持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「キリが良いところまで書いて、これ以上無理に伸ばしても平凡な話になってしまうと判断したので今週は7500文字です」


第七十七話 帰って来たよ!!

 

「それじゃあ……今までありがとうございました、原田さん」

 

 壁を通して私はそう伝える。私は原田トレーナーがいる拘置所に来て、タルタロスを抜けると言う意志を表明しに来た。私がタルタロスを抜ける理由について長々と話した後、一言そう感謝の分を述べた。その言葉を聞いた原田トレーナーからは何も帰ってこなかったが、ただ一回頷いてくれた。

 

「……僕を恨んじゃいないのかい? ずいぶん丁寧なしゃべり方だけど」

 

 私が退室しようとした時、原田トレーナーは突然そう喋った。

 

 確かに、私は恨んでいる。私とトレーナーさんの関係を壊した原田トレーナーを恨んでいる。しかしもとはと言えば、私があのような発言をしてしまったからというのもある。あのようなトレーナーさんに対して恋心を伝えるような発言を。だから一概に原田トレーナーだけに怒りを向けると言うのは違った気がしたから丁寧に対応しているだけだ。

 

 今この場面で言う事と言えば……。

 

「……あなたのトレーニング方法は、確かに残酷で外道のする事だった。でも……」

 

「でも……?」

 

「確かに私は強くなれていた。……だからしっかり更正して、もし戻れるようなら戻ってきてください。タルタロスには二度と所属しませんが……きっとクライトが生まれ変わったあなたを待ってます」

 

 クライトは、きっと待っているのだと思う、だからこのような発言をした。

 

 昔、地方時代にクライトが見たと言う優しい原田トレーナー。それが戻ってくれば、きっとクライトの心も完全に救われるのではないだろうか。

 

「これ以上言う事はありません、面会にも時間がありますから」

 

 最後に私はそう言って面会室を後にした。最後に原田トレーナーは何か言いたそうだったが、有無を言わさず私は出て行った。

 

 きっと、あの表情なら大丈夫だろう。

 

 

 

「ただいま~、すっかり遅くなっちゃった」

 

 拘置所に行っていると外はいつの間にか暗くなっており、既にトレーニングを終えたウマ娘達が宿舎に帰ろうとしているところだった。

 

 そんな中、あらかじめウマホで言われていた場所でクライトやサンと集合する。

 

「おう、お帰り」

 

「ちゃんとケジメ付けてきた?」

 

「「ケジメて」」

 

 突然サンから出てきたいかつい単語に思わずクライトと二人で突っ込んでしまった。この空気すら懐かしい。

 

 今日ここに集合したのは、他でもない目的があるからだ。と言っても私は別に予定していなかった、二人がサプライズ的な感じで予定を組んでくれて、私が呼ばれている感じだ。

 

 今日集合するときも何をするか言ってくれず、ただ場所を指定したメールが来ただけだった。

 

「それで? 何を用意してくれてるの?」

 

「おう、それなんだがな」

 

「ちょっと宿舎まで歩きながらシャインがタルタロスにいた間の事話そうよ!」

 

「……それもそうだな、行くぞ」

 

 二人は明らかに何かを用意している様子だが、相変わらずギリギリまで内容は話してくれない。私としては早く話してほしい気持ちもあるが、あえて楽しみとして聞かないドキドキ感も味わいたい。どちらにしろ、このように誰かに何かを用意して貰うと言うのは、とても久しぶりだ。

 

「さて、宿舎付いたね!」

 

「それで? 用意してるものは何?」

 

 三人で話しながら歩いているとあっという間に宿舎の前に付いたのだが、結局私は歩きながら考え、何を用意しているのかストレートに聞くことに決めた。

 

 するとクライトとサンの二人は私の前にぞろぞろと並び直し、後ろから何かを取り出した。

 

「そ……それって……」

 

 二人の手元に持たれていたのは、それぞれ2個づつ、計4個のタッパーに詰められたポテトサラダとローストビーフだった。

 

「ふふふ……めっちゃ頼み込んで宿舎のキッチン使わせてもらったよ!」

 

「材料費を全額負担してくれて、宿舎の人たちに全力で土下座してくれたトレ公に感謝……」

 

「マ……マジ? 今からこれ食べれるの……?」

 

 思わず私は口から涎を垂れ流して二人に間抜けな質問をしてしまう。ここまで来たらもう答えは決まっていると言うのに。

 

「食べれない訳ないだろ? これから俺達で宴だ!」

 

「シャインがかえってきた宴だぁぁぁぁあ!」

 

「よっしゃぁぁあぁぁぁぁぁあぁ!!」

 

 

 

「はふっ……はっ……うまっ……」

 

 温かいご飯をかきこみながらローストビーフを一切れずついただく。ソースとも絶妙にマッチしており最高に美味しい。隣ではトレーナーさんと木村さんが一緒になってポテトサラダを食べていた。

 

「あんまり食べすぎもいけませんからね、サン」

 

「はぁい。……でも残念だね、速水さんだけ書類仕事溜まってて来れないの」

 

「……宿舎をイレギュラーな使い方したしな……色々……追われてんだってよ……」

 

「じゃあ~、速水さんの分も少し詰めとこっか」

 

「サンキュ、サン」

 

 何と私達のポテトサラダとローストビーフの材料費を負担してくれたり、宿舎の人たちにキッチンを使わせてもらうために土下座をしたりした他、私たち以外のウマ娘がいない間に食堂を使わせてもらう許可を取ってきてくれたのも速水さんらしい。神かあの人は。

 

「生徒会長にこっぴどく言われてんだろうなぁ……うぅっ、あの対面を思い出しただけで寒気が」

 

「? 生徒会長さんに会ったことあるの? トレーナーさん」

 

「ん、まぁ……お前がいない間に色々とな……」

 

 私がいない間にトレーナーさんは生徒会長さんと話すほどの立場を確立していたのだろうか……。

 

 とりあえず今はこの幸せを噛みしめんとばかりに、ローストビーフを噛みしめる。噛むたびに味が染み出てきて口の中がパラダイスになっている。

 

「トレーナーさん、私もうお腹いっぱいだから私の分の白ごはん食べていいよ~」

 

「……い、いただきます……サン……」

 

 

「ふぅ……けぷ」

 

 そのまま時間は流れ、各々が食事をして場の盛り上がりが収まってきた頃。私もお腹いっぱいになってきたので、そろそろ追い込みをかけなくてはならない。そう思っていた矢先、突然クライトから声がかけられた。

 

「スタ公」

 

「ん? どうしたのクライト」

 

 突然真面目な声で話しはじめるのは良いのだが、椅子にもたれかかってお腹が膨らんでいるのにそのキリっとした顔されるとちょっと笑いかけてしまう。

 

 などと考えていると本当にぶっ飛ばされてしまうので落ち着いてクライトの話を聞く。

 

「ヴェノムストライカってやつについてだが……」

 

「……ヴェノムのことかぁ」

 

 クライトが話したがっていたのは、ヴェノムの事だった。確かに、クライトは少しだけ首を突っ込んできていたからきっといつか聞いてくるだろうと思ってはいたが、思っていたより聞かれるのが早かった。

 

「あいつ、スタ公の事を小さい時から目の仇みたいにしてたんだって?」

 

「うん、まぁ、そうだね」

 

 私はヴェノムに小さい時から何度も勝負を仕掛けられてそのたびに負けてきた。

 それはヴェノムがただただうっぷんを晴らしたいがためなのか、私をいじめたいだけなのか。今となってはわからない事もないのだろうが、聞く気はない。

 

『おらおらおら! そんなよわっちぃ走りしかできないのかヨ、シャイン!!』

 

『まって……許してよ……ヴェノム……』

 

『知るか! お前が弱いのがわるいんだロ!』

 

『なんで……どうしてそんなことするの……』

 

 いつの事かすらわからないが、はっきりと言われたことだけ覚えている風景が頭によみがえる。少なくとも小さいころと言うのは覚えているが、なかなか……。

 

「お前、あいつとの決着をどうするつもりなんだ? あの時、お前は全力を出していなかったが、それはあいつについてもいえる。お前ら様子見しすぎてお互いに強さが分からない状態と同じになってるんだぞ」

 

 私が昔の記憶に唇を噛んでいると、その様子を察してなのかクライトがすぐさま話題を畳みかけてきた。ふと現実に戻った私は、ヴェノムとの決着について考える。

 

「え、なにその話俺知らない」

 

「橋田にはあとで説明してやるから黙ってろ」

 

「はぁん……」

 

 途中で耳を傾けていたのであろうトレーナーさんが横から入ってきたが、冷静にクライトが落ち着かせる。

 

 それはそれとしてヴェノムストライカの事だ。確かにさっきクライトが言った通り、あの時私は全力を出していなかった。しかし自分の実力の事を気にしすぎて、まさかヴェノムも同じように手を抜いているとは思わなかった。そうなってくると結構厄介なことになる。私は20%の力を抜いてヴェノムに勝った、だが逆にヴェノムが70%くらい大幅に手を抜いていたとしたら全力で戦った時に50%も力の差が明らかになる。負ける可能性があると言う事だ。

 

 そしてどのくらい手を抜いていたかは今となってはわからない。

 

「……クライト、本当に申し訳ないけどあいつの武器は見てた? あの時は私あんまり見てなかったのよ……」

 

「あいつの武器か……いや、見てないな」

 

「だよねぇ~っ……」

 

 私は奥歯に挟まったローストビーフのかけらを他の人に見えない様に爪楊枝で取りながらヴェノムについて考える。

 

「小さな時からスタ公と仲が良かったやつか……」

 

「ちょっとやめてよ~、あれ見たでしょ? 仲良くないって」

 

「ん、そうか? 俺としてはやたら仲良さそうに見えたが」

 

「無理無理無理無理、自分の自慢多いし、すぐ私の事けなしてくるし。てか他の人にはある程度優しいのに私にだけ当たり強すぎなのよアイツ……」

 

「……それ、お前の事を特別視して……。いや、言うまい」

 

 結局ヴェノムについてはまた今後考えていくと言う事になり、その日の宴は終了した。

 

 部屋に戻ってベッドに飛び込むとふわふわの布団が私を包んでくれた。タルタロスに所属していた時は布団にもぐっていると色々な事が頭をよぎってきて一番つらい時間だったのだが、今はまったくそんなことはない。むしろ明日への希望が満ち溢れてすごい楽しいくらいだ。

 

 

 

「ふわぁぁぁ……」

 

 ベッドに飛び込んで数秒、私はさっきまで夜の部屋でトランプをやっていたはずなのだが、いつの間に朝になっていたのだろうか。

 と言う冗談は置いといて、トランプをやっている間に寝落ちてしまったのだろう。朝日が私の体を突き差してきて、とても暖かい、二度寝してしまいそうなほどに。

 

「ようスタ公、起きてやが……。おま、1人でトランプやってたのか!?」

 

「シャイン? うげ、ほんとだ。寝落ちたな~?」

 

「たっはは……ねっむ……」

 

 重い体を起こして、モーニングコールをしに来てくれたクライトとサンの二人について行って朝食を食べた。昨日の宴に続いて、朝食に関しても誰かと一緒に話しながら食べたのは非常に久しぶりだった。

 

 その際に再びヴェノムについての話題がクライトから出されたのだが、周りのウマ娘達がこの前の模擬レースの話題で盛り上がり、私達にめちゃくちゃ話しかけてきてしまったので再び保留と言う事になった。

 

 朝食を急いで食べ終わり、三人で食堂から逃げだしてきたのだが、とりあえずトレーナー三人衆を砂浜に呼び寄せないといけない。ある程度バ群から逃げたら、ウマホを取り出して私たちはトレーナーさんたちを呼びだした。

 

「ハァ……やっぱみんな血気盛んだね……模擬レースの話だけであんなに盛り上がるなんて……」

 

「ここからは私の時間なのにぃぃぃぃぃ」

 

「なんだオメーの時間って……はぁ、急に走り出したから腰いてぇ……」

 

 三人でストレッチもなく走り出した反動を受けながらトレーナーさんたちを待つ。岩陰で待っている間に速水さんと木村さんが来て、クライトとサンはお先にトレーニングへ向かってしまった。

 

「それじゃあなスタ公、トレーニングがんばれよ」

 

「シャインじゃ~ね~!」

 

「はいは~い」

 

 ……で、私のトレーナーさんが全く来ない訳だが。

 

 冷静にウマホを取りだし、メッセージのアプリを開く。私のメッセージに既読は付いていない、そして時刻はまだ昼すら回っていない。加えて最近まで担当ウマ娘がいなかった。

 

 ……寝坊してるなぁ。

 

「はぁ……全く、トレーニングがあるのに寝坊するって……。でも、ふふ……こんくらいおちゃめな方が楽しいよね……」

 

 暖かい陽気に触れていると、私もだんだん眠くなってきてしまう。タルタロスにいた時はこんな朝から日向ぼっこをするなんてありえなかったから、できなかった反動でますます睡眠のとりこになってしまう。

 

「おいおい、朝から昼寝かヨ」

 

「うわっ!? うがっ……いったぁ~……」

 

「お~お~、派手にぶつけたナ」

 

 突如後ろから聞こえてきた声に私は驚き、背後にあった岩に軽く頭をぶつけてしまう。しかし軽くぶつけたと言っても岩は岩、めちゃくちゃ痛い。

 

「ベ……ヴェノム……何の用よ」

 

「……お前、雰囲気変わったナ」

 

 雰囲気が変わった、というのは恐らく私がタルタロスを脱退したから明るく振る舞えていることを言っているのだろう。確かに少し前から体調はすこぶる良い。

 

 岩陰にヤンキーすわりをしながらおでこを掻いているヴェノムを見ながら、少しだけ警戒をする。このウマ娘はキグナスのようにウマ娘を消すと言った事はしないはずなのだが、見ないうちに性格が変わったと言う事もあり得る。もしかしたら私を消そうとしているのかもしれないし、ただ単純に私の上に立っていると言う照明をしたいのかもしれない。

 

 どちらにしろ、私より強いのであれば『誰にも越えられない記録』を作ることが出来なくなるため、ヴェノムを乗り越えると言う未来は変わらない。

 

「お前、この前の模擬レースは手を抜いていただロ」

 

「それはお互い様でしょ」

 

「うお、気付いてやがったのカ。シャインにしてはやるじゃねぇカ」

 

 私がそんな細かいところまで見れるようになっているとは到底信じられないと言った非常にムカつく表情でヴェノムは私を見てくる。最近はやりの動画投稿アプリで見そうなドヤ顔だ。

 

 うわ、上の前歯を見せてくるな、腹立つ。

 

「それで、何の用なの?」

 

「お前とは全力で戦いたいんだヨ」

 

「……とかいって、本当は私に勝ちたいだけなんでしょ」

 

「当然だろぉ、時間が経っててお前に負けてたなんて言われたら俺は立ち直れねぇヨ」

 

 やっぱり……。結局のところ、私をぶちのめしたいだけらしい。そんな小さい時から変わっていないヴェノムにうんざりしながらも、これに対して怯えていただけの昔の私にも腹が立った。

 今の私は最強とまではいかなくても、ある程度実力はあるはずだ。きっと今なら、ヴェノムの武器にさえ気を付ければギリギリ勝てるだろう。

 

 とかいってうぬぼれているとダービーの時のように脚をすくわれてしまうから、ある程度謙虚な姿勢でいきながら戦おう……。

 

「……どこで戦おうか」

 

「ふっ、意外と乗り気カ」

 

 私は開口してすぐにどのレースで戦うかを問う。うだうだ話を引き延ばしても、今のヴェノムには戦う事でしか答えられないと判断したからだ。まぁ、改めて考えてみてもキグナスのように負けたからといって追い込むように私を消しに来ると言うわけではない。強いて言うなら私のプライドが掛かっているが、それは向こうも同じ、今までの戦いに比べたらかなり安い賭け金といったところだ。

 

「そうだな……お前でも走れるレース……」

 

 正直皐月賞も勝ってるしNHKマイルも勝ってるし大体のレースは出れると思うのだが……と思っていると、ヴェノムが思いついたように掌を叩いて口を開く。

 

「……セントライト記念。それでどうダ?」

 

 ヴェノムの口から放たれたレース、それはセントライト記念だった。なるほど、確かにこの時期に私とヴェノムの決着をつけるにはちょうど良い舞台かもしれない。

 

 セントライト記念。

 中山レース場で行われる芝2200mの菊花賞トライアルレース。G2だ。

 G2と聞いて軽く感じるかもしれないが、菊花賞のトライアルレースと言う事もあって出走してくるウマ娘達の実力は恐らくピカイチだろう。油断はできない。

 

「菊花賞トライアル……」

 

 ふと私は、菊花賞を走る前のレース、クラシック三冠路線の二番目のレースを思い出す。

 

 日本ダービーに出走してきていた、あのデルタリボルバーと言うウマ娘。

 

 ……デルタリボルバーも出走してくるのだろうか。そうなった場合、私は勝てるのだろうか。

 

 キグナスでは三つの心臓を持つとか言われていたか、あの強大なスタミナ……そしてハイペースな走り。武器の内容自体はシンプルだが、単純なものこそ最強と謳う人もいる。

 

 三つの心臓を持つウマ娘に勝つには、三丁の拳銃(デルタリボルバー)と言う名前の通り、私の心臓が三つ打ち抜かれ、使い物にならなくなったとしても勝てるよう、()()()()()で対抗しなければならない。

 もし仮にセントライト記念でデルタリボルバーと戦う事になった時、私は四つの心臓を身に付けることができるだろうか。

 

『一着は、デルタリボルバーっっ!!』

 

『私が……負けた……?』

 

 デルタリボルバーの姿を思い出すと、ダービーでのあの景色が脳裏によみがえる。

 

 ……いや、やるしかないのだ。もう一つの菊花賞トライアルである神戸新聞杯にデルタリボルバーが流れるなどと言う淡い期待を抱くのはやめろ、スターインシャイン。

 

 デルタリボルバーとヴェノムストライカ。

 この二人を相手にして、私は勝つ。

 

 勝つしかないのだ。

 

「おいコラ、話聞いてんのかヨ」

 

「……分かった、やろう。セントライト記念で、私達の決着を」

 

 私は自身に満ち溢れた声でヴェノムに返事をする。私のその自信満々な態度を察知してか、ヴェノムは全身で意気込むような動きをしていた。

 

 私に対しての過剰な敵意さえなければ普通のウマ娘だろうに……。

 

「……また別の日に会おウ」

 

 喜んでいた様子のヴェノムだったが、突然顔を周囲にぐるぐると向け目を大きく広げて何かを見つめた後、そう言ってすぐに立ち去ってしまった。

 そうしてヴェノムが立ち去ったすぐ後に、また一つこちらに向かってくる足音が聞こえた。

 

「お~い! シャイン! すまねぇ! めっちゃ寝坊したわ!」

 

「まったくさぁ、誰にも越えられない記録を作るんだから一秒も無駄にできないんだよ~?」

 

「悪かったて。しっかり挽回するからさ」

 

「……ま、それならいいけど」

 

 そうして私は、橋田さんもとい私のトレーナーさんと一緒にトレーニングを始めた。

 

 

 

「はぁ~っ……はぁ~っ……。ふぅ、やっぱりこっちの方がやりがいあるわぁ~っ!!」

 

 トレーナーさんから提示されたトレーニングメニュー、それは以前見たものより圧倒的に多い気がしたのだが、トレーナーさん曰く『久しぶりにトレーニングメニュー考えてたら熱が入った』らしい。だがタルタロスでやたら辛いメニューをこなしていた私にとっては朝飯前と言ったところだ。

 

「ふむ、やっぱりタルタロスにいた影響かタイム縮まってる? 俺がトレーナーで大丈夫かな……」

 

「何言ってんの、私の横はトレーナーさんしかいない、これだけはもう迷わないから。……もうちょっと追い込んでいい?」

 

「……そう言ってくれると、本当助かるよ。ああ、いいぞ、思う存分楽しんでトレーニングに臨め!」

 

 (きた)るセントライト記念、私は再び星となる。たとえヴェノムやデルタリボルバーがそれを邪魔して来ようとも。

 

 

「……シャイン、俺は中山レース場で待っていル」

 




作者「『デルタ』を『三丁』と言っているのは気にしないでください。三角州とか言うので、デルタに関しては三つと言う意味で捉えています……」
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