあさんを助けた後、近くの公園にあったベンチに座り俺たちは話していた。キグナスのメンバーではあるがある程度話は通じそうだし、何よりスタ公を救うチャンスかもしれねぇ。

 

 原田の野郎がスタ公に何かしやがったのは確実、だから原田の野郎の弱みを握れれば、きっとスタ公を救い出すことができる。そして今その原田の野郎の弱みが分かるかもしれない。そのための会話だ。

 

「ええ、見えていないけど、見えてる……。といっても、あなたの顔は見えない。あくまでもそこにヒト型が見えるだけで、細かい輪郭なんかは全く分からない……」

 

「なるほどな。ちなみに見えるメカニズムは?」

 

「……あなたたちも武器を秘密にしてるでしょう……?」

 

 なぜ見えているのかについて聞こうと思ったが、あくまでもこれがスロウムーンの武器だという。話してみてわかったが、こいつはキグナスでも相当とびぬけた実力を持っているウマ娘らしい。

 俺たちは先ほどからずっとしゃべっているが、全くこいつの感情が読めないのだ。感情が読めないという事は、それすなわち作戦などの考えていることも分からないという事態に繋がる。それはきっとこいつ自身がレース中の仕掛けるタイミングなどを狙い撃ちされない様に狙ってやっていること。

 

「(それにこいつ……俺が目のメカニズムについて聞き始めた瞬間から急に気配が競争ウマ娘になりやがった。レース中のスタ公からも感じた事が無い、圧倒的なオーラ……。警戒してやがる……)」

 

「……はぁ……。なかなか切り出さないのね……」

 

「あ?」

 

 俺がオーラに圧倒され、話すことの一文字一文字に気を張りながら何を聞き出そうか考えていると、突然スロウムーンがそのように話しはじめた。

 

「スターインシャインのことよ……。あなた、ただ宝塚記念に勝つだけが狙いじゃないんでしょう……? 『宝塚記念に勝っただけじゃ、スターインシャインは原田の元から離れられない……だから決定的な何か、原田を押さえつけられる何かを聞き出してやる』……そんなところでしょう……?」

 

「……こりゃびっくりだ、そこまで読まれてるとは」

 

 なんと俺が狙っていたことがすべてスロウムーンに読まれていた。一応俺は冷静なふりをしているが、体は正直で冷や汗がたくさん出てくる。まさかここまで人の心を読めるようなウマ娘、というか観察眼を持った生物が俺の目の前に来るとは思わなかった。

 漫画の世界だけだろそんなの。

 

「実際問題……どうやってスターインシャインを救おうというわけ……? 原田トレーナーには弱点のようなものは見当たらないわよ……」

 

「……なんでちょっと協力的なんだよ」

 

「余計なこと喋ってる暇があるなら答えなさい……」

 

 急にスロウムーンの奴が言葉にとげを生やし始めた。

 俺は驚きつつも言葉を返す。

 

「……考えちゃいねぇよ、そんなもん」

 

「なぜ……? それでなぜスターインシャインを救えると思っているの……?」

 

「おめぇさっきからなんなんだ? 協力的なのか敵対的なのかはっきり──」

 

「私はただ正々堂々と勝負がしたいだけよ」

 

 正々堂々。

 これまで他のウマ娘を消してきたと言うキグナスのメンバーから出てくる言葉だとは思わなかった。

 

「他のウマ娘を消すのは、チームの意思。だけど私は消すなんてことはしたくない……。ただ正々堂々と、奪う奪われるで競争するんじゃなくて、助け合って、傷を刻みあって、みんな一緒に上り詰めていきたい……」

 

「(シャイニングの野郎と同じような奴だな)」

 

「だから……原田トレーナーを止めることができるのなら、今のうちに止めておきたい。原田トレーナーが私たちキグナスのトレーナーさんと争って、トレセン学園がめちゃくちゃになる前に……」

 

「なら、タルタロスのトレーナー室に潜入するのを私に任せてもらえませんか?」

 

 俺とスロウムーンが話していると突然背後から声がした。振り返るとそこにはかなり小柄な見た目のウマ娘が立っていた。

 

「……? おめぇ誰だ?」

 

「イーグル……私の名前はイーグルクロウです……。スターインシャインさんとは、未勝利戦の時に戦った仲です」

 

 スタ公と未勝利戦で戦った事があるウマ娘と聞いて、すぐにスタ公が出た未勝利戦の事を調べる。調べてみると、確かに『6番イーグルクロウ 失格』と書いてあった。

 

「シャインさんが、タルタロスってチームに移籍しちゃったって風の噂で聞いて。まさかあのシャインさんが橋田さんを裏切るわけが無いと思って調べてたんです。そしたらちょうどあなたたちの横を通った時に会話が聞こえちゃって……。ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんです」

 

「なるほどな……ちなみによ、さっき言ってた『タルタロスのトレーナー室に潜入するのを任せてくれませんか?』って言うのはどういう意味だ?」

 

 このイーグルクロウが俺たちの前に現れる前に放った言葉、それの意味がよく分かっていなかったので質問してみる。用もないウマ娘が他のチームのトレーナー室に入れるとも思わないし。

 

「えっと……マックライトニングさんでしたっけ?」

 

「クライトでいい」

 

「ええっと……クライトさんが宝塚記念で走っているときって、当然タルタロスのメンバーはレースを見に行っていますよね? その間に私がタルタロスのトレーナー室に潜入して、シャインさんをタルタロスに押さえつけているものを探してくる。ということです」

 

 確かに、宝塚記念の間ならタルタロスのトレーナー室も多少警備と言うか中にいる人数は少なくなると思われる。しかしそれは不法侵入に片足を突っ込んでいる、というかもはや不法侵入と言えるだろう。そのため見つかった時のイーグル自身の身が危ない。確かにてっとり早く原田の野郎の弱点を探せる作戦ではあるが、あまり賛成できる作戦ではない。

 

「無茶よ……タルタロスのトレーナー室の構造は今この場でわたしだけが理解しているから言わせてもらうけど、タルタロスのトレーナー室には監視カメラが多く仕掛けられてるわ……」

 

「そこは……気合で何とかします……」

 

「気合かよ!! めっちゃ適当だな!!」

 

「だって……シャインさんがタルタロスにいるまんまだとクラシック期が終わっちゃう……クラシック期でしか楽しめない時間を失ってしまう……私はまだ時間があるからいい、だけどシャインさんは違う。今も失い続けている。だから私が取り返さないといけないの……!」

 

 イーグルはそう言って俺の方をぐっと見つめてくる。さっき適当だと言ってしまったが、子の目を見るにこのイーグルクロウとかいう平和ボケしてそうな小柄なウマ娘は本気も本気、大本気らしい。

 

「……わかったわ、あなたがそこまでする覚悟があるのなら、私も協力するわ……宝塚記念までにタルタロスのトレーナー室にある監視カメラの位置を全部覚えてくるわ。それに加えて監視カメラに写らない領域、所謂死角の位置もね」

 

「ちょっとまて、俺はまだお前の事を信用していないぞ」

 

 勝手に話を進めるスロウムーンの言葉を止めて、俺は敵意むき出しの声でスロウムーンにそう言い放った。俺がその言葉を言い放すとイーグルクロウは気まずそうな感じで立ち尽くしていたが、スロウムーンはすぐに立ち上がって俺の方を向いてこう言った。

 

「……そうね……。なら一度模擬レースで私と走ってくれないかしら……。もしそこであなたが私に勝てたのなら信用してくれなくていいわ……。ただ、私があなたに勝ったら、いやでも信用してもらう……」

 

 スロウムーンから出てきたのは、なんと作戦決行の判断が決まる賭けレースの提案だった。

 一見めちゃくちゃでバカな事を言っているただ断ればよいだけの無意味な提案だが、すぐに断るわけにはいかなかった。ここで引いてしまえば、宝塚記念に出走するまでにスタ公の奴を救い出す手段が考えつく可能性はゼロに近い。

 今最もタルタロスの内部情報を知れて、スタ公奪還に有効な情報を知る手段はこのスロウムーンから聞き出す事のみ。しかしもしその提案を受けて、負けてしまえばどうなる? もし信用させるだけ信用させて最後に裏切られたら? たしかにこいつは正々堂々を望んでいると言っていたが、もしそれが嘘で塗り固められたものだったら? キグナスのウマ娘だからやりかねない。

 

 なにより、スタ公の知り合いであるというイーグルクロウの身すら危ういかもしれない。

 

 しかし引いてしまえば……という無限のサイクルに俺は陥った。そんな俺を見かねてなのか、スロウムーンはため息をついた後に急かすようにこう言った。

 

「これ以上時間を食いたくはないわ……。あと5秒……」

 

 まずい、カウントダウンまで交えてきやがった。

 

「4……」

 

 考えろ……考えろ……。何かあるはずだ。スタ公を奪還する方法が他にもあるはずだ。

 

「3……」

 

 焦るな、ここでヤケになって勝負を受けてしまったら、負けた時に死ぬほど後悔する。

 

「2……」

 

「あわわ……クライトさん……」

 

 クソッ!! そんな焦ったような目でこっち見てくんな! 俺まで焦るだろうが! 

 

「1……。残念ね、あなたの覚悟はその程度だったなん──」

 

「……ゼロは言ってねぇ」

 

「ん……?」

 

「ゼロとは言ってねぇ、カウントダウンはまだ終わってないよな? 勝負を受けるって言ったんだ」

 

「オーケー……」

 

 カウントダウンに焦ったわけではない、決して焦ったわけではないのだが、スタ公を救い出す他の方法が思いつかなかった俺は、しぶしぶ勝負の提案を承諾した……。

 受けてしまった以上、裏切られるなどとマイナスに考えるのは精神衛生的にも良くない。プラスに考えていこう。そうだ、これもこのスロウムーンと言うウマ娘の武器を知れる絶好のチャンスだ。

 

「それじゃあ……明日、トレセン学園で……」

 

「ちょっと待てよ、学園で走ったら原田の野郎に見つかるんじゃねぇのか? もし勝手な事したら怒られるどころじゃ済まないんじゃ」

 

「構わないわ……。原田トレーナーは基本的にタルタロスのトレーナー室でトレーニングを監修しているから、学園には目的が無いと滅多に顔を出さないわ……」

 

「ずいぶん適当なトレーナーだな」

 

「あなたの元担当トレーナーよ……」

 

「……」

 

「あ? なんだイーグル?」

 

 俺たちが賭けレースについての会話をしていると、ゆっくりと後ろの方からイーグルクロウが見ていた。

 

「あ、いや、はは、なんか、レースして信用を得ようとするのってなんだか未勝利戦を思い出しちゃって……」

 

「それじゃあ、明日学園で……」

 

 イーグルクロウが未勝利戦に思いを馳せるのを見て、スタ公の人脈の広さを実感する。それと同時にそんなスタ公が原田の野郎に奪われてしまったという事も再確認してしまい、気分が害される。そんなイーグルを気にせず無視して帰って行ったスロウムーンの図太さもなかなか面白いが、前者の不快感が勝る。

 

「さて……それじゃあそろそろ帰るか……」

 

「あの、クライトさん」

 

「あん?」

 

 俺が学園に帰ろうとすると、イーグルクロウに後ろから呼び止められた。スロウムーンに無視されたのにもかかわらず何も気にしていなさそうな顔には驚いたが、それ以前に何か俺に言いたげな態度なのが気になった。もじもじしているのが明らかだったので、俺はすぐにイーグルクロウに対してなぜもじもじしているのかを聞いてみた。

 

「私、未勝利戦でシャインさんと仲良くなってから以降全く喋ってないんですよね。活躍は当然うわさで聞くんですけど、話はしないのでどんな状況なのか分かってないんですよね。もしシャインさんの事で面白い話があったら教えて下さい!」

 

 イーグルがおねがいしてきたのは、スタ公の武勇伝を語れと言う事だった。正直俺もスタ公のライバル、あまりライバルの武勇伝を語るのは嫌なんだがな……なんなら俺の武勇伝を聞かせてやりたいわ……。

 

「……しょうがねぇなぁ、長くなるぜ?」

 

「大丈夫ですよ! 私シャインさんのファンなので!」

 

「おう、それじゃあついてこい! 今日は語り明かすぞ!」

 

 結局俺はその後、イーグルクロウと学園でスタ公の事について語り合っていた。

 明日の賭けレースに向けて、俺は勝てるように気合を高めておかなければ。スタ公を奪還できるかできないかの瀬戸際、判断ミスは許されない。今後俺も慎重に選択肢を選ぶ必要がありそうだ。

 

 

 

「……ゴミ拾ってたのはいいんだけどよ……」

 

 もう月が出てきて、星空が綺麗な夜。

 

「クライトどこ行ったわけぇぇぇぇぇ!?」

 

 ゴミ拾いに夢中になっていたら、いつの間にか川の方にまで拾いに来てしまい、俺は迷子になっていた。

 

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