持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第七話 雪辱の未勝利戦

 

「また、戻ってきたんだね……ただいま」

 

 私は、再びこの地に帰って来た、毎度のごとく人が溢れている京都レース場、私が敗北を味わったメイクデビュー、そこで負けた人たちの復活戦、未勝利戦が行われる、ここで勝利することが出来れば私は晴れてデビューできるのだ

 

「こんどこそ、負けないぞ、シャイン」

 

「シャイーーーンっ! 応援来たよーーーっ!」

 

 声がする方を見ると、サンが速水さんやクライトと一緒に応援しに来てくれていた。

 ……サンに関してはボロボロになったトレーナーさんを引きずりながら……恐らくサンのテンションが上がりすぎてここまで引きずられてきたのだろう、スーツが大変な事になっている。私のトレーナーさんはそのボロボロな木村さんを見て気の毒に思いながらも少しだけ笑いをこらえられなくなっている。

 

「シャイン、頑張ってきてね! 私応援してるから!」

 

「うん、当然だよ!」

 

「スタ公、今度負けたら容赦しないからな」

 

「わかってるって! クライトとの勝負も必ずやろうね」

 

 私は友人から受けた応援の言葉を受け取って、レースの準備をしようと楽屋へ向かおうとしたその瞬間、後ろからサンの声が響いた。

 

「私、シャインと走るG1を楽しみにしてるから!」

 

 その言葉を聞いて、私はハッとする、自然と口角が上がるのを感じた。にやにやしているのを悟られないように表情を固めて後ろに向きなおす。

 

「……シャイン? どうしたの?」

 

「いや、なんでもない! 私、勝ってくる! 勝ってデビューしてくるよ!」

 

 私は、私の返せる最高の言葉を選んで、戦いの場へと向かった。

 

 そうして私がコースへ向かうための地下通路には誰もいなかった。トレーナーやほかのみんなには来ないでくれと言っておいたから、その約束を守ってくれたのだろう。なぜ来るなと言ったかは……私自身分からなかったけど、早めに席を取っておいて、私の活躍を間近で見てほしかったから、だと思う…?

 

『前回は惜しくも6着になってしまいましたスターインシャイン、今回リベンジを果たし、デビューすることはできるのでしょうか』

 

『彼女の末脚は本物ですからね、最後の伸びに期待したいです』

 

 外で私の事を話す実況の人の声が聞こえる、デビューすることが()()()()、なんて的外れな事を言っているようだ。私はデビューできるかを試しに来たんじゃない。

 私はデビューする、そうみんなに宣言したから、その宣言を守るためにここに来たんだ。

必ず……勝つ! 

 

「……よろしくお願いします、スターインシャインさん」

 

 ふと後ろの方から声をかけられる、そこには私よりも小柄な子が立っていた。こういってはアレなのだが、見るからに気が弱そうである。だがしかし勝とうという意志をしっかり発しているのが目に見えてわかる。確かこの子は……イーグルクロウ

 私とは別のメイクデビューで敗北してしまい、未勝利クラスになったウマ娘だ。

 

「よろしく、イーグルちゃん」

 

 私はイーグルクロウに一言だけ返し、地下通路という暗闇を抜け、ターフに立った。

 

「……よろしく、ですか……私は……」

 

『おおっとここで2番人気スターインシャインが姿を現した! 前回の雪辱を経て、さらに顔の鋭さに磨きがかかった気がします! 今回勝利をつかむことができるのか!?』

 

「……!」

 

 私は拳を握り、天高く掲げた、その動作に反応して観客席から少しだけ歓声が巻き起こる。

 

『スターインシャインが天高く拳を掲げたっ! これは勝利への意思を表しているのか! 

 1番人気ウッドラインも姿を現しました! 前回のメイクデビューとは違い、スターインシャインと逆の人気を得た!』

 

『彼女のロングスパートは驚くものがありますからね』

 

 

 

 

「……」

 

「いつになく楽しそうですね? スズカさん」

 

「ええ……本当に……」

 

 

「(シャイン……勝て……!)」

 

「なぁトレ公、俺こういう騒がしい場所苦手なんだけど……」

 

「それもお前に必要なトレーニングかな」

 

「蹴るぞ」

 

 いよいよ出走時間になり、私たち出走ウマ娘が各々のゲートに入る時間、私は深呼吸をしてゲートに向かった

 

『さぁ、メイクデビューで敗北したウマ娘たちのリベンジマッチ、未勝利戦、京都、芝、2000m、バ場は絶好の良バ場です』

 

「……」

 

 ただ前を見据え、ゲートに入る。ゲートに入った瞬間、何にも例えられない熱さが私の体を駆け巡るのを実感する。この勝負で絶対に勝つ、未勝利クラスを脱してみせる。

 

『この未勝利戦で勝利をつかみ、見事羽ばたくウマ娘はどの子なのか……!? 未勝利戦、今……』

 

 実況の人がゲートのランプを確認し、スタートの合図に備えた数秒後、ゲートが勢いよくガコンと開いた。

 

『スタートしました!』

 

『先頭で飛ばすのは9番スターダストロメオ、その後ろ7番スキュラマッスル、5バ身ほど空いて5番キュウリョウブクロ、スターインシャインは相変わらず最後方からだ!』

 

「(スタートも完璧、脚もいい感じに運べてる)」

 

 私はいつものようにレースを運べばいい、前にはイーグルクロウ、恐らくだがこのレースにおいて一番危険だろう、まるで私を前に出さないと言わんばかりにぴったりブロックしてくるマークだ。今までの私だったらここで予定が狂ってしまい多少掛かっていただろう、だけど私はトレーナーさんから精神面を鍛えるためにあるトレーニングをもらっていたのだ。

 

 ……そのトレーニング内容と言うのは、スピーカーからいろんな虫の羽音を流した部屋で座禅を組むというものだ、これは未勝利戦の1週間くらい前から行っていたものなのだが……

 

「(いーーーっ、思い出すだけでも鳥肌が立ちそうになるわ、思い出すのやめよう……くわばらくわばら)」

 

『6番、イーグルクロウが前を見据えている!』

 

 

「スタ公、かなり落ち着いてるな」

 

「そりゃそうだ、前回のメイクデビューは掛かってしまったからな、しっかり反省してトレーニングしたぞ、精神力をな」

 

 シャインは前回、プロミネンスサンの威圧感、姿が見えない恐怖におびえ、掛かってしまったのだ。だが今、俺が監修したトレーニングを行ったシャインはその程度では掛からない。

 

「滝修行でもしたのかよ?」

 

「まぁそんなところかな、アッハッハッハ」

 

「橋田よ……何したんだお前……」

 

 俺が笑う様子を見て速水さんが白い目を向けてくるが、気にしないでおこう。

 それに、万が一シャインが掛かってしまっても、シャインにはあの『武器』がある、シャインにしかできない、たった一つの武器があるのだ。

 

『第一コーナーに入った! 6番イーグルクロウが少し前に出たか! スターインシャインは未だ後方で押さえたまま!』

『彼女の脚質に合っている走り方です、ですが今日は何か様子がおかしいですね、終盤の展開でどう変わるかが気になります』

 

「くっ……」

 

 コーナーを回ろうとしたが、他のウマ娘達が内側、外側を固まって走るため、私は垂れない為にも大外を回る羽目になり、かなりのロスになってしまった。

 一応クライトとのトレーニングで見つけたこのステップを踏むような動きを使えば、横に動くことで発生する体力の消耗をある程度防ぐことができることを知ったので、私はそれをフル活用し、垂れウマ集団に構うことなく大外からコーナーを回りきることができた。

 

 

「かなり苦しい走り方ね……シャインちゃん……」

 

「大丈夫ですって! スズカさんが励ましたんですから! きっと勝てます!」

 

「私が励ましたから必ず勝てると言うわけではないんだけど~……スペちゃん……」

 

 

 レースが始まって数十秒、鹿毛のウマ娘は後方でじっくりと仕掛けるタイミングを見計らっていたが、突然ある疑惑を抱き始めた。それは地下通路でも言葉を交わしたイーグルクロウの事であった

 

「(ゴールまではまだまだある、スタミナもまだ残っている、けど……)」

 

 私の疑惑、イーグルクロウはスタート直後、即座に私の前にぴったりくっついてきた、第一コーナーを回った時もそうだ、まるで私の進路を塞ぐように内側の位置を奪われたから私は大外に追い込まれ、軽やかステップを使ってもかなりスタミナを削られてしまった、何か私をマークしているような? 

 

「邪魔だっ!」

 

「なっ……」

 

 ちょうどそのような疑惑を抱き始めた瞬間に、イーグルクロウが私の体に体当たりをしてきた。もちろんそんなことをすればすぐにわかることだ、でもほかのウマ娘に隠れてちょうど審議の人たちには見えないかもしれない。

 

『先頭から振りかえって行きましょう』

 

 やはり気づかれていないか……そりゃそうかもしれない、確かに公式レースと言う大事な場面ではあるが、G1でもなければ、G2でもないレースだ。そうなれば関係者の中に適当に仕事をする人が混じっていても仕方がない、私の方に運が無かったが故の失速。

 

 私は体勢を立て直したが、ただでさえ最後方の私は差しの位置についているイーグルクロウにさえ大差がある……

 

「(これでスターインシャインさんはもう上がってこれない……私は勝つんだ……勝って賞金を稼がなくちゃいけないんだ……家族の為に……)」

 

 

「どうやら6番は降着するみたいだな」

 

「え?」

 

 突然速水さんがそのような事を口にした、6番……はイーグルクロウと言うウマ娘だ、そのウマ娘は見た感じ何もしていない様子だったのになぜ突然降着するなどと言う事を口にしたのだろうか。

 

「……橋田、気付かなかったか? シャインは体当たりをかまされた、実況は気づいていないが、審議の人たちは気づいているだろうさ、仮にイーグルクロウが1着でゴールしても、降着の判断が下るだろうさ」

 

「面白いことするが……こうやってトレ公1人にでもバレるなら3流だな」

 

「なぜそんなことを……いや、今はシャインが心配だ……!」

 

「シャイン、体当たりされたんでしょ? あの子あそこから上がってこれるのかな……」

 

 

「(勝たなきゃ……勝つんだ……シャインさんに体当たりしてでも……他の人を蹴落としてでも……)」

 

 まだ第二コーナー手前だが、この時点でもう喉が呼吸の空気摩擦で張り裂けそうなくらい呼吸活動を繰り返している。

 でも、この未勝利戦で負けてしまったら、もしも、私が負けてしまったなら……

 

 もう私の()()()()()()()()()()()が……無い……

 

 私がどうしても勝たなきゃいけない理由……それは私の母親が病気だからだ。

 

 私は貧乏な家庭で育った。父親は私が生まれる時、母親のいる病院に来る途中で車の運転を焦り、事故にあって亡くなった。それでも私の母親は一生懸命私の事を育ててくれていた、父親がいなくなったと知り、母親自身、父親が亡くなったショックで辛かっただろうに、すぐにパートを掛け持ちして、育ててくれた。

 そしてウマ娘だった私は、何とか資金を集めてトレセンに入学し、トレーナーさんもつけた、母親も喜んでくれた。

 でもそんな生活もずっとは続かず

 私の母親は、2か月前に脳腫瘍が見つかった、悪性だ。

 

 そこからは簡単だった、母親から仕事が続けられなくなったと連絡が入り、なけなしの貯金を崩して生活しているようだった。だから私は、必ずレースで勝って母親の治療費を稼ぐと誓った。

 

 でも私はメイクデビューで敗北し、デビューできなかった。母親の命は刻一刻と消えて行っているのに、出遅れてしまった。

 

『イーグルは無理しなくていいのよ、私はどうせ病気持ちで死ぬ身なんだ、今更生きようとも思わないよ。イーグル、お母さんはあんたっていう娘がいるだけで、十分楽しい人生だったよ、だからお母さんの事は気にすんな』

 

 なんで、なんでそんな悲しいことを言うんだ、トレセンに入学させてもらってるのに、私だけが幸せになってるのに、お返ししないなんておかしいじゃん。

 

 私は必ず勝って、お母さんに幸せな余生を送ってもらうんだ。

 何があっても負けるわけにはいかない、何をしても勝たなければならない。

 

 

「必ず勝つからぁ!」

 

 

『第二コーナーを回りました! イーグルクロウが前に上がってきている! だんだんと前に上がってきた!』

 

「ふぅっ……ふぅっ……」

 

 割とさっきのタックルが効いている、実はイーグルクロウが左腕を振る動作と重なりあのタックルの際、肘がみぞおちに入っていたのだ。インターバルトレーニングしてなかったら呼吸器官終わってたわ……苦しいのに変わりはないけど。

 

 さて……第二コーナーはさっき回ったと思ったけど、あっという間に第三コーナーか、そろそろアレを仕掛けてもいいかもしれない。

 

 私だけの武器、本番のレースで試すのは初めてだから成功するかはわからないけど、必ず決めて見せる。

 

「さぁ……行くよっ……!」

 

『おっと8番スターインシャインがここでは早めのスパートを…………なっ……なんだこの走り方は!?』

 

「全く、いつみても信じられない光景だな、橋田」

 

「頭おっかしいな、スタ公のやつは」

 

『はっ……8番スターインシャインが……()()()()()()()()()()()()っっ!』

 

 ~~~

 

「それでシャイン、お前の武器だが」

 

 そういうとトレーナーは、突然地面にうつぶせで寝転がり、片足を階段を上るかのように伸ばした状態で膝の位置の地面に刺し、もう片方の足を踏み込んでいるように伸ばした状態で地面に刺した……ちょっと私にも説明が難しいが、こうとしか言いようがない。ちょっと頑張って噛み砕くと、地面にうつ伏せになっている。

 

「いや、だから、こういう事」

 

「え? ど……どういうこと……?」

 

「走っている最中、シャインはここまではいかないけど、ほぼこれと同じように走っていたぞ。究極の前傾姿勢だ。お前は地面のすれすれまで体を前傾させて、その体制を維持して走ることができる、しかもペースを落とさずにな。恐ろしい背筋だ」

 

「ええ!? そんなことになってたの!?」

 

 私は話を聞いて驚愕した。何せその話の内容は現実的に信じられないようなものだったからだ、当事者である私もあるわけがないと思ってしまうような内容だった。

 

「俺も最初見た時信じられなかった、だが確実にお前は実行して維持もできていた、恐らくこれをモノにすればお前は唯一無二の武器を手に入れられる!」

 

 確かに自分の体制が分からない時、後ろ側が見えていた気がする。それはつまり、私が下を向いている状態で走っていたからだ……何を言っているんだ私は? 

 

「正直そんな怖い状態を本番のレースで行うのは凄い怖いけど……わかった! 私、絶対それを身に着けて勝って見せるよ! トレーナー!」

 

 ~~~

 

「ああ、走りやすい! どこまででもスピードを上げられる気がする!」

 

 私だけの武器、それは──

 

 地面を階段のようにして走ることだ。分かりやすい例えだと、オグリキャップさんなんかは凄く体が柔らかいから、前傾して走ってるのは誰もが知っているだろう。この走り方はそれよりもさらに前傾し、もはや足が心臓の前後を行き来しない状態になるのだ。芝につま先をぶっ刺して階段のようにして走っていると言えば伝わるだろうか。

 

 だが当然この走り方にも弱点がある。脚が常に後ろ側にある以上、少しでもスピードを落とすと地面に身体がついて飛んで行ってしまうことだ。だけどそれ以上に空気抵抗が少ないのも事実だから、どれだけペースを上げても疲れない。疲れないと言う事はペースが落ちず地面に身体が点くこともない、私のスタミナ強化トレーニングが生きた瞬間だ。

 

「なんであんな走り方ができるの……!?」

 

『恐ろしい力! まさに8番スターインシャインにだけ重力が横にかかっていて、芝の壁を駆け上がっているよう!』

 

『あんなウマ娘、見たことがありません』

 

 ロケットのように私は走る。ぐんぐん前に進んでいるのが分かる。

 

『第三コーナーを回りました! コーナーを回る際には姿勢を起こしましたが、コーナーを回ったらまたすぐに前傾し、スターインシャインが相変わらず流れ星のように横向きの走りをする! 完全に物理法則を覆す走り方! もう訳が分からない!』

 

 

「ぐぅぅぁぁぁぁぁぁ!」

 

 私が走っている最中、信じられないことが起きていた。スターインシャインさんが前の方に上がってきているのだ。先ほどタックルを決めたと言うのになぜここまで上がることができるのだろうか。しかし私はお母さんの為に、この未勝利戦で負けられない、負けられないんだ。絶対に抜かせない、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、私はタックルまでしたんだ、勝てるはずなんだ。

 

『6番イーグルクロウも負けじと前に伸びる! 先頭のキュウリョウブクロはもう捕まった! 6番イーグルクロウと8番スターインシャインの一騎打ちだ!』

 

「マジか……あのシャインより速く走るなんて……」

 

「さぁ、分からなくなってきたぞ」

 

「勝てーーーっ! 勝って! シャイン! 負けるなーーーーーっ!」

 

 

 おかしい、あのイーグルクロウって子、私がスパートをかけ始めた瞬間に早くなった、ペースを上げないと……

 

 ……さっきペースを上げても疲れないと言ったけど、あれは間違いかもしれない。確かに疲れはしない、だけど脚に疲労がたまって行く感覚は確かにある。このままじゃまずい気がする……

 

「あぐっ……!?」

 

 突如、右脚に痛みが走る。

 

 なんだ、この痛み。

 

『おおっと8番スターインシャイン、とうとう耐えられなくなったのか上体を起こした! スターインシャイン、沈んでいく! 6番イーグルクロウが先頭を行く!』

 

 

「そんな……シャイン……」

 

「なんでだ……なんで沈んだんだよ……シャイン……」

 

「おい橋田、下見てないで前見てみろ。右脚だ、右脚に何か問題が起きたみたいだぞ」

 

「右脚……!?」

 

 速水さんに言われ、俺は必死にコース上のシャインを見た。右脚の部分を見ると、シャインは確かに右脚を守るように走っていた。骨折……いやしかし、走れてはいる、それはない、ならばなんだ。

 

「やりすぎたな、トレーニングを」

 

「トレーニングをやりすぎた……?」

 

「オーバートレーニング症候群だ、右脚がマヒしたか、激痛が走っているんだろう」

 

 オーバートレーニング症候群、疲労が積み重なり、慢性疲労状態になることだ。そしてひどくなると、体がマヒしたりすると言う事を前に何かで聞いた気がする。

 

 確かに、ここ最近のシャインは、『武器』のトレーニングも相まり、かなり疲れているように見えた。その疲労に気付けていなかった、俺のミスだ……

 

「また……勝てないってのか……俺は担当をデビューさせられないってのかよ……」

 

また自分の担当を勝たせることができなかったと言う現実に絶望し、俺は柵に手をつき再び下を向いていた。しかしその時だった、突然俺の聴覚が向いている方向から聞きなれた轟音が聞こえる。

 

この轟音はシャインがスパートをかけて走っている最中に出す轟音だ、しかしシャインはオーバートレーニング症候群で沈んだはず。しかし轟音は聞こえていると言う矛盾した現実に疑問を抱き、また俺は前を向く。

 

「橋田、トレーナーってのは、どんな時でも担当の事を信じて、いつまでも担当の勝利を願う職業だ。お前があの子より先に勝てないとあきらめてどうするんだ、見てみろ、あれを」

 

「う”ぅっ……う”あ”あ”あ”あ”!」

 

『第四コーナーを回り最終直線、8番スターインシャインが再び横向きで走っている! 一度沈んだがまた上がってきた!?』

 

「あの子の眼は、まだ諦めてない。戦う意志や勝ちたいという執念が輝いている、彼女の眼の中でギラギラと燃えている」

 

「スタ公より先にへこたれてんじゃねぇ、バ鹿が」

 

 

「あ”ぁ”……あ”ぁ”ぁ”……!」

 

 かならず勝つんだ……絶対に……私は……

 

 つかんでやる……勝利を……約束したから……! 

 

「ん”ん”っ……あ”あ”! くそっ! ……止まれないんだよ! 止まるもんかぁ!」

 

 だって……サンが私を待ってるから……絶対に負けられないから……

 

「そんな……一回沈んだのに……なんでなの……!」

 

「行ぃくぞぉぉおおおおおおおあああああああああ! イィィグルゥゥ!」

 

 

「私の邪魔をしないでっ! 私だって勝たなくちゃならないんだぁぁ!」

 

 実家で待つ私の家族の為に私は絶対に勝たなくちゃならない、気合で私の勝利が奪われてたまるか、どうせシャインさんはすぐに沈む! 

 

 

『さぁどちらだ!? どちらが先に抜けだす!? シャインか!? イーグルか!? シャインか!? イーグルか!?』

 

「ぐぁっ……っ!? そんなっ……!」

 

 もうダメだ、急に私の脚が前に進まなくなった、私の脚は限界を迎えたのが分かる

 

 もう、走れなくなってる……

 

 先ほどまで競い合っていたライバルが前に駆け抜けていくのが見える、私はまた、負けたの……

 

 

 

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