持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ」
「マジか……また記録更新だ……目に見えて調子がいい……」
「だ~から当り前~っ! オエッ」
私はあれからトレーニングに打ち込んだ。負け続きだった模擬レースも勝ちの波が来ていて、タイムも更新を繰り返している。まさにいい感じで、強いて言うなら前回のメイクデビューで勝てると思われていた私が負け、未勝利戦に出るにあたってのことを聞きたがる記者が少々うっとうしいくらいだ、私だって負けたくて負けたわけじゃないし。
とまぁいろいろあるが私は特に気にしないようにしてトレーニングをしていた。サンが先の舞台で待っているのだ、私もその程度でかっかしていられない。
「さて、前回のメイクデビューのプロミネンスサンのことなんだが、レース映像を見ていて気付いたことがある」
「ふぅ……ふぅ……気づいたこと?」
私がスポーツドリンクを口に含んで息を入れている最中、突然トレーナーが前回のメイクデビューの事について喋り始めた。気付いたことと言いうのは多分前回のメイクデビューでのプロミネンスサンが見せたトリックのような何かの事だろう。レース中姿が見えず、最終直線になって突然姿が見えた、そして最終盤でのあの再加速、さらに私が負けた理由でもあるトリック。恐らく今一番私が気になっていることだろう。
先日マックライトニングにも「負けた理由を追い求めろ」と言われていたのも相まってその話に興味津々だった。
「恐らくプロミネンスサンは中距離レースの場で『セカンド・ウィンド』を無理やり引き起こしたんだ」
「セカンド・ウィンド?」
急に聞きなれない言葉がトレーナーの口から出てきて私は困惑した。話を遮って説明を聞くと話のテンポを気にしてしまうが、聞いてみた。
というわけで軽く説明を聞いたところ、デッド・ゾーンは簡単に言えば自分の限界点、走っている最中に「もうダメだ!」となるポイントの事で、その限界に屈せずに走り続け、自分の限界を超えた先がセカンド・ウィンドらしい。この状態になると先ほどまでのデッド・ポイントの辛さは消え、どれだけペースを上げても疲れを感じなくなるというものだ。
そして、サンはそれをレース中に起こしたと言うのだ。
「だが本来、セカンド・ウィンドの前段階であるデッド・ゾーンは呼吸器の限界、ようはスタミナの限界が来なければ訪れない。プロミネンスサンは中距離を十分に走れるスタミナも呼吸器も持っているはずだ、起こりえない現象。だから恐らく、レース中少しだけ前傾したんだと思う、体を前に倒し、走りにくい体制にすることでスタミナの消費を激しくする、そして最終直線で本格的にスタミナを限界まで減らし、デッド・ゾーンを超える。それがサンや木村さんの作戦だと思う、そしてサンの体がレース途中見えなかったのは前傾して他のウマ娘の体に隠れていたからだ、割と先頭集団多かったしな」
確かにそうだった……メイクデビューの時、集団から抜け出したサンの体は前に倒れていた。先頭集団に隠れて見えなかったと言う事に対しては少しだけ腑に落ちなかったが、よく考えればサンは普段から気配が薄いからそのような現象が起きても不思議ではないかもしれない。とりあえずあのメイクデビューの謎が解けて私の頭がすっきりした。
だがその推測を聞いて一つだけ疑問が生まれた。そこまで自分の体を追い込んでサンの体がもつのかどうかだ、私はその二つの現象についてよく知らないので、わざわざ疲れている体を追い込んだ結果が「疲れなくなる」と言うのは一種の麻痺なのではないか。そう思いトレーナーに聞くと。
「セカンド・ウィンドは体の各器官が順応することによって起きる現象だからな、身体に影響はないが、本人がそこに行くまで苦しい事に変わりはない。限界を迎えた状態でさらにペースを上げるんだからな」
限界を迎えた状態でペースを上げる。私もやろうとしたことがあるが、とんでもなくキツイ、本格的に肺が破けそうになる痛みが走るから、実行できた事が無い、でもサンはそれを実行しセカンド・ウィンドを迎えた、サンの根性がセカンド・ウィンドを引き寄せたわけだ。
「だからお前も何かしらそういう『武器』を持たなければならない」
「私の武器……」
私だけの武器とはなんだろうか、私であればこの爆発的な末脚、と言えるが、トレーナーさんの言い方的に恐らくそれだけではだめなのだろう。もっとそれ以上に、爆発的で超次元的な何かが必要なのだろう、はたして私に掴めるだろうか。
「だから今日はこの子を呼んだ! この子と模擬レースをしてくれ! カモォン!」
そういってトレーナーさんが連れてきたのは過去に数回姿を見たことがあり、もはや何かしら奇妙な因縁を持っている黒髪、マックライトニングだった。マックライトニングとはただ模擬レースで走りあっただけであり、別に仲がいいわけでもないがどこで模擬レースを申し込みあう仲になったのだろうか。というよりなんか嫌がってるよね? もしかして無理やり連れてきました?
「まぁまぁいいじゃないかクライト、どうせデビューすれば当たる相手なんだ、戦っておいて損はないだろ、それに……橋田、お前の担当の今の強さも見ておきたいしな」
マックライトニングの奥から新たにトレーナーさんだと思われる男の人が出てきた、聞いたところによると私のトレーナーさんの先輩のようで、私の模擬レースも見に来てくれていたらしい。この人はウマ娘を育てる力も持っているが、トレセンに就職してからトレーナーを育てることの方が面白くなってしまいしばらく担当を持っていなかったらしい。しかし後輩である私のトレーナーが担当を持ったことに感化されて自分も担当を持ってみたとその人は語った。
なるほど、やたらマックライトニングを仲良さそうに呼び出した理由はこういう事か。
「どうも~、クライトのトレーナーの速水です~、あ、シャインちゃんだっけ? うちの担当は気軽にクライトって呼んでもらって構わないよ」
「余計な事教えんなッ! トレ公!」
「よろしくね、クライト」
「うるせぇ!」
クライトに思いっきりコブラツイストをかまされた、一応手加減はしてくれたようだった。
「さっ……これでシャインが何かつかめるといいんだが……」
「これで一つ貸しだからな、もうお前とはライバル同士なんだ、先輩だからって貸しのノーカウントはしないぞ」
「ええ、分かってます」
私たちのトレーナーが各々ストップウォッチだったり資料だったりを準備し終わった後、私たちはスタート位置についた。今日は絶好の晴れで、芝も変えたばっかりですごく走りやすそうな感じだった。空気が澄んでいたので深呼吸をした後に私はコインを取り出し、クライトにこれがスタートの合図だと目で会話をする。
「ねぇ……」
そして私たち二人がスタートする準備が完了した時、私は口を開く。
「クライトってなんだかんだ優しいよね」
「なっ……いやっ……」
クライトは優しい、私の本心だ。
さっきコブラツイストを受けた時に感じたあの腕の感触、私が頭を怪我した際に運んでくれた、誰だかわからない人物の感触だった。それにツイストの威力を手加減してくれたのもそうだ、きっと根は優しい人なんだと私は感じたから言いたくなった。
クライトがあれやこれやと言い返している中私はコインをはじく。
「しっかり聞かないとスタートの音聞き逃すよ」
数秒した後に高~く高~く上にはじいたコインが地面に落ち、模擬レースが始まった。
スタートして数秒、私は相変わらずいつもの追込の位置でクライトを見つめる。クライトの脚質は差しでちょうど私の少し前の位置だ。しかし今の私は自分の武器を見つけるために模索することを考えた走りだ、とりあえず何かしらやってみようと言う事でクライトの後ろにぴったりくっついてみた。
「(けっ……俺の後ろにぴったりくっつきやがって、スタート前にも変な事言いやがって、気持ち
「(この位置、風の抵抗が少なくて走りやすい……確かこの現象は……スリップストリームだ。確かにいい作戦だけど決定的な武器にはならないかな)」
スリップストリーム。
前の人の後ろにぴったりくっつくことで、風の抵抗を極限まで減らすテクニックだ。だが例えばサンが驚異のスタミナから加速したように、最終直線で使う武器としては使えない、結局のところ最終直線の時自分の前にウマ娘はいないのだから。
それからも私はことあるごとにいい感じのテクニックを見つけはするが、『武器』の決め手にはならなかった。強いて言うなら、コーナーを曲がる際に私はとても楽に回る方法を見つけたくらいだ、だがサンのように強力な武器になるかと言われたら微妙なところだ。とりあえず練習メニューには入れておこう。
結局そのまま模擬レースは流れていき、二人で最終直線に向かった。
「(何も見つからないなぁ……私にはそういう武器はないのかなぁ……)」
「オラァ! ついてこいや! スタ公!」
「スタこ……えっ?」
武器が見つからないことに私が頭を悩ませていると、クライトが向こう側でスパートをかけた。私の呼び方にツッコミを入れたかったが走っていたのでツッコミを入れられるわけもなくクライトのスパートを見守っていた。まだ私のスパートをかけるポイントではない、まだ抑えよう。
「……だめそうだな、シャイン」
クライトがスパートを仕掛けるのが見える、シャインは表情からしてまだ何もつかめていない様子だった。メイクデビューが終わってから未勝利戦までそう時間があるわけでもない、ここで何かを掴めなければ、たとえ未勝利戦を乗り越えても、メイクデビューで格付けされたプロミネンスサンに対して勝つことができない。俺の額にはじわじわと焦りの感情の証が出てきていた。
「橋田、お前が見つけて走り方をアドバイスするだけでもいいんだぞ?」
「いえ、私はあいつに見つけてほしいです、あいつ自身が武器だと確信できるものを」
シャインに武器を作れと言ったのは俺だが、俺は外野から口出しするのではなく、シャイン自身が武器と感じれるものを使わせてやりたかった。俺は先輩……いや速水さんの方を見ながら断言する、速水さんは何も言わずにコースを見ていた。
すると突然速水さんが驚いたような声を出し、口を開いた
「……どうやら俺が心配する必要もなさそうだな、みてみろよ、あれ」
「…………!?」
「えっ……ちょ……えっ……?」
自分がどうなっているのかわからない。クライトがスパートをかけてから少し後に、私もスパートをかけた、そうしたら急に、視界は延々と下の方に高速で流れていく芝を捉えて前が見えず、私の脚も走っているというより階段を上っているような感覚になっている。ただ一つ言えるのは、すごく気持ちよく走れているし、今までになくスピードを出せているということだ。
「はっ……? 何やってんだお前……!?」
私の少し後ろを走っているクライトも思わず困惑しているようだった。私だって困惑している、だってこれまでトレセンに入学する前も走っていた私だが、こんな状態になったのはこれが初めてだ。
「なんでこのアタシがゴール役なんて……うぉっと ゴール!」
横の方からゴール役を頼んでおいたヒシアマゾン先輩の匂いがする。恐らくゴールしたのだろうと思いスピードを緩めたら視界が元に戻った、元の状態になった途端にどっと疲れ、汗だくの体を地面に投げ捨てた。空を仰ぎ、私は先ほどの出来事を振り返るが、どれだけ振り返ってもどうなっていたのか見当がつかない。
「こうなっていたのかな?」という予想さえ言葉にすることが出来ないような不可解な体験だったからだ。
「はっ……はっ……はっ……え……どうなってたの私……」
「うぉーーーいっ! シャイーーンっ!」
遠くの方からトレーナーがこれまでにない笑顔で近づいてくる、とても目が輝いている様子だ
「シャイン! もしかしてそれがお前にしかできない武器じゃないか!?」
「う……うん! いや、私がどうなってたのかぶっちゃけ知りたいんだけど、すごい気持ちよかった! あれ絶対私の武器だよ!」
「お前は今な……
トレーナーから私がどうなっていたのかを聞こうと思ったら、とても大量の足音が聞こえ、その足音の正体を知ろうと遠くの方を見ると、12人ほどのウマ娘が大量に歩いていた、なんだかすごく怖い雰囲気の人たちだったので、私は目が合わないよう、トレーナーに顔をクイクイと大量のウマ娘達の方に合図を出して聞いてみた。
「んどうしたシャイン? あ……? ああ、あれはチーム「キグナス」の人たちだな」
「キグナス?」
「白鳥座の事だな、宇宙で一番大きい星だ、その名の通りあのチームはこの学園で今一番注目されているチームだ」
「へぇぇぇ……そんなに?」
「なんでもこれから歴史を担うんじゃないかと言うような実力者が大量に集まっているらしい」
そう聞いて私は歴史を担うと言う単語に少しだけ反応した、チームまでできていると言う事はきっと確実に実力を付けて有名なウマ娘になる、ってことはあのチームの中の数人に圧勝すれば記録としてはいいのではないかと思った。いや、ウマ娘の記録はどの相手に勝ったかじゃなくてどのレースに勝ったかなんだけどさ。
「まぁすごく強いチームって事だ、戦おうとするのはやめておけと言われるほどにな」
ちょうど私が戦おうと思っていたら戦うことを否定されるようなことを言われた……
そんなことを話していると、その凄いチームらしいキグナスの一人がこっちに向かってきた。
「……何か奇妙だな、こんな風に他人を思ったのは初めてだ」
突然そのウマ娘は意味深な事を言う、そのウマ娘は王冠のような白い模様が入った茶色の髪をしていて、目は赤く光り輝いていた。
「なんだ? てめー、馬鹿にしてんのか?」
「いや、馬鹿にしに来たわけじゃない、ただ君たちとは『何かぶつかりそうな』気がしてね」
ぶつかりそうな気がする、イマイチ言葉の意味が分からなかったが恐らくレースの事だろう、先ほど私が戦おうと思っていたように、この人も私やクライトを見てレースで『ぶつかりそう』と思ったのだろうか。
ちなみに私の横でクライトが殴りかかると言わんばかりの興奮具合だったのでゆっくりと私がなだめていた、どうやらクライトは目的がはっきりしないようなことを言われるとイライラするらしい。
「ふむ……」
するとキグナスの人は何故か私を見つめてくる、あまり見つめられると目力強いから怖いのでやめていただきたいけどなかなか離れてくれなかった。
「…………失礼したね」
そういってキグナスの人は集団に向かって戻ってしまった、相変わらず私の横でクライトが暴れかけていたが、何気なく私が抑えていた。
トレーナーに聞いた話だが、あのウマ娘は「キングスクラウン」と言い、学園で一番注目されているキグナスの中でさらに一番注目されているウマ娘だそうだ。
なんでも小学生のころから成績優秀、授業で行うレースでも明らかに飛び抜けた記録を残しての負け無しだったらしく、現在二冠を所持しており、シンボリルドルフさんの記録を上回るんじゃないかと言われているらしい。
「それでシャイン、お前の武器だが」
キングスクラウンの事について一通り話し終わったトレーナーは、私の方に向きなおして先ほどの私の状態について話し出した、私もすっかり忘れていたが思い出した以上どうしても知りたい情報なので耳を傾けた。
「ええ!? そんなことになってたの!?」
私は話を聞いて驚愕した。何せその話の内容は現実的に信じられないようなものだったからだ、当事者である私もあるわけがないと思ってしまうような内容だった。
「俺も最初見た時信じられなかった、だが確実にお前は実行して維持もできていた、恐らくこれをモノにすればお前は唯一無二の武器を手に入れられる!」
「じゃあ、明日からそれのトレーニング?」
「お前の未勝利戦は
「正直そんな怖い状態を本番のレースで行うのは凄い怖いけど……わかった! 私、絶対それを身に着けて勝って見せるよ! トレーナー!」
何はともあれ、私はその現実的に信じられないような現象を実現できたのだ、今は違法な事じゃない限りなんでも信じて身に着けようと思う、私だけの武器、それは──
「おい、トレ公」
橋田にお願いされた模擬レースが終わり、どうやら橋田とスターインシャインは何かを掴めたようであちらの方で盛り上がっている。そうして俺もボケっとしていたら、突然クライトから呼び声が掛かる。
「なんだ? クライト」
「俺もスタ公に負けてらんねぇ、お前もなんかトレーニングくれよ」
どうやらクライトの闘志にも火がついたようで、追加のトレーニングを求められた。
今回の模擬レースで俺もあるトレーニングが思いついたのでクライトに提供しようと思ったが、ものの頼み方がなってなかったのでどうしようか迷うそぶりを見せたら「うるせぇぶっとばすぞ」と言われたので、おとなしく提供してあげることにした。
「(橋田……どうやらお前はとんでもない原石を掴めたみたいだな、お前達のこれからの活躍にクライトも追いつけるように成長できるよう、これから頑張ってみるか!)」