持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話   作:りのちゃん

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作者「大きく分けて二つの構想が思い浮かんでいる……自分のやりたい方を通すか、明らかにまだマシな方を選ぶか……。それどころか、その二つの構想は練れる場所がまだいっぱいあります。まだまだ私の構想力もイマイチということを実感させられます、これだから小説は面白い。もっと面白いストーリーを作り出せるよう独学で研究をします」


第八十四話 許されざる弾圧 セントライト記念②

 

「あなた担当の子を怪我させたんでしょう?」

「明らかにきついトレーニングよね……」

「ウマ娘を道具か何かと勘違いしてるんじゃないの!?」

 

 知るか、そんなこと。

 

 これが私のトレーニングだ。

 

 ついて来れないなら他のトレーナーの元に行けばいい。

 

 これが以前の私だ。『有馬記念を圧勝する』と言う目標の為に、私は数々のウマ娘を犠牲にしてきた。

 

 何年も何年も研究を重ね、理論上ウマ娘にとって最適なトレーニング、それを私は開発した。しかし本格的にトレーナー業を始めてからというもの、私のトレーニングに耐えるウマ娘は誰1人としていなかった。理由は明らかだ。私の研究したトレーニング、それは、理論上ウマ娘の()()()()()()()()()最適なトレーニングだったからだ。

 

 たとえ結果的にステータスが伸びるとしても、それにウマ娘の体力がついて来れなければ意味が無い。そう私は結論付けた。

 

 しかしどうということはない、それに耐えられるウマ娘が現れるまでトレーナー業を続ければ良い。正直怪我をさせた子には申し訳ないと思いお見舞いを欠かさなかったが、それ以外の勝手に離れて行った子には見向きもしなかった。

 

 どうでもいい。勝手にすればいい。

 

 そう思っていた、いつまでも。

 

 あの子に会うまでは、あの子をスカウトするまでは。

 

「やれやれ……ヴェノム、タイムが落ちてるよ」

 

「ハァ……ハァ……お前トレーニングきつすぎダロ……」

 

「やめるかい?」

 

「……もう一本!」

 

「その意気だよ」

 

 彼女がこなすトレーニングは一寸のブレもない、間違いなく私の研究したトレーニングだ。それなのになぜだ。私の想定していた結果より大幅に上振れた結果が出た。

 

 何故だ……? 

 

 その理由に気付くのは意外にも早かった。

 

 この子たちは、感情の力によって予想外の結果を生む。

 

 私が気付かなくとも、以前学園内で見知らぬウマ娘が言っていたな。感情は偉大な力だと。

 聞いた当初はバカバカしいと一蹴していたその理論に今になって共感させられるとは思ってもいなかった。

 

 でも現に私は、もう体力も切れかけて脚取りも悪く、体勢だってふらついているような、でも諦めず獣のように私の目の前を走り回るウマ娘に、そう教えられていたのだ。

 

 それからの私は変わった。以前怪我をさせたウマ娘には新しいトレーナーにも一緒に改めて謝罪をし、勝手に離れて行ったと貶していたウマ娘達にも同じことをした。

 当然、私は許されないだろう。でも、今私にできることをしようと思った。

 必死に、必死に、何度も、何度も、謝罪を繰り返した。

 

 決して謝罪の時間は楽しくない。唯一の楽しみは、ヴェノムが私の予想していた結果より大きく上振れる結果を出すのを見る時だ。

 

 彼女自身の才能もあったのだろう。私だってすべてのウマ娘を強くできる訳はないし、そもそもとして誰も耐えられなかったトレーニングを今ここでこなしている時点で相当な根性、忍耐力を持っているのは明らかだった。

 

 いつか、この子と一緒に、有馬記念のトップへと行けると思っていた……。あの日までは。

 

 

「ヴェノムストライカをキグナスへ移籍させろ、させなければレース界との関わりを全て断たせる。トレーナー業も続けられると思わない方が良いだろうな」

 

「藪から棒に、どういう意味?」

 

 突然夜に掛かってきたその電話、開口一番にそのような荒い口調で話しかけてくる相手に、私はひるまずに噛みついた。

 私がそう聞くと、電話の相手は咳払いをして一呼吸おいてから話しはじめた。

 

「……ヴェノムストライカは将来私たちのチームにふさわしい実力のウマ娘になる。そのため、私のチームへ移籍させていただきたいんですよ、竹内トレーナー。移籍にあたって、まずはヴェノムストライカ本人から移籍するかどうかの意思を聞きましたが……どうやら彼女はあなたの元が相当気に入っているようです」

 

 最初はいたずらかと思った。だけど電話越しに伝わるそのオーラ、最初に名乗ったチームキグナスという名前からして、いたずらではないことがすぐに分かった。

 ヴェノムを手放せと言うその電話。私の体は返答を考える前にすでにノルアドレナリンを分泌していた。ヴェノムをいまさら手放す? あり得ない。ヴェノムが移籍など望んでいないことだって、今この男から聞いたんだ。移籍などするわけない。

 

「残念だけど、断るよ」

 

 私の答えは、一つだった。

 

「……残念だ」

 

 電話の相手は、それだけ言ってすぐに切ってしまった。恐らく最初に言っていた通り、私はURAから消されるのだろう。

 

「そうだ……今活躍してるあの子のトレーナーに、任せようかな……」

 

 時間にして10分ほどだろうか、私はスターインシャインと言うウマ娘のトレーナーについて思い出す。そのトレーナーならヴェノムの事を受け持ってくれるのではないだろうか。ひたすら窓の外に浮かんでいる月を眺め、覚悟をゆっくりと決める。

 そして私は、机の奥の奥にある、埃をかぶりまくったファイルの中に入っている二枚の紙を取り出した。

 

 私は先ほど思い出した橋田と言うトレーナーへと電話をかける。

 

 この時間にはたして出てくれるだろうか。

 

「もしもしぃ……? 橋田です……」

 

 

 

「……元気にしてるのかな、あいつ」

 

 肌寒くなってきた9月の気温に震えながら、私は窓を見る。そういえば今日はセントライト記念があった。時間を見てももうそろそろ出走の頃だろう。あいつは、スターインシャインと上手く戦っているのだろうか。

 

「やれやれ……せめて最後に、生のあいつの走りを見てあげたかったな……私が鍛え続けてきた……あの子の最高の走り……」

 

 私が一人部屋でぼやいていると、私の部屋のインターホンが鳴らされた。

 

 こんな時間に誰だろうか。

 

「……速水周作です、竹内トレーナーで間違いないですか?」

 

「……ええ」

 

「全く……橋田の奴もめんどくさい仕事押しつけやがって……キグナスのせいで探すの大変だったぞ……」

 

 

 

「ヴェノム、私は正直、昔の事を許してもいいかなって思ってるんだ」

 

「今更なに言ってんダ。このセントライト記念は俺たちの決着をつけるレースだロ」

 

 ゲート前、悩んだ顔をしていたヴェノムに励ましのつもりで声をかける。しかしヴェノムはもうスイッチが入っているようで、勝負するウマ娘の顔になっていた。

 

 私は夏合宿の時、ヴェノムの武器を見ていなかったが、ヴェノムは私の武器をしっかり見ていただろう。つまりこの時点ですでに情報アドバンテージが取られている。事前に対策が出来るのと未知の武器と戦うのでは、天と地ほどの差がある。もしヴェノムの武器が、クライトの領域並みの武器ならば私は負けるかもしれない……。

 

「分かってる。期待してるよ、()()()()()()さん」

 

「昔の黒歴史を掘り起こすのはヤメロ」

 

 話に熱中しすぎていただろうか、周りを見るとゲートインしていないのは私とヴェノムだけになっていた。ヴェノムもそれに気付いたようで、私の顔を見ると気持ち程度に微笑み、ゲートへと視線を移した。

 

 私も、いつものようにレースをするだけだ。

 

「……いくよ、ヴェノム」

 

「シャイン!!」

 

 ゲートへと脚を進めると、しばらくした後にゲートが開いた。

 

 スタートは完璧だ、何度か実施したゲート練習のおかげで、ゲートが開くタイミングが呼吸をするように分かる。付近の気配を見ると、私の後方に五人、前に六人付ける形のようだ。今回、セントライト記念の出走数は13人、位置としてはいい感じに差し気味だ。

 

 ……ん? 五足す六は11。私を足して12人……一人足りない? 

 

『おおっと! かなり出遅れたヴェノムストライカ、やはり久しぶりのレースは厳しいか!』

 

「クッ……」

 

 ヴェノム……よりによってこの舞台で出遅れるなんて……。

 

 ヴェノムの事が気がかりだが、私は私の走りに集中しよう。ヴェノムに気を取られて走りをミスったなんてバレたらそれこそヴェノムにどつかれる可能性がある。

 

 いつもとは違い、差しの作戦を打つ私。久しぶりに追込以外の作戦を使ったが、やはり私の脚に合わない。いくら異常なバ群を回避するためとはいえ、きついものがある。

 

 しかも……追込の作戦を打つ時とは打って変わって周りにウマ娘が多い。いつもは前方だけにいるが、今日は後方にも前方にも、それどころか横にすらウマ娘がいる。それ故に起こる弊害……。武器をどのタイミングで使えばよいのかわからないのだ。

 

 何も私の武器は想いの継承のみではない。レジェンドウマ娘達は皆、三年間で身に付けた数十個にもわたる小さな武器をレース中に可能な限り使用して勝利を掴んでいる。当然私も数個の武器を持っており、レース中にいくつか使用しているのだが……この差しの作戦を打ったセントライト記念ではイマイチ武器を使うタイミングがつかめない。

 逃げと追込なら仕掛けるタイミングが全く違う。もちろん仕掛けるタイミングに合わせてウマ娘はスタミナ管理をするのだが、自分がまったくやったことのない作戦でスタミナ管理をすると言うのはかなり疲れるというか、わからないと言うか。

 

 とにかくとても難しく、うまく加速も出来ていない状態だ。もしかして差しの作戦を打つこと自体が私にとって大きな間違いだった可能性もあるのか……? 

 

 ヴェノムは未だ出遅れた代償分走っている。……いやいや、私は私の走りに集中しよう。

 

 

 

「やれやれ……強引だねぇ」

 

「こうでもしなきゃアンタレース場に入れないでしょうに……」

 

「でもアンタ、マスクにサングラスにフードってどうなんだい。どう見ても不審者だよこれ」

 

 突然私のワンルームを訪れたこの速水と言う男、確かマックライトニングと言うウマ娘を担当していたはずだが……突然どうしたのだろうか。しかも私を……キグナスにURAへの関係を断たれた私を中山レース場に連れてきて。

 

「いいですか、私はあなたをセントライト記念の関係者室に連れてくるよう言われています。だけど……見たいんですよね、ヴェノムストライカのレースを、生で」

 

「……えぇ」

 

 速水と言う男が私の思っていたことをズバリ言うと、内心驚く。まさかぴったりと当ててくるとは。いや、トレーナーにとっては当然なのだろうか。誰だってそうか。担当ウマ娘とのかかわりを突然断たれたら、当然最後にそのウマ娘のレースを見たがる、のだろう。

 

「当然キグナスから関係を断たれたあなたがセントライト記念の関係者なわけはない。だけどそこは生徒会長のシンボリルドルフが何とかしてくれたみたいです」

 

「あの生徒会長……真面目なふりして結構好き勝手やるじゃないか」

 

「ホントですよ、昔からいるだけあって、生徒会長にさえ尊敬されてるんですね」

 

「私は何もしてないけどね……」

 

 恐らくあの生徒会長が私の事を気にかけているのは、私が長い間ずっと走りについて研究していたからだろう。私が長い間トレーニング方法について研究していたのに、それがヴェノムに出会うまで気づかなかった大きな()()のせいで報われていなかったから、かも。思い上がりかな……。

 

「急いで、キグナスの目はどこに光ってるか分からないから。クライトが怪しいやつに目を光らせてます。関係者室まで頑張ってくださいね」

 

「……はいはい」

 

 速水は私の腕を取り、レース場へと早歩きし始めた。

 

 

 

「……」

 

「そう言えばトレーナー君」

 

「なんだ?」

 

「ヴェノムストライカのトレーナーは、とても厳しいトレーニングを行っていたと言うが……どんなトレーニングなのか見たことはあるかい? 私も内容を知りたくてね」

 

 レースを見ていると、突然キングスがそのような事を聞いてきた。ヴェノムストライカの行っていたトレーニング、一応内容自体は知っているが……知ったところでキグナスのトレーニング方針とは全くかみ合わないため参考のしようもない、何の得にもならないのだが……。

 

「いいだろう? 君がスカウトの時期を無視してまで引き抜こうとしたウマ娘のトレーニングだ、気になるに決まっている」

 

「……本当に見ても仕方がないぞ」

 

 あまりにもキングスが食い下がってくるため、仕方なく紙に軽く書き起こして手渡す。それを見たキングスの顔が珍しく青ざめているのは見なくても分かった。それもそうだろう、なぜなら竹内の行っていたトレーニングは……。

 

「こ、これは……」

 

「明らかな高負荷、そして長時間。この負荷ならたとえ20分ほど休憩をはさんでも1時間でウマ娘は力尽きる。それを10分の休憩で2時間……このようなトレーニングは見た事が無い」

 

 俺が紙に書いたのは確かに嘘偽りが無い竹内のトレーニング。しかしにわかには信じられない内容だろう。確かに負荷こそ高いがウマ娘の強さを底上げするのであれば最適なトレーニング、だがあまりにもウマ娘の体力を考えていない。

 

 キングスが苦笑いしている。本当に珍しい。いやこのトレーニングを見れば当たり前か。

 

「……まったく、キグナスだけが悪いチームみたいに見ないで欲しいものだね。たまたまヴェノムストライカが耐えただけであって、このようなトレーニングを行ったところで待ってるのは破滅だけだというのに……」

 

「……」

 

「そろそろ、……話してくれてもいいんじゃないかい? 竹内トレーナーとヴェノムの二人を見ていて、君も思い出すものがあったんだろう?」

 

 俺が椅子に座りながらレースそっちのけで俯いていると、やはりキングスには見抜かれてしまっていた。確かにキングスの言う通り、少し話をごまかしすぎたかもしれない。キングスくらいになら……話しても良いのかもしれない……。

 

「俺の最初の担当ウマ娘、スリープドリームと言う奴がいてな……」

 

「名前だけ聞いたことはある。確か二冠ウマ娘だったね」

 

 昔の思い出に浸りながら、俺はキングスへとゆっくり話しはじめる。

 

「俺とドリームは絶好調だった。負けなんて知らない、強豪コンビ。『最強になる』という目標の為に、俺たちは実力を向上させていったんだ……」

 

 

 

『レースは中盤に差し掛かった! 今日は差しの作戦スターインシャイン、いい位置に付けていますが、それをロードシャイニングとミドルサンダーががっちりとマークしている形です! 対して久しぶりのレース、ヴェノムストライカはそのさらに後方から迫ってきているぞ!』

 

「ヴェノム……やっぱりおかしい、走りに迷いが……」

 

 順調に進んでいるセントライト記念、武器のタイミングが分からない点を除けば私にとってこの上なく良い状態ではあるのだが、やはりヴェノムが気がかりだ。いくら久しぶりのレースとはいえ、あれだけ意気込んでいたのにスタートの時点で出遅れ。そして明らかに夏合宿の時よりスピードが出ていない走り。

 何かヴェノムの中に迷いがあるのだろうか。やはり、私と同じトレーナーさんの元でこれからを過ごすと言う事がずっと頭に引っかかっているのだろうか。

 

「……予想してた通り、この二人が私を徹底マークしに来たね」

 

 ヴェノムの事も気がかりだが、私も私で無事なわけではない。ロードシャイニングとミドルサンダー、この二人のマークが私の動きを大きく抑えている。差しの作戦を打っている私にとって動きを制限されるようなマークはダメージが大きい。

 

 ……いや、事態は私が想像していたよりはるかに大変な事になっているようだ。

 

「まさか……こんなにマークされているなんて……」

 

 あくまで私が特筆して予想していたのはロードシャイニングとミドルサンダーの二人。しかし周りを見ると感じるのは私への警戒心、殺気ばかりだった。まずい、完全に逃げ道が無い。

 本来マークというのは逃げウマ娘に行う行為、後ろからプレッシャーをかけて普段と同じレースをさせなくすると言う作戦であり、私のような差しにマーク作戦をかけてもあまり意味は無い。

 しかし『他のウマ娘を眼中に入れず、マークしたウマ娘だけを倒す!』と言うくらいの気持ちでマークされたら流石に危ないだろう。

 

 そして、私の周りに感じる警戒心や威圧感、殺気は、そのくらいの気持ちを持ったものだと言うのはすぐに分かった。捨て身の覚悟で私に末脚勝負を持ちかけてやる、潰してやる。そんな覚悟が周りのウマ娘達から痛いほど感じる。

 

 数にして6・7人。複数人の勝負でありながら、私はその人数と同時にタイマン勝負をしなければならない。

 

「これは……まずいかも……」

 

 なんだかんだ私は活躍しすぎたということなのだろう。デルタリボルバーというもう一人の最強格が出走していない今、次のターゲットは私となる。それくらいの予想はしていたのだが、まさかここまで顕著にマークされるとは思わなかったな……。

 

 

 

「ちょっと、回り道しすぎじゃないかい?」

 

「キグナスの手法は初めて見ましたけど、こうでもしないとダメみたいで」

 

「……どういうことだい?」

 

「キグナスは、消した相手に対しURAとのかかわりが完全に断たれたことを自覚させるため、しばらくはレース場に待ち伏せ、ターゲットを見つけ次第氷野に情報が行くみたいです。そして担当ウマ娘のレースを見せず、現実を突きつける……改めて手口を読み上げると明らかに幼稚な手法ですが、これが事実です。あ、ターゲットって言うのは、あなたのことですよ」

 

 速水は周りの様子を見ながら私の進むべき道へと引っ張ってくれている。確かに回りをこっそりとみると、レース中だと言うのにモニターへ見向きもせずにきょろきょろと挙動不審な人物が何人かいる。それがキグナス・氷野の刺客といったところなのだろう。

 

「ぃよっ、そこの女連れ」

 

「っ……!! なんだクライトか、こんな時にまで驚かせるなよ……」

 

「わりーな。関係者室への道は安全みたいだぜ、このまま行ける。……にしても、たかがレース見るためだけにここまでさせるなんて、キグナスの本性・バカさ、いろんな意味で恐ろしいって再確認するな」

 

「あなたがマックライトニング……?」

 

 突然声をかけてきた声の主は、速水の担当ウマ娘、マックライトニングだった。凄い、地方に埋もれていたとは思えない、服の上からでも分かる体の美しさ。この子自身に眠っていた肉体のポテンシャルもあるのだろうが、それを地方に埋もれている中で見つける速水の眼もすごい。

 

「……マックライトニング……君のその脚……変なダメージを受けてないかい?」

 

「変なダメージ? あ、トレ公、この前やった足つぼマット全力疾走トレーニングじゃねぇか?」

 

「あの時のお前の顔を撮ったビデオまだあるぞ」

 

「そんなもん撮ってたのか!? おいコラ消せ!」

 

「やれやれ……忙しいところ悪いけど、ここにいたらそれはそれでまずいんじゃないかい?」

 

 速水の事を凄いと思っていたが、足つぼマット全力疾走トレーニングとかいう単語が聞こえてきたので忘れることにした。

 

「……い……竹内……す……」

 

「っ! クライト!! あの男を押さえろ!」

 

 突然速水が大きな声を出したと思ったら、その声にすぐさま反応しマックライトニングは言われた通り遠くにいた男を捉えた。男の手には携帯が握られており、電話がつながった状態だった。画面に表示されている名前は……。

 

「もう氷野に繋がっているのか……」

 

「……今までも抵抗してくる奴らはいた。でも全員警備員に取り押さえられたり、氷野に関わる人物に押さえられた。今回だって同じだろうさ。あくまで俺は『電話をしていた一般人』だ」

 

「……オメーら、自分たちの施設でもないのにレース場で好き勝手してきたんだな。アホくさい」

 

「俺だってやりたくてやってるわけじゃないさ、あの男は弱みを握るのが得意だからな。レースに関しちゃあくまでも自分が勝った相手を潰したがるが、ただのビジネスとしてなら弱みを握ってすぐに利用してくるんだよ」

 

「弱みを見せたオメーの負けだ。これからも一生利用され続けろ、全ウマ娘の敵が」

 

「どうせお前もすぐに消されるさ!! キングスクラウンに勝てた奴はいないからな!!」

 

「チッ……俺は1年半キグナスとやりあってきたウマ娘、マックライトニングだ。覚えときやがれ」

 

「やれやれ、めんどくさい事になりそうだね」

 

 先ほどの二人の反応速度、見事としか言えなかった。もちろんレースの業界においてこのような場面はめったにない、というか普通は無いためあまり意味はないが、さっきの速水の周りへの洞察力、その声に対しすぐに意味を理解し反応するマックライトニングの瞬発力。

 

「レース以外でもすごいもんだ……最近の若い子は」

 

「アンタもまだ比較的若いでしょうが……」

 

「三十路に何期待してんだい」

 

「はぁ……急ぎますよ、氷野には連絡されているんですから。クライトもいくぞ」

 

「……」

 

 マックライトニングは呼ばれても返事をしなかった。何故だろうと思い彼女の方向を見ると彼女は俯いていた。

 

「……クライト、『どうせお前も消される』と挑発された時、よくあの男を殴らなかったな」

 

「一年半やりあってきたのは事実だ、一年半耐えてりゃ負ける事はそうそうないさ」

 

「そうか……」

 

「それよりその言葉、そっくりそのまま返すぜ」

 

「俺は殴らねぇよ!」

 

「前のトレ公ならやりかねなかったぞ」

 

 そうか、この二人はこうやってお互いの成長を見合い絆を深めて来たのか。レース以外でも、レースに必要なステータスなど関係なく、お互いの人としての成長を見合い……。

 

 ……レースバカすぎて、私とヴェノムはどんな感じだったか思い出せないな……。

 

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