「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
「・・・学園近隣の喫茶店をすべて片っ端から当たりましたが、訪れた形跡すら見つかりませんでした。おそらく、学園付近にはもういないものかと。」
「校舎内にもいなかったわ。もしかしたらと思って栗東もくまなく探したけど、たぶん外れよね」
学園近隣にある喫茶店。外の蒸し暑さからは完全に遮断されたこの場所で、アイスコーヒーを飲みながらそう言うのはマンハッタンカフェ先輩とアドマイヤベガ先輩である。
基本的に年中涼しい顔をしていそうなふたりだが、果たしてこのふたりにも暑いという感情があるのだろうか。・・・アイスコーヒーに氷をいっぱい入れてるんだからあるんだろうな、きっと。
そんなふたりの言葉を向かい合わせの席で聞くのは、ご存じメジロドーベルとセイウンスカイ先輩である。ドーベルさんの飲み物は前2名のアイスコーヒーとは対照的に紅茶だが、スカイ先輩は新発売らしいラムネフロートとかいう独自路線を突き進んでいる。なおオレは普通に麦茶である。
「こっちも色々さがしてみたよ~?コースとか、中庭とか、・・・旧寮とか」
旧寮。・・・捜索の対象らしいそのウマ娘とスカイ先輩が初めて会った場所であり、ドーベルさんが何らかの理由で深夜にひとりで立ち寄った場所でもある。・・・確かにあそこなら色々と隠せそうではある。・・・薬品とか、ウマ娘とか・・・。
「・・・ま、何の手掛かりも見つかりませんでしたけどね?・・・カフェさんの言う通り、多分もう学園にはいないと思うんだよ」
・・・ちなみにだが、この会話にオレは参加・・・どころか、同席すらさせてもらえていない。まぁこれはもともと初期の捜索参加メンバーじゃないからだとか、スカイさんが他のメンバーに存在を説明するのをめんどくさがったからとかいう理由で、近くの別の席からこそこそとバレないように盗み聞ぎしている。・・・なんだかなぁ・・・。
「もしかすると、どこか遠くに行っちゃったのかも・・・」
「・・・まだ失踪してからの時間はあまり経っていません。だいたいの行動範囲を逆算して、手分けして当たってみるのがいいかと・・・」
スマホで地図アプリか何かを立ち上げ、ウマ娘の平均的な体力がどうこうといった話を始める4名。・・・ダメだ、会話の内容が高度過ぎてついていけない。
「・・・あれ、ウオッカ?・・・なんであんたがここにいんの?」
どこか聞き覚えのあるそんな声がして、ぱっとその方向へ顔を動かす。・・・特徴的なツインテールにティアラ。・・・間違いない、オレの厄介な同室ちゃんである。
「スカーレット。・・・何しに来たんだよ?」
「別に?ただお気に入りの喫茶店に来たらあんたの姿が見えたから、珍しいなと思って」
「珍しくて悪かったな・・・」
オレはそうとだけ言うと、視線をスカーレットから麦茶へとすーっと移す。・・・そういえば、麦茶と牛乳を混ぜるとコーヒー牛乳の味になるとかいう噂を聞いたことがある。・・・まぁ試す気はないが。
「・・・にしても、あんたがこんな喫茶店に来るなんて珍しいわね?・・・明日辺り大雪でも降るんじゃないかしら」
「失礼な。オレでもこういう雰囲気の喫茶店には来るぞ」
・・・まぁ今回は色々と事情が特殊だけども。
「・・・そういえば、この前廃工場から持って帰って来た金属製の色々、検査結果が出たってタキオンさんが言ってたわよ」
「・・・あぁ、そういえばそんなのあったな」
いつだったか、暇つぶしと度胸試しを兼ねてスカーレットと一緒に深夜の廃工場に忍び込んだのだが、その際に中に放置してあったアイテムらしきものを数個拝借してきたのだ。・・・なんか最近色々あり過ぎて存在を忘れていたが。
「なんでもあれはここ1・2年の間に作られた代物だっていう分析結果が出たらしいのよ。」
「ふ~ん・・・結構近いな。割と最近まで稼働してたのかあれ」
意外や意外、もっと昔から稼働してないんだと思っていた。・・・ここ1・2年の間に何らかの理由で閉鎖されたのか・・・。
「・・・で、肝心のその代物がいったい何なのかっていうのもわかったわ。・・・なんでも、銃弾らしいのよ。あれが。」
「あ~なるほど・・・は?」
銃弾?・・・おいおいおい、オレの記憶が正しければ、持って帰って来たあれは、工場内に放置されていた箱の中に大量に入っていたのを数個拝借してきたものだ。・・・あの箱の中身全部銃弾?
「・・・銃弾を密造してた工場って事かよ」
「そうね。工場が稼働しなくなったのも、告発があって夜逃げ当然で逃亡したとか、もしくは・・・」
「・・・使う時が来たから、もう作る必要がなくなった・・・?」
ここ1・2年で、銃を使った殺傷事件が起きたという話はあまり聞かない。・・・だが、日本は広いのだ。・・・そんな事件が日本のどこかで起こっていても、何の不思議でもない・・・。
「・・・そういえば、あんた最近あの研究ファイルのこと調べなおしてるみたいじゃない。・・・なんか進展あった?」
「う~ん・・・まぁ進展はあったけど、ぶっちゃけよくわからん・・・」
研究ファイルの一件と行方不明者の一件。共通項は旧寮とメジロドーベル。・・・そもそもなぜスカイ先輩は旧寮に行こうと思い立ったのだろうか。・・・現場検証?
ちらっと先輩たちのいた座席のほうに視線を移す。・・・なにやらだいたいの行動範囲の特定が終わったようで、ここのエリアには冷房の効いてる場所が多いとか無料の水飲み場が多いからとか、よくわからない会話をしてさらに範囲の細分化を図っていた。・・・もう何もわからん。
「なんだろう、なんて説明したらいいかな・・・進展はあったように見えるんだけど、なんかごちゃごちゃし過ぎてて答えにはたどり着かないって言うか・・・」
「はぁ・・・?」
スカーレットとそんな語彙力のない言い争いをしながら時間を潰していると、その間にあちら側の御一行はどうやらプランがまとまったようで、そそくさと荷物をまとめて喫茶店を出ていった。・・・ちなみに前ふたりはアイスコーヒーを追加でテイクアウトしていった。
「・・・そうだ、スカイ。・・・あんたは残って。」
「え?」
突然ドーベル先輩が言ったそんな言葉に、探しに行く気満々だったスカイ先輩は少々面食らったようだった。・・・探しに行かなくていいんですか?数多い方がよくない?なんてことを視線で訴えるが、ドーベル先輩はそのすべてをスルーする。
「あんたにだけは話しておこうと思って。
―――あの子と、あたしに関する全部を」
・・・え?