持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
「いやぁ、いろいろあった夏合宿だったなぁ」
「ホントにな。全く疲れたぜ」
「帰宅の時間んんんんん」
学園に戻るバスが長旅の末学園に到着し、ようやく座る姿勢から解放された私たちは各々体を伸ばしながらバスを降りた。
今日は夏合宿が終わった日だ。クライトやスロウムーンとのレース、レフトメテオのレース、キングスとの勝負、いろいろあった夏合宿だったが、とても楽しい夏合宿でもあった。あとタルタロスからの脱退もあったね。
「それでは夜も遅いですし、それぞれ自分の部屋に戻って休んでください!」
『は~い!』
「へ~い」
一通り引率の人の話が終わった後、私達はそれぞれの寮へと返された。
それにしても楽しい夏合宿だった。今はゆっくり自分の部屋に戻って体力を養おう……。
「夏合宿楽しかったね~!」
「そうだね~!」
「……他の部屋の子か」
そう言えば、私の部屋には長い事誰もいない。入学当日に何故同部屋の子がいないのか聞いてからも何度か聞いているのだが、何度聞いても寮長には『気にしなくていい』としか言われないのだ。
他の子たちは部屋で夏合宿の思い出について語り合うのだろうか。いや、それでなくたって普段から壁を通して聞こえてくる話し声が私の孤独を煽っている。
……寂しいなぁ。
「いけない、夏合宿で楽しい気分になっていたのに、こんなに暗くなっているとまたクライトやサンに心配されちゃう」
私は気分を入れ替えて、自分の部屋のドアを開ける。そうだ、私は他の子に比べて一人分多く部屋を使えるのだ。そう考えれば優越感と言うのはあるものだ。
「よう、遅かったナ」
「うんうん、ちょっとナイーブな気分にナリーb……っどえぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「お帰リ★」
扉を開けると、なぜかそこにはヴェノムが座っていた。私がいつも使っているベッドとは反対方向に位置するベッドには見たことのない荷物が展開されており、私は部屋を間違えたのかと思ったが、間違いなく私のベッドがある、ここは私の部屋だ。
「なんで!? なんでヴェノム!? ヴェノムなんで!?」
「落ち着けヨ、この部屋はもともと俺が振り分けられてたんだよ」
「振り分けられてる!?」
「だから言っただロ、俺は問題行動で休学になってたんだヨ」
問題行動を起こしていたから……気にしなくていいと言われたのか……?
いやでも普通、問題行動を起こしていても名前くらいは教えてくれるはずでしょ……?
あ、違う、ヴェノムを知っている私だからこそわかる。きっとヴェノムは相当やばい事をやらかしたのだ、恐らくは滅茶苦茶怪我させたとかそんなところだろう……それほど大きな問題行動を起こしていれば、気にしなくていいと言われるのも納得かもしれない……?
「いやいやだとしても! そこにおいてあった私の物は!? たしか教科書とかの置き場にしてたけど……」
「あぁ、それならちょうどいいからバキバキに柔らかくして俺の枕にしてるゼ」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
確かにヴェノムが座っているベッドの枕に注目すると、一般的に使われているであろう枕カバーの中に明らかにデコボコしたものが見える。そしてあの高さはちょうど私が夏合宿に出掛ける前いらないからと言って積んでいた教科書の山と同じ高さだ。
「なんつーことしてくれてんのアンタ!? ちょ、シワまみれじゃん!」
「まぁまぁそんなに怒るなっテ、俺もお前と同じ部屋って聞いてびっくりしたけどヨ、住めば都って言うだロ?」
ヴェノムは茶化すような表情でこちらを見てくる。とても腹が立つ。
「言うけど! 言うけどアンタとだけは言える自信ないわ!!」
「おいコラなんでだヨ」
ヴェノムの声を無視しながら、私は机に突っ伏する。何故だ、なぜよりによってこいつと同じ部屋になってしまったのだろうか。
これからの私の学園生活はどうなってしまうと言うのだろうか。
「あ、ちなみにそれ、これからは俺の机ナ」
「そうだったぁぁぁぁ!!」
そう、部屋がに分割になったと言う事で、どこでも私のスペースと言うわけではなくなったのだ。私は今自分が突っ伏していた机を見ると、確かにヴェノムの方にあった。
落ち着いて叫びながら、自分の机に座りなおして突っ伏する。
「そんなに嫌がる必要もないだロ、別にただ俺が部屋にいるだけだってノ」
「それが嫌なんでしょうが!」
突っ伏しながらも私は冷静にツッコミを入れる。
それからもしばらくヴェノムとの内容の無い会話をしていたが、メンタルが限界になったのと、嘆いていてもヴェノムとの会話が長引いてしまう事を察した私はなんとかして寝ることにした。
寝る際にもヴェノムにからかわれたが、無視して私はベッドにもぐりこむ。
「……ふっ、お休ミ、シャイン★」
「うるさっ!!」
まるで彼女に言い聞かせるかのようにわざとクールなトーンで喋るヴェノムに怒号を飛ばして私は目を閉じた。
寝てる間も何かをされてまともに睡眠がとれないのではないかと心配していたが、以外にもそんなことはなく、ヴェノムは何もしてこなかった。そのおかげで、結構熟睡する事が出来た。
ただ一つ問題があるとすれば、次の日、目が覚めるとヴェノムが横にいると言う地獄の空間が出来上がっていたことだ……。
「ふっ、おはよウ、シャイン★」
「だからうるさっ!!」
起きるや否や、ヴェノムは私にそう喋りかけてきたので突っぱねる。私はヴェノムと一緒の空間にずっといたら本当におかしくなってしまうかもしれない……。何とかしてこの部屋から飛び出そうと、せわしなく髪の毛をセットする手を動かしていると、私とヴェノムがいる部屋に来客があった。
「よう、夏合宿から帰ってきて一回目の夜は良く眠れ……。オメーは……」
「やっほーシャイン! クライトに引きずられながら遊びに来……あなただれ?」
「マックライトニングと、プロミネンスサン、カ……」
部屋に来たのは、クライトとサンだ。クライトとヴェノムは以前戦った事があり、私と同じで少し仲は険悪らしいが、とにかくこの部屋のヴェノム要素を薄めたい時に来てくれたのはありがたい。
ヴェノムは相変わらずニヤニヤした顔で余裕綽々と言ったところだが、クライトは明らかに敵意をむき出しにしていた。
「なんでオメーがここにいるんだ」
「シャインと相部屋なもんでネ」
「相部屋……?」
「前からこの部屋には誰もいなかっただロ?」
「……」
「え? なになに? 私分かんない!」
クライトとヴェノムが話し合っている間に何とか準備を完了して部屋を抜け出そうとしているのだが、どうにも喧嘩が勃発してしまいそうであまり時間は無いかもしれない。ところどころでヴェノムを押さえるような声をかけつつ準備をして、ようやく部屋を出る準備が終わった。
「……どうしたよ、夏合宿の時みたいにうるさくないじゃねぇか」
「わざわざ口を開く必要もないかなっテ」
「あ~はいもう準備できたから行くよクライト! サン!」
「え~!? ちょっと私説明がないからわからないんだけど~!!」
「さて……スタ公、これからどうするつもりだ?」
「どうするって……。……セントライト記念で私たちは決着をつける約束をしてる、そこで勝って、おとなしくしてもらうよ」
「ぶ~……説明の時間んんんん!」
太陽は軌道の半分を通り過ぎ、もう沈む準備をしようとしている頃。
あの後、私の部屋を出て、授業を受けてから一度三人で集合していた。昨日は夏合宿から帰ってきてすぐに寮で寝てしまったため、このコーストラックも久しぶりに訪れる。
そのコーストラックの端っこで、私はクライトにヴェノムとのことを説明していた。
サンには……後で話そう。
「セントライト記念……菊花賞のトライアルレースか……」
「そう、どうせこのタイミングならそこくらいしか走るレースないでしょ」
「俺はトレ公と話し合って神戸新聞杯になったから、スタ公とは走らないことになるのか」
クライトは神戸新聞杯、そう聞いて少し安心した私がいる。というのも、夏合宿で走ったクライトは私に負けこそしたものの、新しい武器に覚醒していた。私はその武器について説明されていないため、その武器を重点的にトレーニングして使われたら負ける可能性が大きくあるのだ。そのためクライトとレースが分かれれば、夏合宿で頻繁に行われるような模擬レースには残らない『レース映像』を見てクライトの武器を研究する猶予がもらえる。
「お~い! シャイン!」
「あ、トレーナーさん」
私とクライトが話していると、遠くの方からトレーナーさんが走ってくるのが見えた。今日は一番乗りで来てくれたようだ。
「それじゃあ、私トレーニング行ってくるね。時間あったら併走もよろしく」
「おうとも」「じゃ~ね~シャイン~!」
私はクライトとサンにそう別れの言葉を告げ、トレーナーさんを待っていたのだが……あまりにも遠く過ぎてトレーナーさんがへばっているので、ウマ娘である私が出迎えに行こうと思う。
三人で苦笑いしながらも、私は立ち上がって走り出す。
「はいはい、トレーナーさん、迎えに来てあげたよ」
「た……助かる……」
私が迎えに来てすぐはトレーナーさんの息が足りなくなっていたため、少し待つ。しばらくしてからトレーナーさんの息が整ったようで、トレーナーさんは崩れたスーツを直した後、改めてトレーニングメニューについて話しだした。
……ん? 今この人スーツ直した?
ジュニア期の頃はどんなに崩れてても直さなかったのに、ちょっと変わったんだな。
「さぁシャイン、トレーニングについてだが」
「ちょっと待ってトレーナーさん。私の次走について話してないでしょ」
「あ、そうか」
私はトレーニングについて話し出そうとするトレーナーさんの口を止めて、次走についての話をした。
最初トレーナーさんは『次走についての話し合いをする』つもりだったらしいが、私にとっては『セントライト記念を走ることについて相談する』つもりだったので、トレーナーさんは最初驚いていた。しかしすぐに私の話に耳を傾けてくれて、深く考えていた。
話したことは大きく分けて4個
ヴェノムストライカとの関係について。
次走をセントライト記念にしたいと言う事。
キングスクラウンが私と同じ武器を持っていた事。
そして最後。これは一応まだ誰にも話していないこと。
『私の想いの継承について』だ。
私が持つ武器である、想いの継承。それはタルタロスにいた時に大きく強化されている。原田トレーナーは私が想いの継承をできることを知っていたようで、想いの継承の質を上げるために、鬼のようなトレーニングをしていた。
そのおかげで私はレースに関わりの無いレジェンドの力でも継承できるようになっているのは、以前クライトと走った模擬レースで披露した通り。
詳しく言うと、走っているレースに関わりが無くても良いが、継承元のレジェンドと『少しは関わりが無いと』使う事は出来ない。かゆいところに手が届かないと言った状態なのが、今の私の想いの継承だ。
それについても、トレーナーさんに1から説明した。
流石にたくさん話しすぎたのか、トレーナーさんの脳がキャパオーバーしているように見えたが、あとで紙か何かに書いてメモを渡しておけばきっと理解してくれるだろう。
「な、なんか俺がサボってた間に色々あったんだな」
「まぁね」
「それにしても気になるのが『キングスクラウンの想いの継承』についてだな……」
私が話した出来事の中で、トレーナーさんが一番に取り出したのはキングスクラウンについての話題だった。確かに私たちが今一番立ち向かうべき課題なのかもしれない。
キングスクラウンは、チームキグナスの中でも最強格と言われているウマ娘だ。私達とはこの二年間でレースが被る事が無く、実力を測れていなかったが、なんとキングスはその出走するレースすべてで勝っている。確実に勝てるレースを選んでいるのか、奴の実力が高すぎるのかわからない。ただ、あの想いの継承を見てから考えると、恐らくは後者なのだろう。
巷ではシンボリルドルフを超えるとまで言われており、その活躍は止まることを知らない。
「キングスは最後の方、私に『まだ知り合ったものしか使えないと言ったところ』って言った。多分キングスは、私とは違って、名前しか知らないウマ娘であっても、すべてのレジェンドの力が使えるんだと思う」
「……確かに、その発言の仕方だとそう考えるのが妥当か……。すべてのレジェンドの力を好きに使えるか……」
「それに加えて、私には今相手にデルタリボルバーとヴェノムがいる。きっとここが正念場になると思うから、しっかりトレーニングしないとね」
「そうだな。それじゃあさっそく……」
「あ、ちょっとまって」
「まだあるのか!?」
話が長くなってきてしまったためいい加減くどいかもしれないが、トレーナーさんの口を止めて話の時間を引き延ばす。私が話したいのは単純な事だ。
「デルタリボルバーがセントライト記念に出走した時の為に、あるトレーニング……というより、私の新しい武器を会得したい」
「新しい武器?」
そう、私が話したいのはデルタリボルバーに勝つための武器についてだ。もしセントライト記念にデルタリボルバーが出走してきたら、私は間違いなくあの
「……4つの心臓を、私は身に付ける」
「4つの心臓!?」
私の新たな武器、それは4つの心臓。セントライト記念で決着をつけると決まった時にも考えていた武器だが、私が身に付ける新たな武器は間違いなくそれだ。デルタリボルバーが3つの心臓でレースを走るならば、私は4つの心臓で走れば心臓1個分長い時間走れる。
ここで言う『心臓』とは、ウマ娘が長距離レースを走るだけのスタミナ一個分と考えていいだろう。そのため私は、長距離レースを4回ぶっ通しで走れるだけのスタミナを身に付けなければならない。
当然そんなこと不可能に聞こえるだろう、しかしやるしかないのだ。今までだってそうだった、どんなに不可能に思える武器でも、私は身に着けてきた。
「……ジュニア期みたいな厳しいトレーニングが考えられるなら、4つの心臓を私に与えるくらい、わけないよねっ!」
「……そんなに期待されても困るんだがな……」
「どぇぇぇぇっへっへっへぇ……うえっ……うぷっ……オエッ」
「そんなに吐かれそうになっても困るんだがな?」
トレーナーさんに『4つの心臓』を会得するためのトレーニングを注文してから、トレーナーさんがトレーニングを思いつくのにそう時間はかからなかった。しかし問題はその内容だ。
「ま、まさか体に重りを付けながらランニングマシーンを高速で動かすとは思わなオエッ……」
そう、トレーナーさんが提案してきたトレーニングは、私の体に結構重めの重りを付けながらランニングマシーンを全速力で走るというものだった。確かにこのような力技で武器を身に付けるのは嫌いではないが、やはりつらいものは辛い。やるしかないのだ。などとカッコつけていた数十分前の自分を呪いたい。
結局このトレーニングを行ってしばらく粘ったが、結局4000mほど走ったところで脚が固まってしまった。肺は穴が開きそうなほど呼吸運動を繰り返しており、酸素不足によって視界は白黒している。
「いつにも増して嗚咽が凄いな……大丈夫か? ほら、学園の荷台貸してもらって水分沢山持ってきたから」
「あ、ありがとオエッ」
私は地面にへばりつきながらオエオエ言っている。トレーナーさんの言う通りいつにも増して嗚咽が酷いかもしれない。タルタロスにいた頃の水分禁止トレーニングよりは辛くないが、にしたって負担が凄い。
「しかし……さっきお前から聞いた『心臓』の定義からしたら、これじゃ心臓1.5個分も無いな……」
「はぁ……はぁ……ふぅ……。1.5個分かぁ、うげぇぇぇ、きっつ……」
「まぁ、やるしかないだろ。デルタリボルバーとのレースについては、俺も前から何度も見返してる。あれに勝つにはもうこれをやるしかない」
「ふふ……私もまったく同じこと思ってる……一泡吹かせてやろうよ、心臓4個作ってさ!」
「おう! それじゃ、もっかいランニングマシーン付けるぞ」
「そ、その前にちょっと水分補給させて……」
「飲みすぎて吐くなよ」
最初のセットが終わり10分ほど、私の息が何とか整い、トレーナーさんとの掛け合いで自分を鼓舞しつつ、2セット目を行うために立ち上がった。
「あっ……」
しかしその瞬間、私の体に引っ掛けていた重りが落ちてしまった。しかも落ちた場所は、今から行われるトレーニングを実施するために高速回転し始めていたランニングマシーンの上だった。
「ぐはっ!?」
ランニングマシーンの上に落ちた重りは、マシーンの上で思い切り吹き飛ばされ、トレーナーさんの脛へと飛んで行った。ダンベルの端についているような硬いものではなく、袋に重いものが詰まっているような柔らかいタイプだったのが幸いして大きなけがにはならなそうだったが、その重りに当たった衝撃でトレーナーさんがよろめいてしまった。
「おっとっとっと……」
「あっ、トレーナーさん!」
「え?」
そうしてよろめいた先は、またもランニングマシーン。その上に乗ったトレーナーさんも見事に吹き飛ばされ、飛んで行った先は……。
「あぁぁぁぁぁシャインンンンン!!」
……トレーナーさんが私の為にたくさん水分を乗せて持ってきてくれた荷台の上だった。
荷台の上に乗ったトレーナーさんは怪我こそしていないようだったが、荷台の方が問題だった。なんとタイヤにロックをするのを忘れていたようで、吹き飛んできたトレーナーさんを受け止めた荷台は当然勢いよく走り出す。それも位置が悪く、トレーニングルームの外へ。
「ああああトレーナーさん!! どこいくの!!」
「きゃっ、何あの人!」
「危ない!」
「もおおおおおおおお!!」
いくら息が整ったとはいえ、足の痛みはすぐには逃げない。まだ少しだけ痛む足を走らせて、私はトレーナーさんを追った。
「やれやれ……やっと戻ってきたのね」
「おう、帰ってきたら夏合宿の途中に乱入することになるとは思わなかったけどナ」
久しぶりに訪れるトレーナー室にて、俺は久しぶりに見るトレーナーの顔を拝ム。
トレーナーの顔は相変わらず女とは思えないほど恐ろしく、俺でも多少接し方を考えてしまうほどだっタ。
「……やれやれ、またトレーニングメニューを考える日々が始まるのね」
「おいおい、嬉しくないのかヨ」
「あら、トレーナー冥利に尽きるとでも言えばよかった? 楽しければ体力使わない、なんてことはないのよ」
「楽しいんじゃねぇかヨ」
なんだかんだ言って怖いトレーナーだが、一応は俺の担当トレーナーを楽しんでくれているようで何よりダ。トレーナー室でしばらく座っていて数十分、俺はある相談をしていないことに気付いタ。
「トレーナー、スターインシャインって知ってるカ?」
「……チームキグナスとやりあってる強いウマ娘、この前のダービーではキグナスに遅れを取ってたわね」
「俺、今度のセントライト記念であいつとやりあウ」
「……正気?」
トレーナーは呆れたようにそう聞いてくる、俺の担当をしているのなら俺の性格はわかりきっているだろうニ。
「ああ、俺はいつでも正気だゼ」
「やれやれ……。私の見る限り、他のウマ娘よりとびぬけて強いわよ。それでもやるというの?」
「当然ダ」
「はぁ……やれやれ……。これから組むトレーニングメニューが大変になりそうね」
トレーナーはデカいため息をついてからパソコンとにらめっこ勝負をはじめちまった。
「……どうして急にスターインシャインをターゲットにしたの?」
「……強え奴と、やりたいかラ」
「強いやつの基準は?」
「俺があいつを真の競争ウマ娘として認めてるからダ」
「……また、来たぞ」
その子以外誰もいない病室にて、俺は返事が返ってこないと分かりながらもその子に声をかける。
案の定、返事は返ってこない。しかしこれで良い、これがいつもの事だ。いつも返事が返ってこないと分かっているのに、鉄パイプに腰掛けてずっと話しかけている。
「すまない、俺のチームは今あるウマ娘に負けそうになっている。お前の……お前がサブトレーナーとして帰ってきてくれる頃には……潰れてしまいそうになっている」
ベッドで幸せそうに眠っているそのウマ娘は俺の声に対しなにも反応を示さない。この部屋に流れているのは俺の声と、いつも来た時に控えめに流している曲と、唯一そのウマ娘が生きていることを証明してくれる心電図の音だけだった。
「……泣き言は良くないと、お前は言うだろう。しかしこれでは……。いや、まだだ、デルタリボルバーとツインサイクロンで……あの二人ならば……きっと……」
「お前の……俺たちの目標の為に……『最強になる』ために……ドリーム……」
突然、俺の後ろにあるドアが勢いよく開いた。この勢いのある開け方は何度も聞いている。
「
「……はい」
俺は鉄パイプのイスから立ち上がり、病室を後にする。
またしばらくしたら、迎えに行こう。