持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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第八十三話 許されざる弾圧 セントライト記念①

 

「おっはよ~トレーナーさん! セントライト記念……までは、まだ時間あるね」

 

「そうだな、つかお前早起きすぎな、朝の5時て」

 

「そんな時間に起きてるトレーナーさんも~?」

 

「当然セントライト記念で緊張してるんだよな~」

 

「「うぇ~い」」

 

 外を見るとまだ太陽が顔を出した直後の空をしていた。このような時間に起きてしまうのは、私もトレーナーさんもジュニア期の頃から変わっていないようだ。

 

「今日の作戦は?」

 

「差し戦術のウマ娘が多いからな、あまり後方に行きすぎると最終直線の最後の最後でバ群に呑まれる可能性がある。それでなくたってお前はいろんな陣営に警戒されているからな。確か先行の作戦も多少行けたよな? 今日はそれで行く」

 

「了解。時間もあるし、先行のイメージトレーニングしてもいい?」

 

「うし、タイム計測もついでにしよう」

 

 無意識に私はジャージを取り出し、おもむろに着替えはじめる。その空気を察して、トレーナーさんも後ろを向きながら器用に引き出しの中を探ってストップウォッチを取り出し始める。

 ……思えば、このようにレースの対策を綿密にすることを以前はしていなかった。そう考えると、私達のレースに対する考え方も、大分変わったのだろう。

 

 ま、タルタロスの件でだいぶ痛い目見たしなぁ……。

 

「ぐぅあぁぁァ!」

 

「え?」

 

 ジャージに着替え、トレーナーさんもストップウォッチやパソコンを持っていざコーストラックへ行こうという時、突然トレーナー室のドアが殴り開けられた。

 

 そのような乱暴な方法でトレーナー室に入ってきたのは、ヴェノムだった。

 

「え? え、ちょっと待って、いや待たないで。え、ちょ、ヴェノム一体どういう入り方よ!?」

 

「シャインお前……俺のトレーナーに何しやがっタ……!?」

 

「えぇ? 今度こそちょっと待って、話が見えない」

 

「とぼけるナ!! お前が……お前たちが俺のトレーナーに移籍届を書かせたんだロ!! それどころか……退()()()まデ!!」

 

「……え”え”え”え”!?」

 

 あまりにも話が飛躍しすぎているが、確かにヴェノムの口からは『移籍届』と『退職届』という言葉が出てきた。

 どういうことだ? 情報が足りなさすぎる。ヴェノム移籍する? どこに? 退職する? 誰が? 

 

 私達には、その情報が必要だった。とりあえずヴェノムを落ち着かせて、どうにかして話し合いが出来る状態まで持っていくことができた。幸い私達は早い時間に起きていたため、レース場に向かう車を走らせるまでの最低時刻は数時間先だ。話を聞く時間はいくらでもある。

 

「ヴェノム、一体何があったの? 移籍って? 退職って?」

 

「まず今朝、俺が起きると俺のスマホにあるメッセージが来てタ。もちろん俺のトレーナーからダ」

 

「それで?」

 

「そのメッセージには、長ったらしい文章に加えてある写真が添付されてタ。……これダ」

 

 そう言うとヴェノムは、自分のスマホを私たちに差し出した。その画面にはこう書いてあった。

 

ヴェノムへ。

あんまり面と向かって話すと、私もカッコ悪いところ見せるかもしれないから、メールになって申し訳ないね。

本日付けでアンタはここに移籍することになった。なんで突然って思うかもしれないけど、まぁ色々ね……。

まぁ、隠しても仕方ないと思ったから、この部分だけメッセージ書きなおすわね。

私は退職することにしたの。

それで、私が退職しちゃうとアンタのトレーニングをしてくれるトレーナーがいなくなるでしょ? だからそのトレーナーを確保するための移籍よ。もちろんそのトレーナーには許可を取ってある、今日からそのトレーナーの所に行けばきっと暖かく出迎えてくれるはず。

……やれやれ、ただの電子メッセージを打ってるだけなのに、なんでかねぇ。きついものがあるよ。

一応これが書類の写真だ。生徒会室か理事長室に行けば原本を見せてもらえるはずだから、気になるなら見な。

 

 そうして下の画面に添付されていたのは、確かに私のトレーナーさんの名前と、ヴェノムのトレーナーさんと思われる名前が書いてあった。

 

 

 

「……これが、君の答えと」

 

「そ、了解でオッケー? シンボリルドルフさん、理事長ちゃん」

 

「あの子のそばには君が付いているべきだと思うが……」

 

「……悲憤ッ、確かにチームキグナスの行動は、学園にもどうにもできないことではあるが……何もここまでする必要は……」

 

「いいの……これで、ヴェノムは……」

 

 私がいくら言っても、シンボリルドルフは眉間の眉を解かない、理事長ちゃんも自慢の扇子がぶち折れそうな力を込めているように見える。それほど重大な資料を提出しているのはわかっているが、そろそろ承諾して欲しいものだ。

 私だって……それなりの覚悟持ってここに来てるんだし。

 

「……さて、そろそろ失礼していいかな? 私も荷造りあるからさ」

 

「……」

 

「そんなに拳を強く握ってると、怪我するよ、会長さん」

 

「……私は、自分が情けないんだ。一トレーナーである君に、キグナスに関係の無いただのトレーナーだった君に、ここまでさせてしまう事を」

 

 内心私は驚く、まさかあの生徒会長さんがこんな表情を見せるなんて。

 

「大丈夫ですよ、昨日話してみてわかった。きっとあの子ならうまくやれる。あの人になら任せられる気がする。それに私も……もう潮時だと思ってたから」

 

 

 

「ふざけんナ!! トレーナーがいなくて、俺はどうしろっていうんダ!!」

 

「……ヴェノムストライカ、今は俺がトレーナーだ」

 

「うるせェ! 俺はあいつと頂点目指すんだヨ!」

 

「もう決まったことなんだ、君のトレーナーは……!」

 

「だとしてもなんでダ! なんでトレーナーは退職することになっタ!」

 

 ヴェノムは私にスマホの画像を見せるや否や怒りを再びあらわにする。いくら私が移籍に関係ないと言っても、いつの間にか私のトレーナーさんが移籍に関わっていたのだ。言い訳ができない。

 どうしてトレーナーさんも、私に黙っていたのだろうか。

 

「君のトレーナーが退職することになった理由、それはチームキグナスからの圧だ」

 

「圧……?」

 

「昨日、氷野と言う男に追い回されなかったか?」

 

 ヴェノムは思い当たる節があったのだろう、無言でうなずいた。

 

「そして君はキグナスへの移籍を断った。その後だ、君のトレーナー……『竹内』トレーナーに圧が掛かったのは」

 

「俺のトレーナーに何ガ……?」

 

 ヴェノムにそう質問され、トレーナーさんはもったいぶるように言葉を止める。時間にして10秒ほど経ったあたりで、トレーナーさんはついに喋り始めるかのように口を開いた。

 

「……それは君のトレーナーに言わないよう言われている」

 

「なんでダ!!」

 

「……私も聞くけど、なんで?」

 

「シャイン、お前にも話せない」

 

 私とヴェノムがいくら問いただしても、トレーナーさんは頑なに竹内トレーナーの退職理由を言おうとしない。何故そこまでして言わないのだろうか。ヴェノムが竹内トレーナーの退職理由を知れれば、きっと移籍にも納得してくれるかもしれないのに。

 それとも、何かヴェノムが納得しないような理由なのだろうか。

 

「セントライト記念。セントライト記念でお前たちがどう勝負するか、勝負の結果次第で話そう」

 

「……シャインに勝てって事カ。やってやル」

 

「……トレーナーさんも、めんどくさい正確になったねぇ」

 

「好きに言えぇ」

 

 時刻を見ると、なんだかんだ準備を始めなければならないような時間になっていた。私は着ていたジャージを着替え、ヴェノムも自分の寮室に戻って準備をするために部屋を出た。

 

 その後はいつものようにトレーナーさんの車に乗ってレース場に行くわけだが、当然ヴェノムも私のトレーナーさんの担当ウマ娘になったので、ヴェノムも一緒に車に乗る。これがなんと気まずい事か。

 

 退職などという担当ウマ娘にとって重大な単語が絡んできていると言うのに、その理由すら知れず、この後戦うというのに、一緒の車に乗ると言うのは、とてつもなく気まずかった。

 

 

 

「さて、着いたぞ」

 

 しばらく車を走らせて到着したのは、中山レース場。セントライト記念が行われるレース場だ。

 

 いつもならトレーナーさんと今日のレースで走る作戦について話し合うところだが、今はヴェノムがいるので何も話しようがない。というより、今日の私の体調や、今日の天気、最近のタイムの話だったり、私とトレーナーさんがする会話全てがヴェノムに情報を分け与えることになってしまうため、本当に何も話せない。

 

 流石にレース場にまで来て好きな食べ物の話とかするのもおかしいだろうし……。

 

「……俺は一人で準備すル。シャイン、お前と……トレーナーは二人で作戦でも話し合ってロ」

 

「え? う、うん」

 

 ちょうど私が話す話題について困っていたが、困る間もなくヴェノムは一人でレース場の方にとぼとぼ歩いて行ってしまった。その背中はすごく寂しそうで、まるで生きる気力を失ったかのような背中だった。

 

「……トレーナーさん、すぐに話してくれても良かったんじゃないの? ヴェノムが移籍してくること」

 

「今日中にヴェノム自身から来るだろうと思ってたからな。話すまでもないと思ったんだよ」

 

「……竹内トレーナー、なんでヴェノムを見捨てるような事……。ヴェノムなら、キグナスにだって対抗できる実力くらいあると思うのに……」

 

「……行くぞ、シャイン。作戦は朝話した通りだ」

 

 竹内トレーナーの退職に不信感を抱いていると、それを止めるかのようなタイミングでトレーナーさんが私の手を引いたため、とりあえず竹内トレーナーの退職理由について何も考えずヴェノムとのセントライト記念の事を考えることにした。

 

 

 

「……トレーナー、カ。俺にふさわしいトレーナーはいるかナ」

 

「……やれやれ、何バカな事言ってんだ。アンタは何も戦績を上げてない、特別な生まれでもない、それなのに自分がトレーナーを選ぶ立場だと思ってるのかい?」

 

「誰だお前」

 

「竹内愛奈、一応トレーナーさ」

 

「ハッ、アンタみたいな感じ悪いトレーナーにだけはスカウトされたくねぇなァ」

 

「……ふ、トレーナーを見つける模擬レース出てみな、トレーナーの興味を引く難しさに気付くはずさ」

 

「そりゃどうかナ、こっちは小さい頃最強だったんダ。トレーナーの一人くらいは寄ってくるさ」

 

 そうダ、確か初めて出会った時、こんなやり取りをしていたはずダ。いくら性格が丸くなったとはいえ、口調が荒いところは変わってなかったからナ、初めて会ったトレーナーにも噛みついてたっケ。

 

「……ケッ」

 

「その様子だと、イマイチ興味は惹けなかったようだね。ま、今日に限っては仕方ないか、相手が悪い」

 

「……? どういう意味ダ? 俺は一着だゼ?」

 

「そうじゃないさ、向こうでやってる模擬レースに勝ったウマ娘がやたらすごいんだよ。確か、スターインシャインとか言ったかな?」

 

「……! シャイン……」

 

「なんだい、知り合いかい」

 

「何でもねぇヨ」

 

 小さいころに憧れていた奴の名前が聞こえて、この時に俺は強くなることを自分に誓ったんだったカ。昔の俺の走力は中の下、デビュー前のシャインに比べたら全く比にならない弱さだっただろウ。それは当時、シャインの出ていた模擬レースを見ても実感した力の差だっタ。

 

「ほら! もっとピッチを上げて! そんなんじゃG3にすら通用しないよ! そんなもんかい!?」

 

「はぁ……はっ……ハァ……好き勝手言いやがっテ」

 

 俺のトレーナーが考えるトレーニングはすべて過酷なもんだっタ。他のウマ娘のトレーニングを見て自分のと比較してみると、その負荷は3,4倍くらい違ったかもしれなイ。それくらい過酷なトレーニングだったんダ。

 

 

「……次カ」

 

 過去に思いを馳せていると、いつの間にかセントライト記念間近の時間になっていタ。トレーナーがいなくなってしまったと言うのは、俺にとって思いのほかショックのようダ。いや、今の心は『ようだ』などと言う言葉でうやむやにできなイ。今の俺の心は自分でも分かるくらいショックを受けていル。なんで、なんで退職なんテ……。

 

「……あいつにも、見せてやりたかったナ。俺の勝負服……」

 

 紫と緑を基調とした毒々しいデザイン、しかしポップさはしっかりと組み込まれていて、拳闘士の様な俺の勝負服。どうせ菊花賞に出ると言う事で前もって注文しておいたら、昨日届いたから喜びのあまり着ないのに持ってきてしまった勝負服。トレーナーが見たらどれほど喜んだだろウ。無愛想に見えて意外と感情を表に出すような奴だったからナ。

 

 あいつ(シャイン)の勝負服は西部劇のガンマンの様な服だったカ。奇しくも互いに戦う者をテーマとした勝負服、銃と拳、どちらが勝つか見ものだナ。

 

「っとと、何着ようとしてんだ俺……。落ち着ケ落ち着ケ」

 

 

 

「さて、今回の想いの継承、誰を継承するか……」

 

「そだねぇ」

 

 セントライト記念まであと数レース、時間も迫ってきて私たちの緊張感が増してきたころ。自分たちの控室で私とトレーナーさんは何度目かの作戦会議をしていた。まぁ何度作戦会議をしても困る物ではないし、暇な時間にやってるし、考えすぎになることはないだろう。

 

「しばらく考えていたんだが、11番ロードシャイニングの動向は恐らくお前をぴったりマークした差しだと思う。またロードシャイニングも活躍しているウマ娘だから、それを追ってさらにマークしたウマ娘が寄ってくる。これも多分……4番ミドルサンダーだ」

 

「異論無し。私もそう思うよ、その上で誰を継承するかだよね」

 

「そうだよな……」

 

 確かに私の使う想いの継承は、以前とは違い『レースに関係のある人物』でなくとも継承が出来るようになった。しかしその人物は『ある程度親交を深めた知り合い』に限られる。逆を返せばただ親交を深めただけで好きなレースで継承が出来ると言うことだ。

 

 ただここにも問題があり、知り合いの中でだれでもいいと言うわけではないのだ。

 

 継承率。

 私が想いの継承を使うとき、いかにそのレジェンドの力を継承・再現できるかの指数だ。

 今私の継承できるレジェンドの中で最も継承率が高いのはアグネスタキオンさんの力。継承率は60%というところだ。

 

 継承率が高いレジェンドが分かっているのならそのレジェンドの力を継承し続ければよいと思うかもしれないが、想いの継承の特性がそれを難しくしているのだ。

 想いの継承の特性、それは作戦や走り方が継承したレジェンドに近くなるというものだ。

 それはつまり、自分の作戦との差異が継承率を低くするのだ。例えば逃げの作戦を打ったレースで追込レジェンドの力を継承しても、その恩恵は低くなる。そういうことだ。

 

 自分の走る位置取り、作戦によって継承するレジェンドを変えなくてはならないのだ。

 当然シチュエーションごとの適性が高いレジェンドがいれば、追込みの作戦を打ったレースでも逃げウマ娘の力を継承した方が良い事もある。

 

 継承率・作戦の差異・シチュエーションごとの適性。

 これら三つの要素が、私の継承するレジェンドウマ娘の選択肢を狭くしている。

 特に難しいのが、今回のような多くのウマ娘にマークされている場合。

 

 複数のウマ娘にマークされているプレッシャーを完璧にはねのけるレジェンドはそういない。多少軽減は出来るだろうが、100%プレッシャーをカットできるウマ娘となるとナリタブライアンなどのクライトみたいなタイプのウマ娘の力が必要だ。

 

 サイレンススズカ・スペシャルウィーク・セイウンスカイ・アグネスタキオン・ゴールドシップ

 とりあえず思いつく継承の選択肢はこれくらいだ。

 

 前に一度クライトと個人的に行ったマジレースでドンナさんも継承してみようとしたんだけど……私の体が異様な負荷に襲われて継承できなかった。

 

 今回求められるのは、マークされることによるプレッシャーをはねのけながら差しの作戦を行えるウマ娘、普通に考えればスペシャルウィークさんかアグネスタキオンさんの力を継承すればよいのだが、もし万が一、マークされすぎたが故に一人では突破が不可能なほどのバ群が出来たら? 

 

 突破不可能なバ群と言えば、テイエムオペラオーさんのレースが記憶に新しいのではないだろうか。あのレースの映像を競争ウマ娘となってから二回ほど見ているが、どちらも私には再現不可能だと確信させられたレース映像だった。あのバ群を抜けることは誰にだって不可能、そしてその壁は彼女がマークされすぎていたから作られた壁だ。今回のレースに出走するウマ娘の過去レースを見ると、マークを重点に置いて走るウマ娘が多い、当然このレースでマークされるウマ娘と言うのは『私・ヴェノム・もう一人』と構成された、上位3位までの人気のウマ娘くらいだ。

 

 しかしヴェノムは最近復帰してひさしぶりのG2だ、いくら伏兵の可能性があるとしてもまずマークされないだろう。そしてもう一人のウマ娘は、確かに強いには強いが、私と比べてみても戦績にインパクトが少ない。トレーナーたちが自分の担当ウマ娘を勝たせるために誰をマークすればいいか考えた時、このレースに限って真っ先に思い付くのは私以外にありえない。

 

 それらの要因が重なり、突破できないバ群が作られた時の想像をしてしまうのが現状だ。

 せめて、せめてテイエムオペラオーさんの力を継承できるくらい親交を深めていれば……。

 

「……うわ、もう次か」

 

 時間の流れと言うのは本当に速い、ただ考え事をしていただけなのにもうセントライト記念間近の時間なってしまっていた。

 

「結局、決まらなかったな。どうする?」

 

「……分からない」

 

 しかしもう遅い、テイエムオペラオーさんがセントライト記念を見に来ることは、見に来る理由は特にないはずだ。もし、もしも万が一奇跡のようなことが起きて、セントライト記念に出走する知り合いを見にこのレース場に来ているという事があるかもしれない。だがそんな、糸のように細い確率にすがるのはできるならやめたい。

 

「やるしかないだろうな、何かしら継承して」

 

「とりあえず行ってくるよ」

 

 私が来ている服は体操服、G2だから体操服なのだが、イマイチ気合が入らない。私はゼッケンを締め直し、パドックへと歩き始めた。

 

 

 

「……」

 

「やぁ、トレーナー君。やはり君も気になってしまうのだね、ヴェノムストライカのレース……」

 

「まさかの行動をされ、ヴェノムストライカをキグナスに吸収できなかったのは驚いたがな」

 

 中山レース場の観戦席にて一人で座っていると、先ほどスマホアプリで呼んだキングスが俺の隣に座った。キングスは到着して開口一番に竹内トレーナーの話を切り出してきた。正直セントライト記念の関係者ではない俺たちは今一般の観戦席にいるため、そういう話は控えたいものだ。

 

『ヴェノムストライカをキグナスへ移籍させろ、させなければレース界との関わりを全て断たせる。トレーナー業も続けられると思わない方が良いだろうな』

 

 俺が昨日竹内トレーナーに電話越しに伝えた言葉だ。それほど時間も経っていない為記憶に新しい。

 

 レース業界からの関わりを断たせる。昔からよくやってきたことだ。俺が利用関係にある人の力を使い、二度とURAに関われないようにすることなんてたやすいことだ。第一利用関係にあるヤツですら、俺が弱みを握っている、全ては俺の気分次第にある。

 

「自らトレーナー職を断つ……か、確かに自分からトレーナーを退職されると、俺はこれと言った妨害をできない。竹内トレーナーはトレーナーとなって長い時間が経っていた、これを引き際と見るのは自然な事だ。それを予知できなかった俺のミスだな」

 

「……セントライト記念が始まるみたいだよ。彼女の底力を見せてもらおうじゃないか」

 

「そうだな」

 

 

 

「ヴェノム……」

 

「シャイン……」

 

 パドックにて、ウマ番が隣り合った私たちは入れ替わるように先頭へと立つ。すれ違う瞬間、電流の様な感覚を感じたのは私だけではないはず。お互いのプライドをかけて戦うと決めたセントライト記念。それはこの二日間で突然に課せられたものが大きくなった。

 

 これから一緒のトレーナーの元で走り抜ける私たち、でもヴェノムには私達の元で走る気は全くない。私が全力でヴェノムにぶつかり、私のトレーナー……橋田さんの元で戦いたいと思わせる、私の力で説得するレースだ。

 

「お互いに、全力で戦おウ」

 

「……あったり前!!」

 

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