「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
「ちっ・・・あーぁ・・・これ軽いブラック企業だよな・・・」
最近購入したお気に入りの原付を走らせながら、オレはふと、そんなことを思う。
(朝から委員会のミーティング、それが終わり次第取材のために都外に遠出して、その後トレセンで20時から寮長会のミーティングとか・・・)
正直言って狂っている。まぁこのくらい出来るだろうと高をくくっていた今朝の自分を殴り飛ばしたくなる。
今の時刻は19時半、目的地トレセン学園はまだまだ遠く。・・・まぁ、15分遅れ以内には収めたいところである。
―――夜とは言いつつもまだまだ蒸し暑い、8月6日の出来事だった。
栗東の自室に置きっぱなしにしていたミーティング用の資料を乱雑にひったくると、そのまま倒れ込むように会議室へと転がり込む。・・・20時16分。
「遅いわよウオッカ。どこで何してたの?」
アタシはずっと前からここに居たし、と言わんばかりに涼しい顔をしたスカーレットが、相も変わらずオレに冷ややかな視線を向ける。どこで何してたのって・・・見りゃわかるだろうが。ってかお前、そもそも昨日寝る前にオレのスケジュール表持っていっただろ。
「・・・っていうか、ずっと思ってたんだけど、バイクより走ったほうがいいでしょ、絶対。いろんな観点で。・・・最近あんたずっとバイクだし」
「いーやダメだ!!あのバイクはオレの夢と情熱の証なんだッ!!」
ブラックをベースにしつつネオンイエローとネオンブルーのラインが入ったあの原付は、見る度に惚れ惚れしてしまう。これがまたかっこいいのだ。・・・悪い、話せば長くなる。
「それで?取材のほうは?」
「はずれ。真っ赤な嘘だってさ。一応現地調査もしたけど、なにもヒットしなかった。・・・うちの寮の公式ウマッタ―は暇潰しグッズじゃないっての・・・」
何のために遠出したのかよくわからなくなる。・・・オレの十数時間を返せ。
「まぁまぁ、一応その場所には何もなかったって事が分かっただけよかったじゃん」
「まぁそうですけど・・・」
栗東の寮長にしてこの寮長会の主催者でもあるフジキセキ先輩のフォローに、オレはそう曖昧に返す。・・・脳細胞がトップギアどころか、いまだにオレの思考はギアを回していない。
―――寮長会、とは言いつつも、実態はフジ先輩が生み出した非公式団体である。気が付いたら他のやつらからそう呼ばれていたので、こっちが逆輸入しただけだ。
さぁそんな寮長会とは名ばかりの団体が何をするのかというと、早い話がオカルト研究会である。半年前から日本各地で起こっている不可解な現象・・・オレ達ウマ娘によく似た謎の生命体の目撃情報の収集および解明、プラス本来の歴史と噛み合わないアイテムや建造物(簡単にいえばオーパーツもどき)の調査・・・という名目のもと、個人個人好き勝手活動している。
ウマッタ―などのSNSをサーフィンしたり、某電子掲示板のオカルト板に張り付いていたりもする。・・・頼むから仕事をしてくれ。
・・・で、まぁそんな感じで得られた目撃情報もどきを収集した彼女らが喜々として行うのが、情報収集および現地取材・・・という名の罰ゲームである。今回は運悪く、その役割をオレ・・・ウオッカが引き当ててしまったという訳だ。
「・・・って・・・あれ?・・・今日メンバー少なくないっすか?」
「あ~、オペラオー君は休み。なんでも、今度友達と自分が主演のオペラをやるんだって。脚本も自分で書いてるって言ってた」
それは楽しみにしててもいいんじゃないだろうか。あのオペラオー先輩なのだ、きっと超が付くほどのすごいオペラを作って―――
「一本だいたい4時間、延長の可能性もありだって」
―――前言撤回。
「・・・で、タキオンは・・・スカーレット君、なんか知らない?」
「あ~、タキオンさんなら、しばらく顔を出さないそうです。なんでも、集中したい研究があるとか何とかで・・・」
オレの慕っている先輩ポジションがオペラオー先輩とナリタブライアン先輩なら、スカーレットが慕っている先輩ポジは間違いなくあの問題児アグネスタキオン先輩になるだろう。猫かぶりの優等生とマッドサイエンティストとではろくな共通点が見つかりそうもないが、なんだかこのふたりはそこはかとなく同じ香りがする。
(・・・まーた変な研究してなきゃいいんだけど・・・)
あのマッドな科学者のモルモットに、自分がチョイスされないことを祈る。
(―――にしても、そもそもの大前提として、オカルトねぇ・・・)
正直言ってくだらない。街外れのスクラップ工場がかつて何を作っていたのかとか、学校の近くの山にある慰霊碑が何を慰霊しているのかだとか、耳としっぽのない変な生命体がどうとか。
スクラップ工場は地方に工場を作ったほうが賃金が浮くから移転したんだろうし、慰霊碑はよくわからん。件の変な生命体に関しては、どうせ見間違いか嘘っぱちだろう。写真もきっとコラ画像か何かに違いない。だってそうだろう。なにせ、ウマ娘の写真から耳としっぽを抹消するだけで、いとも簡単にその生命体の写真は完成してしまうのだから。
要するにだ、これはまったく関係のない3つの出来事をならべて、誰かがオカルト風に巷で騒いでいるだけだ。そしてフジ先輩もきっとそれを知っているのだろう。面白そうな事には全力で乗っかる・・・誰が言ったか、【釣りとわかっていつつ全力で釣られる】先輩のことだ。やりそう。そして他の寮長会の面々も同じだ。あの方々ならやりそう。
・・・という訳で、巷で騒がれているようなオカルト的な真実も、あの変な生命体も現実世界には存在していないのだ。・・・ネット上から現実世界に出てこられない存在と言ったほうが分かりやすいか?・・・いや余計説明がぐちゃぐちゃになった気が。
「とかいいつつ、ほんとは得体のしれないものが怖いだけじゃないの?」
「んな!?そんな訳ねぇだろ!!って言うかオレのモノローグを透視するんじゃない!!」
唐突に横やりを入れてきたスカーレットの言葉を乱暴にぶった切る。・・・ちっ、あ~あ・・・こんなの全然かっこよくねぇじゃん。オレ。
「・・・にしても、あの慰霊碑って何なんですかね?」
「さぁ?会長も知らないって言うし、スズカが定期的に清掃してるみたいだけど、聞いても何も教えてくれないし・・・」
スズカ、とは恐らくサイレンススズカ先輩のことだろう。おそらく現状生徒会または寮長関係者において、あの慰霊碑のことを詳しく知っているのは彼女だけらしい。
・・・ちなみにスズカ先輩は同じく栗東寮所属だが、ひとり部屋である。・・・くっそ。オレなんてスカーレットと相部屋だっつーのに・・・。
「・・・慰霊碑、ねぇ・・・」
そんなオレのつぶやきは誰かに聞かれるでもなく、夜の空気へと溶けていった。