持ち前の末脚を使って重賞レースを全て総なめしてやりたいウマ娘の話 作:りのちゃん
「すごぉい! このトレーニングすごい気持ち楽なのに負荷がかかる!」
「……」
「中学生のくせにトレセンに飛び級でトレーナー採用とか……」
「俺らの苦労も知らないな」
「てかあれ就職扱いなの? ボランティア扱いなの?」
「賃金出たら一応違法だからな、高校生くらいまではボランティアみたいな扱いらしい」
「生徒会長も何考えてるんだか……」
「いくらトレーナー試験を受けさせて数十分残して満点だったからって……ねぇ」
「……ね、気にしてるの?」
「……気にしてない」
「ウソ、デコのシワすごいよ」
「……気にしてる」
「そうそう、そうでいいの。何も気にすることないって、どうせ私達同年代なんだからさ、大人に分かんないことだってあるよ」
「……そうだね」
知っての通り、俺は異様なケースでトレセンに入った。根っからトレーナー業に才能があった俺は、中学生でありながら、学校と学園の許可を貰ってトレーナーとして隠れ活動をしていた。
ただ、流石に学業との両立をしないといけないため、あくまでも適当に配属されたサブトレーナーと言う立ち位置だが。
いくら才能があったからとはいえ、大変じゃなかったわけじゃない。ある程度はトレーナ業について勉強したし、トレーニングの組み方練り方考え方に至るまで、頑張って覚えた。しかしトレーナーとして現れた俺に対する周りの目は冷たかったのだ。
中学生のくせに、子供のくせに、ガキのくせに。そんな言葉は聞き飽きるほど言われた。
その冷たい対応はトレーナーにとどまらず、ウマ娘も同じだった。
同年代にコーチングされたくない、信用できない、中学生のトレーニングとかたかが知れてる。
誰も俺に関わろうとしなかった。
それでもそんな俺に変わらず接してくれたのが、このウマ娘『スリープドリーム』だ。
俺が配属されたチームのエースを務めており、俺の状況を心配していつも声をかけてくれる。俺とは同年代であり、好きなゲームも好きな漫画も好きなタイプも、二人で話が良く合った。
「クソ……また負けた……」
「氷野君、パズルは弱いんだね。おやつのモンブランも~らい」
「あ~もう! 負けた負けた負けた負けた!! くっそおおおお!!」
「負けず嫌いすぎじゃない!?」
中学三年生だった俺は、当然すぐに卒業シーズンがやってきた。そうすれば今度は進路を決めることになる。しかし俺は、トレセン学園にそのままいることを決めた。当然問題になるのが学歴だが、そこはトレセン学園と半年ほど話し合って特別に認めてもらった。
「やっほ~! ……まっさか本当にそのままトレセンに来るとはね……」
「あぁ、お前と約束したからな」
「『最強になるため!』ね」
ドリームは、なんと俺がトレセン学園に来て最初の担当ウマ娘になることを選んでくれた。チームにそのままいればエースとして名声を得られたはずなのに、ドリームはわざわざ新人トレーナーの俺を選んだのだ。
応えたかった、そんなドリームの期待に。
そのためなら俺は何でもした、当然犯罪以外で。トレーニングメニューの質を上げるために日々勉強をし、レースのスケジュールもなるべくドリームが最高のパフォーマンスをできるようなスケジュールで組んだ。
コースの研究をし、最適なコース取り。他のウマ娘と戦うための武器についての研究もした。
レースだって何度も何度も勝っていた。そんな風に俺は普通の熱心なトレーナーとしての道を歩むはずだったのだ。
「チッ……まだいるのかアイツ」
「俺たちが今のキャリア手に入れるまでにどれだけ苦労したのかもわからないくせに……」
「なんか愛想わるい子よね、あの子」
「担当ウマ娘に強く当たったりしてるんじゃないか?」
「まさか、まぁそう思う気持ちはわかるよ」
しかし、俺への冷たい視線は変わらなかった。中卒でありながらトレーナーの資格を貰い、負ける悔しさも知らずに勝ち続けるトレーナー。それを見たら大人と言うのは癪に障るようだ。
ウマ娘が天才的な才能を持っていたらちやほやする癖に、俺に対しては褒めるどころか軽蔑の眼で見てくるというのは、なんとも不公平ではないだろうか。
ある時だった。ドリームがあるレースに出た際の出来事だった。
「それじゃ、私今日もやってくるよ! 最強になるためのコマ、また一つ進めるよ!」
「うん、頑張ってきて、ドリーム」
同年代である彼女は、俺の成長に比例するように発達する。少し前まで中学生の無邪気さが残っていた彼女は、言動こそ元気なままだが、いつの間にか女の子らしい可憐な雰囲気になっていた。
その日のレースに負ける要因は見られなかった。ドリームの能力はそのレースの平均以上だし、コース取りだって綿密に計画して何度もトラックで練習した。他のウマ娘のレースを見てもこれと言った武器を持っているやつはいなかった。
レースが始まるまで、いつも通りだった。
レースが始まっても、いつも通りだった。
最終直線。
『さぁ最終直線に入ってスリープドリームが上がってきた! 他のウマ娘はついて来れるのか!?』
「よし……いける!!」
ドリームは俺の言った作戦や動きを完璧にこなしている。他のウマ娘の作戦に合わせて多少のアドリブは入っていたが、ほぼ俺の言った動きに近い。体力の消耗も少ないはずだった。
「なっ……」
だが最終直線で見たのは、ドリームが一着でゴールする景色じゃなかった。
『な、なんと落鉄です! それも外れた蹄鉄が後ろに飛んでいきスリープドリームに当たった!!』
なんと、ドリームの少し前を走っていたウマ娘の蹄鉄が外れたのだ。その蹄鉄はドリームの顔に命中し、その時の俺には鈍い音が聞こえた気がした。
最終直線を走るウマ娘の時速は、60kmや早くて70kmになる。その速度で蹄鉄が命中したドリームは、鼻から鼻血を大量に出し、頭からも血を出し、姿勢も揺れ走ることすらままならないと言った様子だった。
すぐに柵を飛び越え、ドリームの方へ向かった。一生懸命に走った。
俺がドリームの元に到着するころには、ドリームは地面に倒れ込み、頭部から大量に血を流して気絶していた。
「氷野さん」
「……はい」
「残念ですが……意識を取り戻すのは難しいです……」
医者から告げられたのは、残酷な事実だった。
一般道路を走るような車の速度で頭部にぶつかった蹄鉄は、ドリームの脳に深刻なダメージを与えた。所謂植物状態というものだった。
「治してくれよ! お金ならある! レースで稼いだお金があるからドリームを治してくれよ!!」
「お金がどうこうの問題じゃないんです! ……植物状態というのは、もはや本人次第でしか治らないんです……」
「そんな……」
俺は絶望した。ドリームがいなくなって俺はどうする? 学園に居場所なんてない。ドリームがいてくれたから俺はトレーナーとして頑張ってこれたのだ。そんなドリームがいなくなって俺に何ができるというのだろうか。
「お気の毒に」
「てか氷野が手術代をケチったんだってよ」
「本当に? ウマ娘の事考えてるのかしら……」
「なんでもレースが終わるまで担当の子そっちのけで放置してたみたいよ」
「前々からやばいやつだと思ってたけど、やっぱり中卒じゃあなぁ……」
「精神年齢的にも若いからね」
「負けを知らなさすぎたんだよ、調子にも乗りすぎた」
「違う、違う違う違う違う違う! 全部ウソだ! 俺はドリームの為ならいくらでも出すつもりだった!! レースだって結果も覚えてないほど助けに向かった!! どいつもこいつも他人事だと思ってウソばっかり言いやがって!!!!」
もうその頃の俺は、全てがどうでもよくなっていた。
ドリームはいなくなり、トレセンにも居場所が無い。ありもしない噂を広げられ、ますます居場所がなくなる。誰かに相談しようともしたが、誰も味方じゃない気がして相談できなかった。
「お前らがそうやって俺とドリームをバカにするなら……トレセン学園で俺に刃向う奴はすべて消してやる……」
そこから、キグナスというチームが生まれた。数々の権力者の弱みを握り、トレセン学園のトレーナーを秘密裏に消していった。それが、今の俺だ。
「……そんな過去があったとはね」
「……話しすぎたな……」
「……私は、彼女の代わりにはなれないのかい?」
話を終えて無言になると、キングスはそのように声をかけてきた。
無理だ、ドリームは唯一無二の俺の担当だ。キングスはおろかどのウマ娘であっても代わりにはなれない。
「無理だ。お前はレースに勝つことだけ考えろ。今年中にスターインシャインには負けを認めさせるんだ、気を引き締めろ」
「……あぁ」
「よ、トレーナー、今日もくそキツトレーニングやるんだロ~?」
「やれやれ、分かってるならさっさとジャージに着替えな」
「めんどくっっサ」
「教えたはずだよ? 『どんな時でも頭は上げろ』って。ほらさっさと頭上げな」
自分のトレーニングの欠陥に気付いてからしばらく。私はヴェノムと関わるうちにウマ娘の強さを引き出すトレーニングについてまた考え始めた。もちろん今度は感情や調子の面も考慮して。
とりあえずヴェノムが感情や調子を何も考えていない、いわば『無慈悲トレーニング』についていけることは分かっているし、脚の調子もずっと見ているが特に大きいダメージは無い。ただ小さいダメージは見えるため、ウマ娘本人の調子を考えるトレーニングも早めに完成させなければならないだろう。
ある時、トレーニングをしている最中にヴェノムがこんな質問をしてきた。
「なぁトレーナー、俺たちの最終的な目標ってどこなんダ?」
「やれやれ……全くめんどくさい質問をする子だ・こ・と」
目標。私はこれと言って掲げるような目標は持っていないが、確かにヴェノム本人の夢や目標があるかもしれない。それを明確にするため、私の目指しているところをヴェノムに教えても良いかもしれない。
「そうだねぇ……。私はやっぱり、自分の担当ウマ娘が有馬記念で勝つのが目標……ってか夢だね。ま、勝てなくてもいいさ。なによりも担当ウマ娘が元気に走ってる姿が、私の見たいものさ」
「……こんな効率的にトレーニングできる方法知ってて、今まで元気に走った奴、いないのカ?」
「……そうだよ、いない」
「……やっぱり、戻ろう」
「え? ちょ、ちょっと、何言ってるんですかこんなところまで来て。いや確かに連れてきたのは私ですけど」
突然そのような事を言ったため、速水は驚いた顔をしている。その隣にいるクライトも同じような顔だ。
「……一応聞くが、なんでだ?」
「……怖いのさ、このレースの行く末を見るのが」
「怖い?」
「スターインシャインって言うのはすごい強いウマ娘なんだろう? レース映像だって見ている、あれは間違いなく神の領域に近い強さだ。きっと……きっとヴェノムは負けちまう。それにさっきの男が氷野にもう連絡している。私が勝手な行動をすれば、キグナスがあの子に何をするか……分からないじゃないか」
私は担当ウマ娘が元気に走る姿が見たい。勝つ姿だって当然見たい。しかしこのレースに出ているスターインシャインと言うウマ娘はきっと私のヴェノムをあっけなく倒しちまうだろう。その現場を見るのがとても怖い。
きっとこれ以降ヴェノムのレースを生で見る機会はもうない。最後のレースがヴェノムの負け試合なんて、見たくない。それだったら帰ってテレビで見た方がまだマシだ。
「……オメーは、あいつが負けると思ってんのか?」
マックライトニングが、静かにそう問いかけてきた。いや、別に負けると思っているわけじゃない、しかし相手が悪すぎるから負ける可能性が高すぎると言っているのだ。
私はそのことをマックライトニングと速水に打ち明けるが、二人は別に意表をつかれたような表情をするでもなく、ただニヤニヤとしていた。
「……よぉトレ公、前にもいたなこんな奴」
「ああ、全く。あの時みたいに蹴り飛ばすなよ」
「やってねぇだろ」
なぜこの二人はこんなにも余裕な表情なのだろうか。前にもこんな奴がいたとは?
私の悩みを一蹴するような二人のその態度に怒りを覚え始めた頃、後ろから一人の足音が聞こえた。後ろを見ると、そこに立っていたのは橋田だった。
「確かにその通りだ、うちのシャインは俺もびっくりするくらい強い。でも竹内さん、レースに絶対はないんです。もしかしたらシャインが負けるかもしれないし、勝つかもしれない。トレーナーは担当の勝利をいつまでも願う仕事ですよ」
「後半全部トレ公の受け売りな」
「全くだ」
「そういうことを言わないでくれクライト!」
「レースに絶対は……ない……」
そうか、あの生徒会長も言っていたな。レースに絶対はない。そうだ、私はそれをずっと心に留めていたはずなのに、忘れていた。
レースに絶対はない、それなら、ウマ娘の能力にだって絶対はないはずだ。そう信じて私は研究を続けてきたんだった。
「……やれやれ、そうだったね。私はあいつのトレーナーなんだ、見てやるしかないか!」
「気合が入ったなら何よりだぜ、竹ティー」
「竹ティーて……竹
「なんか文句あるかトレ公」
「ないです」
「……どうしたんだい? アンタたちは付いてこないのかい?」
二人で楽しそうに会話をしている二人に一度声をかける。私と橋田が前に進んでも、マックライトニングと速水の二人はずっと会話をし続けていたからだ。しかし二人は元気な顔で私に返事をした。
「シャインとヴェノム、二人のトレーナーが2人きりで見た方が良いと思って」
「どうせここまでくれば安全だろ。行って来い」
「アンタたち……。……やれやれ、うん……ありがとうね。さ、行くよ橋田、レースも始まってるみたいだ」
「えぇ」
私は橋田と何気ない話をしながら、早歩きで関係者室を目指した。
「ハッ……ハッ……ハッ……」
……やはりまずい、今日はなんだかマークが異常だ。なんでだ? 日本ダービーで私は負けているのに、ここまでマークする必要があるのか……?
「(……ん? このウマ娘、やけに私の脚だけを見てくるような……)」
脚……なんで私の脚だけを見てくる……? マークをしてくる理由は、逃げウマ娘に威圧感を与えるか、そのウマ娘が仕掛ける時に合わせて末脚勝負を仕掛けて根性比べをするくらいだ。それならば仕掛けるタイミングを見計らうため、表情や手つきなどいろいろな場所に視線を移してマークしたウマ娘が仕掛けるタイミングを完璧につかまなくてはならない。
それなのになぜこのウマ娘は私の脚だけを見てくるのだろうか。
「(違う……そうだ……)」
そうだ、私は夏合宿で大勢のウマ娘に、私のレースを見せたじゃないか。URAに関わっていない一般人なんていない砂浜で、トレーナーとウマ娘達に私の走りを見せてしまったではないか。
普通なら他のウマ娘の走りも混ざり注意力は他に向くはず、しかしあの時の私はまだタルタロスの支配下にいて、実力をひけらかすように持ちうる武器を全力で使い、全力で走っていた。それならば私一人に視線が集まり、私だけ警戒度が高まるはずだ。まさか今になってこんな形で牙を剥いてくるとは思わなかったな……。
「……」
これから、俺はどうなル?
シャインのトレーナーの元で走り続け、俺は何を目標に生きル?
何を憧れに生きル?
分かってる、レース中にこんなことを考えている場合ではない事。シャインとの決着をつけるために何とかして勝たなくてはならないと言うのに、こんな考えばかりが思考を邪魔してくル。
前を見ると、シャインの奴はバ群に呑まれていタ。あれじゃ無理ダ、抜け出せるようなバ群じゃなイ。俺だってそうダ、こんなに思考がぶれているんだから、今更走りに集中できるわけが無イ。
思えばキグナスに声をかけられた時から俺は変だっタ。あの時キグナスの誘いを受けておけば、トレーナーは退職することにならずに済んだのニ。俺のせいで、トレーナーは退職することになったんダ。
俺たちの決着は……もうこのままお互い負けで終わるのが、一番いいはずダ。
もう前を見る必要もない。
『どんな時でも頭は上げろ』
……幻聴ダ、別に俺は死にかけているわけでもないのに幻聴が聞こえるなんて、不吉だナ。
……やれやれダ、トレーナーの言う通り、せめて頭だけは上げてレースを走──
「ッ……! シャイン……」
頭を上げて前を向いた瞬間、俺の視界に入ってきたのはバ群に呑まれているシャイン。ちょうど最終直線に入るカーブを抜けているところだからよく横顔が見えタ。
その横顔は、諦めていなかっタ。複数のウマ娘にマークされて、仕掛けるタイミングが難しいと言うあのバ群の中で、あいつの瞳には流星が宿っていタ。
そうダ。俺はあの瞳に、あの諦めず勝利を掴み取ろうとする瞳に惹かれてあいつに憧れたんダ。
そうダ。俺は今、その憧れの存在と戦っているんダ。
そうダ。俺は
「俺が……あいつの生きた証になってやル!!」
あいつのトレーニングを完全にこなしたのは、トレセン学園で俺だけダ!!
俺が走り続けて、勝ち続ければ、トレーナーの鍛え方が間違っていないと証明できル!!
俺が走り続けるんダ!!
「シャイン……やってやるサ……」
『さぁレースは最終直線へと差し掛かった! おっとここで後方からヴェノムストライカが上がってきた! スターインシャインはまだバ群に埋もれている!!』
「(ヴェノム……!? やっぱり、最後の最後に仕掛けてきた……!)」
バ群の隙間から見える他のウマ娘の中に、ヴェノムが混じっていた。そのスピードは既にスパートをかけているようで、他のウマ娘達をバンバン追い越して行った。
しかし私が注目したのはヴェノムの走りでもヴェノムのスピードでもない。ヴェノムの顔だ。
何やら明るい顔で、スパートをかけていた。
レースの序盤から中盤までは何やら悩みがあるような迷いのある走りをしていたが、このレースの中でその悩みに答えを出せたのだろう。やっぱり、私のライバルになるウマ娘はみんなこうじゃないと。
「……あっ!! ……ここだぁ!!」
ヴェノムの笑顔に心を躍らせていると、周りの異変に気付いた。なんと私の周りを走っていたウマ娘達が、夏合宿で見た私の走り以上の存在感を出しているヴェノムに動揺し始めたのだ。そのおかげでバ群に隙間ができた。ここなら抜け出すことができる!
「タキオンさん……よろしくお願いします!!」
一瞬生まれた隙間が閉じないうちに私は想いの継承へと意識を集中させ、感覚を研ぎ澄ませる。
超光速のプリンセス。
その力があれば、ヴェノムまで追い抜くことができる!!
「……もう外が騒がしい、急ぎますよ竹内さん!!」
「やれやれ、分かってるよ!!」
「(距離は残り300m……バ群から抜け出して、想いの継承も出来た今、間に合う!!)」
流星が降る音が聞こえル。
夏合宿の時に見たシャインのあの武器が、発動したのだろウ。
「くっ……ソ……」
まるで俺たちが走っている星そのものが地球とはまた違う他の星に変わったかのように重力、威圧感を感じル。
これがあいつの持つ天性の威圧感……。これに加えて……あの武器ガ……。
ゴール板はすぐそこだというのに、背後まで近づいてくる奴がいる。
『二人が抜けだした!! なんとかバ群から抜け出したスターインシャイン!! ヴェノムストライカと一対一になっている!! もう一馬身後ろまで迫ってきているぞ!!』
「ヴェノムッッッ!!!」
「決着ダ、この野郎ォォォオ!!」
「なんとか着いた!!」
「ヴェノムぅ!!」
「行け!! シャイン!!」
「はぁっ……はぁっ……。すぅぅぅ……ッッヴェノムゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「……ッ!! ……うぅぅぅぉぉぉおおおアアアァァァァァァ!!!」
『しかし! 抜けない! 追い抜けないぞスターインシャイン!! 離される!! 離される!! ヴェノムストライカ、久しぶりのレースで流星を打ち破ったァ!!』
かすかに聞こえたトレーナーのような声、観客の声にかき消され、それが本当にトレーナーの声だったのかは定かではない、もしかしたらそっくりさんの声かもしれない。
でも俺は確実にその声に力づけられた、それなら、きっとトレーナーが見ていてくれたのかもしれない。
「……やぁれやれ……やっぱり、私のトレーニングはしっかり強くなれるんじゃないか……なぁ? ヴェノム……!!」
「……ヴェノムストライカのトレーニングは、ずっとあなたのトレーニングに基づいて行おうと思います」
「……うちの子を、よろしくお願いします」
「(……えぇぇぇぇえシャイン負けちゃったのぉぉぉぉ……)」
「ワァァァァァァァァ……!!」
歓声が響いている、手が振られていル。
俺は、勝ったのカ。
「はぁ……はぁ……。まさか、私の武器を使って負けるなんて思ってなかったよ……。やっぱり、強いね、ヴェノム」
俺に続くようにしてシャインが走ってきタ、俺に負けて悔しそうな顔をしていると思ったが、意外にもシャインは明るい顔をしていタ。
「随分明るい顔してるじゃねぇカ。俺に負けて泣きべそ書いてるかと思ったケドナ」
「……これからよろしくやるチームメイトに、そんな顔見せられないでしょ」
「それもそうだナ。……今日のレース、お前のおかげで強くなれタ。これからよろしくナ」
「うん、よろしく、ヴェノム」
私とヴェノムは、手を取り合い観客へと手を振った。
「……やれやれ、じゃあね、ヴェノム」
「……トレーナー。俺はアンタの生きた証として、走り続けるぜ」
「……やはりヴェノムストライカ、スターインシャインを打ち破る素質を持ったウマ娘だったか」
「驚いたな……キグナスのウマ娘が手をこまねいてきたスターインシャインを、久しぶりに復帰したウマ娘が破るなんて……」
「キングス、キグナスのトレーナー室に戻るぞ。お前のレーススケジュールと、デルタリボルバーの今後について話す」
「了解だ。……それより、感動の別れをした竹内トレーナーについてはいいのかい?」
「……スターインシャインを倒すビジョンが見えた、今日の所は許そう。これ以上は許さないがな」