「なぜアタシのライバルにはブレーキがないのか」 作:アメざいく
『メジロドーベルについての話なんだけど・・・』
昨日、スカイ先輩の口から出たのはそんな意外な名前だった。メジロドーベル。彼女と同じく美浦寮の所属だが、・・・スカイ先輩とドーベル先輩の仲が良いと言う噂は、これぽっちも聞いたことがなかった。
『昨日の夜、ドーベルが外泊許可の申請をしてきて・・・いやそれは別におかしい事じゃないんだけど、その外泊申請で得た夜の時間をドーベルがどう使ってたかが問題だと、セイちゃんは思うんですよ』
昨日の夜・・・今日から見ればおとといの夜という事になる。そんな夜に、ドーベル先輩は何をしていたのか。
『ドーベルと一緒に行動していたカフェさんによれば、彼女は昨夜タキオンの実験室で色々と実験をした後、校舎を出てしばらくたったところでカフェさんとわかれたらしいんだ。
・・・でも、おかしいんだよ。カフェさんと別れた後のドーベルがひとりで向かっていったっていう方向って、もう使われてない旧寮がある方なんだ』
栗東・美浦のふたつの寮とも違う方向に、廃墟と化した寮のような建物が建っているのは知っている。一応生徒会によって立ち入り禁止のテープこそ張られているが、カギは付けられていない模様で入ろうと思えば誰でも入れる状態になっている。
・・・だが、その一方で幽霊が出るとか怪奇現象が発生するとかいう噂もあり、学園内随一の心霊スポットと化している。この建物は実は事故物件だが、学園上層部が何かしらの圧力で事故(および事件)を隠蔽したのではないか、という噂が立つくらいには不気味な建物である。ちなみに夜に建物の中にいるウマ娘型のもの影をみた、なんて証言もあったりする。
要するに好き好んで立ち寄るような場所じゃないのだが・・・そんな場所へ、深夜に、それもひとりで向かっていった・・・?
『一応あっちの寮のほうにも外へ通じる門はあるんだけど、あっちはいつも鍵が閉められてるからね。それにわざわざカフェさんを置いてひとりで向かっていったという事は・・・』
『・・・他のウマ娘に知られたくないような何かがあった・・・?』
確証なんてない。すべてはスカイ先輩の考察したひとつの仮説にすぎないのだ。だが・・・その仮説には、妙に信憑性があった。
(・・・他のウマ娘に知られたくないような何か、ねぇ・・・)
今思い返してみると、そのことについてスカイ先輩はがっつりとは触れておらず、どこか表現を濁していたような気がする。・・・本当に知らないのか、はたまた知っているけど自分にその事の考察を転嫁したのか。・・・どちらにせよ、ミステリアスなひとだ・・・。
「・・・ドーベル先輩の隠し事、ねぇ・・・」
「おっと、それは隠し事と描く仕事をかけた、ルドルフの喜びそうなギャグかい?」
「いや断じてそんなことは・・・えぇっ!?」
横を向くとさも当然のようにフジ先輩が立っている。・・・なぜ。どうやってここに。いつから。気配を消していたのか?それともテレポート・・・?
「・・・あ~、これ旅行のお土産。なんか地元の銘菓なんだって」
そんなことを言いながら、てきぱきと部室内のメンバーにお菓子を配っていく先輩。・・・いやちょっと!!なんでさも当然のようにここにいるんですか!!
「いやね?ほんとは予定通り昨日帰るはずだったんだけど、サービスエリアに寄ったりおみやげを吟味したり、オグリキャップ君の大食いに付き合ってたりしたからなんだかんだで遅くなっちゃってね?・・・門限やぶっちゃった☆」
・・・寮長?
「・・・ま、そんな訳で昨日は駅前のホテルで一泊して、今朝早朝に帰って来たところなんだよ」
「あぁ、昨日の夜に部室に顔を出さなかったのはそういう理由だったんですね」
「そういうこと」
あぁなるほどそういう・・・じゃないっ!!
「いつからここに!?」
「頼れるマジシャンには気配を消す能力がデフォルトで備わってるものなんだよ~?」
・・・訳が分からない。
「そうだそうだ、おとといの夜にマルゼンが話してくれたこわ~い話、聞く?」
「おぉ!!それは実に興味深い!!」
オペラオー先輩が瞳をキラキラさせて話に乗っかる。やっぱり夏と言えば怪談話と相場は決まっていそうだが、今の時刻は朝9時。・・・普通夜にやるんじゃないかなぁこういうの・・・。
「このテイエムオペラオーが、どんな幽霊にでも理不尽な強さで差し切って見せよう!!」
その理不尽な強さをもう少しアドマイヤベガ先輩とナリタトップロード先輩に譲ってほしい所である。・・・まぁその理不尽さがオペラオー先輩の魅力なんだけども。
フジ先輩が電気のスイッチをぱちぱちと消し、天井のLEDの光がすべて落ちる。そこからさらにカーテンを閉めてしまえば、朝9時とは思えないくらい薄暗い空間の出来上がりだ。・・・なんかちょっと雰囲気あるかも。
「―――これは昔、マルゼンがひとりで旅行をしようとしていた時の話。」
・・・ひとり旅をしようと考えていたマルゼン先輩は、行先を検討している最中にふと昔立ち寄った小さな村のことを思い出し、そこに行こうと思い立ったらしい。
「詳しい地名なんてあまり覚えていなかったから、記憶を頼りに愛車を走らせて進んでいくと、そこに見覚えのある看板が見えてきたんだって」
だが、記憶の中では『この先○○km』と記されていたはずの看板には、ただひとこと、こう記されていたという。
「―――『巨頭オ』、と。」
・・・『キョトウオ』・・・?なにかのアナグラムだろうか。・・・東京?いやそうはならないか・・・
「車で入って行ってみると、村は既に廃村になっているようだった。・・・無理もない。かつてその村を訪れた時でさえ、すでに過疎化した限界集落のような香りのする村だったからさ」
時の流れとは時に残酷なもので、思い出のものさえも壊していってしまう・・・。そんな当たり前のことが、今はなんだかつらかった。
「マルゼンが車を降りようとして準備を始めると、20mくらい先の林から、頭がやたら大きい、ウマ娘?のような何かが出てきたらしい。・・・いやビワハヤヒデ君なんてレベルじゃなくて、顔と体が同じくらいの比率であるんじゃないかって感じの」
脳内でそいつの姿を妄想する。・・・頭でっかちなんて言葉じゃ説明しきれないくらい不気味で、できれば廃村で遭遇したくないような雰囲気のものランキングに入着しそうな感じだった。
「気が付いたら周りにも同型のものがいっぱいいて、しかも両足に両手をぴったりとつけてこちらへ近づいてくる。
―――『逃げよう』。そう本能的に直感したマルゼンは急いで車をバックさせて、ものすごいスピードで国道へと飛ばした」
―――後日、地図を開いて確認してみると・・・
「数年前に行った村とあの日行った場所は、間違っていなかった」
・・・つまり、あの村は・・・
「・・・ところでオペラオー君、・・・顔真っ青だけど大丈夫?」
「はっ・・・はーっはっはっは!!この世紀末覇王たるボクが、マルゼン先輩の語った怪談話ごときで怖がるわけが・・・」
「・・・・。
―――――わっ!!」
「うわぁっ!?」
フジ先輩が先輩の耳元でそう声を出すと、オペラオー先輩は尻尾を踏まれた猫みたいに部屋の反対のほうへと飛んで行く。・・・頭を打たなかったか心配である。
「なっ・・・なにをするんだいフジ先輩!!」
「え~?・・・怖がらせようと思って」
・・・この悪魔め。このひとは魔法使いでもマジシャンでもなく、ファントムのほうが似合ってるのかもしれない・・・。
ちなみに部室内にいたのはウオッカ・スカーレット・オペラオー・フジ先輩の4名だと思ってください。
作中でフジ先輩が語った話の元ネタはまんま「巨頭オ」です。個人的に洒落怖の中で一番好きな話なので、よかったら関連スレも調べてみてください。