持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「18日から幼稚園児の親戚と遊び倒すために横浜行くので書けるか不明です。金曜日の夜に帰ってくるので多分気合があれば書けます。もしかしたらパソコン持っていくかも?」


第六十九話 ここに落ちよ、稲光

 

「橋田ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「速水さん……?」

 

 突然後ろの方から大声で俺を呼ぶ声が聞こえたので後ろを振り向くと、車に乗って全速力でこちらの方向に走ってくる速水さんがいた。速水さんは俺の近くで駐車するとすぐに車から降りてこちらに脚で走ってきた。

 

 そして走ってきた速水さんが最初に取った行動は。

 

「いっっっつ……」

 

 突然右頬に走った痛み。どうやら速水さんにビンタされたようだ。以前背中を打って感じた痛みよりは痛くなかったが、流石に成人男性のビンタはある程度痛かった。

 

「お前はぁぁぁ!! このバッッカ野郎!!」

 

「ちょっとまって速水さん、首が……」

 

 ビンタをしてすぐに速水さんは俺の胸ぐらをつかんで腕を思い切り振った。それに引っ張られて俺の体も大きく揺れるため、ヘドバンのような状態になってしまいまともに会話が出来そうにない。

 

 すぐに速水さんにそのことを訴え、胸ぐらを放してもらったが、目の前に立っている速水さんの怒りは収まっていないようだった。

 

「お前は……クライトに蹴られた時の事を忘れたのか!?」

 

「毎日杯の時ですか……」

 

 少し前の毎日杯の景色が昨日の事のように思い出される。最終直線でブルーマフラーをシャインが差し切ったあのレースだ。

 あの時もちょうどシャインのことについて悩んでいるときに怒られたんだっけな。

 

「お前のシャインちゃんを支える覚悟はその程度だったのか……?」

 

「……」

 

 速水さんの質問に答えられず俯いていると、速水さんはしびれを切らしたのか車に戻ってしまった。

 

『スロウムーンの奴からはよ、ジュニア期のスタ公みたいな情熱を感じたんだよ』

『あいつの目標を叶えるために全力をかけてシャインの奴を取り返してやるべきなんじゃないのかい?』

 

「……ストップ速水さん!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺はすでに発進しかけていた速水さんの車の前に仁王立ちを決め、見事に跳ね飛ばされる寸前で車を止めた。車は急ブレーキをかけた反動で少しだけ俺の体に触れたが、俺の体が負傷することはなかった。

 速水さんの叫び声が聞こえた後、車のドアが勢いよく開いて速水さんの頭が出てきた。

 

「おま……お、お前……お前はどこまでバカなことすれば気が済むんだ!?」

 

「……やるだけ、やってみます……だから……阪神レース場に、連れて行ってください……」

 

 静かにそう頼み込んだ。

 

 すぐには返事が返ってこなかったため、もうダメかと思った次の瞬間。

 

「……はぁ……お前はいちいちやる気出すのが遅ぇよ……時間が無い、すぐに乗れ。もうすぐ宝塚記念が始まっちまう」

 

「……! 速水さん!」

 

「いいから早く乗れ!」

 

「はい!!」

 

 

 そしてそのまま俺は阪神レース場に連れられ、すぐに関係者室に向かった。

 

「急がないと……!」

 

 

『よう、橋田』

 

『クライトか……どうしたんだよ』

 

 スロウムーンというウマ娘から話された作戦を根っから信用できないと突っぱねた直後、俺を追うようにしてクライトが来た。俺は最初こそクライトを追い払おうとしたが、粘り強いクライトに押されてしまい話だけ聞いてしまった。

 

 話の内容は、スロウムーンが俺に頼みたかったという作戦の肝についてだった。

 流れていく扉の文字を見ながら、俺は冷静にクライトが言っていた伝言の内容を思い出す。

 

『まず最初に、タルタロスのトレーナー室にシャインを縛り付けているであろうモノはないんだとよ』

 

『……ならシャインは自分で選んでタルタロスに──』

 

『まぁ聞けって。なんでもスロウムーンの奴が阪神レース場にその()()を運ぶ予定なのを聞いたらしいんだ』

 

 

「あった! タルタロスの関係者室!」

 

 チームタルタロス、と大きく書かれた扉の目の前に立ち、大きく喜ぶ。だが、喜びに浸っている時間はあまりない。急いで作戦を遂行しなければ。

 

 

『オメーには、タルタロスの関係者室に向かって、スロウムーンの奴があらかじめ目を付けていた金庫を開けてほしいらしい』

 

『金庫だって? 俺解錠の技術持ってないぞ』

 

『いーんだよ、それに関してはスロウムーンの奴がある程度解錠の方法をまとめたメモ渡してくれたぜ』

 

 

「『ダイヤルをまわしながら、かすかに手ごたえがある場所を探す。明らかに他の番号とは手ごたえが違う場所があるはずだから、根気よく探して。番号のリセット方法? 知らないわよそんなの』……マジか」

 

 クライトから事前に受け取っておいたスロウムーンの解錠方法メモを見たが、それだけ書かれてメモは終わっていた。あまりにも適当すぎるだろ。

 

「……やるしかねぇ! 俺なら開けられる! あたりめーだろ!!」

 

 しばらく悩んでいたが、こうしている間にも原田トレーナーが関係者室に来てしまう可能性があるのだ。俺は急いで金庫の前にしゃがみ込み、ダイヤルをまわし始めた。

 

 

「……僕が見つけたあの水筒は、スロウムーンの作戦の内だった」

 

 数日前、スターインシャインのトレーニングメニューを行うためにトレセン学園のトラックに向かったあの日、僕が去り際に見つけたスロウムーンの水筒は、恐らくスロウムーンの策略だ。

 

「(今頃私の水筒で騙されたことに気付いたころかしら……原田トレーナー……)」

 

「僕があの水筒を見つければ、君が僕の事を裏切ったと勘違いする。そう踏んでわざと水筒を落とした」

 

「(私が裏切るつもりだと分かれば、あなたは間違いなくシャインさんを抑えるためのモノの場所を動かす……。私たちキグナスと同じように滅多に証拠を残さないあなたがそれを隠す第二の場所なんて……私の本当のトレーナーさんの思考と同じように考えれば……当てるのはたやすい……)」

 

 全く、君には驚かされるな。スロウムーン。

 

 だけど僕の金庫は6ケタのダイヤル金庫……果たして僕の設定したパスワードを当てて開錠することができる人材がいるのかな……? 

 

 

「急げ……あと2ケタ……」

 

 解錠作業を初めて数分、なんとか違和感を感じる位置にダイヤルを4つ止め、最後の2個のダイヤルを回している。時々タルタロスとも俺とも関係が無い人の足跡が聞こえてきて非常に心臓に悪い。いつ原田トレーナーが来てもおかしくはない状況なんだ。

 

「よし! 最後の1ケタ!」

 

 最後に残った二つのダイヤル、その片方を何とか正位置に止めることができたようで、やっとの思いで最後の1ケタになった。タルタロスのトレーナー室を早めに見つけられた喜びと、ぶっつけ本番で金庫のダイヤルを最後の1ケタまで解錠した喜びに浸りたいところなのだが、いかんせん時間がなさそうだ。

 

 そうして最後のダイヤルもサクッと終わらせようとダイヤルを回した次の瞬間だった。

 

「……違和感が……無い!?」

 

 違和感が無い。正位置であろうという違和感が無い。どこをどれだけ回しても全く違和感を感じない。

 

「まずいまずいまずい! どうしよう!?」

 

 俺は音をすべて吸収できるようなモフモフしたカーペットにのた打ち回りながら頭を抱える。ここにきて解錠不可能なダイヤルが来るなんて聞いていない。開けられなければシャインを救えない……! 

 

「あー! もう! 知るか! どうせダイヤルは0から9しかないんだ! 一つづつ試していけば……!」

 

 

「タルタロスの関係者室は……ここを曲がってすぐ……!」

 

 スロウムーンに二重で騙されていたのを理解し、僕は全力で脚を走らせている。今こうしている間に僕の関係者室に誰かがいて、あのレコーダーが入っている金庫を開けようとしている可能性がある。万に一つも解錠されることはないだろうが、金庫そのものを破壊され取り出される可能性も入れるとここは走って急ぐのが最適だろう。

 

 

「2……だめか! 3……クソっ! 4……これもダメか!? ……! 開いた!」

 

「さぁ……僕の関係者室には誰がいるのかな……?」

 

 

「……誰もいない……?」

 

 ドアを開けて関係者室を確認するが、中には誰もいなかった。それどころか、部屋の内装まで……。

 

「違う! 隣の部屋か!?」

 

 急いで今いた部屋から抜け出し、廊下を確認するが誰も人の気配はない。落ち着いてドアの数を数えると、僕が阪神レース場に来た時とは違う位置にタルタロスの関係者室を表す紙が貼られていた。やられた、紙の位置をずらすことで僕が関係者室の位置を間違えると思われ騙された……!

 自らの記憶を頼りに本来の関係者室に入ると、そこにはただ乱暴に開け捨てられた僕の金庫があった。

 

「まさか……奪われた……?」

 

 

「うおっ……」

 

 激しい衝撃音が隣の方から鳴り響いた。ドアの開け方乱暴かよ。

 どうやら俺が部屋に入る直前に仕掛けておいたトラップに、原田トレーナーは見事に引っかかったみたいだ。土壇場で仕掛けておいてよかった。

 

「まぁいい! 今開いたんだ! さっさと中のものを取って逃げる!」

 

 中に何が入っていたのかは今とりあえず後回しにして、俺はタルタロスの関係者室から逃げた。なるべく足音を立てずに走り去る途中後ろを向いたが、俺が曲がり角を曲がるまでに人が顔をのぞかせるような事はなかった。

 

「……サクッと作戦、成功……! シャイン……やったぞ……!」

 

 

 

「(見えない……)」

 

 見えない思考の中走り続けているが、先ほどからスロウムーンの奴が異様に気配を発していて奴の位置だけが常に分かる。恐らくはこれから仕掛ける、スパートをかけるのだろう。

 あとどのくらいでゴールなのか。ハロン棒だけが頼りになるこの状況でスパートをかける位置を見極めるのは至難の業だ。

 

 しかし他のシニア期のウマ娘は流石だ。先ほどから何度も霧が晴れたり濃くなったりを繰り返しているのだが、全員の位置を見るとレースの最初は全員がバラバラだったのが、いつも俺だけが無駄にアウトコースを走っている景色に変わっていた。微かにだが全員コースが見えているのだろう。それか今までの阪神レース場を走った経験からコースを大体覚えているかのどちらかだ。

 

 俺だけ……俺だけが周りの奴らに劣っているということか……。

 

「ダメか……クライト……」

 

「え? 見えるんですか、速水さん」

 

「いや……なんとなくなんだけどな……あいつが苦しんでるような気がするんだ」

 

 劣っているだろうな……1年も経験が違えば当然だ。

 

 脚が痛い。いくら調子を無理やりピークにしたとはいえ、こうも先が見えず走ると全力が出せないし、掛かりそうにもなる。それどころか無理やり持ってきたピーク状態は、霧が濃い事に対する動揺ですでにゼロになった。

 

 瞬間、スロウムーンの気配を感じる位置から強く踏み込む音が聞こえた、それに続いて他の位置からも踏み込む音が聞こえる。始まった。スパートをかける位置なのだろう。

 

 ガキン。

 

「っっ!?」

 

 俺も続いてスパートをかけようとした時、言葉にしてそのような効果音がするだろうという音が、俺の足元から聞こえた。突然脚を押さえられたので俺の体は反動を受けて躓きかける。

 

 足元に目をやると、真っ暗な地面から伸びてくる鎖が、俺の脚にくくりつけられていた。

 

 括り付けられているせいで、走れない。脚が動かない。このままだとスロウの奴に二度も負けてしまう。しかしどうやっても鎖は壊れない。周囲をよく見ると世界は止まっており、一応このまま縛られていてもスロウムーンに負けることは無いのだろうと思い、俺は一度走ろうとするのを諦めてその場に立ち尽くす。

 

 周りはだんだんと色が染まって行き、俺のドレスと同じ紫色が入った闇に変わっていた。周りにいたウマ娘や霧は闇に呑まれて見えなくなり、俺だけがそこに存在していた。

 

「……このままスパートをかけても、俺は負けるって言いたいのか? 神サマよぉ」

 

 ……問いかけても答えなど返ってこない。

 

 思えばこのレースは、原田の野郎に挑発されてノリで走ると決めたようなものだ。その思考回路から、既に間違っていたのかもしれない。宝塚記念を走りたいって言った時、最初トレ公に猛反対されたっけな。

 

 原田の野郎に言われた才能が見いだせないという言葉、それは俺の出走レースを選ぶセンス・先を見通す才能の事も入っていたのだろうか。

 それなら原田の野郎は合っていたのかもしれないな……。確かに自らの実力を測れず、無茶な宝塚記念に出走する俺には、レースを選ぶセンスが無い。負けが込むのだから、当然弱いウマ娘と言う風に見られても仕方がないだろう。

 

「うおっ!? いっっっつ……なんだ……!?」

 

 俺がそのように1人考えていると、地面から伸びていた鎖が俺を引きずり込み始めた。引っ張る力は相当なもので、ウマ娘である俺が対抗しても気を抜いたらそのまま飲み込まれそうな力だ。

 鎖が伸びてきている地面の暗闇からは、獣のような声が聞こえる。動物について紹介する番組を見たことがあったが、そのいずれでも聞いた事が無い声だった。

 

 このまま引きずり込まれたらどうなるのだろうか。俺は消える? いやさすがにそんなことはないと思う。恐らくは現実世界に戻されてそのままスロウムーンに負けるのだろう。そう、負ける……。

 

「! トレ公……」

 

 突然俺の背後からトレ公が現れ、俺の前を悠々と歩いていく。名前を呼んでも反応は無い。しかしどんどん距離は遠ざかって行く。トレ公の方に俺が行こうとしても、鎖が邪魔して向かえない。

 

「おい……俺が……俺がトレ公の元にはふさわしくないって言いたいのか……?」

 

 鎖が生えている闇に向かって俺は聞く。帰ってくるのは相変わらず猛獣のような鳴き声だった。

 

 まるでその声は俺に向かって『従え』と言っているような鳴き声で、俺はだんだんと腹が立ってきた。

 

「俺を従えるつもりかよ……?」

 

 俺がそう聞き直すと、鎖はさらに強く引っ張られ始めた。どうやらそういう事らしい。猛獣の意思が俺を従えることだと分かると、途端に足に力が入った。突然反発する力が増えた鎖は、キリキリとちぎれそうな音をたてはじめる。

 それどころか周りの景色にヒビが入り始め、ガラスがだんだん割れていくような音も聞こえる。

 

「ふざっけんな……! 俺を従えていいのは、トレ公ただ一人だ……!!」

 

 俺が抵抗すると、闇の中から更に鎖が伸びてきて俺の手までも縛り始めた。猛獣の声はさらにけたたましく鳴り響き、向こうも本気なのだと感じる。

 

「お前みたいな真っ暗な奴に従えられてたまるかってんだああああ!!」

 

 万力のような力を込めた時、鎖から引っ張る力が消えた。暗かった周りが、突然ガラスが大きく砕け散るような音を鳴らして真っ白になり、トレ公の姿が鮮明に見える。

 鎖が千切れたのかと思ったが、足元を見ても鎖は残ったままだった。

 

「トレ公……」

 

 トレ公は幻影だからなのか知らないが、返事をしない。しかし笑顔で俺の事を見送ろうとしてくれた。

 

「……行ってくるぜ! トレ公!」

 

 

 

「ふむ……」

 

「会長、どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。どうやら新しい領域に目覚めたウマ娘がいたようだ。……ようこそ、マックライトニング」

 

 阪神レース場のコースを見つめながらそう呟く。また一人、こちらに来たウマ娘を祝福しよう。

 

 ……新世代というのは極めて優秀なものだな。

 

 先程廊下の方からドアを蹴りあける音が聞こえ、何かしらの事件が起きている可能性を考えて廊下を見ると、原田というトレーナーが立ち尽くしているのが見えた。

 

 私はそこで全てを察した、今を走る新世代のウマ娘達は、私達旧世代が思い付かないような大胆な方法で勝利を得たのだと。

 

 ……おそらく犯罪行為だろうが、私は犯人の姿を見ていない。また、それに必要な証拠もないだろう。犯人を探し出し、制裁をするのはやめておこう。彼女達のためにも。

 

……いや、少しはしておくべきか……。

 

「……エアグルーヴ、橋田瑠璃というトレーナーに今度清掃の仕方を教えてみてくれないか?」

 

「? 構いませんが……何故突然?」

 

「……一応、ちょっとした制裁だ。きっと君なら良い教育をしてくれると思ったから……ではダメかな」

 

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