「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
ちなみにカフェとドーベルを書くのは(おそらく)これがはじめてなので、なにか不備やミスがありましたら教えてくれるとありがたいです。
「失礼しま~す、ファイルを返しに来たんですけど―――」
「なに、もうお手上げって訳?」
定番の定型文と共にラボのドアを開けると、ドアの向こうからそんなオレの反論主義を可動させそうな言葉が飛んでくる。・・・スカーレットだ。
「いや別に降参って訳じゃねぇよ。内容は全部写真撮ったし、オリジナルは返しておこうと思って」
スカーレットがファイルをこっちに渡せと言わんばかりに片手を差し出してきたので、珍しく素直にファイルを手渡す。
・・・別に素直に渡さなくてもよかったのだが、今回ばかりはいくら言い訳を重ねようともオレの完全敗北には違いないのだ。ちなみに勝ったのはスカーレットじゃなくてファイルの怪文書群だからな。
「そういうお前はどうなんだよ?」
「こっちも早い話がお手上げ。もう訳が分からないわ・・・」
もうどうすりゃいんだこんなの。フジ先輩は今朝から旅行だし、オペラオー先輩はすれ違いでオペラの練習に行っちゃったし、タキオン先輩は容疑者である。
「あれ?・・・そういえばタキオン先輩は?」
「あぁ、タキオンさんならアンタが来る直前にすれ違いで出ていったわよ。カフェさんも一緒だったはず。
留守番をお願いされてるんだけど、戸締りさえきちっとしておけば途中で外出してもいいってカフェさんが」
ちらっと時計を見る。・・・時刻は午後4時を回ったあたり。門限まではまだかなりの余裕がある。
「・・・よっしゃ!!スカーレット、走るぞ!!」
「えぇっ!?・・・この流れで?」
「この流れだからだろ!!」
軽く・・・というかかなり入念に準備運動とウォームアップを済ませ、実験がてらに設定した距離は1600m。いわゆるマイルにあたる分類である。
―――走るのは好きだ。走っていると、自分の中の嫌な感情をすべて払拭できる。
だが、今回はなんだか違った。今までの走りと今回とで違う事と言えば、スカーレットとのレースであることだけである。・・・いや?【だけ】ではない気がする。
気分転換とは名ばかりの熾烈なデッドヒート。これに勝てば、オレは、・・・忘れかけていたギラギラした何かを、思い出せそうな気がする。
逃げるスカーレット。リードは恐らく1・2バ身程度だろう。――――いける。
(―――最後まで、フルスロットルでッ!!)
「・・・青春、ですね・・・」
「おや?・・・どうしたんだいカフェ。」
背後のアグネスタキオンへ振り向くと、なんでもありません、とマンハッタンカフェはひとことだけ返す。
「・・・気になるんですか?」
ふと、カフェがそんな言葉を口にする。・・・その言葉の主語は、タキオンではなかった。
「・・・わかりました。もうしばらく見ていましょうか・・・」
再び視線を窓の外に移す。ウオッカとスカーレットのデッドヒートは、もう終盤に差し掛かっていた。
「じゃぁ、あたしはこのあたりで。他に寄らなきゃいけないところもあるし」
「・・・でも、もう遅いですよ?できれば明日にしたほうが・・・
今夜中にやらなければならないような緊急の用事ならば、私がついていきますし・・・」
先ほど生成した薬品の入った試験管を片手に、ひとり寮ではないどこかへ向かおうとするメジロドーベル。
もうすでに日は落ちて、いわゆる深夜と呼ばれる時間帯。あたりを照らしているものと言えば街灯と月明りくらいであり、それ以外はただひたすらに真っ暗だった。
すでにふたりとも外泊許可は取ってあり、門限や規則的には何の問題もなかった。だが、そんな時間帯にひとりドーベルを放置していくわけにはいかない、とマンハッタンカフェは思う。
「ふ~ん・・・カフェにはあたしが、そんな誰かに守ってくれないといけないようなか弱い乙女に見えるってわけ?」
「いえ、決して、・・・そんな訳では・・・」
「でしょ?
・・・だからカフェはコーヒーでも飲みながら、安心してあたしの帰りを待っててよ。」
ドーベルはそう言って微笑むと、どこかへと駆け出していく。
・・・約束、ですからね・・・
カフェのそんなつぶやきは彼女に届くこと無く、夜の闇へと溶けていった。
追伸:レースの結果は皆さんのご想像にお任せします。