持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
「おい……どうなってんだ、本当にスタ公の奴が次のレース組に並んでるじゃねぇか」
ウマ娘達があげる黄色い歓声を辿って行き、あっさりスタ公が出るという模擬レースの現場に着いた。
今行われているレースでスタ公は走っていないが、次のレースで走るウマ娘を募集する輪の中に確かにスタ公がいた。その周りではざわざわと他のウマ娘達で賑わっており、出走資格の関係上今までスタ公と走れていなかったウマ娘が意気込んでいたり、スタ公が走るならもう勝ち目がないと模擬レースの出走登録を取り消しているウマ娘もいた。
いくら前走が負けているとはいえ、NHKマイルカップからダービーに挑戦し、なおかつ善戦するという功績はそう簡単に崩れないらしい。
「急ぐぞ、オメースタ公と走るんだろ!?」
「ええ……当然よ……! 彼女に勝って、目を覚まさせる……!」
俺とスロウムーンは急いで模擬レース出走登録の輪に走り、ウマ娘の群体を潜り抜ける。しかし流石はスタ公と言ったところだろうか、野次ウマなどが多すぎてまともに前に進めない。これがヒトの群体ならまだしも、今集まっているのはウマ娘。10対1ではなく、10対10の力関係が片方のみ掛け算されているのだ、勝てるわけが無い。
「くそっ……通せ、通してくれ……」
「密集しすぎて前に進むための隙間が……見えない……」
このスピードじゃ、俺たちが出走登録をする前に今行われているレースが終わるどころか、出走枠が埋まってしまう。しかしひたすら前に進んで声を出す以外出来ないこの状況、俺はがむしゃらにバ群を突き進んでいった。
しかし、バ群を進んでしばらくして俺の前進は止められた。
「みんなその人たちを通して!」
突如前の方から聞こえたその叫び声。その声を出したのはスタ公だった。それまで静かに佇んていたスタ公が叫んだことによって、ボルテージが上がってきていたウマ娘達の空気は一気に凍った。
スタ公のその叫びを聞いてだろうか、俺とスロウムーンの周りにいたウマ娘達がぞろぞろと横に退けていき、スタ公までの道が出来た。
「ねぇ、この二人を出走させるだけの枠ってあるかな」
「あ、あります、よ……?」
スタ公は冷静に司会のウマ娘にそう聞き、俺たちの出走枠を確保した。どういう事だろうか。何も言わずとも俺たちが勝負しに来たというのがなんとなく伝わったのだろうか。
「スロウムーン……キグナスから一時的に委託されているウマ娘……。どうせタルタロスに来たのも作戦なんでしょ、今私が格の違いを見せてあげるよ」
そのスタ公の煽るような発言によって周りの空気が再び湧き上がり、場の空気は最高潮に達していた。達しすぎて今行われているレースの方があんまり注目されていない事だ。
「……言うじゃない……クラシック期のウマ娘が私に勝てると思う?」
「俺は勝ったけどな、うおっ」
俺がちょびっとツッコミを入れると、スロウムーンの奴が俺の腕をつかんで顔を近づけてきた。
「あなたはね……ちょっと黙ってなさいよ……!!!」
「悪かった、悪かったって、ギブギブ」
スロウムーンに腕を放してもらい、俺たちはスタ公に向きなおす。
スタ公を見ると、いつもの勝負前みたいなオーラを出していた。これだよこれ、やっぱスタ公から出てくる威圧感は他のウマ娘とは比較にならないくらい強いんだよ。おかげで他のウマ娘が圧をかけてきてもなんも思わなくなってしまうほどに強いオーラを俺は見たかった。
でも、この威圧感は通常時でも味わえる。しかし今はタルタロスタ公と言ったところで、あまり良い状態ではない。性能が同じで品質が良い悪い二つのものがあったら、当然良い方を取るだろう。それと同じだ。俺は良いスタ公と共に戦うときにこのオーラを感じたい。
「……流星、落としてやるよ」
俺はただ一言、そうスタ公につぶやいた。
俺がそうスタ公を煽り返したことで、ただでさえ最高潮に感じられる場の空気がさらにヒートアップして、砂浜はおろか海が割れんばかりの盛り上がりを見せていた。
「……へぇ、なかなか強そうなのと知り合ってんじゃン」
『さーやってまいりました次のレース~! 実況は前のレースから続いてこの私が勤めさせてもらいまーす!』
いつも特徴や声のトーンが違うせいですごく違和感を感じる実況に首をかしげながら俺は自らの枠番が書かれた砂の上に立つ。学園のウマ娘が自発的に始めたものとはいえ、模擬レースは模擬レース、やはり手が込んでいる。
『今回のレースはなんとスターインシャインさんが走ってまーす! はっきり言って化け物ですね! NHKマイルカップを走り──』
「おいおい、スタ公の紹介ばっかして俺らの紹介なしかよ」
「……」
スタ公にぞっこんの実況に突っ込んで隣の奴の空気を和ませるが、イマイチ緊張してしまっているようだ。キグナスのウマ娘が情けない。俺はそっと方に手を乗せて、スロウの奴の緊張をほぐしてやる。
「気楽にいけよ、スロウ。俺と戦った宝塚記念みたいに、オメーの全力をぶつけてやればいいんだよ」
「……全く、私はあなたより一つ上の学年なのよ……? 少しは敬語使う努力をしなさいよね……」
「余計だ、緊張ほぐしやがれコノヤロ」
『しかし! 今回そのスターインシャインさんが推薦したウマ娘、マックライトニングさんとスロウムーンさんもこのレースを走っています! 前者は宝塚記念を勝っており、後者はあのチームキグナスのウマ娘と言う事で、すごくレベルの高いレースになっちゃいました! てへ!』
「てへじゃねぇんだよ」
本当にこの模擬レースの実況は大丈夫なのだろうか。と心配しつつも俺は自分の砂に戻る。
スタ公の方を見るとすでに走る準備万端と言ったところで、既に走る態勢を取っていた。他のウマ娘達もすでにゲートイン……もといサンドオンしており、どうやらもうレースが始まるようだった。
全員走り出す体制を取り、司会者サイドのウマ娘が放つ音でっぽうの音に構える。
『スタートぉ!』
風船が割れるような音が聞こえ、模擬レースは始まった。
走り出してすぐに俺はいつもの差し位置に付き、スロウムーンの奴も自分の立ち位置を確保しているようだった。今日は霧が無いから視界良好だぜ。
スタ公の奴はというと、久しぶりに見たな。レースが始まってまだ数秒だというのに、最後方の最後方、もはや価値は見えないのではないかと思われる位置に陣取っていた。
今思えば、誰も行きたがらないような位置を自分のポジションにしているスタ公は位置取り争いに巻き込まれないからスタミナの余分な消費が必要ないんだと今になって気付く。
その点で少しだけ後れを取るかもしれないな……。
「(とかいって……ハナっからステータスでオメーに勝ててる気がしねぇよ、スタ公)」
考えてみれば、タルタロスに入ってからずっとあの地獄のようなトレーニングをしていたのだろう。そのトレーニングを乗り切ったスタ公の根性、そしてそのトレーニングによって鍛えられるスタミナやパワーは計り知れない。ましてパワーなど鍛えられたら砂のレースでは武が悪い。
「(俺がスタ公に勝てる可能性と言えば……ただ一つ、あの現象だ……!)」
宝塚記念の時、俺が引き起こした現象。少し前スロウムーンに聞いたのだが、あれは領域と言う現象らしい。なんでも一時的に能力が飛躍する現象で、歴史を動かすようなウマ娘は皆目覚めるのだという。
まさか自分が歴史を動かすウマ娘だと世界に認められるとは思ってなかったが、強くなれているのであれば好都合だった。
「(……甘い、甘いよクライト)」
どうせ、宝塚記念の時に覚醒していた力を使えばきっと勝てるんじゃないかって考えてるんだと私は思う。アレがどんな現象なのかは分かってないけど、今私が持ち合わせてる力に比べたら甘っちょろい武器だよ。
私がタルタロスに死ぬようなトレーニングを課せられて手に入れたのは、ただ単純にウマ娘の競争能力ステータスじゃない。私の持つ想いの継承の力のその先だ!
「……トレーナー君、スターインシャインについてだが……」
「見に行こう」
『さぁ第二コーナーを曲がってきました! 砂浜が小さいのでコースを二周するという特殊なレースになりましたが、結構問題なさそうです!』
クソ適当な実況が耳に聞こえ、吹き出しそうになりつつも自分のポジションを取り続ける。そうして流しながら走っていると……。
「うっ……来たな、怪物!」
後ろから心臓が重くなるような圧が来る。耳鳴りが起こり、思わずうめき声が出てしまいそうになるような圧。スタ公だ。
「(鈍ってないかどうか調べようか)」
まるで俺とスロウムーンを試すかのように打ってきたその威圧感。久しぶりに食らったがやはり並の威圧じゃない。この威圧感を受けることによってスタ公の威圧感の強さに驚くが、以前ダービーでスタ公の奴を打ち破ったデルタリボルバーとかいう奴の強さにも驚く。
「だけど今更こんなもんでひるむかよ!」
「主に誰かさんのせいで最近十分味わったわ……!」
『さ~二周目に入って第一コーナーに戻ってきた! おっとスターインシャインさんがスピードを上げてきた! ものすごい勢いで上がってきた!』
何とかスタ公の威圧感をしのぎ切り、これからどうにかしてスタ公の追込みから逃げる方法を探そうと思っていた矢先、実況からとても不穏な言葉が聞こえてきた。
後ろの方に目をやると、確かにスタ公の奴がだんだんと上がってきていた。しかもそのスピードは尋常ではなく、まるで最後方から先頭までワープしてくるかのような勢いで走り込んできていた。
「クッソ! あいつ……相変わらず想いの継承を使ってやがるのか……!」
スタ公が誰かの想いを継承しているとき、スタ公の走り方は全く別人のような走りになる。それと同時に、スタ公の周りに想いの継承をしている最中にのみ現れる独特の光があるので、すごく分かりやすい。今のスタ公は、誰かの想いを継承している最中だ。
「(いや……ちょっとまてよ……誰の想いを継承してるってんだ?)」
想いの継承で追い込んでくるスタ公の方を見ながら、ふと頭に思い浮かんだ疑問。
スタ公の想いの継承は、スタ公と仲が良いレジェンドウマ娘が付近におり、なおかつそのレースに深く関わりのあるウマ娘でなくてはならない。
今このレースを行っている付近にレジェンドの姿は見当たらなかったし、そもそも模擬レースに深く関わりがあるウマ娘など聞いた事が無いし見当もつかない。
それなのにどうやってスタ公は今想いの継承をしているというのだろうか。
「まさか……俺が感じていた新たな武器の予感って……」
「(そ、これだよ……クライト!)」
これが私の新しい武器、……いや、進化した武器の方が正しいかな。
以前から私は他のレジェンドウマ娘の力を継承して戦う事が出来るのは周知の事実。でもその継承には様々な制約がついていた。
レジェンドとの親密度、距離、出走中のレースへの関わり。
とにかく発現が難しい武器だった。
「(でも今は……今の私は!)」
この場にいないレジェンドの力でも継承できるし、このレースに関わりの無いレジェンドの力も継承できる!
今私が継承しているのは黄金の不沈艦と呼ばれていたゴールドシップ先輩の力だ。
以前に少しだけ関わりがあったから、その少しの関わり経験のみで継承する事が出来た。
「さて、どこまで逃げれるかな……クライト……」
「(クッソ……相変わらず頭おかしいスピードで走り込んできやがる……もう俺の真後ろの方にいるじゃねぇか……)」
後方を向いてスタ公が走り込んできているのを確認してから数秒、何とか全身の力を振り絞って逃げているが、どうにも距離を離せている気がしない……。それどころかスタ公の奴はどんどんと距離を詰めてきて、この模擬レースのゴールも近づいてきて、かなり絶体絶命だ。
しかし、そんな俺にもやっとチャンスがやってきた。
「やれやれ……怪物の次は化けもんが俺のとこにやって来たぜ……」
鎖の音が聞こえ、再びあの叫び声が聞こえる。
「(宝塚の時みたいな300%の力は出せないんだろ? なら少しだけでもいいから俺に力貸せよ、化けもん)」
そう心の中でつぶやき、俺はスパートをかける。それに釣られてなのかスタ公に釣られてなのか、他のウマ娘達もスパートをかけ始めた。
「全員の位置は確認したわ……クライト……スターインシャインを倒すついでにあなたも倒してあげるわ……」
なんだか物騒な言葉が聞こえてきたような気がするが、気にしないでおきたい。
俺に潜む化け物に協力して貰ったのはいいが、俺が感じた通り、宝塚記念の時のような最強の状態にはなれないらしい。恐らくは『限界の先の先』まで行かなければこの領域は覚醒しないのだろう。
音もしっかり聞こえるし、視界も良好。
位置取りも良いし、特に心配する事の無いレースのはずなんだ。ただ一つ、後ろから来る怪物がいなければなのだが。
「(宝塚記念で目覚めたその新しい武器、すごいなぁ。私の想いの継承ほどじゃないんだろうけど、すごく力を発揮してる)」
前の方にいるクライトを見ながら冷静に状況判断をする。今私は想いの継承を使っていて、クライトは謎の新しい武器を使ってる、スロウムーンはただの武器を持たないキグナスのウマ娘だから気にする必要はない。
この状況で使うのならばあの武器しかないだろう。
『出た──―っ!! シャイン先輩の超前傾走り! 半年ぶり位に見ました! 私、生で見れて感激です! 最後の直線までもう少し!』
本来想いの継承と超前傾走りを併用したら、前の私はレース中に気絶するほどの負荷を背負っていただろう、でもタルタロスに鍛え上げられた今の私ならそれが可能だ。
「(あと3バ身)」
「(やっべぇスタ公が近ぇ!)」
マジでいつ追いつかれるかわからないため、後ろを見ている余裕すらない。そのため俺はひたすら必死に脚を動かし続ける。
「(あと2バ身)」
「(くっ……なんで……私の状態は万全のはずなのに……)」
全ウマ娘の位置が見え、完璧な位置取りをして完璧なタイミングでスパートをかけた。それなのにスターインシャインにはどんどんと離されていく。何故だ。何故こんなにも現実離れした豪脚を持っている……。
「(あと1バし──)」
「残念なお知らせがございまーっス」
瞬間、その場にいる全員が驚いた。俺、スロウムーン、スタ公。恐らく戦闘で争っていた俺たちは全員驚いただろう。突如聞こえたその声は、あまりにもふざけたトーンで俺たちに
「このレースに勝つのハ、スターインシャインでもマックライトニングでもスロウムーンでもなく、この俺、ヴェノムストライカさんだゼ☆」
ヴェノムストライカと名乗ったそのウマ娘は、それだけを俺たちの付近で喋るとさっさと走り去ってしまった。
俺とスロウムーンがそのウマ娘に追い抜かれるのであればまだわからんでもない。宝塚を走ったばかりだし、調子が落ちているかもしれない模擬レースに負けたって仕方がない。
しかしそのウマ娘は、俺たちどころかスタ公の奴まで追い抜いて、さっさとゴールしてしまったのだ。
『え? あ? あ! ゴールイン! えっと勝ちウマは?』
「この俺だゼ☆」
ゴール後も、スタ公が勝ってない事で驚いている実況席にそのウマ娘は挨拶しに行っており、俺とスロウムーンはあっけにとられてしまっていた。あっけにとられすぎて砂の上に座りつくしてしまった。
だってそうだろう、こんな、こんなふざけた態度のウマ娘に負けたのだ。悔しいとかそれ以前に、疑問符のみが俺達の思考を支配した。
実況席であいさつを済ませたそのウマ娘は三着と四着だった俺とスロウに近づいてきて手を差し伸べてきた。
「オメーらさっきシャインの奴に名指しで指名された奴らだろ? 結構やるじゃねぇカ。シャインのやつとは小さいころからの知り合いなんだよ。俺はヴェノムストライカ、よろしくナ」
「お……おう?」
俺とスロウは前髪に紫のメッシュが掛かったウマ娘に差しのべられた手を取り、立ち上がる。
なんか俺とビジュアル似てねぇか?
「あなた……どうやってあんな追い込みを……?」
「誰が教えるかヨ、お前らも自分の武器ってやつを秘密にしてんだロ?」
「(前に私がクライトに言ったのとおんなじ様な事言ってるわ……)」
俺とスロウがヴェノムストライカと名乗るウマ娘と話していると、スタ公の奴が歩いてくる音が聞こえたのでそちらに顔を向ける。
スタ公は俺たちの前に立つと、ヴェノムストライカに負けたことを悔しがるでもなく、ただ一回ふんっと鼻を鳴らしてどこかに歩き去ってしまった。
「スタ公の奴……本気で戦ったのに負けて悔しくないのか……?」
「仮に私たちがスターインシャインに勝ったとしても、彼女の心理に大きく変化を与えることはできなかったってわけね……」
スロウは分かりやすく気分を落とす。まぁ今のスタ公は一回レースに負けたくらいで落ち込むような奴じゃなくなってるしな……。
「いや、あいつ本気じゃなかったゼ」
隣にいたヴェノムストライカがポンとそのような事をつぶやいた。アレが本気じゃなかった? 本気でもなかったのに俺たちは追い詰められていたのだろうか。しかし本当に本気を出していなかったのかと思い俺はヴェノムに聞いた。
「なんでそんなことが分かるんだ?」
「あいつが最後の直線を走っていた時、いやそれよりもっと前から、あいつの周りに会った変な光が無くなってタ。多分あの光はあいつの武器なんだろ?」
ヴェノムストライカが話す光と言うのは恐らく想いの継承の時に現れる独特な光の事だろう。それが最終直線より前に消えていたと言う事は、想いの継承をすでにやめていたと言う事になる。
確かに想いの継承と超前傾を併用し始めたちょっとあとに想いの継承の光は無くなっていた気がする。
結局俺たちは何をしようとスタ公に勝てる運命じゃなかったというわけだ。俺の領域も限界に近いとこまで来ていたが、最後の最後まで真の覚醒を遂げることなく終わってしまったし、俺たちに負けそうになったらスタ公は本気を出して俺たちは負けていたのだろう。
「それはそれとして……アンタら弱いんだナ! 宝塚記念上位のウマ娘もこの程度カァ……」
「あ?」
俺がスタ公との勝負ですでに負けていたことを知り唖然としていると、ヴェノムストライカの奴が突然俺とスロウにそう言いだした。先ほどまでフレンドリーな雰囲気を醸し出していたヴェノムから発せられたそのセリフは、俺たちの困惑を招くのにはちょうど良かった。それと同時に、怒りも。
「なんだよその言い方。お前だって本気のスタ公と走ったら負けるかもしれないだろ」
「分からないゼ? 俺は小さい時からシャインの奴に勝負で負けた事が無い。デカくなった今だってそれは変わらないはずサ。それにそもそもアンタらは本気を出してないシャインにすら負けそうだったじゃないカ」
ヴェノムストライカはスタ公の奴を舐め腐る態度こそあるものの、後半の部分に関して俺たちは何も言えない。確かにそうだ。本気を出して無いスタ公に負けたのだから、弱いと思われても仕方ないのかもしれない。だけどそうじゃないだろう。わざわざ弱いと煽ってくるのは違うだろう。俺でもそんなことを言った事は無いぞ。多分。
「ま、アンタらがシャインに勝てることはないと思うから、諦めナ。あ、俺にも勝てないカ!」
「……」
反論できず、ただ言われるままにヴェノムストライカの煽りを聞くしかなかった。レースに負けた以上、俺たちは何も言えないのだろう。
「シャインに久しぶりに勝ったし、なんか高そうなパソコンも打ち上げられてたし、今日は吉日だゼ。売りに行くかコレ」
「あ、オメ、それ……」
そのままヴェノムストライカは好き勝手言った後、俺達とは違う方向へと帰って行った。
「大変だったわね……あのウマ娘……」
「ああ、ほんとにな。久しぶりに会ったぜああいうタイプ」
夏合宿の自由時間が終わる間近、俺たちは先ほどまで座っていた岩陰に戻り、時間を過ごしていた。岩陰と言っても暑いものは暑いので、持参のタオルで汗を拭きながら会話をする。
「結局……スタ公の事はどうするんだよ」
「……とても悔しいけど、きっと私は未来永劫彼女には勝てないのだと感じたわ……」
模擬レースでスタ公を救い出せなかったため、今後どうするのかについてスロウに聞くと、唇を噛みながらスロウはそうつぶやいた。
俺が知っているスロウは自信満々で、誰にでも勝てるのではないかと思わせる佇まいをしていたが、ここまで自信がなさそうなスロウの姿を見るのは初めてで戸惑ってしまった。
「らしくないじゃねぇかよ、そんな簡単に負けを認めるなんて」
「……自分の実力と相手の実力を比べて、不利だと思ったら逃げるのも一つの手よ……」
何とも言えない気分だった。思いのほかスロウの奴は戦意をそがれていた。
「……だから、私はあなたにすべて託すわ」
「あ?」
俺は一瞬言葉の意味が分からず聞き返してしまったが、スロウの奴は暑くて脱いだのだろうジャージを俺に投げてきて再度俺に伝わるよう言葉を繰り返し始めた。
「だから、私の分までスターインシャインに勝ってちょうだい」
「スロウ……」
「年寄りみたいなことを言うつもりはないけれど……若い世代の成長性は半端じゃないわ。きっとあなたもスターインシャインに勝てるくらいに成長できると思うの。……だからあなたにスターインシャインを打ちのめすのを任せるわ。私の分までね……」
スロウはそれだけ言うと、岩陰から少しだけ出て日光浴を楽しみ始めた。まるでもう自分は関係ないといったように。
「あ、心配しないで……なにも責任をあなたに丸投げしたわけじゃないわ……困ったことがあればすぐに呼んで頂戴……キグナスの予定に穴開けて行くわ……」
「お、おう……。……まぁ、これからスタ公をどうやって助けるかは俺に任せてくれるって事でいいのか?」
「……えぇ、もともと私が偉そうに口出せる立場じゃないしね……」
今更か。などと思いながらも、スロウなりに俺の事を信頼してくれているからこそ俺に『任せる』と言ってくれたのだろう。
「……それじゃあ、せっかく海に来たんだし、少し泳いでくるわ……。多分機会があればまた一緒に走ると思うから、その時はよろしく……」
「ん、そうか。それじゃあな」
「またね、クライト」
「……スロウ!!」
そう言ってスロウは立ち去ろうとしたが、このまま立ち去らせてしまったらもう二度と会えないのではないか、という恐怖があり、つい呼び止めてしまった。
「俺達……すげー良い仲間だったよな! また、いつか走ろうな!!」
「……そうねクライト……マックライトニング……またいつか一緒に走りましょう……!」
振り返らずにそのままスロウは立ち去ってしまった。
岩陰に残された俺は一人考える。スロウはキグナスのウマ娘でありながら、宝塚記念で俺に負け、夏合宿中に勝手に参加した模擬レースでも四着という結果を残したのだ。
「……あいつ、ジャージの上忘れてったな……」
ボロボロになったジャージのみが、俺の手元に残った。