「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
「あれ?・・・ちょっとウオッカ、こんな朝早くからどこ行くのよ?」
8月8日・早朝・・・とはいってももう8時半なのだが、まぁそんな時間帯にひとり外出しようとするウオッカに、スカーレットは訝しげな眼を向ける。
「え?どこって・・・デートだから」
「・・・はぁ!?」
デート。Date。ある特定の日・日付を指す英単語。日付を書くという意味の動詞としても使うことができ、過去形はdated。
そうだ、日付だ。彼女はきっと、何か大事な用のある日付になったから外出したのだ。ニュアンス的にもそれが一番しっくりくる。ウオッカはきっと日付に沿って行動したに過ぎないのだ・・・
「・・・で、なんで私までスカーレットさんによる尾行大作戦に参加させられてるのですか?」
「だってフラッシュさんしか頼れそうなひといなかったんですもん・・・」
無理を言ってきてもらった先輩にそう返すと、スカーレットは再び前方を歩くウオッカへと視線を戻す。
見たところ行先は近所の商店街と見た。・・・あのウオッカが商店街?なんかちょっと意外な気もするが、まぁでも料理上手な彼女のことだし、商店街は友達みたいなものなのだろうか。
「あそこの商店街には大きなアーケードがあります。おそらく誰かとの待ち合わせで利用するのではないでしょうか」
「なるほど・・・」
にしてもアーケードで待ち合わせ?・・・というか誰と?ウオッカと関係がありそうなウマ娘・・・う~ん。
待ち合わせの対象を見つけたのか、前方のウオッカが小走りでアーケードのほうへと向かう。
そのウオッカの視線の先には、空色の髪をしたウマ娘がひとり。
「あのひとは・・・」
「セイウンスカイさんですね。トリックスターや策略家という異名を持つ、フジさんとは別のベクトルのマジシャンさんです」
そんなトリックスターがウオッカに何の用だろうか。・・・まさか本当にデート?にしては彼女とスカイが仲良しだという噂はみじんも聞いたこともないが。
「スカイさんと言えば、対後輩に対しての恋愛強者ですからね。それに王子様みたいでかっこいいという理由で、一部の層・・・もっぱら彼女の後輩からはかなりの人気があるらしいんですよ」
「えっ・・・そうなんですか?」
初耳ですが。
「そういえば次期美浦寮長に推されてましたもんね。その人気は伊達じゃないって事ですか・・・」
「えぇ。・・・しかし、スカイさんと言えばキングヘイローさんやニシノフラワーさんのイメージが強いのですが・・・ウオッカさんとは珍しいですね」
他にスカイと仲のよさそうなウマ娘というと、マヤノトップガンやツインターボあたりだろうか。なんでも変なシンパシーを感じるとかで、たまにゲームセンターなどでつるんでいるのを見かける。
(―――ウオッカ・・・ねぇ、)
なにかウオッカとスカイとでシンパシーを感じるところでもあったのだろうか。・・・う~ん、わからん。
その後はおよそ1時間強尾行を続けたが、その結果入手したのは、ふたりがのんびりと商店街巡りを楽しんでいるという事だけだった。
「・・・あのふたりってあんなに仲良かったんでしたっけ?」
「いえ、存じ上げませんが・・・」
時間を重ねるごとに違和感が増加していく。ミステリーっぽく言い換えれば、これは謎が謎を呼んでるんじゃない。謎のほうからこっちにやってきているのだ・・・そんな感じである。
その後もしばらく(1時間弱)は尾行を続けたが特に大した進展もなく、フラッシュはスマートファルコンのライブの練習があるからと先に帰ってしまった。残されたのはスカーレットがひとり。
「・・・アタシも帰るか・・・」
ひとりぼっちになった今、ずっと脳内を支配していた対抗意識そのほかもろもろがすべてだんだんと薄れていっているような気がする。
一瞬だけ頭に浮かんだ感情を必死に否定する。―――別に、寂しいわけじゃない。
「・・・・・ん、・・・・」
スカーレットは不安定な感情の入り混じったそんなつぶやきを残すと、ひとり商店街を後にするのだった。
「―――お~い、スカーレット~・・・
・・・スカーレット?」
時刻は午後3時。約6時間ぶりに戻って来た寮の自室にて、オレは同居人に声をかけた・・・の、だが・・・
「・・・なによ」
その同居人はオレのほうにじとーっとした視線を向けながら、シンプルで不機嫌そうなそんな台詞を返す。
「・・・なんか用?」
「いや、別に大した用って訳じゃねぇんだけど・・・」
そう言い終わる前にスカーレットは再びふいっとそっぽを向く。・・・よくありがちな比喩が通用しないくらいの不機嫌さだった。
「あ、あのさ、おみやげが・・・あるん、だけど・・・
・・・これ、お前こういうの好きかなって思って・・・」
アロマキャンドル。商店街の雑貨屋さんをふらふらしていた際、前に彼女がアロマにはまっていたことを思い出したのだ。
そこからはもう長かった。オレはアロマもキャンドルもさっぱりわからないから、スカイ先輩といろいろ相談しながら、最終的にはラベンダーと柑橘系の香りのものをひとつずつ買った。ちなみにスカイ先輩も誰かにプレゼントする用と思しきキャンドルを買っていったが、それの宛先が誰なのかは闇の中である。
「・・・んっ・・・!!
なっ・・・なによ、あんたにしては珍しいお土産じゃない・・・」
相も変わらず不機嫌そうな言葉が返ってくる。・・・だが不機嫌なのは言葉だけで、どこかその口調には前までの不機嫌さはないように見えた。
「・・・これで、勝ったと思わないでよね・・・」
「?・・・なんか言ったか?」
「いや何も言ってないわよ!?
・・・あれもこれも全部、あんたが悪いんだからね!!」
「えっ・・・えぇ~っ・・・」
アロマキャンドルを贈る意味は、【素敵な時間を過ごして】。