持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
作者「……諸々の支払いを終えたら4月をお小遣い1200円で乗り切る必要があるのか……相変わらずギリギリの作者です」
「夏合宿といったら、この私でしょおおおおおお!!」
「黙って座れバカサン」
「しどいっ!」
圧倒的に太陽が差しこんできて暑苦しいバスの中、ウマ娘の方の太陽も暴れてさらに暑苦しい。これだから夏は嫌いなんだ……。隣にいるトレ公はさっきから窓の外の写真を撮りまくって全くこっちに興味ないし、G1走るよりきついぞこの状態。
「そういえば、キグナスの奴らが見えないな……。なんでだよ、この写真家トレ公」
「肩を小突きながら聞くな、ブレるでしょうが。なんでもキグナスは自分らで宿持ってるから、学園と話し合って俺達とは場所が違うみたいだぞ。所属ウマ娘の強さもそうだが、財力でも俺達とは段違いだってよ」
「話し合うだけでそんなこと出来ちゃうのかよ」
「学園から費用はあまり出ないからだ。つまりリッチって事だ」
「へぇ……腹立つな……カチコミに行くか」
「やめろ」
俺が冗談を言うと、小突いてもカメラから目を離さなかったトレ公が一瞬でこちらを向いてきた、なかなかに驚いた顔をしていて面白い。冗談でトレ公を驚かしつつバスの旅を楽しんでいると、だんだんと目的地が見えてきた。これから俺たちが泊まる宿泊施設や広大な砂浜。すべてが整えられていて、結構トレーニングしがいがありそうな施設だった。
目的地にバスが止まり、宿泊施設の方に向かって色々な説明や挨拶を終えて、俺たちはとりあえずの自由時間を貰えた。
「話なっが……走ってもねえのに脚いてえんだけど……」
「この学園に入ってきて最初の頃思い出すなあ……」
サンと砂浜で合流し、お互いに『夏合宿開始の会』的なものを終えた感想を言い合う。やっぱりこの学園の話長い気がする。俺の世代だけか?
「早速みんな士気が高まってる。実力比べの模擬レースが始まるのも時間の問題だね」
「……キグナスの面々も見えてきたな。トレーニングはやっぱりこっちでやるのか」
さすがのキグナスも専用の宿泊施設を確保する費用だけで限界だったのだろうか。しかし、泊まるとこだけ良くして、トレーニング場所を俺達と一緒にするのか。そこに費用割くならトレーニング施設でも確保すればよかったのではなかろうか……。あまり他人のチーム方針にとやかく言うつもりはないが……。
「ところでトレ公よぉ……そのやたらでけぇパソコンなんなんだ?」
これから夏合宿、どのようなトレーニングをして効率的に実力を磨こうか考えようとしていたところ、横に立っているトレ公が持っていたでけぇパソコンが目に入り、思わず質問してしまった。するとトレ公はパソコンを上空に掲げ説明を始めた。
「これは最近買ったスペックつよつよパソコンだ! これがあれば効率的なトレーニングの方法をCGアニメーションで分かりやすく見れるし、莫大な量のデータを記録しておけるんだ。それに日本全土の飲食店のデータが一瞬で丸わかりになるし、フィルター検索で今行きたい飲食店を的確に見つけだすことができて、お前と全国のグルメを巡る野望も──」
「ボールそっち行きましたー!」
ふと宿場の方向から声が聞こえた。どうやらビーチバレーをやっていたウマ娘達がボールをあらぬ方向に飛ばしてしまったらしい。そしてそのボールは綺麗な放物線を描いて落ちて……トレ公のパソコンにぶつかった。そしてそのままパソコンが吹き飛んで、海水にさらわれていった。
「あ……」
「うわああああああ!!」
……地面に倒れ込むトレ公の姿は、申し訳ないがかなりおもしろかった。
「それで……トレーニング方法についてですけど……」
ちょっとだけごたごたがあったが、少し落ち着いたところで木村が話を切り出した。せっかく自然に近い場所で行えるトレーニングだからと、同期である俺にトレーニング方法を共有してくれるのは非常に助かるものだ。
「うう……まだ一回も検索機能使ってないのに……どこに行ってしまったの……」
「いつまで泣いてんだ。オメーのセンスが無ぇとトレーニング方法すら決まらねぇんだから立ち直れ」
砂の上で体育座りをしているトレ公を起き上がらせて、何か良いトレーニング方法を見つけるべく思考を巡らせる。
「……ま、あんまり立ち尽くしてても何も思い浮かぶかわからねぇし。サン、併走するか?」
「いいねぇ! 久しぶりにやろっか~!」
「そうですね、それじゃあ速水さん、ストップウォッチお願いします」
「うう……」
「おうクライト、一周目に比べたら大分タイム縮まったんじゃねぇか?」
「ふぅ……ふぅ……ただ軽く走っただけなのにこの疲れようか……脚を取られる砂場はなかなかキツイな……」
「ぐえぇぇぇぇ」
「ふむ……ちょっとやりたいことができたので失礼しますね」
何故かあっという間に立ち直ってるトレ公に疑問を隠せないが、そんなことはさておいてだ。
夏合宿の舞台である砂浜、その地面を何周か走ってみて、思い出した。
砂を走る時、俺たちは足を取られる。そしてその分、俺たちは無駄な負担を背負いながら走ることになる。その分パワーが必要だし、スタミナも必要になる。中央に来てからは芝のレースのみで活動する方針になったから、これはただ走るだけでもよいトレーニングになるかもしれない。
「お前もよくやるようになってきたな、クライト」
「ふ、俺の地方時代の事を言ってんのか? ふぅ……」
「宝塚まで勝っちまって、まるで別人みたいになったと思ってな」
「うるせぇ」
砂浜に寝転ぶと砂が頭について非常に汚くなってしまうのだが、もはや立っていられないくらい疲れ切っていたので寝転ぶしかなかった。
「元気みたいね……マックライトニング……」
「お……? おお、スロウじゃねぇか」
砂浜の洗礼を受け、俺が寝転がっているところにスロウの野郎がやってきた。いつものように冷静沈着な雰囲気を醸し出しており、この夏合宿の最中にスタ公と勝負をするとは思えない落ち着きようだった。
「どうした? 併走なら見ての通りガス欠だからお断りだぜ」
「すこし困ったことがあって……」
「おう、大体わかるけど一応聞こうじゃねぇか。トレ公、行ってくるぜ~」
「ん、おう。おつかれ。また後でな」
スロウムーンのヘルプに快く答えると、俺はスロウムーンに別の場所へと連れて行かれた。
連れていかれた先は、砂浜。正直海がある場所に来ているからどこ行っても砂浜と言うのが答えなのだが、全く景色が変わらないから驚いてしまった。
しかし先ほどとは違う事が一つある。模擬レースが大量に開かれているところだ。
「そうか……俺たちが砂浜トレーニングを初めてから結構経ってるからな……そりゃ開催されるか」
「そう……こんなにも模擬レースが開催されているのに、スターインシャインがまったく参加していないのよ……」
「あー、大体分かってた」
夏合宿に行く直前の日、スタ公と話した時に話していた時に出てきた『気分次第かな』という言葉。そのままの意味だろう、きっと今スタ公はそういう気分ではない。
そのことをスロウに説明すると、どうも納得いかないという顔で納得していた。
目的がとりあえず無くなった俺たちは、日光を防ぐためにウマ娘達があまりいないような外れにある岩陰に座り、宝塚が終わってからの話をしていた。
「そういや、スタ公がタルタロスで活動してるのは聞いたんだけどよ、タルタロス自体はどうなってんだ? トレーナーがいないと崩壊状態だろ」
「ああ、それなら心配いらないわよ……。原田トレーナーの知り合いがとりあえずで経営してくれてるから……。今後どうするかについては、本人たち次第ね……」
「そうか……まそうだよな、タルタロスがあるからスタ公はタルタロス所属になってるんだよな……」
「強いて言うなら、ウェザーストライクと言うウマ娘が身体検査を受けてるわね……まぁ、少なからず薬物の影響は受けていたでしょうから……」
「どういう事だ?」
「ウェザーストライクは、本来なら脚が痛くて走れないようなフォームで走るのよ……。それなのに走り続けられたのは、薬物の影響で痛みが緩和されていたかもしれない、って事で身体検査が施されているの……」
確かに、ノースが戦ったウェザーストライクは無茶な走り方をしていた気がする。なぜあんな走り方が出来たのかずっと疑問だったが、そういうカラクリだったわけだ。
タルタロスについての話が終わってしまい、岩陰で休みながら時間が過ぎるのを待つ。俺とスロウは和解した中ではあるが、あんまりこいつの好きなものとかわからねぇからイマイチ話題が広がらない。そのせいですごく気まずい。
「……なぁ、お前、好きなものとかないのか?」
「……そうね……強いて言うなら、麺類は好きよ……」
「それなら、なんか食いに行かねぇか? 海の家、あるだろ」
「……確かに、悪くないかもしれないわね……行きましょ」
気まずい空気に耐えられず適当に好きなものを聞いてみたが、それのおかげで目的が出来たので万々歳だ。
俺たちは岩陰から出て、海の家に向かった。トレーニングを終えて疲れたウマ娘達がワイワイと食品を買って食べているのが見える。俺たちはその屋台の中から、焼きそばを選び──
「油そばがある……!」
「ん? 油そば? うおっほんとにある……絶妙なチョイスだなー……ん?」
「……!!」
焼きそばを食べるつもりだったが、あまりにもスロウの野郎が目をキラキラさせて屋台を指さしているので、それを裏切って焼きそばを食べる勇気はなかった。
俺たちは屋台に並び、油そばを購入した。
椅子に座り、油そばが好きなのかとスロウに質問したが、スロウの奴はモジモジしながら好きだと回答した。そんなに恥ずかしがることだろうか。
「だって……なんかキグナスのウマ娘って印象ついちゃってるから……あんまりこういうがっつりしたもの食べない人だって思われてて食べづらいんだもん……」
「……つまりガッツリ食べるやつなんだな、オメー」
「ええ……」
「まあ、そんなことはどうだっていいさ、食べようぜ」
スロウムーンの意外な部分を知ったところで、俺たちは割り箸を二つに割った。
一応アスリートである俺たちはこのようなガッツリしたものを食べな……いや、大量に食べるような先輩もいたが、基本的に俺は食べない方だ。そのため、油そばみたいに味が濃いものの中でもさらに濃いような異質な存在は久しぶりで、胃袋が驚いていたが、そこは若さで食べ進める。
バスの中といいトレーニングといい、今日一日俺の体には負担しかかかっていなかったからこのような自由な時間がより一層楽しい。俺の目の前に座るスロウも、今まで見た事が無い笑顔で油そばをすすっていた。
『守りたい、この笑顔』とか『いっぱい食べる君が好き』とかいう人がいるが、こういう場面で使うんだろうな。
「おうおうおうちょっと待て、どっから取り出した」
「さっきの屋台に備え付けであったやつよ……。あ、これは自前ね……よかったら使って……」
俺がスロウムーンの見たことない笑顔に驚いていると、食べている時と変わらない手のスピードでポケットから小さい袋に入った粉チーズとニンニク、あと自前で持ってきたというピンク色の表紙の容器に入った辛そうなソースを取り出してきた。
「おう、よく見たらライス頼んでんな、気付かなかったわ。めっちゃ食うじゃねぇか」
粉チーズやニンニクに驚いていたのもつかの間、油そばの横を見るとぱっと見お釜ごと持って来たんじゃないかと勘違いするような量のライスが置いてあった。なぜ俺は今まで気づかなかったのだろうか……。
そしてスロウの奴は今出したものとライスを一気に器に放り込んだ。暖かいライスで粉チーズが溶け、ニンニクの香りが対面にいる俺の鼻まで漂ってくる。自前というソースもぶちこまれ、非常に豪が深い料理が目の前で調理されている。俺もアスリート、カロリーには気を付けたい精神はいつでも持ち合わせているのだが、この料理を前にするとその精神が崩れ去ってしまいそうだ。
「……そういや今日はキグナスのトレーニングが無いのか?」
「もぐ……原田トレーナーの件があったから……今日は久しぶりに暇を貰えたのよ……」
「……そうか、まぁキグナスもなかなかグレーなことしてるからな」
ひたすら、スロウが米をかきこむ音が聞こえる。普段キグナスの印象でそんなに濃いものを食べられていないのだろうか。
「いくらキグナスのクールなウマ娘って印象が付いてても、別に食べればいいんじゃねぇか?」
「バカねクライト……キグナスは結構周りからの見られ方を気にするチームなのよ……」
「どっかで聞いたような出だしやめろ。……周りからの見られ方を気にするねぇ……、元気な奴が一人くらいいてもいいだろ」
「シャイニングラン……」
「あ~……」
こいつが今後周りの目を気にせずにこってりしたものを食べられるようにフォローしたつもりだったが、既にキグナスの中で『元気な子』の席に座っている奴がいたようだ。すまんスロウ。
「ふぅ……」
「お、食べ終わったか。てか食べ終われたのか……」
「さて、準備運動も終わったわ……こっからが本番よ……もう一度ライスを注文して……」
「まだ食うのか!?」
やっと食べ終わったと思ったら、スロウの奴はまだ食べる気でいた。スロウは活気づいたような様子で屋台に向かって行ったが、しばらくして手ぶらで帰ってきた。しかも目から涙をこぼしながら。大体何があったのか察したが、あえて何も言わずにいるとスロウはそのまま椅子に戻り机に突っ伏してぐずりだした。
「うっ……ぐずっ……ライス売り切れなんてことがあるのかしら……」
「実はお前夏合宿でテンション上がってるだろ。感情ブレブレじゃねぇか」
これが一つ上の世代のウマ娘とはあまり思いたくないな。
などと思ってはいけないな……。
暇な時間を潰すため、ライスが無くて落ち込んでいるスロウに容赦なく質問をぶつけるため、口を開く。
「前にオメー、正々堂々とレースがしたいって言ってたよな」
「……それがどうしたのよ……」
「オメー、そんな良い信念を持ってるのに、なんで他のウマ娘を消すようなチームに入ったんだ?」
これは前々から気になっていたことだ。俺とスロウが初めてであった時に聞いたその信念を持っていながら、なぜキグナスに所属しているのか。これほどの良い精神を持っているならば、他のチームでも活躍できるはずだ。それなのになぜキグナスなのか。
「……確かに、キグナスは私の信念とは違う事をするチーム……。だけど私は、私はトレーナーさんに恩があるから所属してるのよ……」
「恩……ねぇ……」
「そうよ……。クライト、あなたはなぜ私が周りの景色を見れているか、もうわかるわね?」
「周りの音をソナーみたいに聞いて大体の位置を察知してるんだろ? それがどうした?」
スロウがそのような方法で視覚を手に入れていることは宝塚記念で共に走って理解した。だがそれがどうしたというのだろう。
「麻痺してるわね……。非現実的な方法だと思わない?」
「……確かに……!!」
スロウの言う通り、完全に麻痺していた。確かにおかしい、なんだ周りの音をソナーみたいに聞くって。耳どうなってんだよ、化けもんか。
「だけど今私はそれを可能にしてる……それはトレーナーが諦めずに教えてくれたからなの……。私の実力を信じて、私がまた走れるように……私の視覚を疑似的でもいいから取り戻そうといろいろ教えてくれた……」
「第一、オメーなんで目が見えなくなったんだよ」
とりあえずキグナスのトレーナーがスロウの奴にいろいろ教えてくれたのはわかった。その恩があるから、恩を返すためキグナスに貢献するため、所属し続けるというのは十分に伝わった。しかしそもそもなぜスロウは視力を失う羽目になったのだろうと思い、ふと質問してみた。
「……私の目が見えないのは心因性……。ほら、眼球はあるでしょう……?」
スロウの奴が急に瞼を開けて眼を見せてきた。確かにそこに、瞳孔が真っ黒の目が存在している。今まで見た事が無かったが、こんなにも目が見えていないことが分かるものなのか……。
「デビューが決まって、デビュー後最初の試合をこなしている最中ね……。私転倒したのよ……」
「転倒……」
「それで当然ボロ負けしたんだけれど……その時私の担当をしてくれていたトレーナーさんが、過保護になっちゃってね……。当然私はそんな過保護に扱われたくないからちゃんとコーチングしてくれるよう頼んだんだけど……それでもやっぱり過保護な癖は抜けなくて……。避けているうちに向こうから契約破棄されちゃったわ……。それでストレスや悲しい気持ちが高まってこうなったわけ……」
スロウの話を聞いていて『トレーナーに見限られる』という点で俺と同じ共通点を感じ、すこし涙が出そうになった。
こいつも、俺と同じような過去を背負っていた。それだけでこいつとは今更ながら仲良くできそうだと感じる。
「そしたら、キグナスを経営していたトレーナーさんに拾われたってわけ……理解したかしら……?」
「あぁ……、しっかり噛みしめて話を聞いたぜ……ぐすっ……」
「……泣くほどかしら……」
いけない、思わず涙がこぼれてしまったようだ。俺はとっさに涙を拭いてスロウの方向に向きなおす。
スロウのいい過去が知れたところで、いよいよこれからどうしようか迷う時間が訪れた。スロウだっていつまでも休憩期間じゃないだろうし、何かしらアクションは起こしておきたい。
「ねぇ! あっちでスターインシャインさんが模擬レースに参加表明してるって!」
「嘘!? あのシャインさんが!?」
「何っ!?」「……!?」
ふと聞こえたその声に俺とスロウは同時に反応する。気分次第で模擬レースに出走すると言っていたスタ公が模擬レースに参加すると言っている……こんな奇跡はきっとこの夏合宿最後だ。その奇跡を逃すまいと、黄色い歓声を上げているウマ娘達が向かう方向へと俺たち二人は急いで歩き出した。
「……」
夏合宿。この砂浜を眺め、いくら走っても私の虚無感は拭われない。
クライトと話した時からずっとそうだ。私の心の虚無感がまとわりついて全然離れない。
私はいったいどうするべきなんだ……。
「おう、久しぶりに学園に帰ってきたら。懐かしい顔じゃねぇカ」
突如後ろから聞こえる声に私は驚いた。その声は私が聞いたことがある声だったからだ。
「ヴェノム……ストライカ!? なんでトレセンの夏合宿に……?」
「あれ? 聞かなかったカ? 俺は問題行為で学園を休学してたんだヨ。びっくりしたゼ~、戻ってきたら薬物使用で捕まってる奴がいるしヨ」
「……それで、何の用?」
「おいおい警戒するなヨ。俺は懐かしい顔に挨拶したかっただけダ。小学校以来の友達にナ」
「……それだけじゃないでしょ、アンタは嘘をつくときにいっつも右耳がぴくぴくするもん」
「見抜かれてるカ……そうだよ、俺はお前と小学校からの決着をつけたイ」
久しぶりに見る知り合いに警戒しつつ、冷静に相手の出方をうかがう。やはりそうだ。小学校のころから血気盛んだったヴェノムは、私と走りの実力で決着をつけようとしていた。
「私はトレーニングで忙しいから、そんな時間ないよ」
「ほ~ん、そうカ。まそうだよナ、小さい時から負けっぱなしだもんナ~」
……確かにヴェノムの言う通り、私は小学校の時からヴェノムにあらゆる面で負けていた。授業の成績や運動神経、無論走りもだ。当時の私は自分に才能が無いと信じ切っていたからあきらめていたが、今になってバカにされるとは思わなかった。
「まいいサ、お前が出ないならお前の負けっぱなしって事デ」
「……なら、模擬レースにでなよ」
とはいえ私も今更昔の事を持ち出してバカにされると流石にむかっ腹が立つ。私はあえてヴェノムの挑発に乗り、模擬レースに出ることを決意した。
当然、模擬レースに出ると言う事はスロウムーンやクライトが参戦してくる可能性もある。キグナスのウマ娘とクライトを同時に相手にするのは初めてではないが、ある程度面倒ではある。だが、ヴェノムに煽られた以上しょうがないとしか言えない。
「模擬レースに出てくれば、私が相手してあげるよ。言っとくけど、昔の私とは違うから」
「へェ、言うネ。そんじゃまた後デ」
模擬レースに参加するつもりはなかったけど……。このウマ娘を叩きのめしてからだ。