「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
「メジロ・・・ドー・・・ベル・・・?」
なぜだ。何もかもおかしい。スカーレットから渡された研究ファイルと、スカイ先輩から話を聞かされていたメジロドーベル。本来全く関係のないはずのふたつが・・・どうしてここでリンクしてしまうのだ。
「あぁ。ファイルを貸してほしいというから、貸してあげたのさ。きっちりと借りた翌朝に返しに来たよ。
・・・なんの使い道も思いつかない薬品で、私自身も不気味だと思っていたからね。本音を言えば、別にそのまま借りパクしてくれたほうがうれしかったのだが・・・」
タキオンのそんな言葉は、もうオレの脳内に記録されない。
『ドーベルと一緒に行動していたカフェさんによれば、彼女は昨夜タキオンの実験室で色々と実験をした後、校舎を出てしばらくたったところでカフェさんとわかれたらしいんだ。』
『・・・でも、おかしいんだよ。カフェさんと別れた後のドーベルがひとりで向かっていったっていう方向って、もう使われてない旧寮がある方なんだ』
・・・じゃぁなんだ。ドーベル先輩はタキオン先輩からあの『人間をウマ娘に変える薬』に関するファイルを借り、その日の夜にカフェ先輩の同行のもとその薬を生成し、それを持って旧寮へと向かったというのか・・・?
「私が思うに、薬を生成する理由は基本的にたったひとつだけ。・・・その薬を何かに使いたいからだ」
『・・・一応あっちの寮のほうにも外へ通じる門はあるんだけど、あっちはいつも鍵が閉められてるからね。それにわざわざカフェさんを置いてひとりで向かっていったという事は・・・』
『・・・他のウマ娘に知られたくないような何かがあった・・・?』
他のウマ娘に知られたくないような何か。薬。そしてドーベル先輩はその薬を何に使ったのか。
人間をウマ娘に変える薬なのだ、そんなの単純だろう。・・・人間、もしくはそれと思しき何かを相手に使ったに決まっている。・・・あの夜、旧寮で。
「・・・あの夜の旧寮には、ウマ娘ではない『何か』がいた。そして、ドーベル先輩はその『何か』を人間と仮定して、それをウマ娘に変えるために薬を使った・・・?」
「・・・まぁそうはいいつつも、これはあくまで君と私とで作り上げた妄想に過ぎない。ただ好奇心で薬を作って、そのまま旧寮に肝試しに行っただけかもしれない・・・」
確かに、見知らぬ何かをウマ娘に変える薬品というものに好奇心をそそられるのは確かだし、学園外れの心霊スポットに夏の暑さで衰弱した心が引き寄せられるのも事実である。
「う~ん・・・ダメだわからん」
そんな弱弱しい言葉を吐き、そのままデスクへとダイブする。・・・停滞し始めたオレの思考とは対照的に、スマホからは軽快な通知音が鳴る。
「・・・スマホはいいよなぁ、別にオレみたいに悩むことがなくて・・・って、うん?」
ぽちぽちとパスワードを打ち込んでロックを解除し、通知有りのマークの付いた某緑の吹き出しをタップする。・・・セイウンスカイ先輩からだった。
『ぴんぽーん!!セイちゃんから、お呼び出しで~す☆』
・・・軽快なメッセージだ・・・いやむしろ軽快すぎやしないか?
「・・・すみません、急用ができたので、今回はここで」
「え?ちょっ・・・紅茶飲んでいかないのかい!?」
すっかり紅茶を淹れる気満々だったタキオン先輩を放置し、荷物と研究ファイルをぽいぽいとポーチに放り込む。・・・やっぱ紅茶は飲んでいこうか、暑いし。・・・水分って大事。
『必ず帰ってきますから、スズカさんはなにも心配しないでください!!
・・・あっそうだ、これ、迷惑かもしれませんけど・・・私が帰ってくるまでの間、代理として持っておいてくれませんか?』
「・・・スぺちゃん・・・」
「こんな真夏の真昼間にぬいぐるみを抱きながら、それも冷房もつけずに過ごすだなんて・・・お前、熱中症とかにならないのか?」
部屋のクーラーのスイッチを入れると、エアグルーヴは私・・・サイレンスズカに向かってそういう。・・・部屋内に充満するかなりの熱気(および蒸し暑さ)に多少参ってしまっていたようで、額にはうっすら汗が浮かんでいた。
「なに?私いまセンチメンタルな気分に浸ってたんだけど。・・・というかいつ入って来たの?」
「ついさっき。貴様が朝から寮の部屋を出てないというから、わざわざ様子を見に来てやったんだ。・・・まぁその様子だとまだ大丈夫そうか」
せっかくのセンチメンタルタイムが唐突に終了してしまったが、まぁいいでしょう。・・・あ~、クーラーが涼しい・・・。
「スズカが涼風を呼んでいる・・・なんちゃって」
「お前は何を言ってるんだ?」
・・・前言撤回。
「・・・にしても、不思議なものね・・・。スカイさんもフジキセキも、グラスワンダーさんも・・・みんな誰も『スぺちゃん』の事を覚えていないんだから・・・」
・・・そう、まるで最初から存在していなかったかのように。
「そのための慰霊碑なんじゃないのか。・・・スペシャルウィークは確かにここに存在していたという、証明のための。」
「そうね・・・」
抱きしめたままだったスぺちゃんぬいぐるみをベッドの端に置くと、私はぐいっとベッドから起き上がる。・・・あの慰霊碑によって、彼女は、いや、彼女と同じ運命をたどることになった彼女たちは、少しは救われるのだろうか。
クーラーの効いていた校舎内から一歩外に出ると、そこには亜熱帯を錯覚するような暑さが充満していた。・・・相も変わらず忙しく鳴き喚く蝉たちもそれに拍車をかけ、さっきまでいた校舎と本当に同じ世界に存在する場所なのかにわかには信じられなくなる。
「・・・で、スカイ先輩はどこに・・・いた」
視界の前方にて、なにやら街路樹の裏や茂みの中などを入念に探す先輩の姿が映る。ご丁寧に大きめの虫取り網もセットである。・・・なにしてんだろうこの方。
「虫でも取ってるんですか?」
「ん~・・・半分正解で、半分違うかな~?」
そう声をかけると、いつもの商業スマイルでスカイ先輩はそう返してくる。あちこちを駆け回っていたのか、呼吸はややあらく、その表情にもどこか疲れが見えていた。
「虫取りならぬ、ウマ娘取り!!・・・って感じかな~。今ね、ドーベルに頼まれて、あるウマ娘を探してるんだけど・・・」
あ~なるほど、つまりウマ娘大捜索会みたいなそんな感じの・・・え?
「ドーベルって・・・メジロドーベル先輩?」
「そうそう。・・・逆にほかに誰がいるって言うの?」
黒髪ショートヘアのウマ娘を探すのを手伝ってほしい、と彼女は続けるように言った。・・・にしても、メジロドーベル・・・ねぇ・・・。
「ドーベルに関しては前々から気になることもあったし、こりゃいいチャンスだって思って。・・・それに、ドーベルの言ってた黒髪ショートヘアちゃん、前に会ったことがあるし。」
「えっマジっすか?・・・ちなみにどこで会ったんです?」
「旧寮。」
・・・え?
「まぁそうはいいつつも、私はその子を旧寮と商店街でしか見たことがないし、あまりはっきりと覚えてるわけじゃないんだけど・・・これはなんかあるなと思って」
・・・旧寮と、メジロドーベル。研究ファイル絡みの色々を考察する際にはこのふたつのワードが浮かび、行方不明者の任意捜索にもこのふたつのワードが浮かぶ。・・・なぜだ。いったいどうなっている・・・。
「・・・ま、とりあえずここにはいないみたいだし・・・いったんドーベルさん達に連絡を回して、作戦会議でもしますかね・・・」
・・・もちろん、手伝ってくれるよね?というスカイ先輩からの無言の圧力はスルーしておこう・・・。
話が進んでいるようで、本当は進んでいるのかいないのか・・・。解答編のように見せかけて解答編じゃないですはい。・・・詐欺じゃないですからね?(怪文書)