持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
今年一年終われば別の職場に就職して『多・分』クソ暇になるので2日に一話のペースとかにしてみようかなとか思ってます。その時は6000文字とかに下げますが……」
「おい、メテオとはどんな関係だ」
「……」
「……」
砂浜の上に二人のウマ娘を正座させ、ひたすら質問を叩きつけるも二人は何も答えようとしない。ただ小刻みに震えているだけだ。いじめを行っていたウマ娘二人を捕まえた後、俺はすぐにメテオを日陰に寝かせた。しかしメテオの方を見てもかなり深い傷が出来ているようで、二人の態度からしてもこれは一回目ではないのだろう。
「しゃーねぇなぁ……なぁ、せめて名前だけでも答えてくれていいんじゃねぇか?」
「っ……私がシューティングレイ」
「……私がレディナイザー」
あまりにも質問に答えない二人にしびれを切らし、最終的にレースで使う圧力を出して名前を聞くと、二人はそう静かに答えた。
「身長高い方がシューティングレイで、低い方がレディナイザーね……。お前ら、顔似てるけど姉妹か?」
俺がそう質問すると、シューティングレイが小さくうなずいた。なんだか圧をかけてからいっそう萎縮してしまった気がして、なんだか少し申し訳ない気持ちが湧いてくる。
まさかトレセン学園の頂点に位置しているキグナスがこのようないじめを行うとは、1年半戦い続けた俺でさえ信じられなかった。こんな堂々といじめ行為をするなど、実にキグナスらしくない。それも姉妹で。
「クライトちゃん! ごめんねぇ、うちのメテオがなんかお世話になってるって!?」
「悪いのはメテオじゃねぇ、こいつらだ」
「あんたたち……!」
俺がメテオのトレーナーの視線を二人に移すと、明らかにトレーナーの顔つきが変わった。まるで龍が逆鱗に触れられたような、そんな変化を感じさせる表情だった。
「知り合いか?」
「……シューちゃんとナイちゃん……あんたたち、またうちのメテオをいじめたのね……!?」
「……知り合いか?」
怒りに支配されすぎて俺の言葉が届いていないように見えたが、それからも何度か言葉をかけ続けると何とか質問に返答してくれた。
話を聞くとこうだ。
「シューちゃんとナイちゃん、そしてメテオは小さい時からの仲良しだったの」
「(俺とサンとスタ公みたいな感じか)」
「でもやっぱりウマ娘はウマ娘みたいでねぇ……この子たちは特に競争本能が強くて、ある時から身近にいたメテオを敵として見始めたの」
ウマ娘としての競争本能。確かにそれが強いウマ娘がいれば身近な奴を敵として見てしまうのかもしれない。
……身近にそんな奴がいたから、こう感じるのだろうか。
「それからというもの……自分たちより弱いと思ってるのか知らないけどうちのメテオに暴力振るってくれちゃってまぁ……あんたたち覚悟しときなよ」
「うるせぇ!」
「そうだうるさい!」
「ちょっとお前ら黙っとけ」
なるほど、いつもの事だから今日もいじめることに抵抗を持っていなかったと。
これはメテオもなかなかとんがったウマ娘に狙われているなぁと思いながら、どうしてこのようなウマ娘がキグナスに入れているのかが分からなかった。いや、キグナスは強いウマ娘ならとりあえず入れるようなチームだと俺は思っている。もしキグナスの所属基準がその通りで、この二人が強い才能を持っているのならキグナスに入っていてもおかしくはないだろう。恐らくは格が一番下だが。
「おい、こいつらキグナスのウマ娘みたいだけどいいのか?」
「関係無いねぇ、うちのメテオに手を出したのは変わりないよ」
目が明らかに許す気が無いのだけはわかった。
その後二人がどうなったのかは何となくわかるだろう。キグナスのトレーナーを呼び、その場で謝罪。そして学園にも報告をして『またですか』と注意を食らっていた。
「キグナスねぇ……」
「……」
俺がキグナスのトレーナーに対して不審な視線を送っていると、キグナスのトレーナーからも視線が帰ってきた。やはり俺の事は認知しているのだろう。メテオのトレーナーなどに見えないような位置で俺に敵対的な視線で睨んできた。
それはそうとキグナスのトレーナーが学園の関係者に怒られている最中、ますます疑問に思った。なぜこれほど奴自身に負担をかけるウマ娘をキグナスに残しているのか。単純に才能を感じたのかもしれないが、実にキグナスらしくない。
キグナスのトレーナー、加えてシューティングレイとレディナイザーが去って行く前、メテオの表情がたまたま目に入った。
その目はあまり嬉しそうではなかった。
「どうした、メテオ」
あまりにも気になったのでメテオに質問してみた。
「……私、これじゃダメなの」
「……どういう意味だ?」
「……私は今回も学園に頼っちゃいました。いつかあの二人に勝たないと、また同じことになる……でも、クライトさん言ってました……私にはクライトさんみたいな武器が無いんですよね……」
メテオはそのまま涙をこぼしそうでこぼさないような。泣く前の状態をキープしていた。確かに、考え方を変えれば、自分の力で問題を解決しない、という捉え方も出来るだろう。
しかしそれはメテオが今後ゆっくり変えてゆけば良い事で、何も今すぐに気にすることではない。
でも、それでも気になるというのなら、手を貸してやらんでもない……。
「おい、メテオ」
「はい……」
「どうしても強くなりたいか?」
「……はい!」
シンプルな質問をメテオに投げかけると、すぐにその答えは返ってきた。その即答の仕方に、俺の心はさらに打たれた。
「よし! ならこれから1週間、俺がトレーニングをしてやる。そして1週間後、あいつら二人に模擬レースを挑め。その模擬レース、絶対勝たせてやる」
「はい! ……えぇ!?」
「クライトちゃん、いくらなんでもそれは無理があるんじゃないかなぁ……」
俺がそう提案すると、あまりにも話が飛躍しすぎていただろうか、二人は同時に驚いて、トレーナーに至っては俺の事を止めようとしていた。
しかし俺を誰だと思っている。あの宝塚記念を走ったクライト・様ァだぞ。トレーニングすればきっと勝てるはずだ。
一応言っておくが、俺の思考回路内でふざけているだけで、うぬぼれというわけでは決してない。あと別にメテオがかわいそうになったというわけではなく、単純にウマ娘のコーチングに興味があったから提案しただけだ。別にかわいそうとか思ったわけじゃないぞ、絶対。
「それとメテオ、俺がさっきなんて言ったかもう忘れたのか?」
「……? だから武器って言う武器は無いって……あっ……」
「そう、お前の走りには煌めきがあった。素質はあるぜ」
トレーナーはイマイチ納得していないようだったが、メテオは納得してくれたようだ。
そこからメテオはすぐにトレーニングの申し出を俺にして、当然俺もそれを承諾した。
メテオのトレーニングをつける約束を承諾して1日。
俺のトレ公にも事情を説明して、まずは基本的なトレーニングをすることになった。と言ってもあくまで『俺の』基本的なトレーニングを行うので、メテオの奴は終わった時干物みたいになっており、めちゃくちゃおもしろかった。
2日目
スピードトレーニングを行った。
一昨日やったように、俺とメテオで一緒に砂浜を全力疾走して併せウマをした。
昨日のトレーニングが早くも効いているのか、俺に少しだけ喰らい付いてきた。
メテオのトレーナーも最初は乗り気じゃなかったのに、今となってはメテオが叩きだす時計に夢中になっている。
普通こんなに詰め込んだトレーニングをしたらすぐに音を上げるはずなのだが、メテオは二日目でも絶対に泣き言を言わなかった。俺はそんな根性に驚きつつも、メテオに対する尊敬の念を高めた。
「は”ぁ”ぁ……は”ぁ”ぁ……」
地面に倒れ込んだメテオを見ていると、ジュニア期の頃を思い出して懐かしくなる。まだ半年くらいしか経っていないというのに、まるですごく昔の事のように感じる。
「よう、このくらいで疲れてんのか?」
「へ、えへへ……クライトさん、体力ありすぎ……」
「うわっ! メテオが気絶した! おいトレ公! 水!」
3日目
メテオの根性に着目して、トレ公と決めた根性トレーニングを行う事にした。
案の定メテオの根性が開花したようで、まるで命がかかっている場面かのような形相で俺に付いて来ていた。やはりメテオの飛び抜けた才能は根性、それに加えてスピードと言ったところだろう。
「は”ぁ……は……ははは……」
「おいおい、意外と粘るな」
「だっで……あの二人に勝ちたいから……」
「がんばって~メテオちゃーん!」
「お水置いとくね~!」
「しっかりあの根性を焼き付けておけよお前ら~」
「はは……みんな、ありがと……」
メテオの奴にトレーニングを付け始めてから3日経っているが、噂と言うのはやはり広まるスピードが速いようで『宝塚記念に勝ったマックライトニングと言うウマ娘がレフトメテオに稽古をつけている』という噂は瞬く間に広まって行った。そうしているうちにメテオの健気にがんばる姿勢に心を打たれたウマ娘やトレーナーが見学に来て応援してくれたり、飲み物をくれるようになったのだ。
この応援にはメテオ自身とても助けられているようで、トレーニングの最中に見せるファンサービス的な笑顔が増えてきた。見た感じ無理やり作っている笑顔でもないようだし、本人が楽しく笑えているのならよいだろう。
そしてついでに、この応援が来た時も俺は驚いたもんだ。ウマ娘って知らない奴同士でもこんな仲良くなれるもんなんだな。
「うげぇ」
「うわぁ! おいトレ公! 水! 水!」
「……気に入らない」
「……なんであんなに応援されてるの」
「……ん?」
応援してくれているウマ娘の間から、ふとシューティングレイとレディナイザーの姿が見えた。またメテオの奴をいじめに来たのかと思ったが、どうにもそういうことではないらしいので見えないふりをしておいた。
「ようクライト、体調はどうだ?」
「普通」
あまりにも夏合宿の期間が長すぎていい加減砂浜にもうんざりしている時、後ろから頬にくっ付けられる缶の冷たさが非常に心地よい。トレ公もうんざりしてきているようで、スーツもシャツもはだけてだらしない格好になっていた。
いや、はだけすぎだろ。他のウマ娘の前でやったら色々と犯罪だぞ。
「おまえもまた珍しいことしたもんだよなぁ、他のウマ娘のトレーニングを手伝ってやるなんて」
「シューティングレイとレディナイザーはキグナスのウマ娘。でもあいつら二人は見たところまだG1とかも知らないみたいだし、どうせなら今までいじめられてきたレフトメテオが倒すのが気持ちいいってもんだろ。あいつ自身も勝ちたいみたいだしな」
この間キグナスのトレーナーがメテオのトレーナーに謝罪しているときに聞いたのだが、あの二人はキグナスに所属してから日が浅いそうだ。まだ日が浅いならキグナスのルールのような、メンツを守るようなことも言われてなかっただろうし、独断で行動したのも納得だろう。
独断でいじめなんてことをしてくれたおかげでキグナスのトレーナーの渋い顔が見れたし、あいつらには別の意味で感謝している。
「それよりクライト! 見てくれこれ! 海の家で売ってた『たこ焼きオン焼きそばイン油そば』!!」
「はいはい胃もたれ胃もたれ」
「器あっついのにクライト冷たくないかぁ!?」
隣でやいのやいのと騒いでいるトレ公を無視して海を眺める。今日はメテオが俺のトレーニングに多少喰らい付いてきたから明日はもう少しきつくしても良いかもしれないなどと思いながら、あいつ自身の武器について考えてみる。
「ん、どうしたクライト。冴えない顔してるな」
「……なぁトレ公、アンタが見てきた限り、武器を持たないウマ娘っていたか?」
何気なくトレ公に質問してみる。当然メテオの事を相談するためこのような質問をした。トレ公だってトレセン学園に就職してから長い事トレーナーをやっている。それならば武器を持たないウマ娘の一人や二人くらいいたのではないだろうか。そのウマ娘について聞くことが出来ればきっとメテオの武器に繋がるかもしれない。
「……いや、すごく言いづらいが、俺は新人トレーナーを育成するのが好きであんまり担当ウマ娘を持った事が無いぞ。前にも言わなかったか?」
「そうじゃなくてもよ、他のトレーナーが受け持ってたウマ娘とか見てないのかよ」
「あー……それで考えてみると、今まで見てきたウマ娘で飛びぬけた武器を持っていないウマ娘ってのは見た事が無いなぁ……」
「……そうか、残念」
「すまんな」
申し訳なさそうにするトレ公に一言気にしないで欲しいと言ってから再び海の方を見る。
あと4日で訪れるシューティングレイ&レディナイザーとの勝負。いくら所属してから日が浅いウマ娘とはいえ、キグナスはキグナスだ。メテオ自身にも何かしら一つ武器が無いと勝つのは厳しいだろう。それなのにメテオにはアイツ自身が持つとびぬけた武器がまったく見つからない。可能性すら見つからない。
いっそ俺の持つ威圧感の武器を教えてやってもいいのだが、正直教え切れるか不安だ。
「メテオちゃんの事だな?」
「……ああ」
突然口を開いたトレ公が放ったのは、俺がさっきした質問の意図を読み取ったものだった。やはりこの男には敵わないと思いながらも、どうすればよいのかとトレ公に助けを求める。
「俺はしっかりウマ娘のトレーナー業についての勉強をしたわけじゃない。だからイマイチああいうタイプにはどうすればいいのかわからないんだ」
「……武器ねぇ。難しいな」
難しいとつぶやくトレ公に『やはりダメか』という思考に加え、心のどこかで思っていた『きっとトレ公なら何かわかるかもしれない』という期待が打ち砕かれた。
でもどうすればいいんだ。武器が無ければいくらトレーニングしていても、キグナスのウマ娘に勝つなんて不可能に近い。なんとしても武器を作らな──
「急ぎすぎるなよ、クライト」
「……あ?」
先ほどまで『メテオの武器について』を考えていたと思ったトレ公が急に喋り出したと思ったら、口に出したのはメテオの武器を見つける方法ではなく俺に落ち着けと諭す言葉だった。
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だ、焦ってる時の顔してるぞお前。一度落ちつけ、思い出してみろ、お前が最初に見つけた武器はなんだ」
「俺が最初に見つけた武器……」
俺が最初に見つけた武器。それは……。それは……
「ただの高圧的な走り……?」
「そうだ、何にも工夫していないその武器でお前は周りのウマ娘を圧倒してきただろ?」
俺が最初に見つけた武器は、ただ他のウマ娘に対し根性でオラオラ突っ込んでいく走り方だ。今でこそそれが『領域』にまで目覚める武器になっているが、最初の時点ではただのヤンキー系ウマ娘のそれだ。
そうか、何も一ひねりしたものが武器じゃない。スタ公だってそうだ、最初はスピードだけの勝負。サンの野郎は莫大なスタミナでの勝負。俺が昔から知っているウマ娘の武器を考えると、全てウマ娘が持つ基本的なステータスのみで勝負している武器だけだった。
そしてそれらに気付いた方法は人それぞれ。俺は……。
「なるほどなトレ公、いいヒントが手に入った」
「ここからは私のじっかんだぁぁぁ!!」
クライトと速水さんが最近構ってくれないし、橋田さんもずっといろいろ本呼んでるし、トレーナーさんもずっと『夏合宿☆トレーナー室』からメールでトレーニングメニューを送ってくるだけだし、もう暇で暇で仕方がない!
と言うわけで、トレーナーさんから送られてきたトレーニングメニューを全部こなしたので、ここからは自由時間、私の時間だぁぁぁぁ!
と言うわけでと言ったのは良いものの、友達・知り合いが殆ど暇じゃない状態で何をしようか私は迷走している。ウマ娘だけに迷『走』って!?
…………バ鹿なの!?
いやつまらないね……
こんな一人激情を頭の中で繰り広げながら、私は一人暇を持て余していた。
「ぐううううううう、暇だよおおおお」
顔を地面に突っ込みながら背中で太陽を浴びる。
「そういえば、クライトはどうしてレフトメテオって子を探してたんだろう?」
少し前、ほんの数日前にクライトが急にイーグルちゃんを探してほしいと言ったのは、レフトメテオと言うウマ娘に会う為だったと聞いた。しかしなんでクライトはその子に会いたかったのか、結局私は何も話してもらえなかった。
「……まぁクライトの事だし、多分シャインを助けるための事だよねっ!」
まるで私に対抗するかのごとく光り輝いている太陽に向かってそう言う。太陽は何も返してくれないが、私は日光に勇気を貰えた。
「う~ん、なら私もシャインを助けるために何かできる事が無いかなぁ……」
クライトが頑張っているのなら、私も何かしなくてはならないはずだ。しかし大体の事はクライトが私より一手早く実行してしまうため、あんまりいい案が思いつかないのだ。
それならば直接シャインに接触するしかないだろう。
そう考えた私はすぐにおでこに手を当てて、シャインのオーラを察知する。ちなみにこのポーズに意味はない。オーラを感知している感じがするから手を当てているだけだ。
「ムムッ! 西側にシャインの反応!」
私のレーダーがシャインのオーラを捉えたため、すぐに向かおうとしたその瞬間だった。
「あら、あなたこんなところで何してるの?」
私の後方からノースが声をかけてきた。そう言えばノースはシャインと何度か接触があった、きっとノースもシャインの心を動かすような言葉を言えるのではないだろうか。そう思った私はすぐに誘いの言葉を口にする。
「ノース! ちょうどよかった! シャインに会いに行くんだけどノースもいく?」
「……状況がつかめないんだけど、まずシャインさんは今ほぼ敵でしょ? そんなコンビニ行くみたいな感覚で……」
誘いの言葉を投げかけてもノースはぽかんとしていたので、順番に説明していった。
「ふぅん……クライトがやってない事をする……」
「いや、正確には『シャインとの接触』とか『説得』は何度もやってるんだけどね? 実はこの前キングスとかくかくしかじか」
「……なるほどね、今精神的に弱っているのならもしかしたら心の動きを望めるかもしれないってこと」
「そぉう!!」
クラシック期の頃から思っていたが、ノースは意外と呑み込みが早くて助かる。しかし説明が終わってからノースは少し悩んでいる様子だった。
何をそんなに悩んでいるのだろうかと思っていたが、すぐにノースは悩みの内容を打ち解けてくれた。
「今シャインさんは精神的に弱っている、そんな状態で更に説得のストレスを加えたら彼女、耐えきれなくなるんじゃないかしら?」
その言葉を聞いた時、私は意表をつかれた気持ちだった。確かにそうだ、シャインは自信満々な性格とはいえ、意外とメンタルが弱いところがある。もしかしたら私が説得に行くことでますます橋田さんの元に戻ってこない可能性もあるのだ。それなのに軽々と会いに行くことなどできない……。
「なら私たちでシャインの心を休めるようなもの探さない?」
「……あなた、次の案考えるの早いわね……本当そのポジティブな思考は少し分けてもらいたいわ……。あ、嫌味じゃないからね」
ノースはそう言っているが、ぱっと思いついたものを言っているので自覚は無い。
シャインのメンタルが落ち込んでいて危険なのであれば、逆に私たちがシャインのメンタルを回復してあげればよい。何もその後の行動を考えていない訳ではない。さっきも言ったようにクライトの方もクライトの方で何かシャインを取り戻す方法を考えついている。
ならばその下ごしらえとして、私がシャインのメンタルを回復して説得しやすくなるようにすることもできるはずだ。
「でもどうするの? 勝負に負けたウマ娘の事を慰める物なんてそうそうないわよ? 食べ物でも持っていくつもり?」
「う~ん、そうだね! とりあえずシャインがいる方向はわかってるから、その道中で見つけたものプレゼントしよっか!」
「えぇ……」
「とは言ったものの、そこからさらにどうするのよ」
ノースを連れてシャインの方向に歩き始めて数分、ノースがそう言いだした。確かに我ながら今回は無鉄砲な作戦だと思うが、ここは海だ。
貝殻や石など、身近な綺麗なものはたくさんある。それこそ海の家に行けば、以前沖縄について調べた時に出てきたマリンクラフトとかもできるはずだ。多分。
「ほら、こういうのだってシャインの慰めになるかもしれないよ?」
私は地面からひときわ大きな石を取り上げる。その石は石と言うには矛盾しているように見えるほどきれいで、向こうの景色が透けてみるような透明度だった。
「……ん? 真珠……?」
「どうしたの、ノース?」
ノースが一瞬私の持った石に疑問を抱くようなまなざしを向けた後、すぐに地面を向いて考え始めてしまった。私は特に気にすることもないと思ったので、石の方を見つめる、それにしても綺麗な石だ。真っ白で丸くて、シャインに渡すにはうってつけだ。
「……まぁ、気のせいよね……」
「石っ! 石っ! シャインに渡す石ぃぃ!!」
「……さっきからその歌はなんなの……? 絶妙に語呂悪いし……」
「えぇ?」
石を拾って数分、海の家の付近で私がシャインに渡す石の歌を歌っていると、ノースが突っ込みを入れてきた。確かに私もあまり歌詞については考えていないが、語呂悪くはないだろう。
別に語呂は悪くないとノースに懇々と反論していると、私に話しかけてくる人がいた。
「お嬢ちゃん、その石はどこで見つけたんだい?」
服装はあんまり怪しい人ではなさそうだけど、何やら私の石をさっきから見つめてくる。そんなに気になるだろうか。確かにあんまり見ないし綺麗ではあるけど。
「え? さっき通ったあそこらへんだけど……」
「……マジか……あれはどう見ても高級な真珠だ……3万はくだらねぇぞ……」
「?? どうしたの?」
何か小声でブツブツと言っているが、もごもご言いすぎていくらウマ娘の私でも聞き取れない。ほんのりあたふたしているおじさんを見ていると、別のおじさんも合流してきた。
「ノ、ノースぅ……」
「シャインに渡す石ぃぃ……シャ~インに渡す石にした方が良いんじゃないかしら……? いやでも……」
「ノースぅぅぅ……」
二人して私の石に注目していて、なんだか怖い。見る感じ学園の関係者でもないようだし、もしかしたら変態さんかもしれない。逃げた方が良いのかわからないので、ノースの方に目線を送ってヘルプを求めるもさっき私が歌っていた石の歌の語呂について考え込んでいる。
「お嬢ちゃん、この石少し預かってもいいかな?」
「あ~、それ大事なもので渡せないんです……」
「いやいや、そんなこと言わずにさぁ」
私はしつこく話しかけてくる二人のおじさんたちに怯え、とっさに石をポケットの中に隠した。それでもおじさんたちは石の方を見ていて、私のポケットを舐めまわすように見てくる。
「ちょっと私これで失礼しまぁぁぁ──すっどわぁぁぁぁぁ!」
おじさんたちのしつこい話から逃げるため、ウマ娘特有の脚力で逃げようとしたが、全力で地面の石にこけてしまった。
「大丈夫!? もう、そんなに急いで走るからだよ」
「ちょっと石を預からせてくれるだけでいいんだよ」
私は地面にしりもちをついている状態のため、満足に逃げる事も出来ない状況になってしまった。ノースは相変わらずごろについて考え込んでいるし、もう石を渡すしかないのだろうか……。
「ちょっと、あなたたち。嫌がってるでしょ」
「え?」
私が頭を抱えて防御していると、急に優しそうな男性の声が聞こえてきた。
目の前を見ると、きっとただの一般人であろう人がおじさん二人の前に立ちふさがっていた。顔も……結構良さげだ。っていうかなんでこんなところに一般人……。
「あんまり女の子にそうやって詰め寄っていると、犯罪者みたいですよ。警察呼んで本当に犯罪者にしてあげましょうか?」
「チッ……なんだ急に出てきて」
「……クソッ、やめとこうぜ」
そのお兄さんがおじさん二人に注意を促すと、すごくあっさりおじさんたちはどこかに行ってしまった。
あまりにもあっけない撃退に、私は目から鱗だった。私が女の子というだけであのおじさん二人に舐められていたのだろうか。なんだか不服だ。
「君、大丈夫?」
「ひゃい……」
おじさんたちを撃退したそのお兄さんは、すぐに私の方に駆けよってきて心配をしてくれた。あまりにも爽やかな顔面から放たれる心配の言葉に思わず胸がぎゅっとなってしまう。
「あんまりああいうのに絡まれた時は焦らない方が良いよ、怯えてると思われてもっと食いついてくるから。こんなかわいい顔してるのにさ」
「かかかか可愛い!? いやそんなことないです! もしかしたらそうかもしれないけど!!」
突然可愛いなんて言われてしまい私はとんでもなく驚いてしまった。だってこんな、初めて会ったような人から可愛いなんて言われること滅多にないんだもん。
「兎に角、気を付けてね。お嬢さん」
「おおおお嬢さんだなんてそんな大したもんじゃないですよおぉぉおぉ……でへへぇへぇ……」
そのお兄さんは私の服のシワを伸ばしたり、ズボンに付いた砂を落としてくれた後も最後まで私の容姿を褒めてくれた。この短時間で自分の容姿を褒めちぎられるというのは今までレースに全身全霊を注いできた私にとってかなり刺激的で、まともな思考が出来なくなってきていた。でへ。
私はお兄さんと別れた後、ノースの元に戻った。
「やっぱりシャは伸ばした方が良いわね……。あらサン、どうしたの、その……なんか変態チックな顔して」
「なぁんでもないよぉぉぉ……でへぇぇぇえっへっへっへっへ」
「笑い方気持ち悪いわね……」
いやぁ、世の中にはあんなふうに女性を褒めてくれる男性も本当に実在したんだなぁと噛みしめながら、私はシャインの方向に再び歩き始めた。
「はっ、いい儲けだ。ただのガキが持ってるにはもったいないくらいの真珠だな……」
……
あれ?
「ない!?」
「……何が?」
「石が無いよぉ! 盗まれた!!」
なんと私のポケットに入っていたはずの石がなくなっていたのだ。何故だ、あのおじさんたちには一回も触れられていないし、石をポケットに入れてから誰かに触れたタイミングなどお兄さんの時しか……
「あのお兄さんかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「やられたぁぁぁぁぁ……」
「まぁまぁ……また探せばいいじゃない」
お兄さんが私のズボンの砂を落としている最中、こっそりポケットに手を入れられて石を取られたことに気付き、ノースにも事の流れを説明してから私は地面にうずくまっていた。もう落ち込んだ、誰も信じられない。
「ううううううぅぅ……シャインに渡す石ぃぃぃ……」
「う~ん……、あらサン、これなんか石の代わりにいいんじゃないかしら?」
私が落ち込んでいると、ノースがどこからか四つ葉のクローバーを見つけてくれた。いくら砂浜とはいえ、草木が生えているエリアは近くにある。しかしまさか私が落ち込んでいる砂浜の近くにあるとは思わなかった。
「……そうだね! 落ち込んでてもしょうがないっか!」
「ふふ……立ち直る速度が速くていい事ね」
「うん!!」
「さ、て……この真珠、どこで売りさばくか……女に見せつけて釣るってのもいいかもしれないな」
「ちょっと、そこのお兄さん。砂浜のものを勝手に持ち帰ろうとするのは一応犯罪ですよ」
「……え? いや、そんなの知らな──」
「一応砂浜を持ってる団体のものだからね。しかも女を釣るとか言ってたね、ちょっと付いて来て貰おうか」