「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
#1 魔法少女S/blackな使い魔を探せ!
『寮長会』。それはフジ先輩が暇つぶしのために立ち上げた組織。
いわゆるオカルト研究部に相当するうさんくさい組織なのだが、フジ先輩の人望の影響か雑用係やトラブル解決担当としての役割も担ってきている。はやい話、自分から事件を見つけに行くタイプの探偵と似たようなものである。
そして、その事件発見の役割は基本的にフジ先輩そのひとが担当しており、他のメンバーが持ってくる場合や、依頼主(?)が直接訪れてくることはかなり珍しい。
・・・まぁどのみち、関係者の大半が『飽きた』ら捜査も終了するという、なかなかに乱雑な終わり方をすることがほとんどなのだが。
そして本日はそんな事件宅配マシーンたるフジ先輩はもとより、オペラオー先輩も天敵のスカーレットもいない。あとタキオン先輩も。
つまりは、この部室はオレひとりなのである。
・・・じゃぁ帰ればいいじゃんって?オレもそうしたいのはやまやまだが、残念ながらフジ先輩からの残業命令が出ているのでここに居ざるを得ない。
・・・くそ、なんだよ、オレが何をしたっていうんだ。ちょ~っとだけギム先輩の真似をして、柵を壊してみただけじゃねぇか・・・それだけで休日出勤の残業命令だなんて、そいつはないぜ先輩。
そんなわけで下された残業命令の内訳は書類整理。いままでの活動内容を簡潔にまとめて書類化したりとか、まぁ要するにそのあたりだ。どこかの誰かさんが1か月分の書類作成を怠っていたので、それはまぁとてつもない量の仕事量が残っているのである。せめてもの救いは、残業終了の計算式が『終わるまで』ではなく『今日の朝9時から夕方5時まで』であることだろうか。
要するにだ、それっぽい理由をつけて5時まで時間を潰せば、書類整理が終わっていなくても残業は終わるということである。
・・・まぁそのそれっぽい理由が思いつかないからこうして真面目に書類軍団に立ち向かっているわけだが。
「――――この1か月間、なんだかんだいろんなことがあったなぁ・・・」
夏休みという事で皆が浮かれているのもあるかもしれないが、直近の6月だの5月だのと比べると、各段と超常現象系の仕事が多かった・・・気がする。
特に8月に入ってからはすごかった。夏休みの宿題なんて概念を忘却の彼方に捨ててくるレベルには、かなりせわしなく動き回っていた。・・・まぁなんもかんもスカイ先輩とドーベル先輩のせいなんだが。
(・・・あのおふた方に振り回された夏休みだったなぁ・・・)
まだ夏休みは終わってないけどな、はは。
(―――にしても、一個だけ心残りなのは、タキオン先輩の奇行・・・それも1年近く前の・・・)
夏休み中に発生したすべての出来事は、もとをたどっていった結果そのほぼすべてがスカイ先輩&ドーベル先輩のもとに回帰した。この夏休みの台風の目はこのふたりであったといっても過言ではない。
だがしかし、そんな中で、一個だけそのベルウンスに回帰しなかった謎が残っているのだ。
(―――タキオン先輩のもとにあった、あの謎めいたファイル・・・)
たかがA4のコピー用紙数枚で構成されているそれは、どう考えても謎めいたいわくつきのアイテムには見えない。
オレたちには理解できず、書き主たるタキオン先輩にすら忘れ去られてしまった其れ。
まぁ、忘れてしまうような事柄なんだから、どうせ大した事柄じゃないんだろう。だが、これがすれ違いラブコメの世界線なら、その忘れてしまうような大したことない事柄があとあと物語のカギを握っていくという事もオレは知っている。・・・ここはすれ違いラブコメの世界じゃないけどな。
タキオン先輩が『人間』とやらについてなにも覚えておらず、かつ思い出すこともできないという事は、その人間も大したものではないに違いない。実験で使う使い捨ての1モルモットと同じなんだろう。モルモットの名前なんていちいち覚えてやいないさ。
・・・じゃぁ、オレがそんな大したものでもなさそうなものを、ずっと解き明かそうとしているのは・・・なぜだ?
スカーレットと競合しているというのもあるだろう。もともとこれはアイツが持ってきた案件であって、それをオレが放棄するのはなんというか癪に障る。
だが、それ以上に・・・なにか、オレの直感に訴えかけてくるような何かがあったからかもしれない。
なにか重要な、いまは大したことなくてもかつては重要であったなにかが、裏に隠れ潜んでいるような・・・そんな感じだ。
「たのも―――――っ!!」
だがその直感物語はどうやら考察途中で打ちきりらしい。開いたドアの方を振り返れば、ウィッチハットを被った小柄なウマ娘がひとり。・・・あれれ、どこかで見たことがあるような・・・ないような・・・・。
「あら?今日はあのイジワル寮長は休み?ちょうどいいわ、きっとこのスイーピーの恐ろしさを感じ取って、尻尾を巻いて逃げ出したんでしょ!!」
な、なんなんだこいつは。イジワル寮長って・・・フジ先輩のことか。まぁ確かにあのひとはサディストみたいな風格が漂っているけども・・・ここまで明確にフジ先輩を嫌ってるお方ははじめてみたな、うん。・・・いや大事なのはそこじゃなくて。
「あの・・・どちら様?」
「あら?・・・あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったわね。
―――アタシはスイープトウショウ!!いずれ、偉大なる魔女になるウマ娘よ!!」
すいーぷ・・・とうしょう・・・?
「それで・・・その魔女見習いさんが、うちの部に何の用で・・・?」
「もちろん、依頼があって来たのよ!!もちろん、報酬はたんまりと払うわよ?
・・・だからお願い!!
キタサンを探すの、手伝って!!」
きた・・・さん?
「・・・・・・・はい?」
「―――『助手を探すのを手伝ってほしい』?」
「そう!!それもアタシの誇るちょーうゆうしゅうな助手、キタサンブラックよ!!」
キタサンブラック。・・・聞いたことないな。他学年のやつか?
「でも昨日の夕方から姿を見てなくて、連絡も取れないの!!今日は朝から魔法の練習するって約束だったのに・・・それも今日にしかできない貴重な魔法だったのに・・・」
「なら、別のウマ娘を助手として連れてくるのは・・・」
「ヤダ!!」
えぇ・・・。
「・・・スイーピーの助手は、キタサンじゃないとヤなの・・・。代わりなんて、どこにもいやしないわ・・・」
・・・スイープ先輩・・・。
「・・・スイープ先輩は、その・・・・
好き・・・なんで、すか?その・・・キタサンさん、を・・・」
「どうしたの?急にごもるじゃない」
「ごもってないです!!」
別にごもってなどいない。・・・何度でも言うぞ、別にごもってなどいない(迫真)。
「それで・・・その、キタサンさんがいそうな場所の心当たりは・・・」
「う~ん、そうね・・・
・・・・・・・言われてみれば、基本的にずっとアタシと一緒にいたし、姿を現す時は必ず向こうからこっちにやってくるのよね。アタシと一緒にいないときはどこでなにをやっているのかなんで、聞いたこともなかったわ・・・こんなことならGPSつけておけばよかった」
「シンプルに怖いこと言うじゃないですか」
あれ待って。これって手掛かりなしのまま捜索を開始する感じか・・・?
「なっ・・・なんか思い出してください!!好きだったものとか、よく会話に出てるお店とか!!できれば校舎内の!!」
「待ちなさい!!スイーピーだって、いま必死に思い出してるんだから!!
・・・・・う~んと、え~っと、う~ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・そうだ!!サトノダイヤモンドよ!!」
「『サトノダイヤモンド』・・・?」
また知らないウマ娘の名前が出てきてしまった。案外この学園も広いんだなぁ・・・オレの交友関係が狭すぎるだけかもしれないけど。
「な・・・なんすかサトノダイヤモンドって。宝石店の名前?」
「違うわよ!!キタサンがよく話題に出してたの!!実際に会ったことは無いけど、なんでもすごい仲良しなんだとか・・・」
なるほど、つまり、そいつを当たってみればなにかヒントがあるかもしれない・・・と。運が良ければそのままキタサンブラック本人を捕まえられるかも。
「・・・というか、大丈夫ですか?その・・・好きなひとの仲良しなひとと会うんですよ?」
「アンタは何の心配をしてるの?」
・・・まぁそんな訳で、サトノダイヤモンドとやらを探す旅に出たオレ達であったが・・・意外にもその旅は一瞬で終わった。
後から知った話だが、なにせ、そのサトノダイヤモンドは名家のお嬢様なのである。名前と顔は学園の大半のウマ娘に知れ渡っていたらしく、そこら辺にいた適当なウマ娘を捕まえて問いただしたら簡単に居場所を教えてくれた。ついでに地図も書いてくれた。
なお、肝心のキタサンブラックに関してはサトノダイヤモンドとは逆に誰もご存じではないらしく、誰に聞いても頭の上にクエスチョンマークを浮かべるだけだった。・・・本当に誰なんだキタサンブラック。もしやこの学園の生徒ではないのか・・・?まぁそんなミステリーは置いておいてだな・・・
「・・・にしても、アンタ、相当人気者みたいね」
「人気者?・・・なんで?」
「普通に考えて、サトノダイヤモンドがどこにいるのか教えてほしい、だなんて変な質問、聞かれた側は絶対怪しむはずよ。普通、『俺に質問するな!!』って言われておしまいよ」
だけど、オレがその質問をしたときには、・・・質問相手は全員すんなりと答えてくれた・・・。
「そんなの、アンタが相当周りから慕われてないと実現しないわ。アンタがいままで何をやって来たのかは知らないけど、自分を慕ってくれる相手は・・・大切にしたほうがいいわよ」
「あ・・・あぁ、わかった・・・」
そういった彼女の言葉には、どこか言葉以上の大きな暗い何かが隠れているようで。
オレはただ、そう単調に返すことしかできなかった。
「・・・ほら、アイツじゃない?」
だがさっきまでのそんな会話の事なんか綺麗さっぱり忘れてしまったかのようなテンションで、スイープ先輩がカフェテリアを指さしてそう言う。
うわさに聞いていたサトノダイヤモンドが、そこにはいた。
「あれが・・・その、問題のサトイモ?」
「なにその略称。
でもきっとそうよ!!キタサンは・・・一緒にいないみたいだけど・・・」
その問題のサトイモさんは、カフェテリアの真ん中のテーブルで優雅に紅茶を飲んでいるようだった。その周りには取り巻きと思しきウマ娘が数人。
「・・・スイープ先輩は、ここで待っててください」
「え?あぁっちょっと!!アタシも行く!!」
「依頼人をトラブルに巻き込まない主義なんだ」
彼女をカフェテリアの入り口に置き去りにして、オレはずかずかとカフェテリアへとはいっていく。
「・・・サトノダイヤモンド、で、間違いないな?」
まわりの取り巻きを散らして、オレはサトイモさんにそう声をかける。
「・・・これはこれは、型破りで有名な女王サマじゃないですか。・・・私に何の御用で?」
「そのあだ名で呼ぶな。・・・今回は1個だけ、あんたに聞きたいことがある」
そのサトイモお嬢様とやらは、ダイヤモンドというよりかはまるで氷のようだった。冷笑、という言葉が最も似合いそうであった。
「キタサンブラックを探してるんだけど、心当たりないか?」
「これはこれは、どういう風の吹き回しで?」
「依頼が来たもんでね。その依頼人いわく、キタサンはあんたのことをよく話題に出していたとか」
「ふぅん・・・・
・・・やれやれ、厄介なことに巻き込まれてしまったものです」
彼女はいまなお周囲を取り巻いていた取り巻きに帰るよう指示し、空いた席にオレが座るよう指示した。・・・無論、そんな指示を受けるつもりなど最初からないが。
「・・・その依頼人とやらは、どうせスイープトウショウさんなのでしょう?」
「仮にそうだとして、それが何の関係がある?」
「ひとつ、いいことを教えてあげましょう。
『キタサンブラック』は『いない』んですよ。・・・最初からね」
・・・なに?
超大遅刻申し訳ございません。あと今回から新章です。